担当:理奈
ファイル0・キャラ雑談
「………ひまぁ」
寝転びながらつまらなさそうにぼやき、赤い帽子を右手でクルクル回す少女、理奈。
傍らには刀身・柄共に真紅色の長剣が、剥き出しのまま置かれている。
どうやら鞘はないらしい。
白い袖なしのワンピースに半袖の黒いシャツ。腰には太目のベルトを巻いていた。
普段なら『勝気な黒い瞳と長髪』と説明するところだが、
今の理奈は完全に『やる気のない瞳に左右に広がる長髪』と説明したほうがよさそうだ。
「理奈、そんなこと言うのは不謹慎ですよ?」
少女・理奈を叱るのは大人びた女性。名を幸。
憂いと優しさを含んだ茶色い瞳、綺麗な茶色いショートボブ。
やさしいレモン色の帽子(水平さんのような)には白いリボンが巻いてある。
色白なので似合う、帽子と同じレモン色のワンピース。その上には黒い網目の上着を羽織っている。
「でも、確かに最近は暇ですよ、幸さん」
「俺達、赤い夢の住人にとっては暇だよな」
顔を見合わせ頷き合うのは、日本人形を思わせる顔立ちの女武将は蛍と、ツインテールにセーラー服姿の杏。
戦でもするかのような格好をした蛍の手の中には、刀ではなく丸びを帯びた十字架が握られ、手の中で弄んでいる。
「―――蛍、杏。貴女方まで……」
幸が目を伏せ、頭を抱えた。
軽く頭痛も感じるのは気のせいだろうか……。
「どうでもいいっすけど。セーカ君達の最近の活躍記録ビデオ、くるっすよ?」
いきなりブカブカ白装束を着た(どことなく恵比寿様の服に似ている)が会話に割り込んできた。
自分のことを『セーカ君』と言う年齢には到底見えないが、誰もそこは突っ込まない。
彼女なりのカラーなんだとここは割り切ることにする。
「星花さま、持ってきたでございます」
「風龍、お返しいたします、星花さま」
敬語口調で着物を着こなしている幼い双子が、星花に真白い龍を向かわせた。
幸が最年長というならば、双子の智菜と智香は最年少。
身長・体重、顔立ち、髪色・髪形そして声。
なにもかも同じな2人を見極めるのは難しい。
だが、智菜は真紅の着物を着、セミロングの黒髪を赤いリボンで結び、智香は藍色の着物に青いリボンでゆんでいた。
最年少とは思えない振る舞いは、時に幸をも驚かす。
ここ、赤い夢は真っ赤な空間。いや、異空間というべきか。
―――配線なんてどこにも見当たらないこの空間で、どうやってビデオを見るのだろう。
赤い夢に電気なんてものは存在しないのに。
だが、そんなことを気にするものは誰もいず、杏は智菜と智香からビデオを受け取り歩を進める。
「んじゃ、暇つぶしに見ますか」
冴凪を杖代わりにして起き上がり、理奈があぐらをかいてスペースを陣取ると、他の面々も慌しく確保し始めた。
よほど暇だったらしい。
ぶつぶつ言っていた幸でさえ星花の隣へ正座する。
杏の手が真っ赤な、なにもない空間に伸びていく。
ビデオはすいこまれるように、静かに消えて行った。
「”起動”!」
ここは、赤い夢。
どんな人間でも持っている世界。
そこに彼女達はいた。
そこで待機していた。
自分達を呼ぶ、人間の助けの声を。
7人で話しながら、助けの声を待っていた。
迷える子羊達の声を。
助けの声を彼女達は、迷える子羊の声と言っていた。
7人は能力を生かして、迷える子羊を己のやり方で解放していくのが役目。
姿を見せることも、隠すことも、その者の勝手。
どう助けるかは、7人とも違う。
さあ、7人7色始まりです。
普通の恋愛がしたいだけ……
普通の会話をしたいだけ……
私は、貴方にどんなことがあっても離れない。
本当の貴方を知っているからこそ、離れないの。
だから、一緒に普通の恋愛、しようよ
ファイル1担当・理奈”RINA”〜普通なんて大嫌い!〜
キーンコーンカーンコーン……
どこにでもあるチャイムの音が、理奈の耳を通り過ぎていく。
どこにでもあるHRが、どこの教室でも始まっていた。
ごく自然なこと。
ごく普通のこと。
