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第四十話 お喋り

私は部屋にある机の上に座っている。そして目の前には椅子に足を組んで座りながらジッと私を見つめてくるマスター。床にはかなことダルシオンさんが眠っている。

「さて。先に言っておくが話が終わるまでここからは出れないしこの2人も起きない。ついでに言うと外から誰も来ないし防音もしてある。わかるな?」

笑顔なのに何故か怖い。

私は首を縦に何度も振った。

「ふっ。いい子だ。」

怖いのに今のマスターの微笑みに心を射抜かれた自分がいることに悔しさを覚えた。

くっそ!イケオジめ!

「せっかくの機会だ。何から話そうか…。」

マスターは思案している様子だ。だから私は先に質問をしてみた。

「あ、あの…私の言葉が分かるんですか?」

「あぁわかるぞ。普通に聞こえるから安心して話していい。」

サラッと言われた。かなこ以外には言葉が通じなかったのに。

私は続けて質問した。

「えっと…あなたは何者…ですか?」

するとマスターはちらりと見てから、うーん、と悩んで言った。

「お前にはどう見える?」

まさか質問に質問で返されるとは思ってなかった。私はどう答えるべきか悩んだが、噓をついてもきっとバレるだろうと思い、素直に答えた。

「人間…みたいだけど…魔物みたいな…。」

「なるほど。種族がオーラの色でわかるというのは本当だったんだな。」

え?この人なんで私がオーラの色が見えるって知ってるの⁈

「色で言うと何色だ?」

驚きを隠せない私が口を開く前にまた質問された。

「人間の黄色と…魔物の赤色です。」

そう、初めて会った時から気になっていた。人間の黄色の中に魔物の赤色が混じっているのだ。しかも魔力がかなり高いのだろう。今まで見たこともないくらいの大きさだ。でもたまにそのオーラが小さくなる。今も少し小さめだ。

「ならば隠す必要もないか。俺はお前が見た通りの存在だ。人間であり魔物でもある。」

人間であり魔物でもある…。どういうこと?

どういうことか聞こうとしたら先に言葉を発されてしまった。

「では今度はこちらが質問する番だ。お前は…海といったか…海は何故黒竜に食われようと思った?」

「えっと…黒竜がなんか困ってたみたいだったので…。好きにさせた方がいいのかなと。」

まさかそんなことを聞かれるとは思わなかった。さっきから突飛な事ばかり聞かれて答えに悩んでしまう。

「困ってた…か…。黒竜と話したのか?」

「あ、いえ。考えが流れ込んできた…というか…。」

「ほぉ。」

マスターは顎に手を当てて考えてからまた聞いてきた。

「他に黒竜から得た情報は?」

「西大陸で魔族に見つかって逃げてきたみたいです。あと卵を産む時期が近かったとか。あとは…竜はこの世界の浄化をする存在なのに自分は他の竜の邪魔になるから隠れて静かにしていた、とも言ってた気がします。」

私は思い出せる限りの黒竜の情報を記憶から引っ張り出してきて話す。

「浄化…ね。まぁ確かにあいつは浄化というより俺達の処分役みたいなものだからな。」

処分役?なんの事だろう?しかも俺たち?

聞きたいことが山のように頭の中に浮かんでくる。

「竜について何か知ってるんですか?」

とりあえず総括して竜について聞いてみる。

「知ってるとも言えるし知らないとも言える。」

え?!どっち?!

答えにならない答えを返されてあたふたしてると

「では次の質問だ。」

と言われた。

「えっ⁈私の番じゃ⁈」

「ん?今質問したろ?竜について知ってるか?と。」

「あっ…。はい…。」

まずい。さっきからこの人のペースに呑まれてる。全然私の知りたいこと教えてくれない。なんだろうこの言い返せない空気は…。

「黒竜の時は記憶はないのか?周りの音だけは聞こえるとか。」

「全くないです。その…寝てるみたいな。気づいたら自分の番になってる、みたいな。」

「なるほど。」

質問攻めに合ってるのを何とか打開したくて無理やり別のことを聞いてみることにした。

「あの!これいつまで続くんですか?かなことダルシオンさんが心配なんですけど…。」

床で寝ている2人を見ながら訴えてみると、

「あぁこの2人は大丈夫だ。眠ってるだけだ。安心していい。」

と視線も向けずにサラッと言われた。

「はぁ…そうですか。」

ダメだ。多分この人のペースを崩すことは出来ない。私が何を言ってもうまく躱されてしまう。話術に長けた人なんだ。話術の(たくみ)だ。

だんだん自分でも何言ってるのか分からなくなってきて、うーん、あー、と唸っていたら突然名前を呼ばれた。

「海。」

「え⁈は、はい!」

背筋をピンと伸ばして返事をする。学校の先生に急に当てられたみたいな気持ちだ。

「お前…そのうち黒竜に吞み込まれるぞ。そしたらもうお前の自我はなくなる。海という存在がこの世から消えてしまうぞ。いいのか?」

え?自我がなくなる?消える?え?

