第三十四話 再会
魔法室を出て行くあてもなく歩いている。腕の中には黒竜。
シルビアさんの恐ろしさに思わず出てきてしまったが何もすることがない。魔導書の1つでも持ってくればよかったと後悔したがもう遅い。あそこに戻るのは無理だ。
さすが騎士団長というだけあって威圧感といい、殺気といい物凄かった。その場でへたり込まなかった自分を褒めてあげたくなる。
いつの間にか中庭に来てしまった。海とこの世界で会った初めての場所だ。
「海さんどこ行きますかね〜」
誰に言うでもなく言葉を発する。
「城から出れないよね?」
「そうだね。黒竜抱いたままだと出れないね。」
「そっか…街の様子見たかったけどダメか。」
私はピタリと足を止めて周りを見渡した。
誰もいない。
では今自分は誰と話していた?
恐る恐る下を向くと黒竜と目が合った。そして心臓の音が聞こえるくらい緊張しながら声をかけた。
「いまのは…海…さん…?」
「やっと聞こえたか〜」
黒竜がにっこり笑ったような気がした。
「海?!海なの?!」
「そうだよ!私です!海です!」
私は黒竜…ではなく海を抱いたまま中庭の大きな木まで走って移動した。
「かなこ?!ちょっ?!落とさないでよ!」
とか言ってるが無視だ。
木の下について木陰に座る。そして目の前に海をおろす。
「海さん…なんだよね?」
もう一度確認するように声をかける。
「…うん。海です。かなこさん。」
私は脱力したように息を吐いた。
良かった。海だ。本当に海だ。やっと海と話せてる。
いろんな思いが頭の中を巡っている。安堵して声も出せないでいると、パタパタと飛んで私の頭をポンポンと叩く。
「やっと気づいて貰えたよ。ずっと話しかけてたのに気づいてもらえないから心配だった。」
あぁ…この話し方…間違いなく海だ。
私は溢れそうになる涙をグッとこらえて掌を差し出した。すると察したのか掌にぽすんと座ってくれた。
「ずっと話しかけてたってどういうこと?」
「黒竜と私が交互に出てくるみたい。黒竜の時の記憶はないんだよ。寝てるみたいに。だから私のターンの時はできるだけかなこに話しかけてた。でも全然気づいて貰えなくて…。」
やっぱり海と黒竜が交互に出てくるんだ。
「ペーター君の時は海の声聞こえてたんだけど…あれからは全く分からなくて…ごめん。」
申し訳なさ過ぎて謝るが、海は首を振って大丈夫だと言ってくれる。
「黒竜のターンの方が多かったんだと思う。私が思い出せるだけでも…天昇の儀?とかいうのの最後の方とか、本漁ってる時とか、あと真夜中とか…さっきのシルビアさんの時とか…。あれ怖かったな…。」
「あれは怖かったねぇ…。」
シルビアさんを思い出して私も怖かったと呟いた。
そうか、海が出てきてる時はそれほど多くなかったのか。ん?ということは…。
「海さん。天昇の儀で花の色変えたのはあなただったの?」
不思議だったことを聞いてみる。
「あ、うん。あれびっくりした。手を伸ばしたら勝手に色変わったの。魔法なのかな?」
やはりあれは海だったのか。魔法使えなかった海が使うとなると、やはり黒竜の魔法が使えるのかな?
「もしかしたら黒竜になって海も魔法使えるようになったのかもね。」
海は考え込むように、うーんっと言っている。
そしてもうひとつ気になることを聞いた。
「本を漁ってたのはなんで?あれ正直大変だったんだけど…。」
ジトーっとした目で見つめると海はハッとして目を泳がせた。
「あの…その…あることを調べたくて。でもこの体だとうまく本も取れないし開けないしで…。スミマセン。」
最後の方は声が小さくなっていき、目を逸らしながら言った。
私はまぁいいかと諦めて続きを聞いた。
「私がもっと早く海の声を聞けてれば何とかなったかもしれないけど仕方ない。で?調べたかったことって?」
海は少し悩んだ後ボソリと言った。
「ペーター君が調べて見つけたっていう、異世界人を元の世界に戻す方法。確か『人間以外の種族になり、異世界人に殺されることで元の世界に戻れる』って言ってた。」
私は驚いて声も出なかった。あれだけ調べても見つからなかった方法をペーター君は見つけたというのか。しかも内容が…恐ろしい。
「ペーター君は私が黒竜になったことで人間以外の種族って断定したらしく、それで私を助けようとその方法をやろうとしてたみたい。ペーター君は異世界人だからね。」
私はなんと言ったらいいか分からなかった。
「ペーター君が異世界人だってことは気づいてたんだよ。あの黒竜襲来事件の時に。」
「海、それどういうこと?本人に聞いたの?」
「あ、そっかかなこにはまだ伝えてなかったか。黒竜襲来する前日に私がみんなのオーラが見えるって話したの覚えてる?」
あぁ!前夜に海のスキルについて話に行った時に海がそんなことを言ってた!私には緑色、チャミ君とジョン君には青色のオーラが見えると。他の人にもオーラが見えるか確認しようということになっていたのだった。
「それどころじゃなくなったけどそれ確認できたの?」
海はゆっくり頷いて話始めた。
「人間は黄色、獣人は青色、かなことペーター君は緑色。多分異世界人は緑色なんだと思う。魔力の強さがオーラの大きさに比例しているみたい。魔力の強いかなこやダルシオンさんはオーラが大きかったけど使用人達は小さかった。ほんのりしかオーラが見えない人もいて、その人は魔力がほとんどないって言っていた。つまり魔法は使えないってこと。ちなみに黒竜は赤色で魔族は紫色だった。」
魔族の色まで見てたとは。あの大変な時にそこまで見ていた海に感謝すべきだろう。
「あとね…。」
海が何か言い淀んでいるのを見て話し出すのを待った。
どうしたのだろう?