ごく普通の『つまらない』日常が、ここにもあった。
「…………ふーん」
ふと足を止め、開いている窓から景色を見る。
「………………校庭あり、スピーカーあり、花壇あり、桜並木あり……ものすんごく普通のガッコ」
顔に思い切り”不服”と書いてある理奈。
証拠に盛大なため息をついている。
同時に黒髪が前方へと揺れ、赤い帽子が滑り落ちた。
【一体、どんな期待をしてたんっすか?】
【―――迷える子羊NO・92、 下村 奈緒さんの教室に入って下さい】
呆れたように星花が問い、懇願するように幸が指示する。
「はいほいさ、入りますって」
帽子を拾い上げ、かぶり直すと理奈は仕方なく 下村 奈緒のいる教室、1−Dに入った。
奈緒はすぐに見つけられた。
自分と同じ黒髪をポニーテールにし、真剣に授業を受けている。
『………真面目ってわけだ』
理奈は思いっきり服愛ため息をつき、横に立つ。
今、理奈は完全に姿を消しているので、誰の目にも見えていない。
「迷える子羊NO・92、 下村 奈緒、確保」
やる気のない声で理奈が報告すると、【了解っす】と星花が応答する。
星花の声を聞いた理奈は、愛刀・冴凪を手に握り、 下村 奈緒の頭上に振り落とす――――
****
「終わったー!」
「トドの授業、眠くてたまんないよねー」
あちこちで交わされる、普通の会話。
彼女達だけでなく、他の生徒にとっても当たり前な会話内容。
そんな会話を聞き流しながら、奈緒は次の教科の用意をした。
「もー奈緒ってば、真面目すぎ!」
「今は、10分休憩だよぉ?奈緒も話そうよー」
奈緒の友人、美穂と遥がセーラー服の襟を左右に引っ張る。
奈緒の髪が左右に揺れた。振り子のように。
しかし奈緒は、苦笑しながら2人に言った。
「先に用意しといた方が怒られないですむじゃん?」
奈緒達が通う、森高中学は規則がものすごく厳しく、学力レベルが高いといわれているのだ。
『一般中学のレベルを軽く超えている』と噂を耳にしたことがある生徒もちらほらといる。
「ま、そーだけどぉ……」
「授業前に勉強用具が出てなかったら、
後ろに立たせたり、反省文書かせたりなんてありえないよねー」
遥の後を継ぐように、美穂がブツクサ言い始める。
「だから、『普通』だよ」
奈緒の言葉を待っていたようにチャイムがなった。と同時に教師が入って来る。
生徒等は慌てて、教科書を出したり、座り始める。
『自分で言っといて、胸くそ悪くなる言葉』
奈緒はげっそりとした目で、教科書に目を落とす。
先程とはまるで違う表情をあからさまにして。
****
「………やる気なくしてますね」
「あの人『普通』ってこと大嫌いっすからね」
幸は脱力し、星花は赤い夢の空を見上げる。
まあ、赤一色しか見えないのだが。
理奈は、今、授業を受けていた。
ただし、 下村 奈緒として。
奈緒の頭上に冴凪をあてたときに2人は入れ替わったのだ。
本物の 下村 奈緒は、杏の元にいる。
奈緒は眠っていたが、杏は彼女の手を掴んで語りかけていた。
膝をつき、優しく目を開いて。
何故、奈緒に杏が語りかけているのか。
それは、杏が語りかけることによって『精神鎮め』を行えるから。
最も今は『精神鎮め』と『精神・神経治癒』を同時に行っているが。
杏と奈緒の周りには、無数の真っ白い羽が散らばっていた。
―――――杏の力が働いている証だ。
「おい、話すならもっと遠くで話そうぜ?杏の邪魔になる」
蛍の提案に幸も星花も頷き、場所移動の準備をする。
「わたくしたちは、ここに残ります」
「何かあったら、互いに連絡を取ればいいことでございます」
双子の智菜&智香の言葉を聞いてから、蛍達は移動した。
****
「なーおっ!帰ろーぜ」
放課後のHRが終わると、ひとりの少年が奈緒を呼んでいた。
「恵太……」
げっそりとする奈緒。
「 下村 ぁ?旦那のお迎えだぜ?」
「アツアツだねー」
「……………」
クラスの男子が、大声ではやしたてる。
それにならうように、美穂と遥が奈緒を押す。
