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7人7色  作者: 蓮千里
3/7

担当:星花

ファイル0・キャラ雑談3


 


「ふう……2本目のビデオもおわりです」


杏は一口、日本茶を飲んでからビデオを回収し終え、振り向くと 「わ”っ!」と驚きの声を上げ、そのまま座り込んでしまう。


「り、理奈さん……蛍さ……」


言葉を失った杏は、へなへなと崩れて涙声で名を呼んだ。


だが、当の本人達には確実に届いていないはずだ。


届いていたら、2人の手に冴凪や十字架が握られているはずないのだから。


「そーいやあ、このファイルは蛍の兄貴と理奈はんにとっては不味かったすね〜」


『大丈夫っすか?』といいながら、白いブカブカ装束を着た星花が、杏の前に手を差し出す。


「『不味かった』、と仰る割には」


「顔が笑顔でございます、星花さま」


智菜と智香が容赦ない言葉を星花に突き刺すと、瞬時に顔色が変わる星花。


「智菜はん、智香はん……ひどいっすよぉ……」


大きな瞳に大粒の涙を浮かべながら泣きべそをかく星花だが。


「星花。目薬が落ちましたよ?」


「うそっ!」


にっこりした幸の言葉に、不覚にもお決まりパターンで反応する星花。


思わず杏に差し伸べた手を引っ込めて、赤い地面にはいくつばり必死で探し始める。


「フー君!探してくださいっす!」


と相棒であり、風の精霊である風龍にまで目薬探しを言い渡す。


だいたいこのパターンにいたるまで、1分もかかっていない。


「はい、嘘です」


表情を変えず答える幸が、優しく手を星花の前に差し出すと、


「っ!あ、姉御!?」


「はい、なんでしょう?」


青い顔をした星花と、笑顔の幸が言葉を交わす。


星花の視線は、幸の手から離れない。


正確には、幸の手の平から離れることができない。


「え、え〜と……」


後ずさる星花の顔色は悪く、上目遣いに幸を見る。


幸は穏やかに笑っていた。


そりゃもう、静かに。


笑っているが、手には何故かシャボン玉が無数に出来上がっている。


そのシャボン玉が、星花の手に張り付き、星花は動けないのだ。


「ゆ、ゆ、幸の、姉御ぉ……お、重い…っす……」


マジ涙をうかべて、膝から地面に落ちる星花。


幸は絶えず穏やかな笑顔を浮かべながら、


「――――あちらにもおいきなさい」と呟いた瞬間。


蛍と理奈の方にまでシャボン玉が飛んでいく。


勿論、星花にシャボン玉はまだ着いたままだ。


「げっ」


「!きったねーぞ、幸ぃ」


今にも冴凪と十字架で幸を攻撃しようとした2人。


だが、幸の攻撃がきたため、交わすタイミングがうまくいかなかった。


「うげ!?」


「お、落ち着け!幸!!」


理奈達の声を、聞いていないのか、幸はシャボン玉を3人の方に向かわせる。


「大丈夫です、死に至りませんから」


にこにこしながら、幸はシャボン玉を放つ。




「楽しそうに遊んでいらっしゃいますね」


「みなさま、お元気でなによりです」


智菜と智香の見当外れな台詞を聞いたのは、杏だけだった。


「――――――”起動”」


五月蝿い中、まだ見ぬ3本目のビデオは疲れた声とともに起動する。






ここは、赤い夢。


どんな人間でも持っている世界。


そこに彼女達はいた。


そこで待機していた。


自分達を呼ぶ、人間の助けの声を。


7人で話しながら、助けの声を待っていた。


迷える子羊達の声を。


助けの声を彼女達は、迷える子羊の声と言っていた。


7人は能力を生かして、迷える子羊を己のやり方で解放していくのが役目。


姿を見せることも、隠すことも、その者の勝手。


どう助けるかは、7人とも違う。




