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第二十二話 魔法と転化

理解できないところあったらコメントください。


ここは魔法室。窓の外には真っ白な雪景色が広がっている。暖炉で火がパチパチと音を立てている。

「さて、ナコ殿。」

ダルシオンさんの声が響く。

「色々ありましたがあっという間に冬になりました。冬のフェルス王国は初めてだと思いますが、以前話したように、今この国は雪で閉ざされています。魔物の出現も減り、他国からの攻撃もほとんどありません。つまり、俺たち魔術師が外に出る機会はほぼゼロ。」

そこまで言ってダルシオンさんは私を見る。

「つまり分かりますね?」

高圧的な言い方に私は目を伏せた。そして小さな声で問いに答える。

「魔法の研究にもってこい…。」

「そうです!その通り!」

大きな声でそう言って、よく出来ましたと言わんばかりに拍手をしてくれる。

全然嬉しくないです。鬼畜魔術師様。

「まず魔法についておさらいしておきましょう。忙しくて魔法の話も久しぶりでしょう。あなたの天才っぷりは知ってますが知識は詰め込んでおくに限る。」

彼はそう言うと魔法について説明し出す。


魔法には火、水、風、土、雷、光、闇の7属性ある。これを応用して防御魔法や感知魔法を使う。どの魔法も基本はこの7属性だ。しかし、光と闇は使える者が限られており、光属性に関しては昔の文献にもほとんど出てこない。闇魔法は魔族が得意だ。

人間は魔力が高ければ、光と闇以外の5属性の中から1つ使える。2つ以上使えれば引く手あまただ。そして5属性の魔法を使える人間は魔術師と呼ばれ、国に仕える。

そして獣人は魔法を使うのに長けていて、2つ以上使えるのがほとんど。5属性使える者もいるらしいが魔術師として国に仕えてる者はいない。昔の奴隷制度の名残りか、国に仕えようという考えには至らないそうだ。