「ちょ、ちょっと!」
奈緒は慌てて抵抗したが無駄だった。
「はーいはい。贅沢言うんじゃないよー」
「彼氏……じゃない。旦那が迎えに来てくれてるんだしぃ」
私は、2人に押されるがまま、恵太の下に辿り着く。
誰が持ってきたのか、恵太の手には奈緒のカバンが握られている。
「奈緒、つーかまえたっ」
「う、うわっ!」
恵太は私を抱えて、教室を後にする。
「――――――嫌だなあ……」
ぼそっと呟いた。
どこに行くかは、わかってたからだ。
決して、お姫様抱っこののことではない。
いや、お姫様抱っこに慣れてるとは言わないが……これから待ち受けている事の方が気が重い。
****
「……着いた」
先程とは別人のように恵太がぼそりと呟くと、私は降ろされ尻餅を着く。
「った……!」
当たり前のように声に出すと、さする暇なく恵太に腕をつかまれ歩かされる。
恵太が連れてきたのは、明らかに人気のない館。
ドアを蹴破り、室内へと入る。
初めに目に付いたのがボロボロのソファー。
つぎはぎが数え切れないほどしてある。
新しい布きれ、椅子とテーブルの残骸……どれもどうにか補修はしてあったけど、使い道はないに等しい。
『――――合わないな、なんか』
【―――理奈?そろそろですよ】
考え事をしていた時に、幸の声が頭の中に入り込んだ。
部屋の観察は中断しざる終えない。
【了解、幸】
私がそう返すのと、ソファーに突き飛ばされたのは見事に同じだった。
「わっ……」
少し、ほこりが辺りに舞った。反射的に咳き込んでしまう。
げほっ・げほっ……!!
恵太が近づいているのは前もってわかってたはずなのに。
――――――頭の中では
何を恵太がしようとしているのかも、聞いていたはずなのに――――
動かない、動けない―――
恵太の目つきが狼と化していたから。
つりあがった目。
途絶えることのないよだれ。
身体も、痙攣しつつある。
『――――全てを知った上でここに来たはずなのに』
理奈は心の中で呟いた。
久しぶりに『変貌』を目の当たりにしたからか、身体が思うように動かない。
「そろそろ……”これ”が必要だ……」
恵太が見せてきたのは、袋いっぱいの白い粉と何本もの注射器。
全ての注射器に、白い粉が入っている。
震える手で、恵太が袖をまくる。
まくるだけで、5分はかかっただろう。
「普通は、体……験できねー…ぜ?奈……緒。お前も……やれ、よ」
恵太の腕が、ようやく見えると注射器を手にして―――
「――――そこまで!」
恵太が白い粉……すなわち麻薬を打つ瞬間、冴凪で注射器を木端微塵に消し飛ばす。
身体がいうことと聞かなくとも、『これだけは』やらせない。
その意志の強さが、冴凪を呼び、間一髪で注射器を木っ端微塵にしたのだ。
「お前、奈緒じゃない……」
恵太の目が大きく開かれる。黒い瞳は驚愕と怒りが入り混じった色をしていた。
身体の痙攣は、止まっていない。
理奈の前で、どんどん激しくなっていくのが暗めの部屋でも確認できた。
「――――死ね」
何も言わせぬうちに、私は静かに冴凪で恵太の心臓を貫いた―――
****
「ここは……」
「地獄の一丁目。私は理奈。あんたをここに連れてきた張本人」
辺りを見渡す恵太に、私は言った。
私は、赤い夢に戻ってきていた。理奈として。
手に持った冴凪を見て、恵太は後ろへと下がっていく。
そりゃあもう、脅えに脅えて。
「……おぼろに覚えているのか、条件反射か……ま、どっちでもいいけどね」
ブツクサ言いながら、帽子を被りなおす間に、恵太は走った。
逃げ出した、と言うほうがあってるかもしれないけれど。
逃出したほうが、私にとって好都合なことも知らずに。
「―――バズーカ砲ぉぉ!!」
冴凪を振り下ろす。
冴凪の一振りがミサイルのように恵太に突き刺さる。
たった一振りで、幾千の傷を負わせた私は、恵太に歩み寄った。
恵太はピクリとも動かないが、かなり手加減したので傷もたいしたことはない。
ただ単に、驚いているだけなのだろう。
