第四十九話 レイチェル様の実家
テオドルセン帝国編突入です。
転移術の光が消えるとそこには森が広がっていた。フェルス王国のような寒い地域の森ではなく、元の世界で見慣れた森。しかも夜で雪明かりもないから真っ暗。かなこが魔法で小さな光の玉を出した。
「海…ここが王妃様の実家がある伯爵領?」
「多分…?森…だね…。きっと近くに街があるんじゃない?ほら、街中に陣があると変だし。」
私とかなこが身を寄せあって周りを見渡しながら突っ立ってると、鳥の鳴き声が聞こえて2人ともビクリとした。可愛らしい鳥ではなく、イカつい鳥の鳴き声。ちょっと怖い。
「か、かなこさんや。行きましょうか…。」
「そ、そうだね。」
そう言って1歩踏み出したら後ろの茂みがガサガサと音を立てた。そして2人ともビクリとして後ろを振り向いた。じーっと見つめていると…小さなうさぎが顔を出した。
「「はぁぁ…」」
2人で安堵のため息をつく。
ちょっとじゃない…ものすごく怖い。
「海、もう早く行こう。普通にここ怖い。あと夜ってのもあってより一層怖い。」
「だね。街ってどっちだろう?」
「街ならそこから東に行ったところよ。あんた達の向かって右ね!」
「右…こっちか。かなこよくわかったね。」
私は言われた通り右を向いて東に向かって歩き出そうとした。
「え?私何も言ってないよ?海がわかったんじゃないの?」
かなこの言葉に笑って返す。
「私が分かるわけないじゃん!かなこったら〜。」
「「………」」
2人で黙り込む。
「え?今喋ったの…誰?」
と、かなこが言った。
こういう場面で言っちゃいけないセリフを。フラグだよ?ホラー映画なんかでよくあるフラグだよ?
「あたしよ。あんた達こんな夜にどうしたの?」
聞いた事のない声が聞こえて、私たちは振り向いた。ギギギという音が聞こえるくらい恐る恐る。
すると明かりにポウっと映し出された人の顔が…女の人の笑顔が見えた。
「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」」
例え女であろうと、こういう時は可愛い声が出ないんだなと知った瞬間だった。
「あはははは!いやーごめんごめん!びっくりしたわよね!」
女の人はお化けじゃなかった。
「あたしはエステル。ハーフエルフよ。たまたま通りかかったら明かりが見えて様子見に来たのよ。」
エステルさんは普通にいい人…じゃない、いいハーフエルフだった。茶色い長髪に緑がかった瞳、そしてとんがった耳。
「こちらこそ叫んでしまってすみません。」
私は謝罪をする。
「いいのよ!あの状況はビビるわよね!それよりそっちの子大丈夫?」
エステルさんはかなこを指さす。
かなこはさっきので腰が抜けて立てないらしい。しかも驚いた拍子に明かりの玉を放り投げて、それが自分の頭に落ちてきたらしく半泣き状態だ。
「…痛い…怖かった…痛い…恥ずかしい…。」
ブツブツ言いながら私にしがみついている。私は痛いと言っている頭を撫でながらエステルさんに答える。
「あぁ…大丈夫です。ちょっとびっくりしただけみたいです。」
エステルさんは気にしてなさそうな様子で私たちに聞いてきた。
「そう。で?あんた達フェルス王国から来たの?この陣で。」
「あ、はい。よく陣のこと知ってますね。」
暗くてよく見えないはずなのにすぐに陣だとわかった。しかもフェルス王国から来たことまで。
「まぁね!よくここからフェルス王国の子来るからさ!」
私はその返事を聞いて、さっきから気になっている疑問を口にした。違うかな?と思うが似ている。しかもハーフエルフなんて聞いてないけど違うとも聞いたことない。
「もしかして。エステルさんって…」
「ん?」
「レイチェル様のご親戚か何かですか?」
「あぁ。母親よ。似てるでしょ!あの子ね〜顔だけは私にそっくりなの!ハーフエルフの血は継がれなかったけどね!」
やっぱり!茶髪と緑がかった瞳がレイチェル様と同じだ!それに雰囲気は全然違うのに顔立ちが似てる。レイチェル様は可愛い系。エステルさんはかっこいい系だ。
「えぇ?!王妃様のお母さん?!エルフの話なんて聞いたことない!」
私ではなくかなこが驚きの声を上げた。
「あはははは!あまり人には言わないのよあの子!」
私とかなこはエステルさんの明るさにレイチェル様の明るさが重なって見えた。そして2人で呟いた。
「「絶対親子だ…」」
私と海はエステルさんに連れられて街までやってきた。
夜だというのに街は明るく、賑やかだ。お酒を飲んで楽しそうに笑っている人、ダンスをしている人、音楽を奏でている人。フェルス王国と違って雪がない上に気候も温暖なようだ。獣人の島ほどではないが暖かい国なんだろう。
王妃様から聞いた話だと、このアルバーノ伯爵領はテオドルセン帝国の東の海に面してるらしい。大きな運河がいくつもあり、貿易も盛んで帝国中から人が集まる地だと言っていた。
それでこの賑やかさなのかな?
