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7人7色  作者: 蓮千里
1/7

担当:理奈

                                              ファイル0・キャラ雑談





「………ひまぁ」


寝転びながらつまらなさそうにぼやき、赤い帽子を右手でクルクル回す少女、理奈りな


傍らには刀身・柄共に真紅色の長剣が、剥き出しのまま置かれている。


どうやら鞘はないらしい。


白い袖なしのワンピースに半袖の黒いシャツ。腰には太目のベルトを巻いていた。


普段なら『勝気な黒い瞳と長髪』と説明するところだが、


今の理奈は完全に『やる気のない瞳に左右に広がる長髪』と説明したほうがよさそうだ。


「理奈、そんなこと言うのは不謹慎ですよ?」


少女・理奈を叱るのは大人びた女性。名をゆき


憂いと優しさを含んだ茶色い瞳、綺麗な茶色いショートボブ。


やさしいレモン色の帽子(水平さんのような)には白いリボンが巻いてある。


色白なので似合う、帽子と同じレモン色のワンピース。その上には黒い網目の上着を羽織っている。


「でも、確かに最近は暇ですよ、幸さん」


「俺達、赤い夢の住人にとっては暇だよな」


顔を見合わせ頷き合うのは、日本人形を思わせる顔立ちの女武将はけいと、ツインテールにセーラー服姿のあんず


戦でもするかのような格好をした蛍の手の中には、刀ではなく丸びを帯びた十字架が握られ、手の中で弄んでいる。


「―――蛍、杏。貴女方まで……」


幸が目を伏せ、頭を抱えた。


軽く頭痛も感じるのは気のせいだろうか……。


「どうでもいいっすけど。セーカ君達の最近の活躍記録ビデオ、くるっすよ?」


いきなりブカブカ白装束を着た(どことなく恵比寿様の服に似ている)が会話に割り込んできた。


自分のことを『セーカ君』と言う年齢には到底見えないが、誰もそこは突っ込まない。


彼女なりのカラーなんだとここは割り切ることにする。


星花せいかさま、持ってきたでございます」


風龍ふうりゅう、お返しいたします、星花さま」


敬語口調で着物を着こなしている幼い双子が、星花に真白い龍を向かわせた。


幸が最年長というならば、双子の智菜ちな智香ちかは最年少。


身長・体重、顔立ち、髪色・髪形そして声。


なにもかも同じな2人を見極めるのは難しい。


だが、智菜は真紅の着物を着、セミロングの黒髪を赤いリボンで結び、智香は藍色の着物に青いリボンでゆんでいた。


最年少とは思えない振る舞いは、時に幸をも驚かす。








ここ、赤い夢は真っ赤な空間。いや、異空間というべきか。


―――配線なんてどこにも見当たらないこの空間で、どうやってビデオを見るのだろう。


赤い夢に電気なんてものは存在しないのに。


だが、そんなことを気にするものは誰もいず、杏は智菜と智香からビデオを受け取り歩を進める。


「んじゃ、暇つぶしに見ますか」


冴凪を杖代わりにして起き上がり、理奈があぐらをかいてスペースを陣取ると、他の面々も慌しく確保し始めた。


よほど暇だったらしい。


ぶつぶつ言っていた幸でさえ星花の隣へ正座する。




杏の手が真っ赤な、なにもない空間に伸びていく。


ビデオはすいこまれるように、静かに消えて行った。


「”起動”!」








                                    ここは、赤い夢。


                               どんな人間でも持っている世界。


                                   そこに彼女達はいた。

    

