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「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。  作者: 木山楽斗


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第8話 騎士の休日

 予想していた通り、ラベルグ様はすぐに村に馴染んでいた。

 彼は言っていた通り、困ったことがあるとなんでも手伝っていた。

 ラベルグ様はきっと、それを騎士として当たり前のことだと思っているのだろう。それが前任のゼボールさんと重なって、村の人も受け入れやすかったのだろう。


「ふう……」

「ラベルグ様、お疲れ様です」

「ああ、フェルーナか。こちらこそお疲れ様と言いたい所だな。農作業をしていたのだろう?」

「ええ、流石に疲れますね。慣れているはずなのですけれど……」


 聖女になる前、私は村で農家として働いていた。

 父と母が残してくれた畑で、作物を育てていたのだ。

 といっても、それは多くの人達の助けがあってできていたことである。いや、それは今でも変わっていない。今回に関しても、村の皆は私がいない間畑を整備してくれていた。


「慣れているというなら、俺も人助けは慣れていたはずなのだがな……いつからか、そういった心を忘れてしまっていた。今はそれを実感している」

「そうなのですか?」

「騎士団の拠点は王都だ。その王都を守れることに誇りを覚えていたものだが、今はそれが下らないものに思えてくる。こうして人々に直接寄り添える方が、騎士としての本懐を遂げられているという気がするからな」

「そういうものですか……」


 ラベルグ様は、騎士というものにかなり思い入れがあるようだ。

 その辺りに関しては、私にはよくわからない。ただ彼がそうだと思っているなら、そうなのだろう。

 結局の所、本人がどう思うかが一番大事なのだと思っている。私のことだってそうだ。今こうして村で平和に暮らせている方が、私には性に合っている。


 思えば、聖女になって幸せだと感じたことなどほとんどない。

 私が聖女になって得られたものといえば、ラベルグ様やルナーラ様との繋がりくらいだろうか。

 それ自体は、喜ぶべきものではある。苦しい中でも、良き出会いがあったと思う。


「フェルーナ? どうかしたのか?」

「ああいえ、なんでもありません。ふと、聖女がどうなっているのか気になっただけで」

「聖女か。まあ、色々と問題にはなっているようだが、それはもうあなたには関係がないことだ」

「……そうですね」


 私は、ラベルグ様の言葉にゆっくりと頷いた。

 現在、この国は聖女のことで少々揉めている。ルナーラ様が、私の後任となることを蹴ったらしいのだ。

 そのことについて、私から言えることが何かあるという訳でもない。ラベルグ様も言っている通り、それはもう私には関係がないことなのだ。




◇◇◇




「ふむ……中々釣れないものだな」

「まあ、釣りなんてそんなものではありませんか?」

「これでもそれなりに腕に自信はあったのだがな……」

「まあ、地域によって色々と違うものなんじゃありませんか?」

「我ながら情けないものだ」


 私はラベルグ様と、近くの川に釣りに来ていた。

 こちらに来てからラベルグ様の初めての休日ということで、私から誘ってみたのだ。

 当然のことながら、王都と違ってこの辺りで遊べる場所など少ない。故に私が子供の頃にやっていた釣りをしてみることにした。


「それにしても、ラベルグ様もかつては村で暮らしていたのですね」

「ああ、この村は俺にとっては少し懐かしいように思えてくる」

「その村には最近帰っていなかったのですか?」

「そうだな……なんとなく距離ができてしまっている」


 ラベルグ様は、少し寂しそうな顔をしていた。

 公爵家の隠し子、それが判明したことによって距離が生まれてしまったということなのだろうか。

 それはなんとも、悲しいことである。しかし、仕方ないことではあるのだろうか。貴族と平民は、住む世界が違い過ぎるのだから。


「……そういえば、あなたのことが話題になっているようだったな?」

「え? ああ、そうですね。そういえば、そんな噂を聞きました。でも、別にあまり気にはしていません」


 そこでラベルグ様は、話題を変えてきた。

 彼が言っているのは、私の王城での扱いが世間で問題となっていることだろう。この村に伝わっていたことからも予想できたことではあるが、その事実が王城から漏れたらしい。

 ただ、それは別にどうでも良いことだ。いや、問題となっているなら喜ぶべきかもしれない。それで国が変わる可能性はある訳だし。


「俺が気にしているのは、この村を訪ねて来る者などがいないか、ということだ」

「ああ、それはそうですね。でも、今の所は大丈夫です。そもそも、私の出身なんて、そんなに知っている人はいないですからね」

「なるほど、それなら安心か……むっ」

「あ、引いていますね……」


 ラベルグ様が心配していたのは、私への被害のようだった。

 よく考えてみれば、その可能性はない訳ではない。野次馬などはよく聞く話だ。

 しかし多分心配はないだろう。私の出身を正しく知っている人はルナーラ様くらいだ。ニルーア様なども知っているかもしれないが、彼女が来るはずもないだろう。


「うぐっ……逃げられたか」

「中々、上手くいかないものですね」


 そんな風に私は、呑気に構えていた。

 もう少し危機感を持った方が良いものだろうか。そう考えながらも、私はラベルグ様と釣りを楽しむのだった。

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