「夜なのに賑やかで明るい街だね。レイチェル様の明るさもこの土地柄なのかな?」
海が周りをキョロキョロ見ながら言ってきた。
「かもね。伯爵家もこんな感じなのかな?夜騒がしくて寝れなくない?」
「私もそれ思った。」
私と海は顔を見合せて笑いながらエステルさんについていく。
暫く街中を進んでいくとだんだん静かになってきた。そして大きなお屋敷に着いた。
エステルさんはそのまま歩いていき、門番らしき人と楽しそうに話して私たちを手招きした。すると門が開いてスタスタと入っていった。私と海は門番さんに会釈をしながらヒョコヒョコ入っていった。
お屋敷に入るとレスラーみたいに大きな体の男の人が出てきた。
「いやー!エステル様!こんな夜にどうしました?」
「それがね!フェルス王国からこの子達が来たみたいなんだけど迷っててさ。拾ったから連れてきたの!」
エステルさんは私たちの方を見てニコリと笑い、レスラーさんに紹介してくれた。
「この人はうちの執事長グスタフ。図体でかいけど気にしないで。いいやつだから。それとグスタフ。この子達がその迷子ちゃん。名前は……なんだっけ?」
エステルさんは悪びれることもなく私たちの名前を聞いてきた。忘れたというより言ってないから知らないに決まっている。
「私は…かなこです!こっちは海。」
そう言うと海が耳打ちしてきた。
「かなこ…ナコじゃなくていいの?」
「だって…ナコって名前も間違ってただけだからさ。本名のほうがいいでしょ?」
私たちがコソコソ話していてもエステルさんとグスタフさんは気にする素振りもなく返事をしてくれた。
「あぁ!そういう名前なのね!海と…かなこ!」
「初めて見る顔ですね。フェルス王国の使者に女性が来るのは初めてですよ。姫様のお使いも大変ですな〜。」
ん?姫様のお使い?
