第八話 獣人と人間
ジョンと暫く待っていると店からチャミが出てきた。しかも冒険者っぽい人達と仲良さそうに。
「猫の兄ちゃんまたな!」
「おう!色々ありがとよ!体に気をつけて頑張れよー!」
「体が資本の冒険者に言うセリフかよ!」
などと笑いながら別れの挨拶を交わしている。本当にチャミは誰とでも仲良くなれるのだな、と改めて思った。
「おまたせ!話してたら盛り上がっちゃってさ!」
「そうだろうなとは思ってたから別にいいよ。それで?」
当たり前のようにジョンはチャミを軽くあしらい話を促した。早く本題に入れと言わんばかりに。
「おうそうだな!あいつらの話ではこの東大陸の北の国の話らしい。魔族領と接してるゴリゴリの軍事国家らしいぜ。なんでも半年ほど前、突然物凄い魔法使い…といっても魔力が強いってことも自覚してないような奴が現れたんだと。その魔力の凄さに気づいた国王がそいつを匿って世話してやってるんだとさ。ただし条件は強い魔法を開発する事。」
「突然現れたの?」
ジョンが聞くとチャミは頷いた。真剣な顔でチャミとジョンは私を見る。
私は突然の事で頭が働かない。まさかそんなことがあるのか。半年前突然現れた『ナコ』と名乗る謎の人物。『かなこ』が消えたのが半年前とすると辻褄は合う。
「北の国ってことは…フェルス王国か。確かあそこには行くなって言われてたよね?」
「おう。西大陸程じゃねぇが魔族領とも接してるから人間以外には当たりが強いんだとさ。親父もフェルス王国には行かなかったらしい。」
ジョンとチャミが話してるのを聞いていて、前々から気になってることがある。
「あ、あのさ。」
「うん?どしたー?」
チャミの間延びした声が返ってくる。聞くべきか悩んだがこの際ちゃんと聞いておいた方がいいだろう。
「獣人って人間との間になんかあったの?その…人間を敵視するような発言も島で聞いたし…。」
なかなか返事がこないから顔を上げて2人を見ると、気まずそうな様子で黙っている。
「ここで話すのもあれだから宿の部屋に行こう。」
ジョンがそう言うとチャミも頷いてスタスタ歩いて行ってしまった。私も黙って着いていくことにした。重苦しい空気が3人を包み込んでいる。
僕とチャミが泊まった部屋に海さんを招き入れた。チャミはベッドに腰かけ、海さんには椅子を勧めた。僕は外に気配が無いのを確認するためにドア付近の壁に寄りかかって立つ。聞かれるのは面倒だ。
暫くの沈黙の後、チャミが話し出した。
「海ちゃん。これからする話は昔話でもなんでもない。現実だ。」
神妙な顔のチャミは珍しい。いつもヘラヘラしてるから。海さんは背筋を伸ばして緊張したような顔で頷く。
「簡単に言うと獣人は奴隷なんだ。人間と違って力も強いし魔法もみんな使える。それに複数属性使えるのが多い。人間はそもそも魔法使える奴は限られてるし使えても一つや二つの属性しか使えない。それで昔、人間は獣人を虐げて奴隷として使ってたんだ。戦争の道具として前線で捨て駒にされたり、女は慰みものにされたり…それが当たり前だったんだ。」
チャミの話を静かに聞いてる海さんの顔が曇っていく。
「でも東大陸はそれをやめた。今居るこの国は奴隷制度をやめて獣人も人間も同じように扱ってくれる。だからこうして俺たちも来れたわけだし、冒険者になるって奴も出てきた。ただし、西大陸はまだ奴隷制度が残ってる。東大陸の廃止に反対して結構戦争とかも起こってるらしい。」
「フェルス王国も奴隷制度は廃止してるけど魔族領との睨み合いが続いてるから他種族への警戒が強いんだ。獣人も居ないわけじゃないらしいよ。」
僕はどんどん顔が曇ってく海さんが可哀想でつい口を出してしまった。
「そうそう。だからこの国なら大丈夫だって!獣人普通にその辺歩いてるじゃん!」
チャミが空気を明るくしようと笑顔で言う。それに答えるためなのか海さんが口を開こうとした時、廊下に気配を感じた。
「2人とも静かに。誰か来る。」
俺はドアを挟んでジョンの反対側の壁にへばりついて外の気配を探る。海ちゃんは部屋の隅に居るよう促した。確かに足音がこっちに向かってきてる。そして部屋の前でピタリと止み、ドアがノックされた。
ジョンと目を合わせ俺が返事をする。
「はーい。誰っすかー。」
できるだけ緊張感のない声を出す。
「宿の主人です。扉開けてもらっていいですか?」
一瞬気が緩む。ジョンは海ちゃんを入口から見えない位置に隠していつでも対応できるよう傍に立つ。俺はそれを確認してドアを開ける。
「どうしたんすかー?」
ドアを開けると宿の主人が立っていた。
「あなた方にお客さんが来ています。お通ししても?」
「客?誰だ?」
「人間の女性のようですが?」
俺はジョンを見る。ジョンも首を傾げている。大陸に来たばかりで知り合いなんていないはず。誰だ?
主人に頼んでその客人に近くの酒屋に居るよう頼んでもらった。この部屋には海ちゃんもいるから何かあった時に対応ができなくなる。
「海さんは部屋にいてください。僕らだけで会ってきます。」
「でも…本当に大丈夫?訪ねてくる知り合い…しかも人間なんていないでしょ?」
ジョンが出かける準備をしながら海ちゃんに声をかける。前から心配性だなとは思ってたが獣人の話を聞いて余計心配性が増したような気がする。
「用件だけ聞いて帰ってくるよ。俺らをわざわざ訪ねてくるってことはなんかあるんだろ。な!ジョン!」
俺の言葉にジョンが頷く。そして俺たちは武器を携えて部屋を出る。海ちゃんは自分の部屋に戻るまでずっと心配そうな顔してた。
宿を出て待ち合わせの酒屋に向かいながらジョンと話した。
「誰だろうな。人間の知り合いなんていないぞ?」
「さぁね。とりあえず警戒は解かないようにしよう。」
ジョンは弓矢をギュッと握った。俺も腰の剣をチラッと見て気合いを入れた。
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