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第九話 北国から来た人間

今日もいい天気だ。海も穏やかで平和そのもの。

あの人間の子が来たのは確かこの辺りの砂浜だったかな。扉が消えたと言っていた辺りには何もない。

「ばーさんや。あの子らはもう無事に着いたかの?」

隣で一緒に砂浜を眺めていた妻に話しかける。

「そりゃもう出発してから4日だか5日だか経ってますからね〜」

いつもの調子で会話をしていると遠くから呼ぶ声が聞こえた気がする。

「村長!村長!大変ですよー!」

やはり呼ばれていたかと振り向けば村の男が血相変えて走ってきてるじゃないか。

「どうしたんじゃ。そんな慌てて。」

ワシの前まで走ってきて、膝に手を当てて息を整えているそやつに聞いてみる。

「村長!人間たちが乗った船が島に近づいてきてます!しかも兵隊っぽい格好してるので軍隊か何かかと!」

ワシは胸騒ぎがするのを感じた。獣人の島というだけでも珍しいのにこの島は周りの海が特殊ということもあり誰も寄り付かない。獣人の旅人がたまに来るが、そやつらも腕に自信のある者ばかり。しかも今回は軍隊ときた。もし西大陸の軍隊だったら奴隷を探しに来たのやもしれん。

「まぁまぁ。一体なんでしょうね〜。じーさんや。どうしますかね?」

妻の落ち着いた声に今まで何度救われているか。今回も同じように妻の声で気持ちを落ち着かせ、目を閉じ思案した後、ゆっくりと村の男に伝えた。

「ワシが会おう。女子どもは家の中に居るように伝えなさい。男どもは武器を持ってわしの後ろに控えててくれ。」

男は力強く頷いてまた走って行った。

「ばーさんは村に残り皆を頼んだぞ。」

「はいはい。分かりましたよ。気をつけてくださいね。」

優しく微笑んだ妻を連れてワシらも歩き出した。




「団長。ここが例の島ですか?」

「座標によるとそのようだな。上陸準備をしろ!島の者に手出しは無用!いいな!」

私は国王の命令通りこの島に話を聞きに来ただけだ。争いは求めていない。その事を部下達にもしっかり周知しておかなければと、声を張り上げた。

乗ってきた大型船から小舟に乗り換え島に上陸する。団長である私と部下2名、漕ぎ手が1名。手には愛用の槍。それにしても穏やかな島だ。特殊な海に存在する獣人の島。我々が来たことにさぞ驚くだろう。


