第二十話 スキル能力の使い方
自室で寝る準備を済ませてからベッドで明日の井戸修繕について確認していた時、かなこが部屋に来た。話があると言っていたが不安そうな顔をしている。
私はハーブティーを入れて座ってるかなこに渡す。
「はい。ハーブティー。」
「ありがと…。」
カップを受け取ったかなこはハーブティーを口に含んで落ち着いたような顔つきになった。私も飲みながら話し出すのを待つ。
するとかなこが意を決したように話し出した。
「海。あのね。海のスキルの話なんだけど…。」
「え?私スキルないんじゃないの?」
意外な言葉に驚いた。
「実は…スキルがあったんだけど黙ってたみたい。私も昼間聞かされてびっくりしたよ。」
かなこは昼間、国王様達から聞かされた話をしてくれた。
スキル『エンパス』。高い共感能力。魔物を惹きつける能力。
魔物が自分の所に自然と集まってしまうとは。あれは襲ってきてたのではなくじゃれついてきてたのか。
第一騎士団と一緒に討伐に行った時のことを思い出す。
囮にはもってこいの人材というわけか。ということは薬草採取の時も魔物に遭遇したのはスキルのせいか。
宰相の無茶ぶりに納得してしまい、ふふっと笑ってしまった。
「海?どうしたの笑って…」
「いや。なんか宰相の無茶ぶりに笑っちゃって。」
そう言うとかなこも笑って
「先に言ってくれればいいのにね。」
と言った。
全くその通りだ。そしたらあんなに恨まずにいたのに。無駄に腹立てちゃったよ。
ふと昼間チャミとジョンに会った時のことを思い出した。
「ねぇかなこ。魔物に対しては惹きつける能力が発揮されるじゃん?」
「うん」
「人間にはどうなんだろ?私そんなに共感してる自覚ないんだけど。相手の感情はそれとなく雰囲気とかで分かるけど共感って程じゃない気もするし。」
「それがまだ分からないんだよね。共感ってもう何?って感じで。みんなお手上げだよ。」
かなこは両手を上げて降参のポーズをする。
私はまさかと思い、かなこをよく見てみる。するとかなこの周りに緑色のオーラが見えてきた。チャミとジョンより大きいオーラだ。
「海?何?顔になんかついてる?」
かなこはあまりにも私が見つめるから戸惑って自分の顔をペタペタ触っている。
「かなこの周りに緑色のオーラが見える。」
「……」
私の言葉に固まるかなこ。目が点だ。
「え?緑色…え?」
突然のことに頭がついていかないであろうかなこにもう一度言う。
「かなこの周りに緑色のオーラが見える。昼間、チャミとジョンは青いオーラだった。よく見ないと見えないけど。」
「……」
「……」
しばしの沈黙。
「えぇぇぇ?!」
かなこの大声が部屋に響き渡り慌てて口に指を当てて、しーっとジェスチャーする。かなこも口を手で塞いだ。
「ど、どういうこと?!いいいつから?!」
戸惑いを隠せないかなこにハーブティーを飲むよう指示する。そして私も飲んで、お互い一度落ち着くことにした。
落ち着いたところで私は話し始める。
「今日の昼間だよ。魔法室から出て部屋に戻る途中でチャミとジョンに会ったの。話してるうちにオーラが見えてきた。でも気のせいだろうな〜と思ってたけどさっきの話聞いて、もしかしたら〜と思って見てたら見えた。」
かなこ、口空いてる。
私はそっとかなこの顎を持ち上げて口を閉じさせる。
「じゃあ、そういう事で!」
私はかなこに手を挙げて言う。
「うん!じゃあまた明日!」
かなこも同じポーズをする。そしてかなこは静かに部屋に戻った。
明日、他の人にもオーラが見えるか確認しようという事になった。それを確認してからこの先のことを考えよう。それまで国王様達にも秘密。
私はベッドに寝転がり天井を見つめる。初めてフェルス王国に来て見た景色と同じだ。あの時はナタリーさんがそばに居た。私も不安だらけで萎縮しっぱなしだった。
でも今は違う。やる事に追われて、考えることも沢山あって、萎縮どころか大声で指示を出したり、魔物の囮にされたり大忙しだ。