「ここまでは理解できてますね?」

ダルシオンさんが言うので私は頷く。

「では続きにいきますが、先に言っておきます。ナコ殿が黒竜に最後放ったアレは光魔法です。俺も初めて見ました。」

突然の事で驚いた。前から聞こうとは思ってたが忙しくて忘れていた。

「光魔法って闇魔法に効果的な魔法ですよね?しかも文献にも残ってないくらい希少な魔法…。」

私が言うとダルシオンさんはニヤリとした。極悪人みたいなニヤリ顔。

嫌な予感がする…。

「その通り。つまり光魔法を使った防御魔法が使えるので魔族領からの攻撃に()()()効果的です。」

嫌な予感は的中。しかもあんなに強調して言わなくても…。

私はこのフェルス王国に召喚された時に頼まれた事を思い出した。


『国ごと丸々覆う防御魔法を生み出して欲しい』


「もし国を覆う防御魔法が完成していれば黒竜も追い払うことが出来たかもしれません。」

ダルシオンさんの言葉に私は心がズキっと傷んだ。

私がもっと早く魔法を習得してコントロール出来てれば防御魔法は完成してたかもしれない。そしたら海はあんなことにならなかったかもしれない。

そんなネガティブなことを考えていたのを見抜いたのか、ダルシオンさんがため息をついて言った。

「凹む暇があるなら魔法のコントロール出来るようになってください。」

「…はい。」




「なぁシルビア。」

俺は向かい側で飯を食ってるシルビアに話しかける。

長い机が並んだ食堂。その机の両側にズラーっと並んで飯を食うのが俺たち騎士団の食事風景だ。

「団長だ。『シルビア団長』。」

シルビアはパンをちぎりながら俺を睨んで言う。

「なんだよ。別にいいじゃん。」

口を尖らせて言うと、シルビアはため息をついて

「で?なんだよ?」

と言った。

「この飯の肉なに?」

「……は?牛じゃね?」

一瞬止まったがシルビアはそう答えた。なぜそんなことを聞くのかといった顔だ。

「この国って海にも接してるじゃん?だからクラーケンとか食いたくねぇ?しかも肉もさ、もっと魔物肉の方が味が濃くて美味(うま)いしさ。」

俺が島で食ってた飯の味を思い出しながら言うと、シルビアはパンをぽとりと落として俺を見つめた。しかもものすごく驚いた顔で。

その反応を見て俺も、え?っと声を出して止まってしまった。

「お、お前…魔物食ったことあんの?」

恐る恐る俺に聞いてくるシルビア。

「お、おう。」

俺もつられてオドオドしながら答える。

すると隣で俺たちの会話を聞いていたジョンがシルビアに聞いた。

「この国では魔物食べないんですか?」

シルビアは顔をしかめた。そしてものすごく心配そうな顔をして言う。

「当たり前だろ。魔物なんか食ったら転化しちまうだろ。お前ら体大丈夫なのか?一度ダルシオンに診てもらえ。」

シルビアが言った『転化』がよく分からない。だが俺たちはなんかヤバいことを聞いてしまった、そしてヤバいものを食ってたことに驚いて顔を見合わせる。

そのまま飯を食べるのを再開したシルビアは何も言わなかったが、俺とジョンは飯が喉を通らなかった。


食堂を出た俺とジョンは真っ直ぐ魔法室に向かった。

「ジョン…。魔物って食ってたよな昔から…。」

「う、うん。」

「島の奴らもみんな食ってたよな?」

「う、うん。」

俺とジョンはそんな話をしながら足早に魔法室に向かっている。少し…いや、かなり焦っている。

そして魔法室につくと、ノックをして返事も待たずに扉を開けた。

部屋の中には活き活きと話す魔術師ダルシオンとゲッソリした顔のナコちゃんがいた。

俺たちの訪問に驚いたのか2人ともこっちを見て固まっている。

「何か御用ですか?」

邪魔をされたのが嫌だったのか、苛立ったような声でダルシオンが聞いてきた。

「魔物って食ったらどうなるんだ?!」

俺はここまで来た勢いのまま聞いた。ジョンも隣で息を飲みながら答えを待ってる。

ダルシオンは眉を(しか)めて俺たちを見て、余りにも必死そうな様子だったからなのかため息をついて答えてくれた。

「魔物を食べると体内に瘴気(しょうき)という毒が溜まっていきます。その瘴気が溜まると『転化』という状態になります。転化とは、体から瘴気を放つようになり、いづれ瘴気そのものになっていくことです。最終的には肉体が黒い霧状、つまり瘴気になって消えていきます。」

俺とジョンは不安に駆られた。

え?俺たちいつか霧状になんの?島の奴らもみんな?

そんな俺たちの事など関係ないかのようにダルシオンは続ける。

「言い伝えですが、ある村では魔物を食べる習慣があったそうです。その村では村人全員転化してしまい、その瘴気が集まって竜が生まれたと言われています。その言い伝えを研究していた何百年も昔の大魔術師はこう言ってます。『魔物は人間の死体から発した瘴気から生まれたのではないか。そしてその魔物を食べ、再び瘴気と化した人間からまた新たな魔物が生まれているのだ。全ての始まりは人間の愚かな過ちである。』と。」

俺は言葉が出てこなくて頭も真っ白で立ちすくんだままだ。するとジョンが震える声でダルシオンに聞いた。

「あの。ぼ、僕たちの島では魔物を食べていました。基本は魚とかなんですけど…たまに漁でクラーケンとかとれると食べてました。その…転化ってどのくらいでなるものですか…?」

