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第七話 短い旅の終わり

船は青い海を進んでいく。

「なぁ〜。」

チャミが間延びした声を出す。

「なぁってばー。」

「うるさいよチャミ。舵は任せろって言ったじゃん。」

僕は冷たく言い放つ。

「舵はちゃんとやってるって!でもさ…まだ着かねぇの?」

チャミが言うのも分かるのだ。島を出てから丸3日経つが陸が全く見えない。航路は間違ってないからそろそろ見えてきてもいいはずだ。

「予定では2、3日くらいの予定だよね?」

「うん。だからそろそろだと思うんだけど…。」

海さんの問いに答える。だがもう3日目の日が傾き始めてる。

「風魔法でズバーっと進めば?」

「何が起こるかわからないんだから余計な魔力は消費しない方がいいよ。」

チャミは大きなため息をついて気だるそうに舵を取ってる。

「あっ!」

双眼鏡を覗いていた海さんが突然大きな声を出したから尻尾がピンッと立った。驚くとついやってしまう僕の癖だ。

「どうした!」

チャミが心配そうに聞くと、海さんはニッコリ笑って振り向いた。

「陸っぽいのが見えたよ!」

「よっしゃーー!」

その言葉にチャミは心底嬉しそうに両拳を上に挙げて喜んだ。僕は安堵のため息を吐いた。




日が沈みかけてる頃に俺らは港に船を着けた。

「今日中に着いて良かった。急いで宿見つけないと。チャミ、船はここに繋げておいていいみたい。港の兵士に聞いたら大丈夫だって。」

「りょーかーい。」

船が流されないようロープで繋ぎながら返事した。チラッと海ちゃんを見ればキョロキョロと物珍しそうに辺りを見てる。

「人間だ…。」

とか言ってる。まぁ獣人ばっかだったしな。

俺たちは急いで近くの宿を確保した。部屋は2つ。1つは海ちゃん、もう1つに俺とジョン。

「チャミと一緒の部屋になるとは…。」

「仕方ねぇだろ!2部屋しか空いてなかったんだ!」

嫌そうなジョンを無視して部屋に引きずってく。

「海ちゃん!ゆっくり休んでな!なんか困ったことあったら俺らの部屋訪ねてくれればいいから!」

「ありがとう。2人もゆっくりしてね。おやすみなさい。」

「おやすみなさい、海さん。」

俺と海ちゃん、そしてジョンが挨拶をして部屋に入ってく。海ちゃん大丈夫かな?こっちの生活に慣れてないからなぁ。心配はあるがまぁ大丈夫だろう!それより問題はこっちだ。

俺とジョンは1つしかないベッドを並んで眺めている。

「「……」」

お互いに目を合わせ同時に口を開く。

「僕がベッド使う!」

「俺がベッドだ!」

それを合図に負けられない勝負が始まった。




宿の部屋に入ると簡素なベッドが1つ、その近くに小さな机と椅子。あとは何もない。ベッドは寝転がってみると固い。元の世界のふわふわベッドを知っている身にはこれは少々ツラい。だが船で毛布にくるまって寝ていた時に比べたらまだマシかと思い我慢する。

思えば大陸に着いたのは暗くなる間近だったから街の様子もちゃんと見てない。人間の兵士や一般人がいたけど獣人もちらほら見かけた。

「明日からどうしようかな。まずは200年前の異世界人について調べてみて、それから帰り方についても調べないとか…。」

ふと頭をよぎるチャミとジョンの顔。2人とはここでお別れということになるのか。最後に何かお礼をしたいな。2人が喜びそうな物を贈る?でもお金は島の人の手伝いをして貰ったお金だから大した額ではない。明日2人に聞いてみようかな。

そうこうしてる間に瞼が重くなってきた。流石に慣れない船旅が続いて体は限界らしい。固いベッドでもゆっくり眠れそうだ。


いつの間にか眠りについていたようで外からの光が眩しい。眠い目をなんとかこじ開けて起き上がる。今何時だろう?2人はもう起きてるだろうか?身支度を整えて部屋を出ようとすると扉がノックされた。開けるとそこに目の下にクマを作ったジョンが立っていた。

「…おはよう。ちゃんと寝れた?」

「う、うん。そっちこそ大丈夫?クマ凄いけど…。」

思い出したのか短くため息をつき昨日の出来事を話してくれた。

私と別れた後、2人はベッドの取り合いで色んな勝負をしたらしい。なかなか決着がつかず最終的に2人とも力尽きて床で雑魚寝してしまったそうだ。そりゃそんなクマもできるか、と1人納得してしまった。

