-birth-
愛と憎しみ 喜びと悲しみ 希望と絶望 幸福と不幸
すべてに境はありません
すべては 鏡なのです
「鏡なのよ」
ころころと鈴を転がすような笑い声がふたつ、暗闇に響く。
「そう、境なんてないのよ」
暗闇だと思っていると、空間にいくつもの炎がぼうっと灯った。
天井もない。壁もない。床もない。橙色の炎だけがいくつも浮遊するその空間に、ふたりの少女が座っていた。
瓜二つの少女はその瞳の色だけが違う。黄金の瞳と緋色の瞳は、橙色の炎を移すと見分けがつかなくなる。
ぽーん、ぽーん。手から手へと楽しげに跳ねる、瞳と同じ色の赤いお手玉と黄色いお手玉。
ぽーん、ぽーん。跳ねるたびに色があいまいになる。どちらが赤で、どちらが黄色だったか。
「わたしはあなた」
「あなたはわたし」
ここは世界の隙間。すべてが終わる場所で生まれる場所。
「あ、また誰かが落ちたわ」
「鏡の隙間に落ちたわ」
ぱりーん、と鏡の割れるような音が、無音の空間に響く。
「戻れるかしら」
「戻れないかしら」
ここは境界が見えなくなった人間の肉体が落ちる場所。隙間の見えるようになった人間の魂が堕ちる場所。
善と悪 光と闇 生と死 正気と狂気
すべてに境はありません
すべては 鏡なのです
「今日のお客様は、だぁれ?」