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7人7色  作者: 蓮千里
4/7

担当:杏

ファイル0 キャラ雑談4


「何度も言うようで悪いけどさー星花って年齢に合わず、『お子様キャラ』だよね」


大の字に寝転び、あられを口に入れながら話す理奈。


どうみても女のする格好ではない。


あられを左手で無造作に掴み、且つ、右手にコーヒーカップを手にしている姿は到底理解し難い。というか理解したくない……。


「なっ!理奈はんに言われたくないっすよ!こんの『狐キャラ』!」


「キツネ、キツネ……って!目が少しつりあがってるだけでしょ!『狸キャラ!』」


根がギャースカ五月蝿い星花と理奈。


2人は本気で低レベル(いつも通り)の口げんかに突入していた。


星花が本気で目に涙を浮かべて理奈の真横で叫び、挙句の果てに泣きじゃくる。


理奈は理奈で、体勢をまるで変えずに……もとい。


体勢から、右手左手の動作も何一つ変えずに怒鳴り続ける。


そんな2人を傍観する他のメンバーの反応は。


「……俺から言わせりゃ、あの2人は同レベル」


「――――幼児レベルです」


「蛍さまと理奈さまは同年齢ですが、とてもそうは思えないのでございます」


「お2人は本当に正反対でございます」


蛍と杏の言葉に続く智菜と智香。


蛍と杏はうんざりしたように言葉を吐いて、双子は蛍を慰めるかのような眼差しと言葉をかける。


そんな馬鹿2人のやり取りと、蛍達のやりとりを交互に見続ける人が約一名。


その者――幸がレモンイエローの帽子に手を当ててニコニコと笑みを浮かべて呟いた。


「……とても思えませんね、この世界を作った張本人だということが」


幸の声はなんとも言えない含みをもちながら、ニコニコと笑っている。


そんな彼女が4本目のビデオを入れた。


「―――全く、互いの唾がかかっているのも忘れてるんでしょうね……”起動”」


どんな意味をこめて笑っているのか……興味深いが誰一人として問うものはいなかった。






ここは、赤い夢。


どんな人間でも持っている世界。


そこに彼女達はいた。


そこで待機していた。」


自分達を呼ぶ、人間の助けの声を。


7人で話しながら、助けの声を待っていた。


迷える子羊達の声を。


助けの声を彼女達は、迷える子羊の声と言っていた。


7人は能力を生かして、迷える子羊を己のやり方で解放していくのが役目。


姿を見せることも、隠すことも、その者の勝手。


どう助けるかは、7人とも違う。




さあ、7人7色始まりです。








いつでも、どこでも歌ってた


歌えるからこそ、私はいるの


ここに、いれるの




歌えなくなったら、死んだも同じなの






―――私、なにかしましたか?