ダルシオンは驚いた様子で黙ってる。ナコちゃんは慌てたようにダルシオンと俺たちを交互に見てる。

「昔から…食べてたんですか?」

ダルシオンが絞り出すように聞いてきたから俺とジョンは首を何度も縦に振った。

「とりあえず診てみましょう。そこに座ってください。」

ダルシオンは近くの椅子に座るよう指示を出す。俺とジョンは言われるままに座った。

「ナコ殿。魔力感知魔法の応用で彼らの瘴気量を(はか)ります。俺は赤い方を診るのでグレーの方をお願いします。」

「あ、はい!」

2人がそう会話をすると、俺たちの前に立ち、掌を俺たちに向けて感知魔法とやらを始めた。

俺は心臓がバクバクしているのを感じながら大人しくしていた。すげぇ怖くて不安だ。

暫くして終わったのか2人は離れた場所で話し始めた。耳がいいから聞こえてしまう。こういうとき獣人で良かったと思う反面、聞きたくないことまで聞こえてしまうのは嫌だと感じる。

「ナコ殿、どうでしたか?」

「瘴気は感じなかったです。やり方間違ってたのでしょうか?」

「いえ。俺も感じませんでした。多分…獣人だからかもしれません。」

「どういうことですか?」

「今から説明します。」

すると2人が戻ってきて、ダルシオンが話し始めた。

「お2人から瘴気は感じられませんでした。これは憶測でしかありませんが、2人は獣人なので魔物を食べても問題ないのだと思います。」

ホッとしたのもつかの間、俺は疑問を口にした。

「獣人だからってどういうことだ?」

「昔読んだ文献に書いてあったのを思い出しました。獣人は(けもの)が魔物を食べて転化した存在なのです。お2人は猫の獣人。猫が魔物を食べて転化した存在ということです。」

と、ダルシオンは言った。

「つまり…ずっと昔、2人の祖先は猫だったということですか?転化した存在だから人間の転化みたいに瘴気にならない…と?」

ナコちゃんがそう言うとダルシオンが頷いた。

ジョンが安心したのか大きなため息をついた。俺も肩の力を抜いた。というより力が抜けて放心状態だ。

「あの文献本当だったんだな…。」

とダルシオンは顎に手を当ててブツブツ言ってる。

「良かったね。2人とも。」

ナコちゃんが優しく声をかけてくれる。

いやもう本当にその通りだ。マジでビビった。

椅子にだらりと座ってナコちゃんと笑いあってると、突然ジョンが、あっ!っとでかい声を出した。

俺どころかナコちゃんもダルシオンもびっくりしてジョンを見た。

「ど、どうしたの?!」

ナコちゃんが聞くと、顔面蒼白なジョンが

「海さんも…クラーケン食べてた…。」

と言った。




ジョン君の言葉を聞いてすぐダルシオンさんは本棚を漁り始めた。何かを探してるようだ。

だが私もそんなダルシオンさんに構ってる余裕はない。チャミ君とジョン君も放置して私は卵の部屋に走った。

中に入ると王妃様がいた。私と交代で見てくれてるからいるのは当たり前だが、私が飛び込んで来たのに驚いている。

「ど、どうしたの?!」

「少し離れててください!」

王妃様の問いにも答えず卵から離れさせる。そして瘴気が出ていないか魔法で調べる。

だが、瘴気は感じられない。

私は、ふぅ、と息を吐いた。

私の様子を窺ってた王妃様が再び声をかけてくる。

「ナコ?大丈夫?何かあったの?」

そういえばと思い出して王妃様を見る。入口にいた兵士も顔を覗かせている。

「あ!えっと…だ、大丈夫です!すみません驚かせてしまって。」

慌ててなんでもないことを伝えるが、王妃様も兵士も頭にハテナを浮かべている。

「あははは…それじゃあ私は戻りますので…。引き続きお願いしまーす…。」

と、誤魔化すようにペコペコしながら部屋を後にした。


魔法室に戻るとチャミ君とジョン君が走り寄ってきた。

「突然出ていくから何事かと思ったぜ!」

「まさか海さんに…卵になにかあったんですか?!」

2人の質問攻めに苦笑いで対応しながらチラッとダルシオンさんを見る。

まだ探してるようだ。本が床に散らばっていて、もはや本に埋もれてる。

「2人はもう戻っていいよ!海にも異変はなかったから!大丈夫!」

そう言って2人を部屋の外に押し出す。

追い払うようなことしてごめん!でも今はそれどころじゃないんだ!