さあ、7人7色始まりです。








ホントに神さまがいるのなら


何でも叶えてくれるなら




この願い、叶えてください




これ以上は、何も望まないから






ファイル3・担当・星花”SEIKA”〜桜に願いを〜




「――――――暑いっす」


子羊がいる場所へと、辿り着いた星花の第一声だ。


ブカブカ白装束も帽子も汗まみれ。


白装束の袖で汗を拭い、げっそりとした声で星花は言う。


【その装束では、いささか不都合が生じるかと】


【わたくしどもは、きちんと言ったでございます】




同じ援護型で、最年少の智菜と智香が呆れたように星花に話しかけてくる。


『智菜はんたちに、言われたくないっすよ……』


汗だくになりながら、心の中で呟いた。


智菜も智香も年がら年中、全く同じ着物を着ている。


真紅の着物も藍色の着物も、白い花がところどころに描かれていて、帯もおそろいの黄色。


赤い夢の世界に温度がないせいなのか、元々それしかもっていないのかは定かではないが、 智香と智菜が着ている着物は少しばかり厚手である。


2人が汗ひとつかかないの星花は知っている。


だから智菜達の言葉に耳を貸さず、ふりきってここに来た。


【わたくしたちは、この格好で生活することが義務付けられていた故】


【暑さにも寒さにも耐えることは出来るのでございます】


心の中をよんだかのように、智菜と智香が言葉を降らす。




【自業自得っていうんですよ?】


【じごーじとくって言うんだよ?】


【自業自得ですね】


【自業自得】


杏達が同じ言葉で追い討ちをかけるかのように、星花に言葉の矢を放つ。






「―――――――――――暑いっす!」


しばしの沈黙の後、ギン!と太陽をにらみつけ、星花がようやっと出した言葉だった。




****


太陽が海辺を照らしてる。


海は太陽の光で、キラキラと光る。


そこに風が加われば、波は模様を作り出す。


そしてそれを目にした者は、少しばかり暑さが和らぐ。


星花もそのひとりだった。


「今って、まだ寒い方っすよね」


子供が素足で海に入って、楽しそうに遊んでいるのを傍観しながら独り言を言う星花。


木陰から、太陽のほうに顔を上げる。


「さすがっすね……沖縄は」


ブカブカ帽子を被りなおしながら、苦笑するように星花は言った。






ここは南国の島国、沖縄。


暑さにあまり強くない星花にとっては、地獄のようなものだった。


その上、白装束なんていう格好をしていては……自分で自分の首を絞めるようなものだ。




後悔先に立たず。




そんな言葉が頭の中で点滅した頃、星花が口を開き問いかける。


「フー君、もう少し休んでいいっすか?」


だが、次の瞬間、星花は突風に体当たりされた。


本人は、動じていないが、近くで工事でもするのか、それとも進行形かわからないが、

どうみても”工事が仕事です”という風貌のおじさんが、かけ寄ってきた。


「け、怪我は―――」


「あー大丈夫っすよ。心配かけてすみませんっす」


にぱっと笑って、星花はくそ暑い中、白装束で歩き出す。


まるで何もなかったかのように歩いていく星花を呆気にとられた表情で見送るおじさん。


おじさんが遠くなった頃合を見計らった星花は、右腕を抱え己の右手に語りかける。


彼女の相棒、風龍に。


「子羊はんのとこ向かうっすから、フー君、さっきのよーなことは絶対やめてほしいっす」


星花が言い終わらぬうちに、風がやさしく通り過ぎていく。


星花はきづかなかった。


自分が去った後、1人の女性がおじさんに近づいたことに。




****


「星花、星花?」


モニターに呼びかける幸。だが、応答はない。焦りの声は届かない―――。


