番外編 ルーク
番外編です。
読まなくてもいいように本編は書くつもりですが、読めばより理解しやすいかと思います。
《注意》少しグロい表現があります。苦手な方はご注意ください。
私が育ったのはフェルス王国の小さな村だ。魔族領との国境にある山間にあり、そこにはドワーフが住んでいた。
ドワーフは人間よりも背丈が小さいが、屈強な体つきをしており、長い髭を蓄えている。そして女性は存在せず、男性のみの種族で、何十年か一度に石から生まれる。鍛治職人や宝石職人が多く、その職人技を使って生み出した武器や宝石を売って生計を立てている。この村もフェルス王国や、他国からの注文品を作っている。
私は幼い頃、魔族に家族を殺された。残った2人の幼子をこの村のドワーフ、ロドリーが拾って育ててくれたのだ。
他種族を毛嫌いするドワーフが人間の子供を拾うなんて話聞いたこともない。だがロドリーは少し変わったドワーフだったのだろう。
「兄ちゃん!僕も連れてってよ!」
「ダメだ。マルコ、お前は家にいなさい。宝石採掘は危険なんだ。まだ早い。」
採掘に行く時の服を羽織りながら弟をピシャリと叱る。
「おーい。ルークもう行くぞ!」
ロドリーが私を呼びに来た。急がなければと返事をしながら手袋をはめる。
「あ、はい!今行きます!」
「なんだ?またマル坊が騒いでんのか?オメェにはまだ早ぇよ。」
ロドリーが扉を開けて顔を覗かせた。そして私と弟の状況を察したのか言葉を発する。そして弟を止めてくれる。
「ロドリーもこう言ってる。マルコ大人しくしてろ。な?」
言い聞かせるように口を尖らせている弟に言うと、
「…わかった…。」
と、渋々といった顔で了承してくれた。
いつもの事とはいえ全く…。
「いい子だ。じゃあ行ってくる。」
そう言って弟の頭を撫でてやる。するとすぐに笑顔が戻る。
採掘場に向かう途中ロドリーが話しかけてくる。
「マル坊も連れてってやりてぇがまだ小せぇからなぁ。刃物研ぎだって危ねぇからやらせたくねぇがついつい甘やかしちまう。」
弟がロドリーに手伝わせてくれと喚いたらしい。それに対して仕方なく刃物研ぎのやり方を教えたそうだ。相当喚いたのだろう。私が居ないところでそんなことをしていたとは知らなかった。その後話を聞いてすぐ弟を叱ったが、ロドリーが私を止めた。そういう所が甘いのだロドリーは…。
「いつもすみません…。私がもっと言い聞かせます…。」
弟の頑固さにため息をついてロドリーに謝る。
「はっはっは!気にすんなよ!兄貴のようになりてぇのさ!それにマル坊は鍛治のセンスがある。刃物研ぎ上手いし俺も助かってんのよ!」
ロドリーは弟にセンスがあるとかで許してくれている。宝石採掘に時間をさけるからむしろありがたいと言うが、私としては危険なことはさせたくない。弟もそうだがロドリーもロドリーだ。たまに恩人であるこのドワーフを殴りたくなることもある。
そんな私の心境などお構い無しにロドリーは話を続ける。
「それにルーク。お前もいつの間にかデカくなりやがって…。全く人間ってのは時の流れが早くていけねぇよ。お前らを拾ったのが昨日のことのようだぜ…。」
話しながら昔を思い出してるのか、グス、っと涙を浮かべている。
また始まった。
「こんな小さくてよ。目離すとすぐどっか行っちまってハラハラしたもんだ。それによ…」
すぐ昔の話をする。こんな小さかったのに…と。
私はため息をついてロドリーの昔語りを中断させる。
「ロドリー。もう着きますよ。鼻水しまってください。」
「おぉ!なんだもう着いたか!」
仕事になると急に人が変わるのもいつもの事。家では一人で酒を飲みながら昔語りで泣いているのに…。
「さぁ!今日も掘るからな!気合い入れてけよ!」
元気に洞窟へと向かうロドリーの後ろを呆れながらついて行く。
留守番の僕は家の掃除をしたりご飯を作ったりして兄ちゃんを待つ。たまにロドリーの手伝いで武器を研いだりもしている。ロドリーに頼んで刃物研ぎだけはやらせて貰っているが、いつも褒められるから結構得意だ!