「スキル…エンパス…」
小さなつぶやきは部屋に溶け込んで消えていった。
翌日。城下町の井戸の修繕に立ち会いながらみんなのオーラを確認している。街中ということもあり行き交う人が多いから観察するにはもってこいの場所だ。この街には人間も獣人もいる。チャミとジョンもそれに驚いていた。この国は本当に獣人に対しても普通だ。
「海様!こんな感じでどうでしょう?」
修繕してるおじさんに声をかけられて急いで確認する。
「おぉ!見違えるほどの出来です!おじさん凄い!」
と、素直に言葉を返すと、照れて嬉しそうな顔で
「ありがとうごぜーます!」
と元気な声を返してくれた。
「後はダルシオンさんに頼んで井戸が凍らないように魔法かけてもらうだけですね!私が伝えておくのでもう片付けちゃっていいですよ!お疲れ様でした!」
私がそう言うとおじさんは申し訳なさそうな顔でペコペコお辞儀しながら片付けてた。
井戸に魔法をかけてもらう為にダルシオンさんを探し、魔法もかけてもらったらレイチェル様かナタリーさんに報告して終わり。ダルシオンさんだけでなく2人もどこにいるか探しとかないといけない。とりあえず城にいるだろうから戻らないと。
城に戻る時も観察をする。
朝からみんなのオーラを観察していて大体分かってきた。人間は黄色、獣人は青色、かなこは緑色。魔力の強さがオーラの大きさに比例しているようだ。魔力の強いかなこやダルシオンさんはオーラが大きかったが、使用人達は小さかった。ほんのりしかオーラが見えない人もいて、その人は魔力がほとんどないと言っていた。
この事をかなこに伝えないとな。ダルシオンさん、レイチェル様、ナタリーさん、かなこ。4人もあの大きな城で探すのはかなり大変だ。まずは魔法室から探そう。
そんなことを考えながら歩いていると後ろの方が騒がしくなった。どうしたのかと振り返れば街の人が走ってきている。それもみんな血相を変えて。私は走ってきている獣人の男性に声をかけた。
「あの!どうしたんですか?」
「君も急いで逃げろ!魔物だ!大きな魔物が街に向かって飛んできてるんだ!」
彼はそう早口で言うとあっという間に走っていってしまった。私はみんなとは反対の方向に走った。魔物が来るという方向へ。
「急げ!動けるものは誰でもいいから着いてこい!」
「シルビア団長!魔物の情報が入ってきました!黒竜ではないかとのことです!」
私は武器を手に部下達に急ぐよう指示する。すると兵の一人が魔物の事を伝えに来た。
「黒竜?!そんなもんどっから来たんだよ!西大陸の魔物じゃねぇか!」
黒竜は竜の中でも上位存在だ。体は硬く魔力も強い。そして何よりデカい。聞いた話では目玉だけでも人間ほどのデカさらしい。そんなやつがなんでこんな所に。
「チッ!来ちまったもんは仕方ない。第一騎士団が先に向かってる。私らも急ぐぞ!半分は城の警備につけ!民も逃げ込んでくるから誘導してやれ!いいな!」
「「「はい!」」」
部下の返事を聞き私は急いで前線に向かう。馬に乗って向かっている途中でダルシオンを見かけたから、乗馬したまま担ぎあげて馬に乗せた。
「はっ?!おい?!ふざけないでくださいよ!人をなんだと?!」
「うるせぇ!時間ねぇんだ!このまま行くぞ!」
ジタバタと暴れる魔術師を一喝して馬を全力で走らせる。
「黒竜だとさ。どう倒すか算段つけてんだろ。聞かせろ。」
低めのトーンでダルシオンに聞くとすぐに後ろから返事が返ってきた。
「俺とナコ殿の魔法で弱らせます。体の一部にでも傷が付けられればそこが狙い目です。ルーク殿とシルビア殿なら刃も通るでしょう。一応魔法は武器に付与しますのでご安心を。」
「ナコは?」
「それが…魔物が街で出たと聞いてすぐ飛んでってしまいました。えらく血相を変えてね。」
ナコはもう街に向かってるのか。魔法使えるしルークもいるから大丈夫だとは思うが、なんでそんな急いで行ったんだ?
