第3話 利益のために
このまま聖女を続けて良いものか、そう考えている間に一週間はすぐに経った。
ドルメア公爵家の人々は、私のことを快く受け入れてくれていた。ドルメア公爵も良い人であり、私にはもったいないくらいに快適に過ごさせた約一週間だったといえる。
ちなみに前聖女ルナメリア様は、ドルメア公爵家に帰って来ていなかった。私への引き継ぎなど色々とあるため、未だに王城に留まっているそうだ。
「はあ……」
「大丈夫か?」
「大丈夫です。まあでも、やっぱりあまり気分が良いものではありませんでしたね」
約束した通り一週間後に王城に来た私に待ち受けていたのは、平たく言ってしまえばドタキャンだった。
まだ準備ができていないために、今度は一か月後に来て欲しいと言われた。ルナーラ様の予測通り冷遇されているというなら、これは元々そうだったということなのだろう。
そんな王城での一件が終わり、私はラベルグ様にレストランに連れて来てもらった。王城では冷たい視線に晒されていたため、平民が利用しているというこの店は異様に居心地がいいように思えてしまう。
「王城は異常だったとしか言いようがないな……」
「……貴族の方々が、私に冷たい目を向けるのはまだ理解できます。でも確か、中には平民の方もいらっしゃいますよね? そういった人達まで私に冷たい視線を向けてきたのは、かなりショックですね」
「空気に呑まれているということなのかもしれないな。いや少なくとも、あなたが標的の内は自分が狙われないと考えているのかもしれない。同じような立場であった可能性もある」
「私の味方はラベルグ様だけですね……」
この一週間で、私を排斥する風潮が王城ではできていたらしい。
あの空気はひどいものだ。本当に聖女としてやっていけるのか、益々不安になってくる。
「私はこのまま聖女になっても良いのでしょうか?」
「む?」
「ルナーラ様に譲るということを考えるべきなのではないかと、思ってしまいます」
「なるほど……それも一つの手ではあるのだろうな」
私の言葉に、ラベルグ様は曖昧な返答を返してきた。
それを判断するのは、あくまで私であると、彼は暗に言っているのかもしれない。私は今、彼からの返答を期待してしまっていた。それに従えれば、楽であったから。
それを許されなかったからには、自分で考えるしかないのだろう。
「……世知辛い話ではありますが、聖女の地位によって得られる利益には期待してしまいます」
「利益、か」
「ええ、私をここまで送り届けてくれた村の人達に恩返しがしたいですからね」
私は中途半端な答えしか出すことができなかった。
聖女になることによって得られる利益は、やはり欲しいと思ってしまっている。私が生まれ育った村は、豊とは言い難い。ここに来るまでにも、色々と無理はしてきた。
その無理に対する恩を、私は返さなければならない。それは義務のようなものだ。故にここで折れたくないというのが、正直な所である。
◇◇◇
私が正式に聖女に就任したのは、選考から実に二か月後のことだった。
結局私は、それまでの間に二回呼び出された。一回目の呼び出しは、準備ができていないということで追い返されたが、二回目はきちんとしていたように思える。
それは恐らく、前聖女であるルナメリア様の影響があったのだろう。ルナーラ様やラベルグ様は直接言ってはこなかったが、なんとくそれは察せられた。
ただ、私が聖女に就任したということは、彼女は既に王城からいなくなっていることを表している。私が頼れるのは、特務騎士として王城に勤めているラベルグ様だけだ。
「さて、あなたはこれから私の下で働くことになります。聖女というのは、この国の魔法の分野において二番目であるということを理解してください」
「はい……」
聖女に就任した私は、第一王女であるニルーア様に挨拶することになった。
ディオート王国において、それぞれの分野のトップには王子や王女がいるということは聞いていた。聖女が司る魔法という分野は、彼女が担当であるようだ。
ルナーラ様から、それぞれの王族のことはある程度聞いている。ニルーア様は子供っぽくて無邪気、というよりも邪悪というような性格らしい。
王族の中でも、彼女は特に警戒するべき。それがルナーラ様の見解だ。
「まず一つ触れておかなければならないことがあります」
「えっと、なんですか?」
「あなたのことです。平民であるあなたが聖女に就任している。それは由々しき問題です」
ニルーア様は、早速私のことについて触れてきた。
彼女は、楽しそうに笑っている。どうやら私は、これから何かしら不快な思いをすることになりそうだ。ニルーア様の表情からは、それがよく伝わってくる。
「……なんて、他の人は思っているようですね? でも、私はあなたのことを認めています」
「え?」
「平民が聖女、結構なことではありませんか。私はあなたの聖女の就任を支持しています」
「支持……」
ニルーア様の言葉に、私は驚くことになった。
彼女の表情と、言っていることが噛み合っていなかったからだ。
ただ、状況はなんとなく察することはできた。彼女は私を働かせた上で、何かしらを仕掛けてくるつもりなのだろう。
「まあとりあえず、聖女としての業務を進めていただけますか? ルナメリア様が資料を残してくださっていますから、それをご確認ください」
「はい、わかりました……」
これからも警戒する必要はあるだろう。彼女は絶対に、何かを考えている。それは間違いない。
ただ、聖女としての業務はきちんと行うつもりだ。それをこなさなければ、報酬は得られない。例え妨害があったとしても、立派に聖女として務めてみせるとしよう。