ファイル4 担当・杏”ANZU”〜伝えたいこと〜




美咲みさき、お茶飲もうか」


兄、隆美たかみの言葉に、首を縦に振る私。


隆美は、喫茶店のドアを開け、ウエイターに案内されるままに足を運ぶ。


入った時、ベルが可愛く音をたててくれる。


私を歓迎するかのように。


「美咲、こっちだ」


隆美が手招きしながら、私を呼んだ。


何故か、すでにコーヒーがテーブルの上に乗っているのが目に入る。


私は、微塵も不思議に思わず席に着き、ゆっくりコーヒーを飲み始めた。


兄の心配りだということは明白だから、安心してじっくりと飲む。


どんどん身体が温まるのを実感していると、なにやらゴソゴソと探し出し、


「美咲、一足早く俺から誕生日のプレゼント。俺、もう東京に戻らなきゃいけないから」


コーヒーを飲むのをやめて、兄を見る私。


兄の隆美は大学3年。


専攻は医療関係に進んでる。全ては、私の為に。


「はい、美咲。誕生日おめでとう」


手渡された小さな袋をゆっくりと開けると、銀色のネックレスが出てきた。


音符のサイドに天使の羽が生えているネックレス。


私は、すぐにつけて兄に笑いかけた。


「ありがとう」の意味をこめて。必死に、笑い返す。


そうでもしなきゃ、兄に迷惑がかかる。これ以上、迷惑はかけられないから。




****


「子羊NO・95。織原美咲さん、確認です」


白い襟に、赤いリボンといった、ごく普通のセーラー服を着ているのは杏。


黒髪を両サイドで縛った髪を風になびかせ、優しい眼差しで美咲を見守っていた。


「――――なんだか、懐かしいですね……私にも、支えがあれば、よかったのに」


優しい眼差しに、何故か悲しさが入り混じっている。


杏はポーカーフェイスで過ごしている。


だから、ほとんど感情がわからない。


わかるとすれば、赤い夢の住人たちだけだろう。




美咲と隆美が喫茶店から出て行くのが見えた。


どうやら、ここから隆美とは別行動を取るようだ。


隆美は方向からして、自宅だろう。


「子羊NO・95、織原美咲さんを追いかけます」


小鳥のさえずりのような声で、美咲は連絡を入れてから追いかける。


「……私にはピッタリの子羊さんですが………かえってやりずらいかもしれません」


夕焼けをバックに、紺色のセーラー服を翻しながら宙を駆け抜けていく杏。


雲を飛び移りながら美咲の後をつけていく。


夕焼けを背景にした杏。


その姿は紅く染まり、何故か痛々しい姿に見えた。


本人の表情は、いつもとかわらないポーカーフェイスなのに。




****


「このファイル……一見、杏向きかもだけど、やりずらい」


「セーカ君も同意見っすね。杏はん、だいじょうぶっすかね、姐御」


「姐御、姐御って……星花、貴女という人は……理奈がいうのだからそうに決まっています」


幸が星花に意外な言葉を返す。


だが、他の面々には驚きの色はない。


「ふぇ?ふぃひ、ひゃんへ?」


当の本人、理奈だけが不思議そうに問う。


口の中いっぱいに茶菓子を入れたままだったので、通訳が必要だが、どうやら誰でも出来るようだ。


「おい、幸。当の本人(あの馬鹿)が聞いてるぜ?理由」


幸の隣にいる蛍が十字架で理奈を示しながら、めんどくさそうに伝える。


そんなことをしなくとも幸には分かるのに。


「……蛍さま。わざとでございますか?」


「幸さまには、理奈さまの言わんとなさっていることを知っている上での発言とお見受けします」


智菜と智香が蛍をジィッと見つめる。その顔には『嫌がらなのです』と書かれている。


最年少の双子に非難の眼差しで見られた蛍はバツが悪そうにそっぽを向く。


「自業自得っていうんすよね、兄貴」


調子に乗った星花が蛍によって半殺しの刑になったのは言うまでもない。




****


私は、いつものステージにやって来た。


ステージと言っても、ただっ広い空き地だけど。


今の私にとっては、ステージといっていい。


私の今日のステージが始まる。






♪どんなに嫌なことがあったって


それはホントは些細なこと


 


見上げてごらん、空を


澄んだ青い空は


嫌なことを忘れさせてくれる


 


夜の空は


星が輝き、その光は自分自身


 


大きな空に光り輝く、あなた自身なんだ


  


嫌なことがあったら空を見上げて


大きな空に比べれば


きっと小さなことだから


 


あなた自身は光り続ける


この世でたったひとつしかない光を


その光を失わないで―――








声の音なんてでない。


出るはずがない。


だけど、私は最後まで歌った。口を動かし続けた。


はたから見れば、『ひとりで何やってんだ?』とか『変人』で終わることだろうけど。


私にはどうしても必要だった。


やらなきゃ、今、こうして歌っていない。


生きる資格がない。


今、私が歌っているのは、『生きる資格』を取得し続ける為。


自分自身を、『光を失わない為』に歌ってるの。


今、私は19歳。


声の音がでなくなって、もう、9年になる。


長いようで、とても短い9年間。


今でも、あの時のことは鮮明に覚えている。






9年前の夏。


学校帰りに、私は倒れた。


頭が割れそうに痛く、全身が燃えるように熱かったのを今でも鮮明に思い出せる。


私にとって、青天の霹靂となる大事件になろうとは、この時、考えられなかった。








「――――残念ですが、美咲さんは、もう2度とご自分の口で話すことは出来ません」


担当医の言葉が、10歳だった私の頭の中で回っていた。


確かに、声の音が出せないのには、流石の私にもわかってた。


でも、『いつかは歌える』と信じて疑わなかった。


だけど……


この時、私は壊れたんだ。


話せないということは、『歌えない』ということ。


私の大好きな歌が歌えないってことなんだ。


『天使の歌声』とまで言われ、コンクールにも出ていた私にとっては、まさに悪夢だった。


いや。悪夢じゃない。


これは、現実なんだと思い知るのに家族はすごく支えにになった。


特に、隆美兄さんには……どれだけ言っても足りないくらい支えになってくれたんだ。










いつでも、どこでも歌ってた


歌えるからこそ、私はいるの


ここに、いれるの




歌えなくなったら、死んだも同じなの






―――私、なにかしましたか?










