第16話 玉座の間にて
「ふふっ……」
私とラベルグ様の前で玉座に座る女性は、笑みを浮かべていた。
それはなんというか、堪え切れなかったという反応だ。そう考えると、一応公的な場ということもあって気を張っていたのかもしれない。
しかしそれは、先程この玉座の間から摘まみ出された二人の令嬢によって、無残にも崩れ去ったようである。それは私としては、結構心外だ。
「ルナーラ様、笑わないでください。私にとっては、結構深刻な問題なのですから」
「ごめんなさい。でも、あなたとあの二人のやり取りがおかしくって……」
ルナーラ様とルナメリア様によって、王城は敢えなく陥落したそうである。
その後色々と手を施して、ルナーラ様は新たなる王に就任した。
彼女の王位継承については、平民には概ね好意的に受け取られている。ドルメア公爵家は、平民の間でも評判だったのだ。
貴族の間でも、特に反対意見は出ていないそうである。それは、ルナーラ様が真っ当な王位継承権を持っていたからだろうか。はたまた、何か彼女が仕掛けていたということだろうか。それは私達には、よくわからない。
「人とは変わるものなのですね……特にロロアナの変化には驚いています。まさかそんなことになっているとは思いもしませんでした」
「……悪いことではないのですけれど」
「私も、多少なりとも考えを改める必要があるのかもしれませんね。彼女のように自省できる人がいるというなら、その流れに任せてみるのも良いでしょうか」
「どうでしょうかね……」
ルナーラ様は、いつになく嬉しそうにしていた。
心の底から国に失望していた彼女にとって、ロロアナ嬢のような変化が起きたことは、相当に嬉しいことなのだろう。
ルナーラ様も色々と苦労しているので、彼女が喜んでいることは私も嬉しい。でも、笑ったのはひどいと思う。私も色々と苦労しているのだから。
「すみませんでした。でもお姉様なんて……フェルーナの方が、年下でしたよね?」
「それについては、私も困っているんです。あ、そうだ。ラベルグ様が、自分も兄だけどルナーラ様には敬意を抱いていると言っていました」
「ああ、少しわかりました。本当に笑ってすみませんでしたね」
「……ルナーラ様、色々と語弊があると思うのですが」
私がラベルグ様のことを出すと、ルナーラ様の表情が変わった。
彼女も、兄から下手に出られるという状態には困っている。私とは事情が少々異なるものの、似通っている部分があると思ったのだろう。
そんな風に、玉座の間は和やかな雰囲気だった。それは良いことではあるだろう。色々とごたごたがあったが、今の所この国は平和なのである。
「さてと、もう少し二人と楽しい会話をしていたい所ですけれど、そろそろ本題に入らなければなりませんね」
ルナーラ様は、そう言ってため息をついた。
王位を継承してから、彼女は当然忙しくしている。そんな中で、和やかに話せる時間というものは貴重なのかもしれない。
とはいえ、これに関しては仕方ないことだといえるだろう。今この国は、変革の時を迎えている。気を張らなければならない時期だ。
「まずフェルーナに頼みたいことがあります。あなたには聖女になってもらいたいのです」
「聖女、ですか……」
「ええ、この国で聖女が務まるとしたら、私かあなたくらいでしょう。今は私がなんとかその業務を担っていますが、正直な所辛いのです。あなたに手伝ってもらいたい」
「……ルナーラ様がそう仰るのなら」
私は、ルナーラ様からの提案を受け入れることにした。
彼女の元でなら、働いても良いと思っている。王城で働く魔法使い達は、結構味方になっていることだし、以前のようにはならないだろう。
心配なのは、その魔法使い達とどう接するかだが、これは贅沢な悩みというものだ。慕ってくれているのだし――いや、やはり少し困るというのが正直な所なのだが。
「あなたに受け入れてもらえて、本当に安心しています」
「まあ、ルナーラ様にとっては大変な日々でしたでしょうしね……でも、大丈夫です。これから私が聖女として頑張りますから」
「それもあるのですけれど、他にも色々と都合が良いことがあって……まあ、それについては受けてもらわなくてもなんとかはしましたが」
「えっと……」
ルナーラ様は、ゆっくりとため息をついた。
その安心しきった顔は、なんというか既に話が終わったかのようである。
だけど、ラベルグ様にも言うべきことはあるはずだ。状況から考えると、それは絶対に。
「ラベルグお兄様には、ドルメア公爵家を継いでもらいます。元々そういう話でしたよね。それは、お兄様も受け入れていたはずです」
