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第三十八話 島への帰還

大陸を出航してから2日目。遠くに島が見えてきた。チャミとジョンが言うには間違いなく故郷の島だということだ。

「上陸準備しろ。チャミとジョン、それから私とカルロも行く。その他はここで待機だ。」

部下に指示を出して島を見つめる。なんとかここまでこれた。魔物にも遭遇したがそれはなんて事ない。ただこの先のことを考えると頭が痛くなる。

魔石なんて本当に作れるのか?あんなでかい石だぞ?獣人たちが協力してくれるとしても魔力が足りるか分からないと言っていた。もし足りなかったら……。いや、今はそんなこと考えても仕方ない。同盟の方も心配だ。できるだけ急いで国に帰らなければ。

私は頭の中に浮かんでは消えていく悩みや心配をかき消すように頬を叩く。

それを見ていたのかナコが声をかけてきた。

「シルビアさん?大丈夫ですか?」

「おう。なんでもないよ。それよりナコこそ大丈夫か?黒竜のままなんだろ?」

あれから黒竜が海に戻らないことを聞いていた。ダルシオンもカルロもずっと不安そうな顔してやがった。ダルシオンに関しては別の理由であの顔だったのだろうが…。

「いや…その…本当にどうしようかと悩んでます。島に着くまでには…と思ってたんですけど…願いは届かなかったようです。」

沈んだ顔をしているナコの肩を叩いて言葉をかける。

「魔石作る時にだけ出てこれりゃいいんだ。もう少し猶予はあるからあんまり心配すんな。な!」

「シルビアさん…」

泣きつかれそうな顔しだしたから笑ってその場から逃げるように獣人2人の元に向かった。

私の最近の悩みだ。ナコもそうだが国の女たちによく泣きつかれる。別に特別なにかしてるわけじゃない。ただ前向きな言葉をかけてるだけだ。だがそれが乙女心に響くらしい。男前な女騎士団長。最近は女だけじゃなく男まで寄ってくる始末だ。慕われてるのはありがたいが正直鬱陶しい時もある。

「お前ら2人にかかってるんだからしっかり説得してくれよ?できるだけ早く国に戻りてぇんだ。」

島を眺めて嬉しそうな顔で話してるチャミとジョンに声をかける。

「分かってるって!きっと大丈夫だよ!みんな分かってくれるさ!」

「シルビアさん。一つ確認していいですか?」

チャミと違ってジョンが少し心配そうな顔で聞いてきた。

「なんだ?」

「海さんのことはギリギリまで話さない方がいいんですよね?黒竜だってこと…。」

私は少し答えに困った。

多分だが、海の名を出す方が話は進むだろう。だが黒竜の事はできるだけ言うなと病弱に釘を刺されている。

「その辺はカルロと相談だな。あいつがいいと判断したら言っていい。交渉事は私には分からねぇよ。」

「分かりました…」

ジョンはそう言って黙り込んだ。

「そういえば海ちゃん戻ってこねぇんだよなぁ。大丈夫なんかな?」

空気の読めない発言をするチャミの頭を引っ叩く。

「痛って!何すんだよ!」

「バカ!ナコの顔見ろ!」

そう言ってナコの方を指さす。

案の定、絶望感MAX状態のナコが項垂れてブツブツ言っている。

「海になる条件って何?また私?私がなんかすればいいの?どうしよう間に合わなかったら。ヤバい。ダルシオンさんに怒られるとかそういうレベルじゃない。みんなに迷惑かけちゃう。というか島無くなったりしないよね?防御魔法で防げるよね?え?やっぱ無謀だったのかな?どうしようどうしよう…」

