第六話 隠してたこと
戦闘シーンがあるのでR15指定にしました。
風に乗り船は順調に進んでいる。島はもう見えなくなり青い海がどこまでも広がっている。私は船にも慣れてきて捕まらなくても動けるようになった。たまに風に煽られて船が揺れる時は物凄い勢いで船にしがみつくが…。揺れた瞬間シュバッと捕まるからチャミに瞬発力すげぇなと笑われた。
最初は3人で色々話してたが、そのうちそれぞれ黙って、チャミは舵に集中し、ジョンは方角を見失わないようコンパスを確認している。私は出来ることがないからボーッと海を眺めている。
そして暫くして最初に口を開いたのはチャミだ。
「なぁ。海ちゃんってさ。この世界に来る前どんなとこにいたの?」
その言葉にジョンも興味ありげに私を見る。
「そうだな。人間ばっかりで獣人もいなければ魔法もないかな。魔法はないけど科学っていうのは進んでて便利なものがたくさんあったよ。」
「例えばどんな便利なものがあったの?」
ジョンが食いついてきた。
「んー。火をすぐに付けられるライターとか。きれいな水をすぐに使えるようにパイプを通してそれぞれの家に引き込んで、蛇口…えっと…こうキュッと捻ると水が出てくるとか。」
蛇口をひねる動作をしながら説明をしてみると、チャミもジョンも目を輝かせてすげぇと感心している。
「井戸からわざわざ汲んでこなくていいとかすげぇ楽じゃん!」
「考えた人凄いな…。そういうのを科学って言うのか。興味深いな。」
2人の反応が新鮮で笑ってしまう。
「まさか飯も勝手に美味いものできるとか?」
「ご飯はさすがに作るよ。あーでも。電気があるからレンジとかですぐ作れるってのはあるかな。レンジってのは…物を温める道具。」
すげぇとチャミは楽しそうに想像してる。
「じゃあ海さんは毎日楽して生活できるのか。お金はどう稼いでたの?」
「仕事…えっと会社…なんて言うのかな。商人の経理みたいな事とか大事な書類を作ったりとか?そういう地味な作業をしてお金を貰ってたの。」
ジョンの疑問にうまく答えられただろうか。それに2人には隠してることもあるからあまり色々聞かれるのは避けたい。仕事を辞めて親友を探していた…なんて。
「「……」」
ふと視線を感じて顔を上げると2人がじーっと見ていた。
「え?どうしたの?」
視線にドギマギしながら聞いてみると、チャミが見透かしたように質問をしてきた。
「俺たちになんか隠してることあるでしょ。」
心臓が飛び跳ねた。背中にスーッと冷たい何かを感じる。そしてジョンが静かに言葉を発する。
「僕ら獣人は人間より鼻が利くんだ。つまり嘘をついたりしてるとなんとなく分かるんだよ。」
息が詰まるような空気に包まれる。2人の視線に全て見透かされてるような感覚だ。まさか獣人には嘘がバレてしまうとは考えもつかなかった。今まで微妙にはぐらかしてたのもバレてたのかと思うと心が傷んだ。申し訳なさと自分の愚かさに。
私は観念したようにポツリポツリと話し出した。
「実はここに来る前、元の世界で私の親友…かなこっていう子なんだけど、突然消えたの。私の記憶にしか存在しないみたいで、実の親も友達もみんなその子のことを忘れてしまったみたいでね。仕事も辞めて誰か他にかなこのこと覚えている人居ないか探してたの。その途中で突然あの島に来てしまった…みたい。」
頭の中にかなことの思い出や探してる時の苦しさを思い出して胸がギューッと締め付けられた。
その後も色々2人に話した。かなことどんな事を話してたか、遊んでたか、当たり前にそこにいた存在が急に居なくなってどんなに苦しかったか。まるで今まで心に溜め込んでたものが勝手に口から出てくみたいに止まらなかった。2人は黙って聞いてくれた。
「ごめんね。こんなこと突然話して。何言ってるんだって感じだよね。」
上手に笑えてるか分からないけど2人に笑顔でそう言った。するとジョンが口を開いた。