「……仕方ありませんか」
ルナーラ様とラベルグ様のやり取りは、非常に短いものだった。
どうやら、こうなることは事前に取り決められていたことであるらしい。
それはきっと、私と出会う前から決められていたことなのだろう。だからルナーラ様は安心していたのだ。ラベルグ様が、約束を違えることはないと思っていたのだろう。
「それからお兄様とフェルーナには婚約していただきたいのですけれど、構いませんか?」
「……うん?」
「え?」
先程までとは変わらない調子で言葉を発するルナーラ様に、私とラベルグ様は顔を見合わせることになった。
その言葉が、すぐには受け止め切れない。一体ルナーラ様は、何を言っているのだろうか。私達は困惑するのだった。
「ルナーラ様、それは一体どういうことですか?」
「言葉通りの意味ですよ、お兄様」
ラベルグ様の質問に、ルナーラ様は涼しい顔で答えていた。
彼女の提案は、とんでもないものだ。それなのに本人は呆気からんとしている。それに私もラベルグ様も、正直困惑中だ。
「こ、婚約なんて、どうしてそのようなことになるのですか?」
「フェルーナ、あなたは私がこの国で家族以外で信用できる唯一の人間です。そんなあなたを私は身内に引き入れておきたい」
「でも、身分が違います……」
「聖女というものは、特権階級ですから問題はありません。あなたの優秀な血を貴族の発展のために入れるということに文句は出させませんよ。そもそも、貴族というものはかつてそういった面で成り上っていた訳ですからね」
ルナーラ様は、私の顔を見て真剣な顔でそう伝えてきた。
どうやらこれには、結構深い訳があるようだ。いやそれは当たり前だろうか。理由もないのに、私とラベルグ様を婚約させる訳がないのだから。
「二人としても別に問題はないでしょう? この際だから言わせてもらいますが、両想いである訳ですし」
「え?」
「な、何を……」
「村でも仲良く二人で出掛けていたみたいですね。名目もできたのですから、さっさと結ばれてください」
政治的な理由だけかと思っていたが、それ以外の理由もあったようである。
それについては、なんとなく察していたことである。まさか、それをルナーラ様に言われるとは思っていなかったが。
「……わかりました。覚悟を決めましょう」
「ラベルグ様?」
「フェルーナ、俺は君のことを愛している。ともに過ごす内にいつしか惹かれるようになっていた。それは紛れもない事実だ」
「それは……」
「できれば俺の妻になって欲しいと思っている。政治的な意味だけではない。それが今の俺の素直な気持ちだ」
ルナーラ様の言葉を受けて、ラベルグ様は自分の思いを口にした。
それに私は怯んだ。それがあまりにも早い決断だったからである。
ただよく考えてみれば、今の彼はドルメア公爵家を背負っている。その素早い判断は、家を背負う覚悟の表れなのかもしれない。
それなら私も、その覚悟に応えるべきなのだろう。迷う必要などはない。元より気持ちは決まっているのだから。
「ラベルグ様、私も気持ちは同じです。ラベルグ様のことをいつから好きになりました。私をあなたの妻にしてください」
「ああ、これからもよろしく頼む、フェルーナ」
「ええ……!」
私とラベルグ様は、そう言って笑い合った。
薄々察していたことではあるが、こうやって思いが通じ合うのはやはり嬉しいものだ。
これから私達は、婚約者引いては夫婦として生きていくことになる。それは決して楽な道ではないだろう。だが私達なら乗り越えられるはずだ。
「……せっかくですから、口づけの一つでもしたらどうですか?」
「ルナーラ様、何を言っているのですか……」
「あはは、それは流石に……」
ルナーラ様の言葉に私は苦笑いして、ラベルグ様は呆れたような顔をした。
何はともあれ、彼女という心強い味方もいる。それは嬉しいことだ。
「そういことは二人きりの時という訳ですか」
「ルナーラ様、女王になられたのですから、もう少し気品というものを身に着けていただきたい」
「お兄様は、細かいことを気にし過ぎです。フェルーナ、あなたもそう思いませんか?」
「どうでしょうかね?」
こうしてディオート王国は、一つの変革を迎えることになった。
これからこの国がどう変わっていくかはわからない。未来は不明慮なことでいっぱいだ。
だが、私達の手で必ず良いものにしてみせる。私はそう決意するのだった。
END
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