「あ、えっと…姫様…というのは…?」
「あぁ!レイチェル様のことじゃ!」
あの王妃様、本当によく実家に返ってるんだ。執事さんのこの慣れてる感…。
「とりあえず夜も遅いし話は明日にしましょう!グスタフ、客間に案内してあげて。2部屋くらいあるでしょ。」
「えぇもちろん。」
「あ、あの!1部屋でいいです!一緒で…。ね?海?」
「あ、はい!」
「あらそう?仲いいのね〜。」
「ではご案内しますよ。さぁどうぞ!」
案内された客間にはベッドが2つ。大きめの机と椅子、そして寝れそうなふかふかソファ。豪華絢爛ってわけじゃないけど品のいい家具が揃っている。部屋にはこの家の家紋だろうか、虎に翼が生えた生き物の紋章が壁に大きく飾ってある。
「かなこ、そっちのベッドでいい?」
「いーよー」
海はベッドにバフンと倒れ込んだ。
「眠い…疲れた…今何時だろ…」
「どうだろうね。フェルス王国は日の入りが早いから。日付変わるくらいかな?」
ドタバタしていた割にはすんなりここまで来れた。王妃様達に感謝だな。
「ねぇ海?私たち勝手に出てきちゃったけど…追いかけてきたりするかな?」
海から返事がない。
「海?聞いてる?」
「…すー…すー…」
「寝てるし…。まぁいいか明日で。」
私は海をゴロゴロ転がしてベッドに寝かせて布団をかけた。
「おやすみ…」
小さく言って私も布団に潜った。
翌朝。目が覚めると見慣れない部屋にいた。そして昨日のことを思い出した。
ここはレイチェル様のご実家だ。隣に目を向けると布団が膨らんでいて、上下に規則正しく動いている。
私はかなこを起こさないように静かにベッドから抜けでて、身支度を整えた。
「まだ寝てるよね…。」
と、独り言を呟いて静かに廊下に出た。
昨日は夜だったからよく見えなかったけど、フェルス王国と違って石造りではない。木材の暖かみが感じられるお屋敷だ。廊下の床もカーペットが敷かれていてフカフカしている。
あちこち見ながら歩いていると、中庭のような花や木がたくさんあるところに人が立っているのが見えた。白っぽいローブを羽織った人だ。体格からして男の人のようだ。
私は窓の端っこに隠れてこっそり覗いてみる。
するとそのローブの人の前に白い十字が見えた。よく見るとそこはガゼボ…つまり東屋のようになっているようで、ステンドグラスの屋根が朝日を浴びてキラキラ輝いている。
「綺麗…」
自分でも聞こえないくらいの小さな声だったはずなのにそのローブの人が振り向いた。私は咄嗟に窓からパッと離れて壁に隠れた。
ヤバい…見つかった?
窓から確認しようか悩んでいると声をかけられた。
「誰だ…?もしや昨夜来たという客人か?」
やはりバレていたかと諦めて窓から外を見る。
ローブの人は茶髪に緑がかった瞳を持つ男性…と言っても私と同じくらいの歳で童顔なのか可愛らしい顔をしている。顔だけ見たら女性かと思うほどだ。
どうしようか戸惑っているとその人は指で左の方を指した。目を向けると扉があってそこから外に出れるようだ。
私は大人しく扉に向かい、綺麗な庭に出て彼の元にゆっくり歩いていった。
「あ、あの…すみません…。歩いてたらあなたがここに…。」
言い訳がましく説明をしようとすると、その人は優しく微笑んで言った。
「こちらこそ大きな声を出して申し訳ない。私はここの魔術師であり聖職者であるライネル・アルバーノだ。あなたは昨夜、母上が連れてきたという方か?」
魔術師であり…聖職者…?アルバーノ…どこかで聞いことあるような……。しかも母上…って…エステルさん?
「あっ!も、もしかして…あなたがここの領主様?!たたた大変失礼しました!」
私はこの人がここの領主のアルバーノ伯爵だと気づき、慌てて頭を下げて謝った。
すると私と同じように慌てながら
「ち、違うのだ!領主は私の兄だ!私は次男で伯爵の位は持ってない!頭を上げてくれ!」
と、言い返された。
「え?お兄さんが…領主…様?」
「あぁ。兄であるジェド・アルバーノがここの領主。私は次男だから伯爵ではなくここの魔術師なのだ。そして双子の妹がフェルス王国にいるレイチェルだ。」
ライネル様はそう言うとフードを外した。すると目に入ってきたのはとんがった耳。エステルさんと同じハーフエルフ…?