夕飯のシチューを混ぜていると家の扉が開いた。
「ただいま。」
「おかえり兄ちゃん!…どうしたの?なんかあったの?」
いつもと違った兄ちゃんの様子が気になって聞いてみる。すると不安そうな顔のまま話してくれた。
「旅人が来たんだ。獣人と…もう1人はマントを着てて姿はわからなかったが魔法を使えるらしい。」
「えっ?!何しに来たの?」
人間が商談でくるのはたまにあるが、獣人と魔法使いは初めてだ。つい身を乗り出して聞いてしまった。
「それが…魔石を作ってもらいたいらしい。」
兄ちゃんはなんでそんなに不安そうなんだろう?
魔石なんてよく依頼されて作ってるのに…。
「魔石って…魔術師が強い魔法を使う時に使うやつでしょ?たくさんの魔力がないと作れないってロドリーが言ってた。」
「あぁ。だがそのマントの奴が相当魔力が強いらしく作れるらしい。あと獣人も右腕に魔力封じの刺青をしていたから魔力を溜めてるんだろう。魔石が出来上がるまで村はずれの山小屋に寝泊まりするみたいだから近づくなよ?」
魔石を作りに獣人と魔法使いが来るなんて…見てみたい!と思っていたところに兄ちゃんの禁止令が出た。
「こっそり見に行くのもダメ?」
顔色を窺うようにきいてみるが、
「ダメだ!人間嫌いのドワーフの村に人間がいるなんて知られたら、たくさんの人間が興味半分で来てしまう。そしたら村の人たちに迷惑かかるだろ。」
と一刀両断。仕方ないと諦めて、
「はーい。」
という。
「いい子だ。」
そう言って優しい顔で頭を撫でてくれる。僕はこれが好きだ。兄ちゃんに頭を撫でてもらうこの瞬間が。
兄ちゃんも暫くはマントを着て姿を隠しながらロドリーの手伝いに出ていく。僕も家から出ないようにと言われている。
でもどうしても気になってしまった。
村はずれの山小屋には村からの細道がある。けど僕はその道を外れて藪の中を進む。この辺りはよく歩き回ってるから迷子にはならない。庭のようなものだ。
藪の中から山小屋の様子を窺う。煙突から煙も出てない。
「本当にいるのかな?」
独り言を呟いて身を乗り出しながら山小屋を見ていると、突然後ろから声がした。
「誰だお前。」
警戒したような低い大人の声。
ビクリと体を震わせて、恐る恐る振り向くとそこには虎の獣人が立ってた。左目に傷跡がある。僕の何倍も大きな体で、手には槍を持ってる。
「ん?お前人間の子どもか?なんでこんなとこに?」
獣人が訝しげに僕を上から下までじっくり見てくる。そしてハッとして
「まさかこの村に?!」
と大きな声を出したから、
「しーー!」
と、慌てて口に指を当てて静かにしろとジェスチャーした。
「悪い悪い。」
その様子に慌てて口を閉じ僕の前にしゃがんで謝ってくる。
なんか悪そうな人ではなさそう…。雰囲気がロドリーに似てるのもあってか僕は警戒を解いてしまい、僕がこの村に住んでることを教えた。
すると話を聞いた獣人が
「へぇ。あの人間嫌いのドワーフがねぇ。変わったやつもいるんだな。」
と、珍しそうに僕を見ながら言った。
「僕はマルコ。君は?」
「俺はモーリス。よろしくな!」
自己紹介をするとモーリスはニカッと笑って名前を教えてくれた。そして色々教えてくれた。
「奴隷だった俺をアイツが助けてくれたんだ。アイツ魔術師でさ。国捨ててまで俺を逃がしてくれたんだ。なにか恩返しがしたいって言ったら魔石が欲しいってんでここに連れてきたのよ。」
国の魔術師なのに国を捨ててまでモーリスを助けてくれたのか。凄い人だ。優しくて強くて、まるで兄ちゃんみたいだ!
「いい人なんだね!」
僕がそういうとモーリスも目をキラキラさせて
「おう!いいやつなんだよ!ナギっていうんだ!」
と、言った。
僕は初めて友達が出来たことに舞い上がった。
いつかナギって奴にも会いたいなぁ。きっと兄ちゃんみたいにかっこよくて優しい顔した人なんだ!
