プロローグ
神様という存在を普通の人は信じるだろうか? まあ、信じはしないだろう。
俺、羽柴竜二もある時までその普通の人と同じだった。
幼少の頃の俺は随分なやんちゃ坊主で、親を困らせていたらしく、海外の旅行中に一人はぐれてしまった時もあったそうだ。
そのころの俺は、どこからともなく聞こえてくる声など気にしていなかった。
「そこを左に行けば、君の母君がいるよ」
ただそんな声を信じて歩けば、母親に会うので、都合のいい探知機程度にしか思わなかった。
そして、俺が普通じゃなくなった日が来た。五年前、中学にあがって両親が海外旅行へと行こうとした日だった。
「父君と母君を止めろ! さもなければ、もう二度と会えなくなるぞ!」
それは、いつもの母のような優しい声ではなく、焦りーーそれを含んでいた。
俺は必死に止めた。言葉は少ないが、必死さが両親に伝わるように。
結局、両親は俺の気持ちも知らずに家を出て行ったまま帰らぬ人になった。
航空機の不時着、乗っていた人のほとんどが亡くなったそうだ。
そこに両親の名前を見つけたとき、この声が神様の声だと気づいた。
いや実際、小学生くらいから知っていたんだ。彼女が言うように従えば、俺は不幸にはならないと。
その日から、俺は神様の声を少しずつ無視するようになった。
だから今、俺の目の前にトラックが迫ってきているんだろう。
速度を落とさないトラックに俺は鈍い音と共に潰された。