急なことに頭がついていかず、黙っているとマスターがポツリと呟いた。

「黒竜もなぜこんな子を選んだのか…。全くあいつの考えはわからんな。」

私はそんな呟きも右から左に流してしまうほど動揺していた。

もし黒竜に呑み込まれて私がいなくなったら…。黒竜を制御できずに国もかなこも危なくなる?いや…でも、黒竜大人しくなったとか言ってたな。魔石作るのも手伝ってくれたって言ってたし。だったら別に黒竜でも危険はないのかも。でももうかなこと話したりすることも出来ない。黒竜に食べられた時とはきっと違う。完全なる消滅。私という存在がなくなる。死んだも同然になってしまう。それは嫌だ!

「呑み込まれないようにするにはどうしたらいいんですか?」

切羽詰まったまま聞いてみると、

「簡単だ。お前が主導権を握ってお前が黒竜を呑み込めばいい。」

と、案外普通に答えをくれた。

そりゃそうだ。きっとそんなことだろうと思った。でも…つまり?

「具体的には…。」

「具体的にか…俺は簡単にできたからなぁ…。まぁ確かにお前は自我が弱いから難しいか。」

え?簡単にできた?同じ状況になったことがあるの?人間であり魔物であるって言ってたからその時かな?それにしてもその後ろの方が気になる。

「自我が弱い?」

「言い換えるなら、意志が弱い。今まで流れに任せてきただろう?それでいい時もあるがそればかりではいけない。黒竜に食われる時もそうだ。流れに任せて黒竜の好きにさせようと思考を止めた。だから黒竜として生まれ変わっても自分が常に主導権を握れないんだ。」

「…。」

私は何も言えなくなった。図星だったからだ。

「折角手に入れた力を何故使わない?魔力も豊富。魔法も使える。おまけに竜の体だ。ちょっとやそっとじゃ傷一つ付かない。しかも便利なスキルもあるのに。」

「スキルのことも知ってるんですか⁈」

つい大声で聞いてしまった。

この人はどこまで私のことを知ってるの?あまり人には口外していないはずなのに。

「スキル『エンパス』。強い共感能力。相手に考えを伝えることもできるし、相手の考えも読み取れる。それに共感すればするほど相手の力を模倣(もほう)できる。お前が天昇の儀で花の色を変えたのもそれだ。俺の魔法を模倣したんだ。」

ペーター君の葬儀の時を思い出す。かなこが白い花を添えようとした時に私もやりたくて手を出したら青い花にパッと変わった。私自身も周りにいた人達も驚いていた。

ん?ちょっと待って。この人の魔法を模倣したとしたのなら…。模倣する相手が近くにいたということだよね?

「え?天昇の儀にいたんですか?」

頭をフル回転して出した疑問を聞いてみる。

するとマスターは床で眠っているダルシオンさんを見ながら微笑んで言った。

「こいつのあの魔法が好きでな。綺麗だろ。あぁそうか。お前は見ていないのか。もったいないな。」

その言葉に私はまたも嫌なことを思い出す。

そう。ダルシオンさんの渾身の魔法を私は見ていない。見たのは黒竜だ。後でかなこに聞いたけどそれはもう綺麗だったそうだ。他の人もみんな大絶賛していた。私はまたも大事な場面で出てこれていない。

その事を痛感してちょっと凹んできた。

「青い花はないなぁと思っていたんだ。そしたらお前がやってくれた。笑って吹き出しそうになったぞ?」

私の気持ちをよく分かっているのか、揶揄うように言ってくるこのイケオジは相当意地悪だ。

「あなたは…何がしたいんですか?私たちの味方ってわけでもなさそうですよね?でも魔族も殺していたって言ってたし…。」

少しいじけたように聞いてみる。意地悪されて気分が下がり気味なのだから仕方ない。

「俺はただ…見ているだけだ。人間も魔族も好きだ。無駄なことに一生懸命になってるところなんかかわいく見えてくる。それに綺麗な魔法も生み出すしな。魔族も同じようなものだ。」