お互いの話をしていたらいつの間にか夕方になっていた。
「あ!僕帰らないと!」
慌てて立ち上がった僕を見てモーリスは笑っていた。
「おう!じゃあまたな!」
「うん!またねモーリス!」
僕たちはそう言って別れた。
その様子を山小屋の中からじーっと見ている人影があることなど僕たちは知りもしない…。
その後もモーリスと会って色んな話をした。
この村の外のこと、獣人の扱い方に不満があること、僕の兄ちゃんのこと、ドワーフのこと。
まるで昔からの友達のように色んなことを話して笑った。そして一緒に怒ったり悲しんだりした。
今日も兄ちゃんが出ていった後、僕はモーリスに会いに山小屋近くの大きな木の下に来ている。モーリスとは毎日ここで会っている。
だがいつまで待ってもモーリスは来ない。
「モーリス今日は忙しいのかな?」
少し不貞腐れたように言いながら葉っぱをちぎってポイッと投げる。
ドーーン!!
村の方から地響きのような音が聞こえた。木々が揺れ、鳥も慌てて飛び立っていく。僕はしゃがんでいたけどその音にびっくりして尻もちをついたほどだ。村から外れたこの辺りでも大きな音がしたのだから相当だ。
僕は急いで村に走った。
鍛冶場があるからそこで何かあったのか、宝石採掘の洞窟で何かあったのか。僕は兄ちゃんとロドリーの顔が頭に浮かんで怖くなった。
何かあったんだ!兄ちゃん!ロドリー!
森をぬけて村に出た瞬間僕は立ちすくんだ。
目の前には想像を絶する光景が広がっていた。村の真ん中に大きなクレーターのようなものがある。村の半分が消えている。残ってる家も崩れかけている。
クレーターの周りの砂埃が消えていき人影が見える。目を凝らしてその人影を確認する。
「兄ちゃん!」
膝をついて下を向いてる兄ちゃんが目に入り急いで向かった。
「兄ちゃん!」
声をかけて触れようとしてピタリと手を止めた。
「えっ…」
兄ちゃんは石になってた。周りを見ると同じように石になってる村人達がいた。
ガシャーン
驚いて音の方を向くと、マントを着た真っ赤な長い髪の人間の女が立ってた。左手には魔石を持ち、もう片方には誰のか分からない腕を持ってる。そして今しがたドワーフであっただろう石像を蹴り壊した。しかもよく見るとそのドワーフはロドリーだった。
その女は僕に気づくとおぞましい顔でニヤリと笑った。
僕はその場に尻もちをついて動けなくなってしまった。何があったのか分からないが逃げなければいけないと脳が危険信号を出してる。でも恐怖で体が動かない。
「おや?お前はマルコだったかな?モーリスと仲良くしてくれてありがとね。」
歯がガチガチ音を立てる。
「モーリスならここに居るよ。」
そう言うや女は右手を持ち上げた。
まさかあの腕は…モーリスの腕?!
モーリスに何をした?兄ちゃんに何をした?村の人たちに何をした?
聞きたいことが山ほどあるのに声が出ない。
女は目の前に来て僕を見下ろしてる。
「かわいそうに。ここに戻ってこなければ生きてられたのにね。」
女が笑顔を絶やさず僕に向かって言ったかと思ったら、突然お腹に強い痛みを感じ、気づいたら家の石壁に叩きつけられていた。お腹と背中に強い痛みと衝撃を感じて息ができない。空気を入れようとすると体が拒むのか、むせてしまう。視界もクラクラとしてきた。
「ナギ!」
聞いたことのある声がした。霞む目で見ると、そこには右腕を失い、体もボロボロなモーリスが立っていた。
「まだ生きてたか。お前はもう用済みだよ。魔力はこの腕があれば充分さ。」
そう言うと女は右手に持ってたモーリスの腕を食べた。噛みちぎって飲み込んでいく。
ブチッ!ボキッ!ゴリゴリ!