「さっきの風龍の風が原因だな」


「赤い夢の住人の交信は、風が原理だからね」


蛍と理奈が顔を合わせて、言葉を交わす。大きなため息をつきながら。


「『このこと』を知らなかったら、今回の解放は……」


杏の顔が曇る。だが、ては祈るように組んでいた。多分、無意識にだろうが。


「―――信じるしかないでございます、杏さま」


「星花さまは、こんなことでは動じませぬ」


最年少の智菜と智香の精一杯の言葉に、他の面々は救われた。


「私にも、まだ先は見えません……智菜達の言うとおり、今は星花を信じるしかありません」


幸はそう言うと、再度、モニターに目を向ける。言葉は強いが、その瞳は正反対だ。


6人の視線が全てひとつのモニターに注がれる。


先程まで、星花が休んでいた樹を見続けていた。


その樹は、大きな桜の樹。


今はもう、真っ二つに折れてしまってた、桜の樹の残骸と言うべきか。


折れてしまったというより、折られてしまったという表現が正しいだろう。


工事専門のおじさんが、女性からお札を受け取るシーンを理奈達はバッチリ見ていた。




****


『行ってくるわね』と言い残すと、逃げるようにママは買い物に行ってしまう。 ……いつものことだけど。




「tedium……(退屈)」


少女、マシュー・木下は小さな身体をベッドに投げ出す。


可愛い兎柄の布団、あちこちにちらばっている人形や小物に似合わず、マシューの部屋は暗い。


光が差し込まないのだ。


カーテンでピシャリと遮られている為に。


どの部屋も、どこの通路も暗いまま。


まるでお化け屋敷といってもいいほどの暗さである。


お陰で今じゃすっかり、時間のサイクルが分からない。


時計を見ても暗くてよく見えないし、見えたとしても、それが午前か午後かマシューには判断できなかった。




「……dullつまらない


暗い部屋の中で、小さく呟くマシュー。


「tedium……(退屈)………go……out………!(出かけたい!)」


誰も答えるはずのない部屋で、マシューは泣き叫びだす。


「go out go out go out………!!」


繰り返す言葉は、ただひとつ。




『出かけたい!』




折角の金髪も暗い中で目立たない。


今、澄んだ青い目を、誰も見てはくれない。


昔のように、皆が見てくれない。


昔のように、昼間、友達と遊ぶことは許されない。


もう、何年もマシューは『外』を知らない。


でも。


彼女の思いは変わらない。




外にでれば死ぬと分かっていても。




頭の中で分かっていても、マシューは10歳。


身体がゆうことを聞かないのは、仕方ないだろう。


マシューはいつの間にか玄関に辿り着いていた。




手が、ドアノブに吸い寄せられるように伸びていく――――


マシューは目的なく外に出るわけではない。




『あそこに行って、お願いするだけだ……ただそれだけなんだから……!』


それさえすめば、マシューの気持ちは治まる。


だが、それは死と隣り合わせ。


そのことに、マシューは気が付いているのだろうか。




『昼間じゃないと駄目……夜に行っても効果ないんだから……!』




暗闇から浮かんで見える銀のドアノブに手をかけた。








「はーいはい。なにやってんすか?自殺行為っすよ?マシュー・木下ちゃん」


ブカブカ白装束と帽子を被った星花が、マシューの襟首を掴んでた。


勿論マシューは星花のことを知らない。


というか知っていたとしても、あまり関りたくない人種だと確信していた。


「?!Who are you!!(あなた誰)」


「紫外線などの研究室がテロによって爆発してるっす。


マシューちゃんは、その時近くにいて爆発に巻き込まれたっすよね?