「あなたは…ハーフエルフですか?」
ライネル様は恥ずかしそうに耳を撫でながら説明してくれた。
「私の母はハーフエルフで父は人間だ。だからその間に生まれた子は人間かハーフエルフの血を継ぐのだ。うちでは私だけがハーフエルフの血を継いだ。だから魔法も使えて魔術師になれている。昔は色々言われて周りと馴染めなかったが今ではごく普通に暮らしている。だがこのフードは屋敷の外ではできるだけ外さないようにしているのだ…。皆を驚かせてしまうからな。母上は気にしないでいいと言うが私はどうも…。母上はそういう細かいことを気にする性分ではないから…。」
確かにエステルさんはそういうの気にしなさそう。大雑把というか器がデカイというか…。
「だが私はこの血を継いだことを誇りに思っているんだ。兄上は私なんかよりずっと領主らしくて慕われている。会えばわかるぞ!とても立派な方なのだ!」
ライネル様はそれはもうキラキラした目で話してくれた。こっちが圧倒されて声も出せないくらいに。
そんな私の様子に気づいたのか、ライネル様はハッとして真っ赤な顔で
「す、すまない…つい…。」
とこぼした。
私はこの人を純粋無垢な可愛い生き物だと思ってしまった。つい頭を撫でたくなる。子犬を愛でるような気分だ。
そんな気持ちを抑えて、私は言った。
「まだ領主様にはお会いしてません。ですが昨夜突然訪れてしまったのにも関わらず私たちを受け入れて客間まで与えていただき、ここの領主様の懐の深さを感じます。ありがとうございます。」
その言葉にライネル様はパァっと表情を明るくした。
「そうだったな!ではすぐに兄上に紹介しよう!……あ、えっと…まだ名前を聞いていなかったな…?」
しまった!まだ名乗ってない!
「す、すみません!私は海です。もう1人は…まだ寝てるけど…かなこといいます。」
私は名乗るとライネル様にすぐ向かうと伝えて急ぎ客間へと戻った。かなこを布団から引きずり出す為に。
寝ぼけ眼のかなこを急かして身支度を整えさせ、急いで客間を出た。出てすぐの廊下にグスタフ執事長が待機していて何度も謝る。
「あー気にしないでください。よく眠れましたか?早速朝食…と言いたいところですが、まずは旦那様に会っていただきます。申し訳ないですなぁ。」
「いえ!こちらこそいつまでも寝ててすみません!かなこ、ほら、しっかりして!」
「ふぇーい…。」
まだ半分寝てるであろうかなこを引きずってグスタフ執事長の後をついて行く。
グスタフ執事長が扉を叩いて中に声をかける。
「旦那様、お連れしました。」
すると中から元気な男性の声が聞こえた。
「おう!入ってくれ!」
扉を開けてもらって中に入るよう促される。素直に従って中に入ると、男性が1人、その隣に女性が1人、そしてライネル様とエステルさんがいた。
「昨夜は挨拶出来なくて悪かったな。俺がここの領主ジェド・アルバーノだ。んでこっちが俺の嫁、ファティナだ。この2人には会ってるらしいな。母親のエステルと弟のライネルだ。」
ジェド様は茶髪だが瞳は緑がかっていない。髪と同じ茶色の瞳。気さくなあんちゃん…というイメージだ。伯爵っていうからもっと高飛車な感じかと思った。
「昨夜はゆっくりお休みになられましたか?朝食もまだだと伺っています。この後ゆっくり召し上がってくださいね。」
奥方様のファティナ様は長い黒髪をハーフアップにして上品なお嬢様というイメージだ。しかも美人で可愛い。お人形さんみたいな人だ。
「やだ!ご飯も食べてないの?!お腹すいたでしょうに…グスタフ!たくさん食べさせてあげてちょうだい!」
エステルさん…エステル様は初対面の時から印象は変わらない。頼れる姐さんというイメージのままだ。
「母上…その…今はなぜ来たのかということを聞かねばなりませんので…。」
ライネル様がエステル様を小声でたしなめている。
雰囲気からそういうポジションなんだろうなとは思ったが…苦労してそうだな。この母にこの兄、そして妹のレイチェル様…。ライネル様…お疲れ様です。ん?長男が領主ってことは…父親は?