いじけながら聞いた質問にもちゃんと答えてくれたことに驚いた。さっきまでは私の質問に答えらしい答えをくれなかったのに。

「ただな…。」

マスターは顔を曇らせて言葉を続けた。

「西大陸の魔族はもう魔族とは呼べない者になってしまった。魔物とそう変わらない存在になってしまった。言葉を話しても心がない。感情が欠落してしまっている。」

今までと雰囲気がガラリと変わってとても悲しそうだ。

「なんでそんなことに…?」

マスターの雰囲気のせいなのか勝手に口が動いて聞いてしまった。

「竜だ。あいつらのせいでああなってしまった。」

マスターはとても悲しそうな、切なそうな顔でそう言った。まるで何か大切な物を失ったかのように。

竜のせいで魔族の感情が無くなってしまったの?一体どういうこと?

詳しく聞こうと口を開きかけたら、マスターがふと我に返ったようにさっきまでの余裕たっぷりな笑顔に戻って言った。

「長話が過ぎたな。すまない。そろそろ解放してやろう。」

さっきまでの悲しそうな雰囲気はどこへ行ったのか、またあの話術の匠に戻ってしまった。

「あ、あの!」

「ん?」

最後にどうしても聞いておきたいことを聞くために立ち上がろうとしていたマスターに声をかけた。きっとこの機会を逃したら二度と自分が這い上がってこれなくなりそうだったから。それに今なら意地悪なこと言われない気がするから。

「自我を強くすれば黒竜に呑まれないんですよね?流されないように意志を強く持てばいいんですか?」

私は自分がこれからどうすべきなのかをはっきりさせたかった。藁にもすがる思いでマスターに聞く。

マスターは少し面食らったような顔をした。そして、

「まぁ…そんなところだ。」

と言うと、優しく微笑んで頭を撫でてきた。

私は顔に熱が集まってきたのを感じた。黒竜で良かった。人間だったらきっと今頃茹でダコ状態なのがバレてしまう。心臓がバクバクしてどうしたらいいか分からない。頭の中がパニックだ。

そんな私のことなど関係なくマスターは床に寝ているダルシオンさんにかけた魔法をスっと解いた。そしてそのまま部屋の扉を開けて廊下に出ていった。

え?この部屋本当に防音、監禁状態だったの?

というくらいあっさり出ていってしまった。

ポカンとしていると人の足音がバタバタと聞こえて兵士が数人走って来た。

ダルシオンさんは目が覚めたのか呂律の回らないまま兵士と話しながら転移術で戻ってきたことを伝えている。

かなこは眠ったまま運ばれて行った。それを見つめている私に気づいたのかダルシオンさんが兵士に私もかなこと一緒に連れて行くよう指示してくれた。

何か私に言いたげな顔をしながら。





海の上を船で進んでいる。どこまでも続く海。進んでるのか分からないくらい景色は変わらない。

「シルビア。そのだらけた格好で舵取らないでよ。いざって時困るよ?」

舵に頬杖をついて片手はだらんと下ろしている。よくその体勢でズルっといかないもんだ。

「…おー…。」

聞いてるのか聞いてないのか分からない返事をして、よっこらしょ、と言いながら姿勢を正す。

僕は彼女の斜め後ろの椅子に座って魔導書を読んでいる。魔力切れが少し回復してきて動けるようになったのはありがたい。

「どうしたんだい?珍しいね。」

そう聞くとシルビアはゆっくり振り向いた。そして覇気のない顔をして話し出した。

「行きの船さ。こんなに静かだったっけ?」

「え?えっと…そうだったんじゃない?」

そう答えるとシルビアはまた口を開いた。

「いいや。もっと楽しかった。魔物が出たりそこら中で声がしたりドタバタしてた。」

行きの時を思い出してやっと彼女が何を言いたいのかが分かった。

「海さんがいたから魔物が寄ってきたんだよ。だから魔物によく遭遇した。声がしないのは人数が減ったからだ。よく喋るチャミ君がいないから。あと暇そうな君の気を使って話しかけてくれるジョン君もいない。部屋で船酔いと戦ってる魔術師もいないし、それを嫌そうに看病するナコさんもいない。」