すると意を決したのか海が話し始めた。
「食べられる瞬間、黒竜の気持ちがわかった気がしたの。何か困ってここに来たみたい。それでその後…卵の中?にいた時に黒竜の夢を見た。」
「もしかしてエンパスってスキルのせいで黒竜の事がわかったとか?」
「多分。」
海のスキルには謎が多い。強い共感能力ってだけで実用には至っていなかったからだ。
「その夢ってのは?」
もうひとつの疑問についても聞いてみる。
「うん。夢みたいだったからうろ覚えなんだけど、黒竜目線のものだった。西大陸で魔族に見つかって追われて東大陸に逃げてきたらしい。竜族…?っていうのはこの世を守る…浄化する使命があるんだって。でも黒竜は闇魔法だから浄化はできない。だから身を隠してたみたいなんだけど見つかっちゃったからこっちに逃げてきた。しかも卵を産む時期で時間がなかったみたい。竜族ってなんだろう?」
西大陸にも魔族はいるって聞いたな。黒竜も西大陸にいる存在だってことも。竜族か…。
私は自分が知ってる情報を海に話した。
「海。なんかの文献で読んだんだけどね。竜族っていうのはこの世に1匹しか存在しないんだって。卵が孵化すればその卵を産んだ竜は死んじゃうみたい。同じ竜が同じ時に複数存在しない。それに竜は色々種類があって、それぞれの魔法に特化した存在らしい。黒竜は闇魔法、赤竜は火魔法、青竜は水魔法、緑竜は風魔法、黄竜は雷魔法、橙竜は土魔法、白竜は光魔法。」
一気に話したから海ついてこれてるかな?
「海どう?理解できてる?」
海は顰めっ面をしていたが
「まぁうん。なんとかついていけてる。」
と答えた。
「じゃあもうひとつ。黒竜は魔族の瘴気から産まれたって話があるの。海もクラーケン食べたんでしょ?あれね、普通は食べちゃダメ。海はそれで魔族になりかけたんだよ。だから黒竜に食べられても魔族になりかけてた海は生きてたんだよ。」
「えぇ?!魔族に?!どういうこと?私魔族じゃなくて竜になったよ?」
いや、まぁ魔族どころか竜になっちゃったけど…。
「とりあえずそれは置いといて、まずは瘴気の話ね。魔物を食べた者は『転化』するの。獣は獣人に、人間は瘴気そのものに。異世界人は魔族に。そして竜はその大量の瘴気から生まれた。」
そこまで一気に話して海を見ると、うーん、うーんと言いながら一生懸命頭の中を整理しているようだ。
私はふふっと笑って海を撫でる。
「ちょっとかなこさんや!この姿でも中身はあなたと同い年なんだよ。撫でないでくれよ。」
鬱陶しそうに私の手を払おうとする。
「あーごめんごめん…ナデナデ」
海なのは分かってるがどうも小さな黒竜だから可愛くて撫でてしまう。
そのうち諦めたのか海はされるがままになっている。顔は不貞腐れてるけど。
「さて、海さん。今までのを整理しますか。」
「やっとかい…」
そう言って海はため息をついた。
黒竜だけでなく竜族はこの世界の浄化をしなければならない。でも黒竜は正反対のことをしてしまうから姿を隠していた。しかも西大陸の魔族に追われている。東大陸の魔族も欲しがってた。魔族にとってはご馳走のようなものだから。
海はエンパスの力で魔物と意思疎通ができる。そしてその海と私が意思疎通ができる。海は人間と魔物の橋渡し役と考えていいのだろう。
しかも海はオーラが見えるから種族がわかる。つまり人間の姿で隠れている魔族も見つけられる。ちなみに異世界人も見つけられる。ペーター君のような存在を救えるかもしれない。
ここまでの話でやはり疑問は尽きない。
「結局、黒竜は海に何をして欲しかったんだろう?この世界の浄化?でも黒竜はそれが出来ないから隠れてたんだよね?子ども黒竜とは話せないの?」
「黒竜に切り替わるとその間の出来事は知らない。だから黒竜とも意思疎通できたことがない。」
そうか…やはり難しいか。
これはもう私と海だけで解決できるようなことじゃないんだろう。頭のいい人達に聞いてみるしかない。