心の中で謝りながら扉をバタンと閉める。

そしてダルシオンさんの元へ向かい声をかける。

「卵から瘴気は感じられませんでした…。」

少しの間を置いて

「でしょうね」

と短く返ってきた。

「なんの本探してるんですか?」

またも少しの間を置いて返事をしてくれる。

「竜について書かれたものです。…確かこの辺に……」

ガサゴソと本を引っ張り出しては中を見てポイッとその辺に放り投げる。投げられた本を拾い集めながら聞いてみる。

「竜の何を知りたいんですか?海が魔物を食べたのと関係あります?」

「あります。」

今度は即答だ。

「竜は色々種類があります。黒竜を始め赤、青、緑…もっとたくさん。ですが必ず1頭なんです。同じ竜が同じ時に複数存在しない。卵が孵化すればその卵を産んだ竜は死にます。」

ダルシオンさんが話を続ける。

つまり…黒竜はこの間倒した。今現在黒竜はこの世に存在しない。しかも卵を産まずに死んでしまった…。

そこまで考えてふと思ったことを口にした。

「その次の黒竜があの卵…つまり海…だと?」

ダルシオンさんは探すのをやめて…というより、探してた本手に持ち私を見ている。

「この本の内容は嘘だと思ってましたが、今回の件を通して、ある仮説を立てることが可能になりました。」

こういう時のダルシオンさんは楽しそうに見える。根っからの研究者なのだろう。

私たちは机に向かい、本のページをめくる。

「竜が生まれた時の話は先程しましたね?大量の瘴気から生まれたと。」

「はい。言い伝えの村の話ですよね。」

「ええ。実は黒竜には別の言い伝えがあります。」

そこまで言ってダルシオンさんはあるページを指さした。

「黒竜は魔族の死体から発生した瘴気が原因だと言われています。だから黒いのだと。しかも魔族はある特殊な人間が転化した存在だと言うのです。」

私は頭が混乱してきた。それが伝わったのかダルシオンさんは今までの話もまとめてくれた。


原因は分からないが魔物がこの世に生まれた。(一説には人間が原因らしい)

その魔物を食べた者は『転化』する。

(けもの)は獣人に。

人間は瘴気(しょうき)に。

特殊な人間は魔族に。

そして魔族から黒竜が生まれた。しかも竜は次世代が産まれたら死んでしまう。

ここで気にかかるのが魔族に転化する『特殊な人間』。


「特殊な人間って…まさか?!」

私は目を見開いてダルシオンさんを見る。

「異世界人の可能性があります。」

私はダルシオンさんに確認するように聞く。

「じゃあ…魔物を食べた異世界人である海は、魔族になりかけてた…。その海を食べた黒竜は死んだと同時に海を次世代の黒竜として卵に宿した。魔族から生まれた黒竜だから、魔族になりかけてた海も黒竜になれる…。」

ゆっくり頷きながらダルシオンさんは

「そうです。」

と言った。

異世界人の帰り方についてどの文献にも書かれていない理由がようやく分かった。異世界人はみんな魔族になってしまったからだ。

私は召喚された時からこの国に居たから魔物は食べてない。でも海は獣人の島だったから食べてる。知らなければ食べちゃうだろう。

頭の中がごちゃごちゃだ。色んなことが一気に流れ込んでくるみたい。

だが確実にわかったことがある。

やっぱりあの卵は海なんだ。海は生きてるんだ。黒竜として。

私の心には、喜びと不安が混ざった複雑な感情が芽生えた…。


最後までお読みくださりありがとうございます。


ダルシオンが頭良すぎて私がついていけない…。

説明ちゃんと出来てるだろうか…?


感想、レビュー、評価など頂けたら励みになります。誤字脱字、読みずらいなどありましたらコメントください。日々精進です。

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