                                   そこで待機していた。


                                自分達を呼ぶ、人間の助けの声を。


                             7人で話しながら、助けの声を待っていた。


                                   迷える子羊達の声を。


                             助けの声を彼女達は、迷える子羊の声と言っていた。


                        7人は能力を生かして、迷える子羊を己のやり方で解放していくのが役目。


                               姿を見せることも、隠すことも、その者の勝手。


                                   どう助けるかは、7人とも違う。




                                    さあ、7人7色始まりです。














普通の恋愛がしたいだけ……


普通の会話をしたいだけ……




私は、貴方にどんなことがあっても離れない。


本当の貴方を知っているからこそ、離れないの。






だから、一緒に普通の恋愛、しようよ


                                   ファイル1担当・理奈”RINA”〜普通なんて大嫌い!〜






キーンコーンカーンコーン……




どこにでもあるチャイムの音が、理奈の耳を通り過ぎていく。


どこにでもあるHRが、どこの教室でも始まっていた。


ごく自然なこと。


ごく普通のこと。


ごく普通の『つまらない』日常が、ここにもあった。


「…………ふーん」


ふと足を止め、開いている窓から景色を見る。


「………………校庭あり、スピーカーあり、花壇あり、桜並木あり……ものすんごく普通のガッコ」


顔に思い切り”不服”と書いてある理奈。


証拠に盛大なため息をついている。


同時に黒髪が前方へと揺れ、赤い帽子が滑り落ちた。




【一体、どんな期待をしてたんっすか?】


【―――迷える子羊NO・92、 下村 奈緒さんの教室に入って下さい】


呆れたように星花が問い、懇願するように幸が指示する。


「はいほいさ、入りますって」


帽子を拾い上げ、かぶり直すと理奈は仕方なく 下村 奈緒のいる教室、1−Dに入った。


奈緒はすぐに見つけられた。


自分と同じ黒髪をポニーテールにし、真剣に授業を受けている。


『………真面目ってわけだ』


理奈は思いっきり服愛ため息をつき、横に立つ。


今、理奈は完全に姿を消しているので、誰の目にも見えていない。


「迷える子羊NO・92、 下村 奈緒、確保」


やる気のない声で理奈が報告すると、【了解っす】と星花が応答する。


星花の声を聞いた理奈は、愛刀・冴凪を手に握り、 下村 奈緒の頭上に振り落とす――――




****


「終わったー!」


「トドの授業、眠くてたまんないよねー」


あちこちで交わされる、普通の会話。


彼女達だけでなく、他の生徒にとっても当たり前な会話内容。


そんな会話を聞き流しながら、奈緒は次の教科の用意をした。


「もー奈緒ってば、真面目すぎ!」


「今は、10分休憩だよぉ?奈緒も話そうよー」


奈緒の友人、美穂と遥がセーラー服の襟を左右に引っ張る。


奈緒の髪が左右に揺れた。振り子のように。


しかし奈緒は、苦笑しながら2人に言った。


「先に用意しといた方が怒られないですむじゃん?」


奈緒達が通う、森高中学は規則がものすごく厳しく、学力レベルが高いといわれているのだ。


『一般中学のレベルを軽く超えている』と噂を耳にしたことがある生徒もちらほらといる。


「ま、そーだけどぉ……」


「授業前に勉強用具が出てなかったら、


後ろに立たせたり、反省文書かせたりなんてありえないよねー」


遥の後を継ぐように、美穂がブツクサ言い始める。


「だから、『普通』だよ」


奈緒の言葉を待っていたようにチャイムがなった。と同時に教師が入って来る。


生徒等は慌てて、教科書を出したり、座り始める。


『自分で言っといて、胸くそ悪くなる言葉』


奈緒はげっそりとした目で、教科書に目を落とす。


先程とはまるで違う表情をあからさまにして。


 