「海。宰相さんとかダルシオンさんに話してみよう。何か策が出てくるかもしれない!私たちより断然頭いいからね!」
「確かにそうだね!よし!かなこ私を抱えてダッシュ!いつ黒竜と切り替わるか分からないから!」
「任せよ!」
そう言って私は海を抱いて全力ダッシュした。
魔法室ではカルロ、ダルシオン殿、宰相である私が揃って例の作戦を練っている。
「やはり僕らが島に行くのが手っ取り早いだろうけど…。その間の国の防衛が不安だね。」
「島に行ってやっぱり魔力足りなかった…じゃ笑えませんからね。」
カルロ、ダルシオン殿の意見も最もだ。
「では国の方は別の策を投じますか。」
2人揃って
「別の策?」
と聞いてきた。
私は笑みを崩さずハッキリと言った。
「攻めてくる可能性のある魔族領と一時的にでも同盟を組むのです。」
2人は時が止まったかのように固まった。
「あなたは何をすっとぼけた事を言ってるんです。」
「そうだよサントス!ついこの間いさかいを起こしたばかりだ!」
やはり反論されましたか。
「だからこそです。あの戦いでこちらもですが、あちらも手痛い目にあっています。ナギは腕を切り落とされ、シュウも手傷を負った。そう簡単に治らないでしょう。しかもその2人は四天王。最高戦力とも言われた2人が手傷を負ったのですし、向こうの士気も下がっているはず。同盟という手はお互いの傷を癒す期間にもなります。」
2人はうーんと悩んでいる。
そうは言ってもそれは表向き。実際フェルス王国は魔族領と仲良くしたいという意思表明をしている。この気に同盟という恩を売っておけば後々楽になるでしょう。少しでも警戒を解いておけば奴らを根絶やしにする機会も巡ってくる。国王の意思には反するが、このフェルス王国のことを考えれば当たり前の手段だ。
「もちろん私が使者として魔族領に話に行きます。」
そう言うと2人は目をかっぴらいて
「えぇっ?!サントス自らかい?」
「まだ極寒ですよ。死にますよ。」
この2人面白い反応するなぁ。
「えぇ。だからこそ私が行くのです。こちらの本気度が伝わるでしょう。それに今回はナギ、シュウは来ません。恐らく四天王の中でも話の通じやすい方が来てくれると信じています。なので護衛は第一騎士団にお願いします。」
そう言うと2人は顔を見合せて溜息をつき頷いた。
「国王の許可が貰えたら俺たちも許可します。それでいいですよね?カルロ殿?」
「あ、うん…。分かったよ。ただし僕も行くよ。心配だから…。」
以外だった。あの臆病で卑屈なカルロが自ら行くだなんて。ダルシオン殿も驚いたのか、何も言わないが驚いた顔をしている。
私は笑みを絶やさず言った。
「カルロは島に行くのでしょう?私は大丈夫です。」
「でも!島に行く前に使者として行けば…。」
「時間の無駄ですよ。使者として会ってる間にさっさと行ってしまう方が楽です。」
「ダルシオン…うーん…わかったよ。」
ようやく断念してくれましたか。こんなに食い下がるカルロは珍しい。
私はつい口元が緩んでしまうのを隠すために
「では国王に進言してきます。」
と言ってその場を去った。
王の間へ向かいながら私は思案する。
私は宰相。フェルス王国のことを第一に考えなければならない。たとえ他のものに嫌われようとも国に忠義を尽くし、国にとって最善の策を講じるのが役目。プライベートでの人との関係など二の次だ。
今回この作戦が上手くいき、魔族領に我々の意思が伝われば彼らの油断を誘えるかもしれない。そうすればあの人もうまく動けるようになるだろう。そしてそのまま同盟を続けるも良し、内側から壊していくも良し、東大陸の魔族を早めに潰しておくに越したことはないのだ。なんせ本隊は西大陸なのだから。
最後までお読みくださりありがとうございます。
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