それを見たチャミは苦笑いで見つめている。ジョンも声をかけようかどうしようか悩んでいる。

「いいか。お前ら2人は島の奴らとの交渉のことだけ考えてろ。カルロと口裏合わせる練習でもしとけ。」

私の言葉に2人は大人しく黙った。ちょうど近くに来たカルロを呼んで2人を押し付けといた。

「あー全く。クソめんどくせぇ。マジでやってらんねぇ。」

私がボソリと愚痴ると後ろから

「全くその通りですよ。」

と聞こえてきた。

私は振り向かずにそのまま後ろに来た奴に返事をする。

「やっとお出ましか?部屋にこもってゲロってたんか?魔術師様よ。」

嫌味を含めて言うといつもの調子で嫌味が返ってきた。

「船は嫌いなんです。それにゲロってません。むしろ別の問題が発生したのでそっちに頭を使ってたんです。あなたと違って頭を使うのが仕事ですから。」

隣に立ったダルシオンを見ると顔色がだいぶ良くなっていた。その代わり目の下のクマがまた酷くなってる。

「寝てねぇんか?」

そう聞くとギロリと睨み返してきた。私は肩を竦めて笑ってやった。

「魔石さっさと作って帰るしかねぇな。同盟の方も心配だしな。なんかここ最近忙しいよなぁ。」

「黒竜が来てからあのクソ宰相真面目に宰相の仕事してます。多分何か考えてますよあれ。魔石も国王に言わずにやり始めたみたいです。」

その言葉に、はぁ?と大きな声を出してしまった。

「病弱の野郎、国王にまで事後報告か?マジかよ…」

流石に国王には話を通してあったのかと思ったが。あの病弱何考えてんだ?頭のいいやつの考えることは分からねぇ。

「とりあえず我々は魔石をさっさと片付けましょう。それに…」

「それに…なんだ?」

珍しく言い淀むから聞いてみた。すると眉間のシワをより濃くして言った。

「嫌な予感がします。ただの勘ですけど。」





島に降りて久しぶりの故郷の砂浜を踏みしめた。

そうそう!この砂の感触!

俺は高ぶる気持ちを抑えながら目の前にいる故郷の仲間達に笑顔で声をかける。

「ただいま!みんな!」

島のみんなは俺たちの周りに寄ってきて思い思いの言葉をかけてくる。

あぁ〜懐かしいなぁ。みんな元気そうだなぁ。

隣にいるジョンも同じように嬉しそうに話をしている。

「2人とも無事に帰ってこれたようで何よりじゃ。それにしても遅い帰りじゃの。しかも以前より立派になったようじゃしの。」

村長の言葉に全員が村長を見る。

「村長。ただいま戻りました。ちょっと色々あって…今は僕もチャミもフェルス王国の騎士団なんです。」

ジョンが説明をすると周りがどよめいた。

すると今まで黙って俺らの再会を眺めていたシルビアが話し出した。

「あんたが村長か。私はこいつらの騎士団長シルビアだ。この2人は見込みがあるんでな。勧誘させてもらったよ。今じゃ大切な私の部下だ。」

あれは勧誘なのか?

俺は手配書に描かれてほぼ無理やり騎士団に入らされた時のことを思い出す。あの時は人間を…シルビア達を信じてなかった。今じゃ信頼できる奴らだと思っているけど。

村長はシルビアを見定めるように眺めてからニッコリ笑って答えた。

「以前来た第一騎士団長のルークさんとはまた違った雰囲気の方じゃな。2人が厄介になっているようで。どうかこれからもよろしく頼みます。」

よし!まずは第一関門突破だな!村長がシルビアを受け入れた。島のみんなも警戒を解いたっぽいな。

「村長。実は僕ら困っていて…島のみんなにお願いがあって来たんだ。」

ジョンがここぞとばかりに話を切り出す。

「うむ。そのようじゃな。まずは場所を変えよう。ワシの家で良いかの?」

「おう!さすが村長!話が早くて助かるよ!」

俺はそう言って村長の後をついて行く。後ろではジョンがシルビアとカルロ先生を案内している。


村長の家に着いてからはカルロ先生の出番だ。

「村長、こちらは魔術師兼宰相補佐のカルロさん。」

ジョンがカルロ先生を紹介する。

「カルロと言います。早速ですが本題に入らせて貰います。実を言うと僕たち時間がないんです。急いで用事を済ませて国に戻らないといけないので。」

カルロ先生は焦った様子は見えないがそう言った。

村長はいつもののんびりした雰囲気から一変、真面目な様子でカルロ先生に椅子を勧める。カルロ先生はお礼を言いながら座った。

俺とジョンはその後ろに、シルビアは入口のそばに立っている。

「では話を聞きましょう。」

村長がそういうやカルロ先生は深呼吸をしてから一気に話し出した。

「僕らのフェルス王国は魔族領と接しています。常に魔族の脅威に晒されている。その防備のために国を丸ごと覆う防御魔法を張ろうとしているのですが、そのための魔石を作り出す魔力が足りないんです。そこでチャミ君、ジョン君の話を聞いてぜひこの島の皆さんのお力を借りたいと思っています。獣人は元々魔力が高い。皆さんの力を借りれば魔石を作ることも可能ではないかと。」