何度、神さまに訴えたろう……


声の音が出ない口で、何度口にした言葉だろう……


私は、しばらく生きた屍だった。


歌えないのなら、私は死んだも同然だから。


ここにいても仕方ない。




そう思って、数日後、私は自殺未遂を起こした。


カッターで手首の動脈を切る、という古典的な方法で。


未遂となったのは、偶然、隆美兄さんが見つけたから。


兄さんは、私を見るなり引っ叩いて、お母さんに救急車を頼んだ気がする。


凄い力で、凄い声で凄い形相で……兄さんは全てをぶつけてきた。






「声の音が出ないだけで、口は動くんだろ?なら、自分自身の為に歌えよ」






この一言でどれだけ楽になったか、兄さんは知らない。


兄さんの一言が私を動かし、歌うステージへと運んでくれたことをわかっているのだろうか。


今では自分で作詞して、歌い始めて、現在に至る。


もうすぐ20歳になる私には、叶うはずのない願いがあった。






―――――もう一度、自分の声で、歌いたい






無理だと思っていても、わかっていても諦められない。


20歳になる記念として、そして胸張って大人の仲間入りが出来るように……と願いを込めて。


ふと私は、時計を見た。


デジタル時計が午後、4時24分を告げている。


少し、いつもより長居してしまったようだ。自宅へ走って帰ることにした。




****


「――――――せ、セーカ君のときより、同調してないっすか?」


「おめーは黙ってろ」


うろたえる星花を一括する蛍。同時に『もう一度半殺しにしてやろうか』と視線で脅す。


当然これで五月蝿い星花虫は口にチャックをし始める。


「杏さまも、過去に体験したことでございますから」


「当然かもしれませんが……大丈夫でございましょうか……」


智菜と智香が心配そうに顔を見合わせ、理奈に問う。


「…………だから、何故に私を見るかな」


茶菓子をごっくんと飲んでから、きちんとした日本語で智菜たちに問う理奈。


微妙に表情がひくつき、冴凪を握りなおす。


「ご自分の胸に聞いてみてはどうですか?」


そんな理奈に、幸が意地悪く笑った。


「……………何かバカにされてる気分」


理奈が頬を膨らまし、いじけ始めたが誰も相手にしなかった。




****


「――――――20歳になるお祝い、にですか……」


杏は織原家の屋根の上に座っていた。


星がよく見える位置だ。


美咲の願いは、杏にとって複雑だった。


20まで生きられなかった自分にとっては……


「――――美咲さん、欲張りですよ……」


杏は、空を見る。


冷たいものが、頬を伝っていた。


「私、美咲さんがうらやましいです……」


美咲自身はまだ気が付いていない。


自覚していると本人は思っているようだが、それはちょっと違う。


自分がどれだけ幸せなのかということを、わかっているはずなのに打消しの気持ちのほうが数倍大きい。


「声がでなくても、貴女にはいるじゃないですか……」


静かに風が、杏を撫でていく。


「泣きやみなさい」とでもいうように、優しく吹き抜けていく。


「……でも、見捨てるわけにはいきませんよね」


ゆっくりと杏は立ち上がる。その目はよくよくみると赤くなっていたが、表情に迷いはない。




****


「―――――美咲さん達、発見です」


杏は新幹線のホームにいる織原家族をすぐに見つけられた。


美咲の様子を見た杏は、彼女が自分自身の為だけに歌を歌いたいと思っているのではないと確信した。


【よくわかりましたね、杏】


幸の声が頭に響いたが返答はせず、すぐさま目を閉じ詠唱をし始めた。


小鳥のさえずりのような可愛らしい声で。


『今、私は心から祈る……私の声が織原美咲に届くことを……』


目をつぶり、無数の羽が舞う中で、ひたすら杏は呼びかけた。


美咲の頭の中へと。


『美咲さん、美咲さん……!私の声を聞いてください――――』








『美咲さん』と呼ばれたような気がした。


しかも頭の中で。


『……ありえないよね。頭の中で声がするなんて』


そう言い聞かせながらも、美咲は周囲をうかがった。


左右、上下と忙しく顔を動かしていく。 でも、誰も、誰の姿も見当たらない。


「?美咲、どうかしたのか?」


隆美が不思議そうに尋ねてくる。


美咲は笑ってごまかしたが、やはり気になって仕方ない。


『で、でも、もう聞こえないし!』


『隆美さんに歌ってあげないんですか?美咲さん!』


美咲が自分に言い聞かせた直後、頭の中で大きな声が響き渡る。


