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第五話 出発

宴会の後、私は村長さんの家で夜を明かした。客間があるからそこでと言われお言葉に甘えさせてもらった。他の人たち、特に獣人のお母さん方から服や鞄など一式貰えた。元いた世界の服では目立つし、武器の一つでも持っていたほうがいいということで短剣も貰った。包丁を腰にぶら下げてるみたいで怖くて歩いたり座ったりするのも気にしてしまう。そのうち慣れると言われても怖いものは怖い。

身なりを整えて村長さんの家を出る。そこには冒険者風の格好をしたチャミとジョンが住民たちに囲まれて話している。

「チャミ、ジョン。気をつけてな!」

「人間には気を付けるんだよ!」

「大陸に着いたら寄り道せず帰ってくるんだよ!」

「土産話楽しみにしているからね!」

「お兄ちゃんたちカッコいい!たくさん勝ってきてね!」

それぞれ2人との別れの挨拶をしているようだ。

そんな様子を暫く眺めているとチャミとジョンが私に気づいて手を挙げる。それにつられて皆の視線を浴びる。ゆっくり息を吸って吐く。そして2人のところに向かって歩き出す。

大陸までの護衛とはいえ2人には長旅だ。本当によかったのだろうか。たまたま最初に会ったのが2人だったというだけなのに。こんな平和で安全な島から出ることになってしまった。もしかしたら帰ってこられなくなるかもしれないのに…。

考えていたことが顔に出ていたのか2人は笑顔で言ってくれた。

「おいおい。そんな顔すんなよ。自分のせいで~とか思ってんだろ。俺たちが自分で決めたことなんだぜ!」

「僕らは君に会えたことに感謝してるんだ。島の外に出る機会なんてそうそうない。」

「そうそう!大陸まで一緒に行ってちょっとその辺ぶらぶらして帰るだけ。旅行みたいなもんさ!」

「獣人もいっぱいいる街に行くつもりだから大丈夫だよ。」

その言葉を聞いても私の気持ちは晴れない。でもこれ以上気を使われたくないから笑顔でそうだねと答える。

「よし!んじゃ行こうか!」

チャミの言葉を合図に3人で港に向かう。後ろには住民たちも付いてくる。


港について船を見るといろいろと荷物が積んであった。

「おう!来たか!出向の準備はできてるぜ!」

「お前ら船の扱いはわかってると思うがもう一度確認だ。こっち来い。」

漁師さん達に呼ばれてチャミとジョンは行ってしまった。その間に私は住民達に挨拶をする。

「みなさん。突然だったのに色々親切にしていただきありがとうございました。皆さんのお陰で本当に助かりました。」

と丁寧にお辞儀をすると、あっちこっちから元気な声が聞こえてくる。

「気にしないでいいのにね~。私らも人間にもこんなにいい子がいるんだって知れて良かったよ!」

「向こうについても元気でやるんだぞ!」

「お姉ちゃん頑張ってね!」

「ケガしないようにね。悪い奴らに気を付けるんだよ!」

そんな声に笑顔でお礼をしていく。

「海ちゃん。これを渡しておくよ。大陸の簡単な地図じゃ。ここがワシらの島。それでこの上が東大陸でこれから行く所じゃ。この左のが西大陸。西大陸には魔族がいるんじゃ。ワシも行ったことはないし、西大陸から来たって奴にも会ったことはない。」

村長さんが地図を見せながら説明していく。地図の下の隅っこにこの島が描かれている。本当に小さな島なんだ。大陸が大きく描かれていて、西大陸は左の隅にちらっと欠けて描かれている。どこに行けばいいのか全く分からない。ただ大陸に行けば何かわかるかもしれない。正直不安しかない。

「ありがとうございます。助かります。」

「海ちゃん。これから大変だと思うけど頑張るんじゃよ~。何かあったらすぐこの島に戻っておいで。」

そうシマさんが優しく声をかけてくれる。少し涙が出そうになった。

「シマさん。本当にありがとうございます。この島のこと絶対に忘れません。」

シマさんと手を握り合って話していると後ろからチャミの呼ぶ声が聞こえた。

それに答えて、みんなにもう一度ありがとうございますとお辞儀をした。そして船へと向かう。




海さんがこっちに走ってくる。後ろではみんなが手を振って何か言ってる。

「ジョン。」

チャミが珍しく神妙な顔つきで僕を呼ぶ。

「どうしたの?そんな顔して。」

「大陸までは多分絶対無事に着けると思う。」

「うん、そうだね。それは僕も思う。」

「その先はお前どうする?」

僕は驚いてチャミを見た。考えてなかったわけじゃない。でもそれは口にしてはいけないような気がしたから言わずにいた。黙っているとチャミが僕の返事を聞かずに話し出した。

「親父冒険者だったんだよな。そんで色々話聞いてた。ジョンにも話したことあるだろ。色んな場所、色んな人間、色んな種族、色んな食い物。俺さ…暫く大陸で過ごしてみたいんだ。」

僕も同じことを考えていた。チャミから外の話を聞いて、本の世界が本当にあるんだと思ったらドキドキしたのを覚えている。

「少しだけなら寄り道するのもいいと思う。」

僕はワクワクした気持ちを隠しながらそっけなく答えた。返事が返ってこないからチャミを見ると、ニヤニヤした顔で僕を見ていた。

「なに。」

「いーや。べっつに~。」

おどけた調子でいうから足を蹴ってやった。

「いって!なんだよジョン!」

「べっつに~。」

チャミの真似して同じことを言ってやった。




船を出す準備をして2人に声をかける。

「船出すぞ~。忘れもんないか~。」

海ちゃんは船に慣れないのか不安そうに船の縁に捕まって頷いてる。ジョンは早く出せとでも言いそうな顔で見てくる。

「んじゃみんな行ってくるな~」

そう住民に声をかけて船を出す。帆を調整して風がうまく当たってるのを確認する。いい風だ。これなら追い風だし順調に進みそう。

島に向かって手を振ってる海ちゃん。もちろん片手は船に捕まったまま。どんだけ不安なんだよ。島を見つめてるジョンに習って俺も小さくなってく島を見つめる。変な感じだ。昨日もクラーケン倒しに海に出たのにその時とは全然違う。ドキドキというかワクワクというか、腰にぶら下げてる親父の剣がキラキラ光って見える。俺は大きく息を吸って島に向かって声を張り上げた。

「じゃーーーーなーーー!行ってくるぞーーー!」

その声にびっくりして2人が俺を見る。

「あははは!お前らびっくりし過ぎ!」

「いや、いきなりすぎてびっくりしたんだよ。」

「声大きい…ね…。」

俺は何故だか楽しくて仕方がない。勝手に顔が笑っちまう。

小さくなってく俺の育った島。反対を見るとどこまでも続く水平線。船にはジョンと海ちゃん。

「よし!方角はジョンに任せるからな!舵は俺に任せろ!海ちゃんはとりあえず船に慣れてその手を離せるようになれよな!」

海ちゃんは困ったように笑って小さく返事をする。ジョンはそんな海ちゃんに船に慣れるコツを教えている。俺は水平線を眺めながらこの先に起こる何かに期待を膨らませた。


最後までお読みくださりありがとうございます。


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