そんな話を聞きながら宿を出ると同じようにクマを作ったチャミが待っていた。

「お!来たか。おはよー。」

「おはようチャミ。昨日は大変だったみたいだね。」

「ジョンから聞いたか。いやさー。負けられない戦いってのがあるのよー。」

腕を組んでウンウン頷いてるチャミ。

「でも馬鹿なことしたなと思ってる。」

遠い目をしたジョンが隣でボソッと言う。

「「「……」」」

3人とも黙ってしまい沈黙が流れる。

「と、とりあえず飯食いに行こう!」

チャミの一声で私たちは朝ごはんを食べに動き出すことにした。昨夜のことは忘れて…。




朝ごはんのスープとパンが机に並んだのを確認して食べ始めようとスプーンを手に取った。が、海ちゃんは両手を胸の前で合わせて「いただきます」と言った。

「なにそれ?お祈り?」

つい聞いてしまった。

「うん?あーこれね。食べる前と後にする感謝の言葉みたいなもの?『いただきます』は食べる前に食べ物とそれを作ってくれた人への感謝を述べるの。食べた後は『ごちそうさま』。私がいた世界での風習みたいな?」

「へー。なんかそれいいな!」

俺も同じように胸の前で両手を合わせて言ってみた。そしたらジョンもやってた。他の席の奴らがチラチラ見てたけど気にせず食べ始める。獣人と人間が一緒に飯食ってるのが珍しい上に見慣れないことしてるからだろう。無視無視。

そのうち興味が無くなったのか見てた奴らもそれぞれの会話へと戻っていった。


食べながら周りに聞き耳を立てていたら気になる話をしてるグループがいた。

「北の国にえらく魔法が得意な奴がいるらしい。国王はそいつを国総出でサポートしてるんだと。新しい魔法とか色々試してるんだとさ。」

「それ俺も聞いたよ。魔法研究だかなんだか知らないがこっちに被害が出なきゃいいけどな。」

「なんでも転移術にご執心って話だぞ。」

「北ってことは魔族領にも接してるよな…。大丈夫なんかね。」

転移術?海ちゃんが来たのも転移術かもしれないって村長言ってたな。話を聞きながらも食べ終わって2人を見るとまだ食べてた。と言っても食べてるのは海ちゃんで、ジョンは食べる手が止まっている。

「おいジョン。手が止まってるぞ。食わねぇなら俺によこせ。」

ジョンのお皿に伸ばした手を叩かれた。なんだよ。食べるんかよ。海ちゃんはその様子を見てジョンを心配そうな顔で見ている。

「大丈夫。ちょっとボーッとしてただけだよ。」

そう言って食べ進めるジョンを見て安心したのか海ちゃんも食べることを再開した。

食べ終わって暇な俺はさっきの話をしてた奴らに再度耳を傾ける。

「王都の魔術師たちより格上なんだとさ。」

「そんなやつどっから出てきたんだ?冒険者か?」

「冒険者ではないらしい。まずそうなら噂くらい聞くだろ普通。」

「だよな…。」

「そいつ名前はなんていうんだ?」

「たしか…『ナコ様』だったかな…?」

転移術。ぽっと出の魔法使い。『ナコ』という名前。なんか気になる。

「チャミ。」

突然ジョンに名前を呼ばれた。

「な、なんだ?」

「あそこの冒険者っぽい人達の話気にならない?」

「なんだお前もか。じゃあちょっくら聞いてくるわ。お前は海ちゃんと先に店出ててくれ。」

「分かった。穏便に頼むよ?大陸着いて早々揉め事なんて御免だよ。」

ジョンにきっと睨まれた俺は苦笑いで適当に返事し、先程から気になる奴らの方に足を向けた。




「海さん。先に出よう。多分大丈夫だから。」

「あ、うん。どうしたの?なにがなんだかサッパリなんだけど…。」

頭にハテナが浮かんでる海さんを連れて勘定を済ませて店を出る。店を出て少し離れた所まで来てようやく話をする。

「近くにいた冒険者っぽい人達の会話が気になったんだ。転移術とか突然現れた魔法使いが物凄い奴らしいとか。」

僕は海さんに説明する。そして一番気になった事を伝える。

「その魔法使いの名前が『ナコ』って言うらしい。」

それを伝えると海さんもピンときたようでソワソワしだした。

「そ、それってもしかして…!」

「まだハッキリとは分からない。だからチャミに詳しく聞いてもらおうと思ってさ。喧嘩っ早いけど僕と違って馴れ馴れしい奴だからうまく聞いて来れると思うよ。」

「ジョン…それチャミを褒めてるの?」

笑いをこらえるように海さんが聞いてきた。

「……た、ぶん。」

目をそらしながら返事したから海さんに笑われた。褒めてるつもりだったけどそういう顔してなかったのかな。だってあのチャミだよ?褒めるもなにも…あのチャミだよ?


最後までお読みくださりありがとうございます。


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