そこまで話してカルロ先生は魔石にする宝石を目の前の机に置いた。

「こりゃまたデカイのぉ。これほどの大きさとなると確かに魔力が大量に必要じゃ。」

村長もこのデカさにはびっくりしたか。

すると隣にいたジョンが肘でつついてきた。

「ん?なんだジョン。」

小声で聞くとジョンは耳元でこっそり言った。

「村長…多分カルロさんが隠し事してるの気づいてる。チャミも分かるでしょ?多分黒竜のことできるだけ隠し通したいってのがバレてる。」

そう言われて俺も村長の様子に気づいた。獣人は人より鼻が効く。嘘や隠し事をしているのは何となくわかるものだ。確かにカルロ先生からはそんな匂いがする。

「ふむ。チャミとジョンが世話になっておる国の大事じゃ。もちろん全員で力を貸してやりたいと思っております。」

村長の言葉にカルロ先生は嬉しそうな反応をする。しかしそれもつかの間。次に続く言葉に硬直した。

「じゃが隠し事をされたままでは手伝えませんな。」

やっぱり…。

「カルロ。全部話した方が楽だぞ。病弱はああ言ってたが全部言っちまえ。」

と、後ろにいたシルビアが痺れを切らしたように言った。

「……そうだね…分かった。全てお話します。」

カルロ先生は意を決したようで、黒竜が海ちゃんである事、そしてその黒竜を育てている事を話した。

村長はかなり驚いていたけど俺やジョンも話に入ってあれこれ言ってたら信じてくれた。

「海ちゃんが…そうか。」

この場のみんなが黙り込んだ。そして村長の言葉を待った。

「分かりました。魔石作り手伝いましょう。ただし島を危険に晒すことはできません。黒竜が暴れないという確信が欲しいですな。」

「もちろんです。黒竜を制御できるタイミングで行います。ご協力に感謝します。」

カルロ先生はほっとした顔で言った。

黒竜を制御できるってことは…海ちゃんになったタイミングってことか。それいつになるか分からないしどうするんだ?