もう、気のせいなんかじゃない。


『あなたは、誰?何で私の名前――――』


『んなことは後回しです!隆美さんに、歌ってあげたいのでしょう? 歌って送り出したいんでしょう?隆美さんが結婚してしまう前に』


美咲は驚いた。


隆美が結婚することは、親だって知らないのだから。


『ね、ねえ―――』


『どうなんですか?美咲さん』


美咲の言葉は、杏の穏やかな声にかき消される。


この相手なら、わかっているはずだ。


美咲の気持ちを。


だからこそ、肯定の意味で何も言わない。


『―――私が手伝います。だから、美咲さん、隆美さんに歌ってあげてください。思いっきり!』




1枚の羽が空から降ってきた。


美咲は、羽を手にした途端、体中に力が溢れてくるような気分になり、自然と口を開いてた。


「……た、…かみ……おにい、ちゃん」


か細い声のはずなのに、あたりはとても五月蝿いはずなのに、はっきりと美咲の声が聞こえた。


両親も、隆美も驚いて声が出ないようだ。




それを待っていたかのように、美咲は歌いだす―――






♪ありがとう


いつもそばにいてくれて


 


ありがとう


いつも助けてくれて


 


ありがとう


いつも一緒に遊んでくれて


 


たまにはすれ違いもあるけれど


 


それでも貴方はそばにいてくれた


それが


どんなに支えとなったか


わからないだろうけど


心の底から感謝してるの


 


けど


何も返すことが出来ない


特別な言葉もうかばない


 


だから


言える言葉はただ一言


 


 


『ありがとう』








「ありがと、お兄ちゃん……」


歌い終わると同時に、美咲はその場で倒れこんだ。




****


真っ先にめに入ったのは、赤色。


驚いておきだすと、周りは全て赤色だった。


「どうも、初めまして、美咲さん。先ほどまで会話していた杏です」


背後から、どこにでもいるような少女が話しかけてきた。


美咲が声を出そうとすると、杏が人差し指を当ててくる。


「貴女の声は、本当にもうでません。先ほど歌えたのは、私の力ですから」


美咲は、それを聞いてしょんぼりしてしまう。


「貴女は、欲張りですよ?あんなに暖かい支えが在るのですから」


小鳥のさえずりが、淋しい声音に変わる。


杏の顔を、穴があくほど美咲は見た。




2人の間に、重い空気が流れはじめる。






「貴女の思っている通りですよ、美咲さん」


悲しげなさえずりを最後に、美咲は杏の前から消えていった。






****


美咲が目を覚ますと、今度は、真っ白い壁が最初に入ってきた。


そして、隆美が、両親が安堵の為か泣き始める。


「よかった、本当に……」


隆美が強く抱きしめる。






「貴女は、欲張りですよ?あんなに暖かい支えが在るのですから」






誰の声だったろう……


小鳥のような声だったのは覚えているのに、まるで思い出せない。






『確かに、こんな存在がいるなら、文句は言えないね』


思い出せない、人物にむかって美咲は優しく返した。




****


「お疲れ、杏」


日本茶を渡す理奈。それを無言でもらう杏。


誰がどう見ても、杏は疲れきっていた。


今回のファイルに。


「少し、寝かせてください」


杏は理奈達から離れていこうとした。


本来なら、寝かせてあげるべきなのかもしれない。


だが、理奈が杏の前に立ち塞がった。


「逃げるな、杏」


「逃げてないです」


「逃げてる」


理奈にしては、きつい視線。いや、つり目なのでいつもきつい視線なのだが……それはほぼ蛍や星花に送るものであり、杏に対しては珍しいものだ。


「――――どいて下さい」


「嫌」


杏の懇願に、即答する理奈。何が何でも、退く気はないらしい。


「おい、理奈」


「ひっこんでて、蛍」


蛍の顔も見ずに、理奈は言い放つ。


「……悪く思うなよ?」


蛍の声が届いていたか分からない。 理奈は、蛍の拳によって気絶させられたから。


「――――おい、杏。コイツの台詞じゃねえが……逃げるな。 逃げてないなら、何で泣く必要があるんだ?」


蛍の一言で、杏はぺたりと座り込み、呆然とする。


「なんとも、後味の悪い終わりかたっすよね……」


星花の言葉に、誰もが首を縦に振る―――


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