港に着くとそこには獣人達が武器を持ってこちらを警戒している。さてどうしたものか、と思案していると亀の老人が前に出てきた。

「このような孤島に何用でございますか?あなた方はどちらから?」

恐らくこの島を統率しているのがこの者だろう。

「我々は東大陸の北国、フェルス王国の者だ。私は第一騎士団長のルークと申す。王の命により訪ねてきたのだ。戦闘の意思はない。」

そう言い、愛槍を砂浜に突き刺した。部下達も真似て武器を下ろした。その様子を見て住民たちも恐る恐る警戒を解いてくれたようだ。

「お役めご苦労様でございます。ワシがこの島の代表…村長を務めております。それで国王様の命とは?」

やはり村長だったか。話のわかる者で助かった。

「最近ここに人間が来なかったかを尋ねたい。その者に合わせて欲しいのだ。確認したいことがある。」

住民達は困ったように顔を見合せている。

まだ警戒されているのだろうか。それともその人間に何かあったのか。もう一度尋ねようと口を開きかけた時、村長が返答をしてくれた。

「おりましたが今はもういません。」

いない…とはどういう事だ?まさかこの者達が始末したということか…?それはかなりまずい。焦る気持ちを抑え再び問う。

「では今はどこにいるのだ?」

「大陸の方へ送り出しました。」

「この海を渡らせたのか?危険であろう。まさか1人で行かせたのか?」

どんどん焦りは大きくなる。あの人間が死んだとなれば皆がどれだけ肩を落とすか。

「いえいえ。護衛の者を付けたので無事大陸には上陸したかと思います。」

ふぅ、と息が漏れ出た。とりあえず無事なようで良かった。だが大陸に渡ったのであれば入れ違いになったか。

「そうか。ならば入れ違いということか。」

「そうでございますね。申し訳ないですな。」

転移術を使ったとはいえ、わざわざ船でここまで来たというのに無駄足か。私は溜息を吐いて最後に村長に一つ問う。

「では最後に、その人間の名前はなんという?」

これが大切なのだ。求めている人間であるのかが。

すると返ってきたのは低い殺気に満ちた声だった。

「その人間にどのような用件でしょうか?」

今までの話のわかる老人から一転。敵意むき出しで質問に質問で返された。後ろの住民達も武器を構えている。それに応えるように部下達も武器を構えた。

「武器を下ろせ。」

部下達に静かに言い、住民と村長を真っ直ぐ見る。

この雰囲気からするとこの島でその人間は手厚く保護されたとみえる。名を聞いてここまで警戒されるとはな。獣人の島と聞いて始めはさっさと殺されているだろうと思っていたがそうではないようだ。やはり獣人も人間と同じなのだ。口元が緩みそうになるのを堪えて言葉を返す。

「その人間は『(うみ)』という名ではないか?もしそうであるなら丁重に我が国にお連れしたかったのだ。大切な客人として。」




僕とチャミは酒屋に入ると尋ね人を探した。人間の女性と言っていたから…と店の中を見渡せばカウンターに1人の人間の女性が座っていた。長い髪をひとつに結び凛とした雰囲気を纏っている。身なりを見るに冒険者、いや、どこぞの国の兵士のようだ。剣を机に立てかけて酒をちびちびと飲んでいる。チャミもそれに気づいたようで近づいて前触れもなく話しかけた。

なんで突然話しかけるかな。そういう所だよチャミ!

「俺たちを訪ねてきたってのはあんたか?」

女性はそんなチャミを横目で一瞥しニヤリと笑って酒を煽った。机にタンッと空になったコップを置き、頬杖をついて足を組んだままこちらを見た。

「そうだ。会いたかったのは人間の女だけどな。お前らが邪魔になりそうだったから先に話を通そうと思ってお前らを訪ねた。んで?あの人間の子は?」

なんともふてぶてしい物言いだ。俺たちではなく海さんに用があったと?

「お前誰だよ。」

チャミが不機嫌そうに言う。

「これは失礼。私はシルビア。フェルス王国第二騎士団長だ。」

立ち上がって恭しくお辞儀をしながら名乗った。

フェルス王国の人がなんで海さんを?『ナコ』って人と関係あるのか?

「で?人間の子はどこ?話したいんだよ。」

「お前みたいなよく分かんねえ奴を海ちゃんに会わせるかよ!」

チャミが牙をむきだしてシルビアと名乗る奴に答える。

「チャミ!」

「なんだよジョン!」

「名前言っちゃダメだよ…。」

僕は頭を抱えながらチャミに言った。チャミはハテナを浮かべている。すると笑い声が聞こえた。

「あははは!やっぱりあの子が『海』か!ということはアイツ入れ違ったってことじゃん!暫くこのネタでいじってやろう!」

シルビアが一人で笑いながらなんか言ってる。しかも海さんの名前を知ってたようだ。チャミはやっと自分がやらかしたことに気がついたらしく悔しがっている。

「てめぇ!はめやがったな!」

「勝手にあんたが言ったんじゃん。八つ当たりは御免だよ。」

勝ち誇った顔で言うから僕まで腹立ってきた。

「海さんに何の用ですか?」

自分が思ったより冷たい声が出たのに驚いた。

シルビアは僕の問いにさっきまでの笑顔を消してスっと真面目な雰囲気になった。

「フェルス王国はその子を大切な客人として招きたい。そして『ナコ』を助けて欲しい。」


最後までお読みくださりありがとうございます。


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