「母上、俺が話すから待っててくれよ!飯は準備させっからよ!」
「わかったわよジェド。ごめんごめん。」
エステル様が一歩下がるとジェド様が咳払いをして話し出した。
「いやー悪いな騒がしくてよ。でだ。レイチェルからの使いか?あいつまたなんかやらかしたか?」
レイチェル様…ご実家でも心配されてる…。まぁきっとお転婆娘なのだろうとは予想はついていたが。
私はかなこに目配せした。
するとかなこは手紙を取り出して言った。
「レイチェル様から預かった手紙です。これを見せれば全て伝わると仰せでした。」
その手紙をグスタフ執事長が受け取ってジェド様に手渡した。ジェド様は開いて中身を読み、一瞬顔を顰めた後、ライネル様に渡した。ライネル様が読んでいるところに顔を覗かせてエステル様も中身を見ている。
「あれまぁ…」
最初に声を発したのはエステル様だ。その後ライネル様はジェド様に向かって頷いた。そしてジェド様が口を開いた。
「海ってのはどっちだ?」
私は驚きと同時に、はい!と答えた。
「お前が黒竜か。手紙の内容で大体理解はした。竜探しを手伝って欲しいそうだな。色々大変だったろうに…。まぁあれだ。俺たちは全面的にお前の手伝いをするつもりだ!ライネルもいいよな?」
「えぇもちろんです。レイチェルがこんな必死に頼んでくることなんて相当のことです。それに竜探しは私たちも興味があってしていたこと。断る理由もないかと。義理姉上も母上もよろしいですよね?」
「私はお2人が良ければ問題ありません。」
「あたしも構わないわ!」
私もかなこもレイチェル様から渡された手紙は読んでない。あの忙しい合間に手紙を書いてることも知らず、ルークさんの後に続いて雪道を歩き始めた頃にサッと渡されただけだ。
「これを領主に渡して。きっと助けてくれるわ!」
と、笑顔で言われた。
私とかなこは呆気にとられていた。手紙1つで全てが伝わる。そして協力してくれる。なんて強い絆で結ばれた家族なのだろう。
「でだ…もう1つ確認しときてぇ。ナコって名前が書いてあるんだが…お前は…かなこ…なんだよな?」
ジェド様が困ったように頬をかきながら聞いてきた。私は隣のかなこを見た。どんな顔してるのかも分かるけど一応確認のために見た。そして小さくため息をついたかなこは
「…はぁ…やっぱりダメか…。」
っと呟いてからジェド様に言った。
「あだ名のようなものです。ナコと呼んでも構いません。」
笑顔なのに目が死んでる。
ドンマイ…かなこ…。
その後、私たちがまだ朝食を取っていないことに気づいたエステル様がさっさと食べろと促してくれた。
客間に運ばれてきた料理はどれも温かく美味しかった。しかもロールパンが出てきて私はそれをむしゃむしゃ食べた。
海に
「ロールパン魔術師…かなこ…復活。」
とか言われたけど関係ない。美味しいんだから仕方ない!
食事を取りながら海は私に話しかけてきた。
「あの手紙…何書いてあったんだろ…。私が黒竜ってことも知られたし竜探しをしていることも知られた。レイチェル様…凄くない?」
「確かに…。恐るべしレイチェル王妃。実家に帰っちゃうのも分かるよね。家族仲がすごく良い。居心地いいもん。」
私は何個目かのロールパンに手をつけながら続けた。
「でもさ…長男のジェド様が領主ってことは…父親はやっぱり…あれなの?」
海も気になっていたらしく、今朝、私が寝てた間の出来事を話してくれた。
「中庭みたいな所に綺麗なステンドグラスがある東屋があったの。そこに白い十字架が立ってた。もしかして…お墓かな?」
「おぉ!まさにそれっぽい。でもなんかさすがに聞けないよね…。」
この墓はお父上ですか?とは聞けない。もしかしたら家族全員思い出したくもないようなシリアスな話かもしれない。明るい家族だけど触れてはいけない気がする。
「だよね…。黙っとこう。」
海がうんうん言いながらパンに手をつけた。
すると暫くして扉がノックされてエステル様が入ってきた。
「娘っ子たち食べてるかい?たくさんお食べー!」
この人の…旦那なんだよなぁ。きっと凄く悲しんだんだろうなぁ。
そんな目で見つめてしまっていたらしく
「ん?どうした?そんな悲しそうな顔して。美味しくなかった?」
と、真面目な顔で聞いてきたから慌てて否定した。
「いえいえ!とても美味しいです!」
「あらそう!なら良かったわ!」
パッと明るい表情に戻って空いている席にちゃっかり座ってパンを手に取り頬張り始めた。私も海もそれを眺めていたらエステル様が聞いてきた。
「で?なんか聞きたいことでもあるの?」
私と海はむせた。
なんだこの手馴れた感じの問いかけは。まさか子供3人いるとそういうのも慣れてバレるものなのか?それともこの人の性格の問題?