「ではワシは皆に話してきます。恐らく皆手伝ってくれるでしょう。場所はジョン、チャミ。お前らが見繕ってくれ。」

突然の指名に驚いて

「お、おう!任せろ!」

と、どもってしまった。





村長が出ていって残った僕ら4人は揃って安堵のため息を吐いた。

「いやーよく上手くいったもんだ。やっぱりこういう時は頼りになるよなカルロ。」

シルビアさんがそう言ってカルロさんの方を見ると、座ったまま放心状態になっている。

「やはり…こういうのは慣れない…怖かった。亀さん怖かった…。隠し事バレるとか本当にやってられない…。サントス許さない…。」

とブツブツ言いながら今にも倒れそうだ。

「よし!ジョン!場所見つけないとな!」

チャミが元気に探しに行こうとするのを止めて、僕はシルビアさんに確認を取る。

「場所ってどのくらいの範囲があればいいですか?」

「あーわかんねぇ。ダルシオン達をまず呼び寄せねぇといけないな。カルロ使いもんにならねぇから引きずってってついでに呼んでくるわ。かなり広めがいいと思う。」

「分かりました。チャミ行くよ。」

シルビアさんの指示を仰いで僕とチャミは懐かしい島の地形を思い出しながら場所探しに出る。


高台まで来て僕らは周りを見渡す。島の近くの海上には僕らが乗ってきた船がある。今頃ナコさん達を連れて島に来る準備をしているのだろう。

「なぁジョン。あの辺りはどうかな?草原になってて結構広いだろ?住居からも離れてるしさ。」

と、チャミが指さしながら言う。僕もそっちを見る。

確かにあの辺りなら大丈夫そうだ。そういえば海さんと初めて会った海岸にも近いな。

「そうだね。あそこにしよう。じゃあ村に戻ろうか。」

僕はそう言って村に戻ろうと歩き出した。しかし着いてくるはずのチャミが一向に動こうとしない。というより遠くの空の一点を見つめてる。

「チャミ?どうしたの?」

そう聞くとチャミは目を離さずに言った。

「ジョン…あれなんだ?なんかこっちに飛んできてねぇか?」

「え?」

僕も目を凝らしてチャミと同じ方を見る。遠くの空に黒い点が見える気がする。その点はどんどん数が増えて大きくなっているような気がする。

それが何かは分からないがチャミの言う通りこっちに飛んできてるのは確かだ。

「チャミ。急いで村に戻ってみんなに伝えよう。」

「おう!」

僕とチャミは同時に走り出した。

なんだろうこの胸騒ぎは。あれはなんだ?嫌な予感がする。

僕は不安を胸に抱きながら全力で走った。


村に着くとナコさんもダルシオンさんも来ていた。ナコさんの腕には黒竜が抱かれている。

「お!2人とも来たか!どうだ?いい場所あったか?」

シルビアさんの問いかけに答えることなくチャミが言った。

「なんかこっちに飛んできてる!あっちの方だ!」

指さしながら言うとみんなその方向をじっと見つめた。

「え?何?どこ?」

「なんかってなんですか?」

ナコさんやダルシオンさんなど人間には見ずらいかもしれない。獣人の視力だと見える者もいるのか、

「なんだあれ?」

「結構な数じゃない?」

などと口にしている。

「よく分からねぇが戦闘態勢とるぞ。見えるやつはそれが何か分かったら教えてくれ。私らは準備するぞ!」

シルビアさんの言葉に騎士団達は準備を急ぐ。

「村長。何が起こるか分からないので非戦闘員は隠れててください。」

僕はそう言ってチャミと一緒にナコさんの側に駆け寄った。

「ナコちゃん!黒竜はどうだ?海ちゃん?」

「まだ黒竜のままなの。一体どうなってるの?何が来るの?」

チャミの焦りようにナコさんも心配そうだ。

「ナコさん。いざと言う時は黒竜と一緒にみんなと隠れてて。僕とチャミでできるだけ守るけど。」

僕の言葉にナコさんは不安そうに頷いた。





私たちは村から離れた場所に移動してきている。チャミ君とジョン君が魔石作りに選んだ広々とした草原の近く。隠れられそうな森もあるから丁度いいということだ。私は黒竜を抱いたままいつでも動けるように体勢を整えている。腕の中の黒竜はやけに静かだ。鳴きもしないし動きもしない。まるでこれから来る何かに警戒しているようだ。

「お前の予感的中だな。」

「やめてください。人を疫病神みたいに言うの。」

「2人とも不吉なこと言わないでよ!」

シルビアさん、ダルシオンさん、カルロさんが話している。

島の人達は避難してもらっているが私もさっきから嫌な感じがしている。海のスキルが発動して魔物を呼び寄せてしまっているのではないかとも考えている。魔物ならまだ対処できる。だがもし竜や魔族だったら…。不安がどんどん募っていく。

すると目のいい獣人が大声で叫ぶように言った。

「羽の生えた人間のように見えます!」

その言葉にフェルス王国勢は全員それが何か分かってしまった。

「くっそ…魔族かよ。」

シルビアさんが歯を食いしばるように呟いた。

「思い描く最悪の事態になりましたね。どこの魔族でしょう?まさかわざわざ俺たちを付けていたってことはありませんよね?」

「さすがにそれなら気づくよ。思いつくとしたら…西大陸の魔族?」

ダルシオンさんの問いにカルロさんが答える。

西大陸にも魔族はいると聞いていた。しかも黒竜を捕まえようとしていたらしい。ということはやはり海を狙ってる?

私は腕の中の黒竜をしっかり抱いた。

「海…どうしよう…。島の人を巻き込んじゃうかもしれない…。海お願い、出てきて。」

乞い願うように言うが反応はない。

いざとなったら光魔法で一気に撃退するしかない。

手を強く握って覚悟を決めようとしていたその時。飛来してきた魔族たちが行き先を見失ったかのように突然上空で止まった。あっちへ行きこっちへ行き右往左往している。

「何やってんだあいつら。」

シルビアさんの問いに誰も答えられずただその様子を見つめている。1人を除いて。

「なぜここに…目くらましの魔法を島全体にかけたというんですか…?化け物か…。」

空を見上げながらダルシオンさんが呟いた。

「まさか…そんなことできるのって…。」

カルロさんも空を見上げながら呟いている。

2人の様子が気になり私も空を見上げる。よく見ると島全体を覆うように何か膜のような物が張っている。オーロラのような色をした膜。まるでスノードームの中にでもいるようだ。

