第7話 新たな聖女(モブside)
王女ニルーアにとって、いとこであるルナーラを訪ねるのは不本意なことであった。
端的に言って、二人は仲が悪い。親戚の中でも相性は最悪であり、できれば進んで話しかけたくはない関係だ。
それでもニルーアは、彼女の元に足を運ばざるを得なかった。それはこの国の聖女が、現在空白であるからだ。
「なるほど、私を聖女に、ですか……」
「ええ、今のこの国で聖女を担うことができるのはあなただけです。不本意なことではありますがね……」
フェルーナという聖女がいなくなったことは、ディオート王国にとって大きな痛手であった。
類稀なる才能を持つフェルーナは、通常よりも多い業務でもまったく怯まずこなしていた。そのお陰もあって、王国の発展速度は上がっていたのだ。
逆にそんな彼女がいなくなったことによって、魔法関係の仕事には様々な影響が出ることになった。後任の聖女が決まっていないこともあって、かなり不安定な状況になってしまっているのだ。
各方面から文句が出ているというのも、ニルーアにとっては頭が痛い問題だった。
フェルーナの存在によってできていたことができなくなっている。それらの不満について、ニルーアは対処しなければならない立場なのだ。
「嫌です」
「え?」
「私は聖女になんてなりません。どなたか他の方をあたってください」
「なっ……!」
そんなニルーアは、ルナーラの言葉に驚くことになった。
聖女という重大な役職に対して、興味を示さない。いくら仲が悪いとはいえ、そのようなことは起こり得ないと彼女は思っていたのだ。
「聖女ですよ? この国で最も偉大な魔法使いの地位です。それを蹴るなんて、何を考えているのですか?」
「私は一度負けた身ですからね。もう聖女については諦めているのです。というか、聖女の候補はまだ他にいたではありませんか。そちらをあたれば良いでしょう?」
「それでは、求められているレベルをこなせないのです」
「それはあなたの問題でしょう。私には関係ありません」
ニルーアに対して、ルナーラは嘲笑うような笑みを浮かべていた。
それにニルーアは、震える。怨敵ともいえる彼女にそのような表情をされるのは、彼女にとっては腹立たしいことだったのだ。
「言っておきますが、私の権力を使えばあなたなんて……」
「できる訳がないでしょう。私だって、一応は王位継承権を持つ一人です。その権力はあなたと同等程度はありますからね」
「それは……」
「さっさと帰っていただけませんか。今私は忙しいのです」
「このっ……」
ゆっくりと背を向けるルナーラに、ニルーアは表情を歪めていた。
しかしほぼ同等の権力を持つ彼女を、害することはできない。それを悟ってニルーアは、苦い顔をしながら退散するしかなかった。
◇◇◇
ルナーラにとって、ニルーアは理解しがたい存在であった。
ディオート王国に繁栄をもたらすはずだったフェルーナの排斥、そんなことをする意味があるのか、彼女にはわからなかった。
感情的にも合理的にも、ルナーラはそれが愚かなことだと理解している。ただ彼女は、そんな自分が少数派であることも、わかっていない訳ではなかった。
フェルーナのことを聖女だと認めた者は、この国ではほんの一握りだけだ。
王城では、ニルーアに同調する者が多く、フェルーナという聖女はひどい扱いを受けていた。それをルナーラは、本人や兄から聞いている。
「お母様、この国は腐っています」
「……そうかもしれないわね」
ルナーラにとって、ディオート王国は良き国ではなかった。
公爵家の長女として生まれた彼女は、いつかこんな日が来るのではないかと薄々思っていた。
ルナーラからしてみれば、それは起こるべくして起こったものなのだ。
「民達の声は、当然のものです。この国で彼らは虐げられてきました。そんな中で、やっとのことで聖女となったフェルーナのことを、王国は排斥した」
「……人の噂には蓋などできないということね。一体どこから漏れたのか」
「そんなことはどうでも良いことです。大方、フェルーナが去った後に標的となった平民辺りが漏らしたのでしょう。その者については、同情できるかはわかりません。その者も一緒になって、フェルーナにひどいことをしていたかもしれない」
ディオート王国では、民達が反発の声を出し始めていた。
それは平民の聖女であるフェルーナが、王城でどのような扱いを受けていたのかが、流れたからだ。
今まで積もりに積もってきたものが、それをきっかけに爆発した。ルナーラはそう思っている。
「ルナーラ、あなたは何をしたいのかしら?」
「お母様、私には王位継承権があります。王女と二人の王子、その三人がいなくなれば、次の王位を掴むのは私です」
「それは……」
「このままみすみすと、この国が衰退していくのを見ているつもりはありません。私は私で、行動させてもらいます」
ルナーラは、覚悟を決めていた。
この現状を変えるためには、ディオート王国を一新しなければならないのだ。それができるのは、自分だけである。ルナーラはそのように思っていた。
「なるほど、そういうことなら私も付き合うわ」
「お母様……」
「あなたが覇道を歩むというなら、私も背負うとしましょう。こう見えても、元聖女……役に立つとは思うわ」
ルナメリアの言葉に、ルナーラは言葉を呑んだ。
母親の助力、それは彼女にとってはとてもありがたいものだった。