****


「………やる気なくしてますね」


「あの人『普通』ってこと大嫌いっすからね」


幸は脱力し、星花は赤い夢の空を見上げる。


まあ、赤一色しか見えないのだが。




理奈は、今、授業を受けていた。


ただし、 下村 奈緒として。


奈緒の頭上に冴凪をあてたときに2人は入れ替わったのだ。


本物の 下村 奈緒は、杏の元にいる。


奈緒は眠っていたが、杏は彼女の手を掴んで語りかけていた。


膝をつき、優しく目を開いて。


何故、奈緒に杏が語りかけているのか。


それは、杏が語りかけることによって『精神鎮め』を行えるから。


最も今は『精神鎮め』と『精神・神経治癒』を同時に行っているが。


杏と奈緒の周りには、無数の真っ白い羽が散らばっていた。


―――――杏の力が働いている証だ。


「おい、話すならもっと遠くで話そうぜ?杏の邪魔になる」


蛍の提案に幸も星花も頷き、場所移動の準備をする。


「わたくしたちは、ここに残ります」


「何かあったら、互いに連絡を取ればいいことでございます」


双子の智菜&智香の言葉を聞いてから、蛍達は移動した。




****


「なーおっ!帰ろーぜ」


放課後のHRが終わると、ひとりの少年が奈緒を呼んでいた。


「恵太……」


げっそりとする奈緒。


「 下村 ぁ?旦那のお迎えだぜ?」


「アツアツだねー」


「……………」


クラスの男子が、大声ではやしたてる。


それにならうように、美穂と遥が奈緒を押す。


「ちょ、ちょっと!」


奈緒は慌てて抵抗したが無駄だった。


「はーいはい。贅沢言うんじゃないよー」


「彼氏……じゃない。旦那が迎えに来てくれてるんだしぃ」


私は、2人に押されるがまま、恵太の下に辿り着く。


誰が持ってきたのか、恵太の手には奈緒のカバンが握られている。


「奈緒、つーかまえたっ」


「う、うわっ!」


恵太は私を抱えて、教室を後にする。


「――――――嫌だなあ……」


ぼそっと呟いた。


どこに行くかは、わかってたからだ。


決して、お姫様抱っこののことではない。


いや、お姫様抱っこに慣れてるとは言わないが……これから待ち受けている事の方が気が重い。






****


「……着いた」


先程とは別人のように恵太がぼそりと呟くと、私は降ろされ尻餅を着く。


「った……!」


当たり前のように声に出すと、さする暇なく恵太に腕をつかまれ歩かされる。


恵太が連れてきたのは、明らかに人気のない館。


ドアを蹴破り、室内へと入る。


初めに目に付いたのがボロボロのソファー。


つぎはぎが数え切れないほどしてある。


新しい布きれ、椅子とテーブルの残骸……どれもどうにか補修はしてあったけど、使い道はないに等しい。


『――――合わないな、なんか』


【―――理奈?そろそろですよ】


考え事をしていた時に、幸の声が頭の中に入り込んだ。


部屋の観察は中断しざる終えない。


【了解、幸】


私がそう返すのと、ソファーに突き飛ばされたのは見事に同じだった。






「わっ……」


少し、ほこりが辺りに舞った。反射的に咳き込んでしまう。




げほっ・げほっ……!!