「間に合ったか。目くらましをしたから奴らは暫く来れないだろう。」

どこから現れたのか突然煙が人間の形になっていき、グレーのローブを羽織った男の人が現れた。

「やはりあなたでしたか…マスター。」

ダルシオンさんが恐怖と安堵の混じった顔で言った。私まで緊張してしまうような雰囲気だ。

「久しぶりだなダルシオン。魔術師としての腕は磨き続けているようで感心だ。カルロ、お前はもっと早くに魔法に気づいて欲しかったな。」

この切羽詰まった状況の中、余裕たっぷりといった様子でダルシオンさんとカルロさんに話しかけている。

「なぜあなたがここに?」

ダルシオンさんの問いに笑顔を絶やさず

「お前たちを救いに来た。」

とサラッと答えた。

「あれは西大陸の魔族だ。まさかもうこちらまで来てるとは思わなかった。黒竜探しに躍起になっているようだな。」

やはり黒竜目当てにここに来たんだ。

「西大陸の魔族がこんな所まで来れるとは思えません。聖都は何をしているんですか?」

ダルシオンさんが聞く。

「聖都は滅んだ。西大陸はほぼ魔族に支配されている。」

「えっ?!西大陸が魔族に?!そんな話聞いたこともない…いつそんなことに…。」

カルロさんが信じられないといった様子で驚いている。

「おいおい!ちょっと待て!私らを置いてくな!西大陸より今はこっちの島の事のが大事だろ?あいつらはどうすんだよ!目くらましって言ってもいつかは来ちまうだろうが!」

シルビアさんの怒声が響き渡る。

「お前は確かシルビアと言ったか。的確な判断だな。その通り、いつまでも目くらましは出来ない。だから今すぐ魔石を作れ。」

マスターと呼ばれた人の言葉にみんな黙ってしまった。というより言葉が出てこない。

「今すぐって…え?」

私が声を出すとマスターはこちらを見てニッコリ微笑んだ。

「君が異世界人だな。そして腕の中のが黒竜になったもう1人の異世界人…。」

そう言うやいつの間にか目の前に来ていて体が固まった。びっくりしたというより金縛りにあったみたいに動けない。

マスターはゆっくりと手を伸ばし黒竜を撫でる。

「お前の出番だ。できるだろ?」

小さな子どもに言い聞かせるように優しく黒竜に話しかける。すると今まで大人しくしていた黒竜がパッと顔を上げてマスターに向かってキュイっと鳴いた。

黒竜はするりと腕の中から飛び立ち魔石用の宝石の前に降り立ち、振り向いてまたキュイと鳴いた。

「早くしろって言ってます…。」

私は何故か黒竜の言葉が分かってみんなに通訳した。みんなポカンとしていたがいち早く我に返ったダルシオンさんが声を張り上げた。

「急ぎ石の周りに集まってください!」

その言葉を皮切りに一斉にみんなが石の周りに集まった。私たち魔術師も獣人達も。魔法を使えない騎士団の人たちは有事に備えて後方で待機しながら魔族たちを監視している。マスターは離れた場所で見守るようにこちらを見ている。

「僕が合図を出す。そしたらみんなでありったけの魔力をこの石に注いでくれ!魔力切れになるまで頼みます!」

カルロさんの指示にみんな頷く。

黒竜が光りだしたのを確認してカルロさんが合図を出す。

「今だ!」

合図と同時に魔力を石に注ぎ込む。掌から体内の力を放出するイメージだ。みんなの魔力が一気に石に注ぎ込まれていくにつれて、石はどんどん青白く光っていく。光は強くなって見ていられないほどの光を放つ。

魔力が尽きた人からどんどん座り込んでいく。魔力切れで立っているのも辛いのだ。私はもっともっとと魔力を注ぎ込む。

海…見てる?私今度こそみんなを、国を、海を守りたいんだ。この魔石で防御魔法を作って守るんだ。魔族から海を守りたいんだ。

立っている人が最初の4分の1程に減った頃、石がカタカタと揺れて真っ白な強い光を放った。その瞬間風圧で私たちは後ろに吹き飛んだ。

尻もちをついた私は魔力切れギリギリ。何とか立ち上がって石に近づいていく。

前にもこんなことがあったなと、黒竜の卵が孵化した時を思い出した。

魔石は最初の黄金色ではなく、どこまでも澄み渡る青空のような色になっていた。

「せ、成功だ…。」

カルロさんがポツリと零した言葉に周りがワァっと歓声に包まれた。ダルシオンさんが魔石を持ち上げて確認する。

「完璧です。見事な魔石になってます。」

私は一気に力が抜けてその場にへたりこんだ。黒竜がパタパタと飛んで来て私の頭の上に乗った。

「海…やったよ。頑張ってくれてありがとう。」

そう言うとキュイキュイと鳴いた。

私は周りを見渡してふと気づいた。マスターの姿がどこにも見当たらない。

すると遠くの方で爆発音が聞こえた。

驚いて音のする方を見ると、魔族たちがいた辺りに灰色の塵が舞っているのが見えた。

「え?」

声も出せずにいると隣に立ってるダルシオンさんが私に教えてくれるように静かに言った。

「マスターですね。あれだけの魔族を一瞬で灰にしました。」

「まさか?!あの数ですよ?!」

「そうです。だからあの人は恐ろしい。化け物ですよ…。」

私はさっきまで魔族だったものが灰になって風に流されて消えていくのを呆然と見つめていた。


最後までお読みくださりありがとうございます。


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