「その子ってさ。海さんの大事な人なんでしょ?もし僕が同じ状況なら同じことするよ。」
「俺ならどうしたらいいか分からなくて、なんで覚えてないんだよ!って知ってそうなやつ全員に掴みかかりそう。」
2人の言葉に少しホッとした。誰にも言えずにいた事を話したからなのかスッキリしたような気もする。
「ありがとう」
心からその言葉が出てきた。
そんな話をしていたら突然2人が武器を手に取った。
「ど、どうしたの?!」
「海ちゃん。舵持っててくれる?あと船から落ちないように気をつけて。」
いつもより低い声でチャミが言うからドキッとした。殺気というものなのか体がピリピリする。私はゆっくり舵を受け取って姿勢を低くした。ジョンを見ると弓矢を前に向けて構えている。いつでも射れるように目線も動かさず。私はその緊張感に息を飲んだ。その瞬間船が大きく揺れた。舵を持ったまま船から落ちないようにバランスを保ちながら前を見ると、目の前に大きな鱗が見えた。魚のようなヒレも見える。それが海の中に潜ってまた顔を出した。ようやくそれがなんなのかが分かった。大きな魚だ。島と間違う程の大きな魚。
「ジョン!引き付けられるか!」
「ああ。問題ない。」
2人は冷静かつ迅速に言葉を交わして動き出した。ジョンが赤いオーラを纏った矢を魚目掛けて放った。すると魚はそれを大きな口でぱっくりと食べてしまった。次の瞬間口の中から火が吹き出した。チャミはいつの間に移動したのか魚の近くにまで跳んで行き剣を振り下ろした。バリバリっという雷のような音がして剣から稲妻のようなものが見えた。すると魚は切られたのか真っ赤な血を吹き出して海の中に沈んでいった。
「チャミ今のうちに離れよう。あいつまた来るかもしれない。」
「おう!海ちゃん舵ありがと。ちょっと飛ばすから捕まってて。」
チャミに舵を渡し船にしがみついた。ジョンが矢に緑のオーラを纏って船の後ろの海面に向かって矢を射った。すると風がおこり船が前に猛スピードで進んだ。船にしがみつくので精一杯で目も開けてるのがツラい。
やっとスピードが落ちて先程までの穏やかな海に戻った。私は呆然と2人を見た。
「いやーびっくりしたわ。なんだあの魚。超デカかったわ!」
「アスピドケロンとかいう魔物かな?本で見たことがあるよ。物凄いでかい魚。」
「ありゃまともに相手してたら船沈むな!危ねぇ危ねぇ。」
「海さん大丈夫でし…た…?」
ポカーンと口を開けて2人の会話を聞いていたらジョンが私を見て目をぱちくりさせている。そしてチャミが笑いだした。
「海ちゃん髪ボッサボサ!しかも何そのマヌケな顔!あははは!」
ジョンも下を向いてるが肩が震えている。
「び、びっくりしたの!あんな魚初めて見たし2人があまりにも冷静に対処するしもう何がなんだか!」
そう叫びながら髪を直す。多分顔は真っ赤だ。あっという間の出来事だし2人の戦いぶりも初めて見た。火は出るわ雷の音はするわ風は吹くわ。とにかく頭の整理が追いつかなかった。
「あ、あれが魔法なの?火とか雷とか。」
髪を直し終わって咳払いをしつつ聞いてみた。
「うんそうだよ。そうか魔法見るのも初めてか。」
「俺が使ったのは雷魔法。ジョンが使ったのは火と風。他にもあるけどそれはおいおいってことで!」
この目で魔法を見るのは初めてだ。なんか思ったよりサラッと使ってたな。呪文唱えるとかしないんだ。
「さて、あいつの気配も無さそうだしもう平気かな。ジョン方角合ってそうか?」
「少しズレたね。でも大丈夫。すぐ戻れそう。」
「よし!万事順調!」
どこが順調だよ。あんなのがまた来るのかと思うと今までみたいにボーッとしてられないよ。私は周りをキョロキョロ警戒しながら船旅を続けることになった。早く陸に着きたい。心の中の私はただそう願い半泣き状態だ。
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