むせる私たちの背中をさすりながら待ってくれるエステル様。
「す、すみません。えっと…その…。」
海はチラチラと私を見てくる。
私が言うの?!海が聞いてよ!
嫌だよ!かなこが聞いて!
というアイコンタクトをして、結局私が折れた。
「あの…お答えしたくなければ構いません。本当に不躾だと思いますが…聞いてもいいですか?」
「いいわよ。どーぞ。」
エステル様はあっけらかんと言った。
私はそんなエステル様を信じて聞いた。
「ジェド様が領主ということは…その…エステル様の旦那様は…もう…。」
「……あぁ!死んだわよ!」
私と海はまたむせた。
なんだこのあっさりとした返事は!え?そんな程度なの?!えっ?!
エステル様はさっきの質問にも気にしない様子で話し出した。
「あたしの旦那はね、戦死よ。フェルス王国と魔族領の大きな戦いがあってね。旦那以外にもたくさん死んだわ。その戦いはレイチェルが時期国王…つまり今の国王リチャードに嫁いだばかりの頃だったの。だからなんの迷いもなくフェルス王国を助けに行ったわ。本当に激しい戦いだった…。フェルス王国の先代国王に仕えていた腕のいい魔術師とうちの旦那が自滅覚悟でやった作戦が決め手になって終結したの。それがなかったら今頃フェルス王国は魔族領になってたわ。だからなんていうのかな…。名誉の死?誇らしい死?まぁそんな感じに思ってるからさ、あたしは別に大丈夫だったのよ。旦那も満足そうな顔して死んでたしね!でも子供たちには可哀想なことさせちゃったなと思う。ジェドは自分で立ち直ったけどライネルはそれがきっかけで聖職者になった。レイチェルもあんなだけど本当は苦しかったと思うわ。」
話してる時のエステル様は確かに吹っ切れた顔をしていた。でもやはり悲しんでいることに変わりはないのだとも思った。
「すみません…辛いこと思い出させてしまって…。」
「いいのよ!気にしないで!それより食事中に暗い話して悪かったわ!」
海とエステル様の会話を聞いていて私は思った。
この人はなんて強くて優しい人なんだろう。レイチェル様と同じだ。私もこんな風に強く優しくなれるかな…。
するとふとある事を思い出して私はエステル様に聞いた。
「あのエステル様?その…旦那様と一緒に作戦実行した魔術師って…カルロさんのお父様ですか?」
「あぁそうよ!あの坊や元気?」
私たちの会話に一瞬固まってから海は声を上げた。
「えぇぇっ?!カ、カ、カルロさんのお父さん?!かなこなんで知ってるの?!」
驚いてる海に私は思い出したことを話した。
「え?カルロさんから聞いたことあるんだよ。天昇の儀で先代国王様が号泣したのはその魔術師の葬儀だったんだって。しかもその時にダルシオンさんが初めてあの綺麗な魔法をしたものだから余計泣いちゃって大変だったらしい。」
すると海は
「出た!天昇の儀!ダルシオンさん渾身の魔法!見てないやつ!」
と、悔しそうな顔で項垂れた。
その話を聞いてエステル様も思い出したのか
「あぁ!そういえばそんなこともあったわね!旦那の葬儀はこっちでやったんだけど、あたしだけレイチェルと一緒に天昇の儀参加したのよ!あれは綺麗よね〜!」
と、天昇の儀を思い出すように言った。
あれは本当に綺麗だったなぁ。海は黒竜だったから見てないんだよなぁ。見せてあげたいけど…天昇の儀って葬儀…あまりよろしくない出来事なんだよなぁ。
「…そうなんですか……はぁ……」
海は言葉を発することをやめて、食事の続きをしだした。
私は海が凹んでる理由をエステル様にこっそり伝えるとエステル様も、あらぁ…と言った。でもそんなこと耳にも入らないくらい海は凹んで食べてる。
「……はぁ…」
ため息しか出ないらしい…。
ドンマイ…海…。
最後までお読みくださりありがとうございます。
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