だから6歳から紫外線に耐えられない身体になった……って幸の姐御が言ってたっす。 ―――どこに行こうとしてるんすか?」


白装束に同色の大きな帽子を被った星花が、マシューを連れて廊下を歩く。


連れてというより、連行しているという方が正しい表現かもしれない。


暗い廊下に白装束はとても映える。


だからこそわかるのだ。マシューの襟首を持った星花が彼女を引きずっていることに。


「……stink(臭い)」


正確には、汗臭いと言いたいのだろう。


一生懸命、星花から逃げようとするマシュー。


だが、それも叶うことはなくなった。突然、おんぶされたのだ。


驚きと恐怖で、マシューは星花の背中で暴れるが体格が違いすぎるため無駄な足掻きとなる。


「落ちたらどーすんすか?怪我したら元子もないっすよ?」


星花の白装束は汗まみれで冷たい。正直とても居心地が悪い。


だが、どれだけ足掻いても自分は星花に勝てないことを悟り、おとなしくすることにする。


それに、どうやら自分の部屋に向かっているようだし、


テレビで見る強盗などではないと分かったので、どこか気が抜けたのだ。


「……stink(臭い)」


「はあ?」


「stink!(臭い!)」


「そーっすか?てか、女同士なら問題ないんじゃないっすかね?」


こんな会話をマシューの部屋まで続けている2人。


マシューにとって星花は変人。


だが、どこかで楽しんでいた。


こんなに話したことは、もう、長いことなかったのだから。




****


「―――幸?」


「いえ」


短い問いに、短い答え。


蛍は『未来は見えたか?』という意味をこめて幸を呼び、幸もその意味を重々承知して即答していた。


そして幸の『いえ』は『NO』ではなく、『YES』という意味。


2人のやり取りは、他のメンバーも見ていたので、幾分安堵した表情がうかがえる。


杏の祈るような手がわずかに崩れ、智菜と智香はハイタッチ。


そして理奈は一人静かに笑みをこぼす。


が、そんな安堵の色もすぐになくなった。


あちこちで溜息や同情の交い飛んでいる。溜息は星花に対して、っそいて同情はマシューに対してだ。


「マシューちゃんも可哀想にね」


「お気の毒ですね、やっぱり」


理奈と杏が盛大にため息をつく。


頭痛がするのは、風邪のせいじゃない。


「星花さまは、楽しい日本語を喋る方ですが」


「英語は皆無でございますからね」


メンバーは、『星花虫』に頭を悩ませていた。




****


「―――――――っくしょおおおおおおん……」


ズビズビと鼻をかむのは星花。


「誰かが噂してるっすね……セーカ君のこと」


眉を寄せながら、誰だろうと考える星花。


ちなみに最初に頭に浮かんだのは、理奈だった。


「それにしても、セーカ君大ピンチっすよ……


マシューちゃん一言も日本語わからないみたいっすからねえ」


この部屋には、勉強したような形跡はないし、パソコンがあるわけでもない。


通常、マシューのように何らかの理由があれば、パソコン通信で勉強などをするのだが…… 回線一本見当たらない。


可愛い部屋だとは思うが、何分、明かりがないので暗い。


どーしたもんか、と考えていると、星花の袖をクイクイと引っ張るマシューがいた。


リビングにでも行ったのだろうか。


白い広告の裏に、黒ペンでなにやら……アルファベットが書いてある。


周りは暗いが、いい加減目も慣れたのか星花の目にアルファベットの羅列が飛び込んできた。


「え、えいぐぉっ!英語は、エーゴは……一言もわからないっす! 自慢じゃないけど、英語の点数は中学ん時から悪いんすよ?