そこまで一気に言ってシルビアを見ると、

「つまんねぇ…。」

と呟いて前を向いた。

僕は魔導書を閉じて立ち上がり彼女の隣に立った。

「話し相手は僕しかいないよ。ちなみに僕は話を聞くのは得意だと自負している。さぁどうぞ。」

にっこり笑って彼女に言うと、彼女は仕方ないといった様子で話し始めた。

「ナコが来る前はこんなだったんだなと思ってさ。別にその時がつまんなかったわけじゃない。ただ…ナコが来て魔法ぶっ放してあちこち壊してそれを直す。南の島に親友召喚しちゃって迎えに行って持ち帰ってくる。そしたら魔物が出るわ出るわ。よく喋る猫といつも気を使ってるのに辛辣な一言意外と言う猫の相手しながら魔物討伐。まさかの黒竜到来で国滅びるかと思ったら今度はその黒竜の卵拾った。卵の孵化はこれまた大変で魔族との死闘付き。可愛い部下を天昇の儀で見送ったかと思ったら、ついにやってきた年に一度の北国の冬。落ち着くかと思いきや今度はでっけー魔石作りで南の島に直行。そんで今その帰り。」

シルビアの話を聞きながら今までの出来事を思い出していた。確かに色々あった。ありすぎた。僕も人生でこんなに怒涛の連続は初めてかもしれない。

「確かに…つまらないね。」

そう言うとシルビアはググッと体を伸ばしながら

「だろ〜」

と言った。

「じゃあ次カルロ、お前の番な。なんか話せ。」

「えっ?!」

まさかの無茶ぶりに驚きを隠せない。

今のこの流れでなんでそうなった?!

シルビアは僕が話し出すのを待っているのかじーっと見てくる。

「はぁ…。分かったよ。じゃあ何か質問してくれ。急すぎて話題が出てこないよ。」

シルビアは、うーん、と考えてから質問してきた。

「お前とダルシオンってどっちが先にフェルス王国の魔術師だったの?」

相変わらず突拍子もないこと聞くな〜と思いながら答える。

「僕だよ。僕の家系は代々フェルス王国の魔術師なんだ。だから子供の頃から国の魔術師になることしか考えてなかった。父が引退して僕が魔術師になったばかりの頃、マスターがダルシオンを連れてきて、こいつを魔術師にしてやってくれって先代の国王に言ったんだ。国王は拒むことなくダルシオンを魔術師にした。そしたら彼は才能の塊だったんだよ!僕なんかより断然凄い魔術師でさ。まぁその代わり…性格はあんなで周りとは上手くいかなくて…そこは僕がなんとか頑張ったよ……。」

「おいおい。話しながら凹むなよ…。」

喋りながら当時の大変さを思い出して遠い目をしだした僕にシルビアがツッコミを入れた。

「あぁごめんよ。思い出したらさ…。本当に大変だったんだよ。今はまだマシな方。喋らないし睨むと怖いし…歳上の立派な人たちにも臆することなくズバズバ言うし…。はぁ…。」

するとシルビアが僕の肩にポンっと手を置いて頷いてくれた。

「じゃああの病弱宰相はその後に来たんか?あいつも代々仕えてる奴?」

今度はサントスの事か…。あれもあれで癖があるからなぁ。

「サントスは確か…ダルシオンより先に国に仕えることになったのかな?サントスは僕の昔からの友人だよ。頭が良くて切れ者。だけど君もよく知っているように、バカと天才は紙一重っていうのを地で行くタイプだ。昔から彼とまともに関わってたのは僕くらいだったのかな?」

「まぁお前も変なやつだもんな。あいつと仲良くできるのお前くらいだよ。」

シルビアの言葉がグサッと刺さった。けど気にしない振りをして続けた。

「そ、それで。サントスの働き口を探す手伝いを何故かする羽目になって今の国王に進言してみたんだ。頭はいいから役に立つと思うって。最初は記録係とかだったんだよ?でもいつの間にかどんどん登りつめて今じゃ宰相だ。全く…僕の苦労も知らないで勝手に僕を宰相補佐なんかにして…。」

するとまたシルビアが僕の肩にポンっと手を置いて頷いてくれた。

「シルビア…僕の苦労話で楽しんでるだろ。」

睨むように彼女に言うと、ニヤリとして

「おう!こんな楽しい話ないぜ!」

と元気に言った。

「まぁいいや。暇つぶしになったならね。」

そう言って僕はトボトボと椅子に向かって歩いていき、ポスンと項垂れるように座った。

シルビアを見るとさっきまでの覇気のなさはどこに行ったのか、至極楽しそうに舵を取っている。

僕はまたため息をついて魔導書を手に取った。きっと口元は緩んでいるだろう。なんだかんだ僕もつまらなかったのだろう。

いい暇つぶしになったよ。ありがとうシルビア。


最後までお読みくださりありがとうございます。


感想、レビュー、評価など頂けたら励みになります。誤字脱字、読みずらいなどありましたらコメントください。日々精進です。

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