肉が裂け、骨が噛み砕かれる音が響く。
僕は耐えられず吐いた。
お腹も痛い。背中も痛い。息も上手くできない。立つことすら難しい。こんなに苦しいのは初めてだ。涙が溢れてくる。
助けて…兄ちゃん…。
突然のことだった。魔石を手に入れ、代金の話をドワーフとしていたら後ろから笑い声が聞こえた。
「ふっふっふ!」
振り返りナギを見ると魔石を見つめて笑っていた。
「ナギ?」
不思議に思い、ナギに声をかけた。
すると目の前がピカっと光った。爆風に飛ばされ石壁もろとも吹き飛ばされた。
獣人だからちょっとやそっとじゃ意識を失うことはない。だが突然で受け身も取れず、さすがにクラクラする。
気づくと目の前にはナギが立ってる。そして手を差し伸べてくれてる。
「ナ、ナギ…いったいなにが…」
差し伸べられた手に右手を乗せて聞こうとしたら蹴り飛ばされた。壁に叩きつけられたが直ぐに立ち上がろうと手を地面につこうとしてバランスを崩した。見ると右腕がない。肩から下が無くなり血が吹き出ている。ようやく自分の右腕が無いことを脳が理解したのか痛みが俺を襲う。
「ぐ、ぐぁぁぁぁ!」
その場にうずくまり肩を抑える。だが血は止まることを知らず赤い水たまりが大きくなっていくだけ。
飛びそうになる意識の中ナギを見ると、おぞましい顔でニヤリと笑っている。手には俺のであろう腕が握られている。
どのくらい意識を失っていたのか、話し声が聞こえて気がついた。ナギが目に入り一気に体が熱くなる。
「ナギ!」
でかい声でナギを呼ぶ。
「まだ生きてたか。お前はもう用済みだよ。魔力はこの腕があれば充分さ。」
そう言うとナギは俺の腕を食っていく。
「て、てめぇ。始めから俺の魔力が目当てか!」
ナギに向かって吠えるように言う。
ニヤリと笑ったナギは口元の血を拭い、
「当たり前だろ。これでやっと元の姿に戻れる。」
と言った。
するとナギの背中に竜の翼のようなものが生えてきて、頭にもツノが生えてきた。メリメリと肉が裂ける音がする。パキ!ポキ!という骨の音も聞こえる。
ナギは人間から魔族の姿になったのだ。
「あははははは!」
ナギは歓喜に満ちた声で笑った。俺は歯を食いしばって睨むことしかできない。
ナギは人間ではなかったのか?魔術師として南の国に仕えていたはずだ。
「ナギ…。お前人間じゃねぇのか…」
するとナギはあのおぞましい顔でニヤリとしながら
「あたしはね…魔族だよ。魔族は魔力を大量消費すると人間の姿になってしまうのさ。再び魔族に戻るには大量の魔力が必要なんだよ。わかるかい?あんたはね、あたしのエサだったんだよ。」
と言った。
エサ?なんで…そんな…。俺はお前を信じてたのに…。奴隷から助けてくれたじゃねぇか。国を裏切ってまでそんなことしてくれるなんて…って…思ってたのに…。
返す言葉も見つからずにナギを見つめている。すると俺の事など目に入らないような素振りで
「さて。この村も消してあげようか。もう誰も住んでないんだから。」
とつまらなそうな顔をして言った。
するとナギの左手にある魔石が光り出した。
さっきと同じだ!
俺は止めようとナギに飛び掛ろうとして躊躇った。ナギの後ろに友達の姿が見えたからだ。大事な友達。俺を獣人だと蔑まずに真っ直ぐな目で俺を俺として見てくれた友達。
そして魔石が真っ黒な瘴気を放ちながらピカっと光った。
「やめろーーーーー!」
俺は声を上げて地面を蹴った。
気がつくと岩だらけの地面に僕は横たわっていた。すぐ側にモーリスの丸まった背中が見える。右腕には血が染み込んだ布が巻かれている。それに耳も尻尾も垂れ下がっている。
「…モ…リス……。」
声をかけるとモーリスはバッと振り返った。涙でぐちゃぐちゃな顔だ。
「マルコ…良かった……ごめん。」
モーリスは涙をパタパタと地面に染み込ませながら何度も、ごめん、という。何度も、何度も。
僕はそんなモーリスを見つめた。
僕はようやく起き上がれるようになり、モーリスに何があったか聞いた。
あの光に包まれた瞬間、モーリスが僕を抱えて逃げたらしい。
あの一瞬で僕を助けてくれたなんて…獣人って本当に足が速くて凄いなぁ。
と、僕は場違いなことを考えている。
モーリスの話だと、村は完全に消えたそうだ。ここが村があった場所だと言うのだ。周りには岩だらけのさら地しかない。家も鍛冶場も宝石の洞窟もない。跡形もなく消えている。
周りを見渡してる僕の顔の前にモーリスの拳が出てきた。首を傾げながら手を差し出すとそっと掌に何かを置いてくれた。