20点とれれば、いい方なんすから!…… って、あれ、読めるっすよ、エーゴ。セーカ君が、読める?!」


自分の恥をペラペラ喋り、挙句の果てには自分自身に驚いている星花をマシューはどう思ったろうか。


それに、英語ではなく、ローマ字だ。




「えーと。GANZAKURANIIKASETE (ガンザクラニイカセテ)……ってなんすか?」


マシューにに問うが返事はない。


当たり前だ、日本語が分からないのだから。


そんな時、星花の頭に助け舟の声が響いた。相手は智菜と智香だ。


【ガンザクラとは、願い桜……通称、『願桜』のことかと思います】


【願いを叶えるという、言い伝えがある桜でございます】


【ただ、昼間に桜の樹の枝へ短冊を掲げなければならないのでございます】


【マシューさまは、叶えて欲しい願いがあるのかと思います】


【でも、この行為はマシューさまを死に追いやることと同じでございます】


【それに、願桜は、もうないのでございます】


【星花さまが、木陰で休んでいた樹が願桜でございます……】


【願桜は……その、折られてしまいました……ミュスカ・木下さまの命で】




星花の脳が活動停止した。


最も、動いていたかは定かではないが……


智菜と智香の話を最後まで冷静に聞くつもりだったが、その努力は水の泡となってしまった。


「ミュスカ・木下って……確か」


【貴女の想像通りです、星花】


【ミュスカ・木下はマシューちゃんの実の母。


ついでに言うけど、願桜からあんたが離れた直後に切られたの。 あんたと入れ違いにミュスカは取引したんだよ】


淡々と答えられた幸と理奈の返答がどんなに『嘘だったらいいか』と考えてしまう。


あの時、心配してくれたおじさんが切ったのだろう。闇の中で歯軋りする星花。


しかし、話はまだ終わっていなかった。


【ミュスカはマシューが願桜に行きたがっているのを知ってたぜ?】


【あまりにも五月蝿いので、お金と引き換えに切ったようですね】


蛍と杏が追い討ちをかけてくる。


まるで、星花自身の喉下に、ありとあらゆる刃物が突きつけられた間隔に陥った。


【……これを言って、貴女自身に差支えがないといいのですが】


幸がこういうことを言う時は、まだ続きがあるということだ。


【実は―――】








幸の話を聞き終わったとき、星花の脳は本当に活動停止したはずだ。


無意識に、マシューの方に目をやると、心配そうな彼女の青い瞳がこちらを見ている。


そりゃそうだ。


あれだけ五月蝿かった奴が、急に黙り込み、沈んでいたのだから。






DOUSITANO?(どうしたの)




GENKINAI(元気ない)




GUAIWARUINO?(具合悪いの)