恵太が近づいているのは前もってわかってたはずなのに。






――――――頭の中では




何を恵太がしようとしているのかも、聞いていたはずなのに――――




動かない、動けない―――


恵太の目つきが狼と化していたから。


つりあがった目。


途絶えることのないよだれ。


身体も、痙攣しつつある。




『――――全てを知った上でここに来たはずなのに』


理奈は心の中で呟いた。


久しぶりに『変貌』を目の当たりにしたからか、身体が思うように動かない。




「そろそろ……”これ”が必要だ……」


恵太が見せてきたのは、袋いっぱいの白い粉と何本もの注射器。


全ての注射器に、白い粉が入っている。


震える手で、恵太が袖をまくる。


まくるだけで、5分はかかっただろう。


「普通は、体……験できねー…ぜ?奈……緒。お前も……やれ、よ」


恵太の腕が、ようやく見えると注射器を手にして―――








「――――そこまで!」


恵太が白い粉……すなわち麻薬を打つ瞬間、冴凪で注射器を木端微塵に消し飛ばす。


身体がいうことと聞かなくとも、『これだけは』やらせない。


その意志の強さが、冴凪を呼び、間一髪で注射器を木っ端微塵にしたのだ。




「お前、奈緒じゃない……」


恵太の目が大きく開かれる。黒い瞳は驚愕と怒りが入り混じった色をしていた。


身体の痙攣は、止まっていない。


理奈の前で、どんどん激しくなっていくのが暗めの部屋でも確認できた。


「――――死ね」


何も言わせぬうちに、私は静かに冴凪で恵太の心臓を貫いた―――






****


「ここは……」


「地獄の一丁目。私は理奈。あんたをここに連れてきた張本人」


辺りを見渡す恵太に、私は言った。


私は、赤い夢に戻ってきていた。理奈として。


手に持った冴凪を見て、恵太は後ろへと下がっていく。


そりゃあもう、脅えに脅えて。


「……おぼろに覚えているのか、条件反射か……ま、どっちでもいいけどね」


ブツクサ言いながら、帽子を被りなおす間に、恵太は走った。


逃げ出した、と言うほうがあってるかもしれないけれど。


逃出したほうが、私にとって好都合なことも知らずに。


「―――バズーカ砲ぉぉ!!」


冴凪を振り下ろす。


冴凪の一振りがミサイルのように恵太に突き刺さる。


たった一振りで、幾千の傷を負わせた私は、恵太に歩み寄った。


恵太はピクリとも動かないが、かなり手加減したので傷もたいしたことはない。


ただ単に、驚いているだけなのだろう。


「私は、『普通』って言葉が大嫌い。生活も友達も会話も……『普通』なんか耐えられない」


恵太が目を開ける。


命に別状なんてありはしない。


ここに来る前に、私が一度殺してるのだから。




「だけど ……下村奈 緒さんは、あんたに『普通』を求めてる。あんたに戻ってほしいんだよ。心優しい『あんた』に……。


麻薬漬けのあんたに、『普通』の恋愛を求めてるんだ。男なら、奈緒さんが本当に大切なら……欲しいのなら」


私は恵太に手を差し出した。


「奈緒さんが求めてる『普通』に戻ろうよ」


差し出した手を、ただただ見る恵太に私は続けた。


「ソファーを補修したり、家具を補修したりする『心』が、残ってんだからさ」


恵太が、驚いたように顔を上げる。


「あんたなら出来る。麻薬から手を引くことも、奈緒さんを幸せにすることも。だから、奈緒さんを解放してあげて。苦しみから、救ってあげてよ?」


私は伝えることだけ伝えると、もう一度、冴凪で恵太の心臓を貫いた。


恵太は里奈が瞬きをした間に、消えていた。


「さーて。恵太も無事に戻したし、かーえろっと」


冴凪をクルクル回しながら、軽い足取りで私も戻る。


 


****


誰かが、俺を揺さぶってる。


声が、五月蝿い……でかい声が耳元から入ってくる。


「………けーた!けーた…けぃたぁ……!!」


聞き覚えのある声。


忘れるはずがない泣き声……




奈緒の、声……?






俺は目を開き、声の方へと顔を向けた。


やはり、奈緒だった。


俺の知っている本物の奈緒が、そこにいた。泣きじゃくりながら。


「けぃ…た?恵太?!」


「―――――よお」


泣きはらした奈緒の顔が、俺には眩しかった。


「ただいま」


暗い部屋に、夕日が差し込む。


奈緒は、こんな俺を抱きしめて耳元で言ってくれた。




「おかえり、おかえり恵太ぁ……!」










普通の恋愛がしたいだけ……


普通の会話をしたいだけ……




私は、貴方にどんなことがあっても離れない。


本当の貴方を知っているからこそ、離れないの。






だから、一緒に普通の恋愛、しようよ、恵太……






****


こぽこぽこぽ……




おいしそうな日本茶が、杏から手渡しされた。


「さーんきゅ。杏」


「お疲れ様です、理奈さん」


入れたてのお茶を、すする私に、杏が笑いかける。


「幸さんに聞いたら、恵太さんは麻薬と縁を切れるそうです。


何年かかるか、わかりませんが……奈緒さんは、待ち続けると出たそうです。幸せになって欲しいですね」


杏の報告を聞いて、私は安心した。


幸せになってもらわないと、私も後味が悪いから。




「ったく。今回のは私向きじゃないよ……『普通』が嫌いな私にやらせるのが間違ってる」


本音だった。


『普通』を嫌ってる私が、『普通』の恋愛しろだのなんだのとよく言えたもんだ。


今思い出しても、反吐が出る。




「………なら、麻薬漬けになりゃ良かったじゃないっすか?」


「十分、『普通』じゃないでございます」


「何故、やらずに解放をなされたのですか??」


星花、智菜と智香が揃って私を覗き込む。


揃いも揃って、顔に『教えてください』と書かれてるのは、絶対に見間違いじゃない。


「………そぉいうのと違うんだよっ!」


ギン!と睨みつけ怒鳴りつける私。辛うじて冴凪を持つのをとめたことに拍手を送りたい。


「どう違うんすか?」


「どう違うのでございましょう?」


「教えてくださいまし、理奈さま」


「……………」


理奈の怒鳴り声に全く動じず、星花達は質問攻めを開始する。


耐えかねた理奈は、弾くように飛びあがると一目散に逃げ出した。


だが星花達も後を応用に走り出す。


きっと理奈が答えてくれるまで、走り続けることだろう。




「『普通』なんて……大嫌いだあああああ……!!」


走りながら、理奈は絶叫する。


しかし、誰も絶叫に答えてはくれなかった。



ちょこまか書いたファンタジーです。

自分でも不思議なんですが、何故に私は登場人物を多く取り入れるのでしょう。

これはNOZOMIやIFより早めに投稿できるかと思います。

最後まで読んでいただけると幸いです。

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