宝石の欠片だ。
「ごめん…これくらいしかここが村だった証になるようなもの見つからなくて…。」
そう言うとモーリスはまた下を向いて、ごめん、と言った。
僕は掌にある宝石の欠片を見つめた。
兄ちゃん達が洞窟で採掘した原石をドワーフ達が磨き、削って宝石にする。ただの石が透明でキラキラした宝石になっていくを見るのが好きだった。魔法が使えないドワーフや僕と兄ちゃんにとって、その変化は充分魔法だった。
ここは本当に僕が住んでたドワーフの村だったんだ。ロドリーも兄ちゃんも石になってた。そしてあの光でみんな居なくなってしまったんだ。
掌にある宝石の欠片がキラリと光った気がしてその欠片をギュッと握りしめた。そして僕はモーリスに抱きついた。モーリスはオドオドしながら
「ど、どうした?!」
と言った。
僕は突然涙が溢れ出して大声で泣いた。涙が止まらず声も止められずモーリスにしがみつくようにただただ泣いた。
その後、モーリスと一緒に冒険者として過ごした。槍の使い方も習った。魔法は使えなくなったけどモーリスは強かった。
そして僕はルークと名乗った。
あの女、ナギが『マルコ』を知っているから危険だということで、兄ちゃんの『ルーク』を名乗ることにした。
「ルーク!話し方まで変えなくていいんじゃないか?」
モーリスが聞いてくる。だが今更何を言うんだとジロリと見て答える。
「いや、この話し方が兄のルークなんだ。だからこのままでいい。」
「そっか…。ならいいんだ。」
あれからずっとルークでいるのに何故今更聞いてきたのか分からない。だがまた変なことを考えているのはわかる。
「モーリス。またしょぼくれてる。しっかりしてくれ!」
気合いを入れようと背中をバシッと叩く。
「いて!わ、わかったよ!」
背中を擦りながら言うモーリスはいつもとは違う。何か隠してるように見える。すると思い出したようにまた話し出す。
「そうだ!この国の騎士団募集してたぞ!お前騎士団入れよ!」
「はっ?!なんで?!モーリスはどうするの?」
騎士団なんて思いもよらない言葉が出てきて驚いてしまった。
「俺はほら…もう片腕ないし魔力もないから騎士団は無理だよ。でもお前はいける!槍も俺より上達したし、かなり強いぞ!」
隠してたのはこの事か。
私はモーリスをジッと見つめる。
「……」
私が黙っているのが気になったのか目を逸らしながら、
「冒険者より騎士団の方が食いっぱぐれないしさ!」
と、妙に明るく言う。
「……もしかして…」
と、窺うように言うとモーリスの目が泳いだ。
いかにも動揺してます、といった様子のモーリスにピシャリと言う。
「モーリス。勝手に私の名で応募したな?」
諦めたのか項垂れ、そして開き直ったように頭を掻きながら
「…あはは。バレたか。」
と言った。
「はぁぁ。で?どうすればいいんだ?」
応募してしまったのなら仕方ない、と思いため息をついて聞くと
「あそこ行って名前言えば、入団試験受けられる。そんで受かったら晴れて騎士団!」
っと親指をグッと立てて言う。しかもいい笑顔付きだ。
「…はぁぁ。わかった。一応試験受けるよ。ただし!モーリスも受けること!」
「えっ?!いやいや俺は無理だよ!」
私の出した条件に手をブンブン振って断ろうとする。
「……」
黙って見つめていると
「そ、そんな怖い顔すんなよ。分かったよ。」
と、観念したように条件をのんだ。
そして2人揃って試験を受けた。
私は入団試験をクリアし騎士団に入った。モーリスは受かったらしいが辞退した。辞退したことを問い詰めたが笑って流すばかりでまともに答えてくれない。
そしてモーリスは城下町の片隅で小さな研師として店を構えた。
「モーリス。いるか?槍の手入れをしてくれ。」
「お!ルーク!なんだまたか?最近荒っぽい使い方してんのか?」
「余計なお世話だ。それよりちゃんと客ついてるのか?刃物研ぎの技を教えてやった私の立場も考えてくれよな?」
「分かってるよ!お前のおかげで研師の仕事は順調だよルーク。」
いつも通りの会話。
昔から変わらない関係。
「俺はお前に槍の使い方。お前は俺に研ぎ方。お互い教えあったもので生計立ててる。変な関係だよな〜」
モーリスが私の槍を手入れしながら言う。
私はそんなモーリスを見て、ふっと笑って答えた。
「あぁ。そうだな。」
最後までお読みくださりありがとうございます。
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