マシューはまだまだ書き続けた。


ローマ字といえど、まだうる覚えなのだろう。


少し、読みづらい。


だがマシューの思いは一文字一文字にこめられていた。


星花を最初に会った”星花”にする為にマシューは指を走らせる。


「……あ、ありが、と、あり……が……」


涙を頬が伝う。


『この子に、罪ない……のに、なのに……なんで……!!』


反射的に星花はマシューを抱きこみ、声を殺して泣き出した。


何がなんだか分からなかったマシューだが、星花の震える腕から逃れようとはしない。


青い瞳を閉じ、星花にされるがまま抱かれていた。


『――――あったかい……気持ち、いい……』


会ったばかりのときは汗臭いと思った白装束。


だが、今はそんなこと微塵にも思わない自分がいた。




「――――親なら、最後まで面倒見るべき……見ないといけないんじゃないの?!」


星花の目は怒りに満ちていた。


「子供は、子供なりに道を探してる! それを、産んだからって……親だからって踏みにじっていいわけないでしょ!」


星花の周りの空気が変わる。


攻撃的な、空気として。


「アタシの場合は、風龍が原因……」




ゆっくりとマシューから離れて右手を差し出し、風をまきつける。


風の形は、龍そのもの。


ただ、マシューに龍と分かったかどうかは定かではないが。


色は氷のように白く、見てるだけで寒々しい。


「でも、この子は、マシューちゃんは……事故なのに…… 子供の幸せ、何で親が滅茶苦茶にする権利があるの!?」


星花の口調が、目つきが……何もかもが変わっていた。


マシューの青い目は見開かれ、驚きで床にペタンと座り込む。


星花が左手をマシューに向ける。


暗闇が星花と風龍を浮き彫りにする。




「―――――行こう。願桜に」


願桜と聞くなり、マシューの手は星花に置かれていた。




****


『願桜のとこ、だよね』


マシューは景色を確認していた。


しかし、そこにあるのは願桜の切り株だけだった。


噂で聞いていた、大きくて、立派な桜の樹は、存在していなかった。


「――――何で、何でないの?!」


思わず声に出して叫ぶマシュー。


隣に立っている、星花の袖を何度も何度も引っ張りながら涙を流す。


「―――これじゃ、叶えてもらえ、ない……」


もう一度、星花は引っ張った。


「私、知ってる……あんまり生きられないってこと……ママが言ったから、私に」


力なく、座り込むマシュー。




「マシューちゃんの願いってなんなんすか?」


「雪、雪が見たいの、触りたいの……」


優しく尋ねた星花に、小さ名声で話すマシュー。


事故の後、南国沖縄に住み、


軟禁といっても過言ではない家に閉じ込められていたマシューにとっては、


雪というものは興味深かったのだろう。


健常者には、理解しがたい願い。


だが、叶えてやりたい願い。


『お金が欲しい』、『幸せになりたい』、『両思いになれますように』…… などといった願いより、よっぽど素直で、可愛い願いだ。




「……その願い、聞きいれたっすよ」


ポンと頭に手を載せた星花を見上げるマシュー。


ふと、気が付いて、星花に問う。


「英語―――」


「幸の姐御に、マシューちゃんの言葉を日本語にしてもらったんすよ。


あ。そこから動かないよう気をつけるんすよ?」


にぱっと笑って、星花は視線を空に向けた。






「―――天候は雪!」


右腕にまきついていた、風龍が素早く空へ向かっていく―――――










「………こ、これ……」


空から降ってくる白い玉。


手のひらに、服に落ちると消えてしまう白い玉。


南国沖縄では降ることのないもの。




「これが、雪っすよ。冷たいっすよね……


でも、まだまだふるっすからその格好じゃ、遊べないっすね」


星花が左手をパチンと鳴らすと、マシューの服は、スキー服に変わっていた。


しかもどことなくサイズが大きい。


マシューは数歩歩けばこけていた。


「……………何でスキーあんなのがでたんすかね」


「これ、あったかい!」


星花の疑問と、マシューの弾んだ声が重なった。


着たことも見たこともないスキー服が、マシューは気に入ったようだ。


青い目が、笑っている。




「マシューちゃん、ここだけで遊んでてくれるっすか?」


降り続ける雪の中、星花はマシューに近寄り静かに頼む。


「どこいくの?」


マシューの問いに、星花は答えず、静かに消えていった。


南国の島沖縄で降り続ける雪。


異常気象が起きた沖縄に、置いてかれたような幹事のマシュー。


パチクリと目をしばたたせたが、すぐ雪の魅力に興味はいった。




****


ミュスカはひどく驚いていた。


雪が降ってきたからではない。


雪が降ってきたと分かったと同時に、自分が真っ赤な世界に座っていたからだ。


「えっらく回りくどいことしてすみませんっすね」


真白い帽子に、真白い装束。


どちらもブカブカだ。


「単刀直入に言いますけど。マシューちゃんを本当に孤児にするんですか?」


星花の目は、いつもの茶目っ気たっぷりの目ではない。


冷たくて、何も寄せ付けない厳しい目つきになっていた。


「自分の子供じゃないんですか?!


離れたくなくても、親を亡くす子供は沢山いるんですよ!」


「あの子は、もう私の子ではない!あんな子、薄気味悪いだけ!