「私は、『普通』って言葉が大嫌い。生活も友達も会話も……『普通』なんか耐えられない」
恵太が目を開ける。
命に別状なんてありはしない。
ここに来る前に、私が一度殺してるのだから。
「だけど ……下村奈 緒さんは、あんたに『普通』を求めてる。あんたに戻ってほしいんだよ。心優しい『あんた』に……。
麻薬漬けのあんたに、『普通』の恋愛を求めてるんだ。男なら、奈緒さんが本当に大切なら……欲しいのなら」
私は恵太に手を差し出した。
「奈緒さんが求めてる『普通』に戻ろうよ」
差し出した手を、ただただ見る恵太に私は続けた。
「ソファーを補修したり、家具を補修したりする『心』が、残ってんだからさ」
恵太が、驚いたように顔を上げる。
「あんたなら出来る。麻薬から手を引くことも、奈緒さんを幸せにすることも。だから、奈緒さんを解放してあげて。苦しみから、救ってあげてよ?」
私は伝えることだけ伝えると、もう一度、冴凪で恵太の心臓を貫いた。
恵太は里奈が瞬きをした間に、消えていた。
「さーて。恵太も無事に戻したし、かーえろっと」
冴凪をクルクル回しながら、軽い足取りで私も戻る。
****
誰かが、俺を揺さぶってる。
声が、五月蝿い……でかい声が耳元から入ってくる。
「………けーた!けーた…けぃたぁ……!!」
聞き覚えのある声。
忘れるはずがない泣き声……
奈緒の、声……?
俺は目を開き、声の方へと顔を向けた。
やはり、奈緒だった。
俺の知っている本物の奈緒が、そこにいた。泣きじゃくりながら。
「けぃ…た?恵太?!」
「―――――よお」
泣きはらした奈緒の顔が、俺には眩しかった。
「ただいま」
暗い部屋に、夕日が差し込む。
奈緒は、こんな俺を抱きしめて耳元で言ってくれた。
「おかえり、おかえり恵太ぁ……!」
普通の恋愛がしたいだけ……
普通の会話をしたいだけ……
私は、貴方にどんなことがあっても離れない。
本当の貴方を知っているからこそ、離れないの。
だから、一緒に普通の恋愛、しようよ、恵太……
****
こぽこぽこぽ……
おいしそうな日本茶が、杏から手渡しされた。
「さーんきゅ。杏」
「お疲れ様です、理奈さん」
入れたてのお茶を、すする私に、杏が笑いかける。
「幸さんに聞いたら、恵太さんは麻薬と縁を切れるそうです。
何年かかるか、わかりませんが……奈緒さんは、待ち続けると出たそうです。幸せになって欲しいですね」
杏の報告を聞いて、私は安心した。
幸せになってもらわないと、私も後味が悪いから。
「ったく。今回のは私向きじゃないよ……『普通』が嫌いな私にやらせるのが間違ってる」
本音だった。
『普通』を嫌ってる私が、『普通』の恋愛しろだのなんだのとよく言えたもんだ。
今思い出しても、反吐が出る。
「………なら、麻薬漬けになりゃ良かったじゃないっすか?」
「十分、『普通』じゃないでございます」
「何故、やらずに解放をなされたのですか??」
星花、智菜と智香が揃って私を覗き込む。
揃いも揃って、顔に『教えてください』と書かれてるのは、絶対に見間違いじゃない。
「………そぉいうのと違うんだよっ!」
ギン!と睨みつけ怒鳴りつける私。辛うじて冴凪を持つのをとめたことに拍手を送りたい。
「どう違うんすか?」
「どう違うのでございましょう?」
「教えてくださいまし、理奈さま」
「……………」
理奈の怒鳴り声に全く動じず、星花達は質問攻めを開始する。
耐えかねた理奈は、弾くように飛びあがると一目散に逃げ出した。
だが星花達も後を応用に走り出す。
きっと理奈が答えてくれるまで、走り続けることだろう。
「『普通』なんて……大嫌いだあああああ……!!」
走りながら、理奈は絶叫する。
しかし、誰も絶叫に答えてはくれなかった。
ちょこまか書いたファンタジーです。
自分でも不思議なんですが、何故に私は登場人物を多く取り入れるのでしょう。
これはNOZOMIやIFより早めに投稿できるかと思います。
最後まで読んでいただけると幸いです。