あんな子に付き合えってのが無理――――?!」






パシンッ






ミュスカが自分の頬に手を当てる。


星花が目に涙を浮かべて、ミュスカを叩いた。


「マシューちゃ……は、悪、ない……子供、……は大人、の……道……具じゃな、い」


右の手のひらを無言でミュスカに向ける星花。


「子供をサポートする為に、親はいるんでしょ…… その親が、いなくなったら子供は、どうすればいいわけ?!」


星花の右の手のひらがどんどん白くなっていく。


「子供は子供で、親を……親の助けを待っ……て……!風龍、GO!」


冷たい風がミュスカを包み込む。


どんなに身体をさすっても、暖かくなりゃしない。


「っいた……?!」


ミュスカの右腕に痛みが走る。


条件反射で痛みを感じたところを見ると、真白い龍の冷たい牙が入り込んでいた。


恐怖で、声が出ない。


ただ、青くなるだけ。




「――――――最後に教えときますよ。マシューちゃん、後半年の命です」


この言葉にミュスカは目を見開き―――――意識を失った。




****


暖かい部屋、暖かい布団。


よくよく見れば、自分の部屋にミュスカはいた。


「――――私、の部屋……?」


起き上がろうとした時、身体が動かないことに気が付くミュスカ。


そんな時に、マシューが入ってきた。


お茶漬けを手にして。


「起きた?ママ」


「……」


「今日ね、雪が降ったの。私のお願い、願桜が叶えてくれたんだね」


「……」


ごこか遠慮した笑顔でマシューは接し、ミュスカはそれに答えられない。


2人の間にきまづい沈黙が流れる。


「お、お茶漬け、食べれる?―――起きれる??」


きっと全てを知っているに違いない。


ミュスカが、マシューを孤児にしようとしていたことも。


「――――マシュー」


「ねえ、ママ。私、願桜に2つも願いを叶えてもらえたよ」


か細いミュスカの声は、明るいマシューの声にかき消される。


不思議そうなミュスカを無視して、マシューは続けた。


「確かに『雪を見たい、触りたい』ともお願いした。


でも私は、私はね、ママ。


『後少しだけでも、ママと過ごせますように』ってお願いしたの」


ミュスカは、ただただ我が子を見ることしか出来なかった。


声をかけれない。


かけてはいけない気がする……かける資格なんて自分にあるのか……?


「身体、動くようになったら、食べてね」


マシューはそう言って、お茶漬けを置いて部屋を出ようとした。


だが。


「マシュー……よかったら、食べさせてくれる?」


「―――え?」


ミュスカの言葉に、驚くマシュー。


「お願いするわ……マシュー・木下。私の、愛する娘」


ミュスカは最高の笑みでマシューに接した。


それに答えるマシューも当然笑顔だ。


「あのね、あのね?ママ?このお茶漬け、おかしなお姉ちゃんからもらったんだよ」


おかしなお姉ちゃんというのが誰かとミュスカにわかるのは、数分後のことになる。








ホントに神さまがいるのなら


何でも叶えてくれるなら




この願い、叶えてください




これ以上は、何も望まないから




****


「いっやー一時はどうなるかと思ったっすよー。セーカ君、エーゴなんて無理っすから」


オレンジジュースをグビグビ飲みながら星花が笑いながら言った。


「星花さまを見ていたら、わたくしは目まいがして大変でございました」


「英語しか喋れない方に、日本語で接したときは、わたくしも頭を抱えたのでございます」


智菜と智香に言われ、いじける星花。


「それにしても、星花のファイルって、本当にマシューちゃんだけが子羊だったわけ?」


大の字に寝転びながら、理奈が問う。


「ま、考えるだけ時間の無駄だろ」


手にした十字架を弄びながら、蛍が答えた。


「マシューさん、本当にお亡くなりになったんですよね」


杏の問いに幸が答えた。


「本当に、半年後に」


マシューは、半年後、本当に逝ってしまった。


親より早く、天へと。


「それにしても、あんた地に戻ってたわね、かなり」


「それだけ、過去と同調したんですね」


理奈と杏が顔を合わせてニヤッとする。


「う、うるさいっす!」


顔を真っ赤にして、星花が怒鳴るが……効果があるはずがない。


赤い夢の住人の笑い声が、空間を包み込む。


なんだかんだで遅くなってすみません;

次回はおとなしいキャラが担当です(多分)

 

                     Rue

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