するとダルシオンが珍しく不安そうな声を出した。
「余計なことしなければいいのですが…。囮とか勘弁ですよ…。」
「は?どうしたよ。囮?なんの事だ?」
そう聞くと、ダルシオンは重大なことを話し出した。私にしか聞こえないような小さな声で。
「海殿にはスキルがあります。エンパスというスキルです。簡単に言うと魔物が寄ってくるんです。攻撃ではなくじゃれついてくるイメージです。なので今回も海殿のせいで黒竜が来たのかもしれません。このことは、国王、宰相、宰相補佐、ルーク殿、そしてナコ殿と海殿しか知りません。」
私は黙って聞いていた。
正直なぜ今まで隠してたのかとか、今それを言うかとか、色々言いたいことはあるが、ナコがなぜ急いで向かったのかが分かって焦っている。物凄く焦っている。
「ダルシオン。海は今朝から街の井戸修繕に行ってる。つまり前線に海がいる。だからナコは血相変えて飛んでったんだ。」
そう言うと後ろにいるダルシオンが息を飲むのがわかった。
黒竜は想像以上に大きくてどう攻撃すべきか考えあぐねている。
「ルークさん!」
後ろからナコ殿が走ってきたのを確認すると黒竜から目を離さずにナコ殿に話しかける。
「早いですね。助かります。さっきから空をグルグルと旋回してるだけで攻撃してくる様子はありません。どうしますか?」
するとナコ殿は周りをキョロキョロしている。誰かを探してるようだ。
「どうしました?」
「海が…海が朝からこの辺りの井戸修繕に来てるんです。もう城に逃げたのならいいんだけど…。スキルのこともあるし心配で。」
私はその言葉に心臓が跳ねた。
「えっ?!海殿が?!」
黒竜に見つかれば間違いなく追われるはず。嫌な予感がして焦った声のままナコ殿に聞いた。
「まさかとは思いますが彼女は進んで囮になるような行動に出ますか?」
するとナコ殿は泣きそうな顔をして
「もし逃げ遅れた人でもいたら飛び出して囮になります…きっと。」
と言った。
その言葉を聞いてすぐに部下達に指示を出す。
「逃げ遅れたものがいないか確認しろ!それと海殿を見つけたら黒竜に見つからないようにここに連れてこい!」
そして今度はナコ殿に少しキツめに言う。
「ナコ殿。しっかりしてください。あなたが海殿を守るのです。泣いてる場合ではありません。今回は魔法をコントロール出来ないなんて言わせませんからね。いいですね?」
ナコ殿は覚悟を決めたのか力強く頷いた。
すると後ろから馬の駆ける音が聞こえた。振り向くとシルビア殿とダルシオン殿だ。第二騎士団が到着した。
「ルーク!ナコ!生きてたか!海は?」
ダルシオン殿を見ると頷いたので、シルビア殿にも海殿のスキルの話をしたのだろう。
「黒竜はずっとあそこで旋回してるだけです。海殿はまだ見つかってません。城に逃げてはいませんか?」
「いや、ここに来る途中探したが見当たらなかった。」
シルビア殿が悔しそうに言う。
「仕方ありません。黒竜が攻撃してこないのは好機です。先手を打ちましょう。」
ダルシオン殿の言葉に私とシルビア殿は頷く。ナコ殿も躊躇いが見えたが頷いた。
「では作戦を話します。俺とナコ殿で黒竜に魔法を放ちます。少しでも傷が付いたらそこをお二人で一気に叩いてください。武器に強い魔法を付与しますので出してください。」
ダルシオン殿の冷静さは戦場でとても頼りになる。私とシルビア殿はそれぞれの武器を出す。ダルシオン殿が魔法を付与しながらナコ殿に話す。
「ナコ殿。あなたは色々考えず強力な魔法攻撃を黒竜に食らわせてください。この際、的が外れても構いません。街は後で直せばいい。」
「わ…分かりました。」
「では、ナコ殿とシルビア殿。俺とルーク殿で別れて行いましょう。健闘を祈ります。」
ダルシオン殿が言うと同時に我々は行動に移った。
上で黒竜がずっとグルグル回ってる。私は咄嗟に来てしまったが何も考えてなくて困り、物陰に隠れて黒竜を監視してるだけ。
ここに来る途中、兵士達があの魔物を黒竜と呼んでたからあれが黒竜なのだろうが、名前通り黒いドラゴンだ。しかもかなり大きい。そして真っ赤なオーラが見える。相当魔力が高いのかオーラもとても大きい。
騎士団の人達は来ただろうか。かなこは戦うのかな。怪我しないか心配だ。それより私だ。恐らく黒竜は私を探しているのだろう。スキルのせいであんな大きな怖い魔物を引き寄せてしまったのだ。何とかしたいがここから動けば間違いなく見つかる。街に被害が出てしまうかもしれない。なんとか人気のないところまで連れて行ければ…。
考えがまとまらない。色んな不安が頭に浮かんできて、また次の不安が頭に浮かんでくる。
すると火の玉や雷が黒竜に向かって飛んで来るのが見えた。多分あれは魔法だ。魔法が飛んできた方向を見るとダルシオンさんとかなこが見えた。その近くにはルークさんとシルビアさんも見える。
私はみんなが来てくれたことに安堵する。これで大丈夫だろう。ホッとしたのもつかの間。黒竜を見ると平然としている。
魔法が効いてない?!
ソワソワしながら見守っていると声をかけられた。
「海さん!やっと見つけた!」
「ペーター君?!なんでここに…って騎士団か。」
「探しましたよ!怪我はしてませんか?団長の命令で探していたんです!黒竜に見つからないように行きましょう!」
ペーター君は私の腕を掴んで引っ張ろうとするが拒んだ。
「海さん?どうしました?ここは危険です。」
そう、ここは危険だ。私の近くにいたらペーター君が危険だ。
「私は大丈夫。ペーター君はみんなの所に戻って。団長さんにも私はここで隠れてるからって伝えて。」
これしかない。ルークさんなら私のスキルのことを知ってる。ここにいると分かれば動きやすいだろう。下手に私が動けばそれこそ迷惑がかかる。
「しかし…」
ペーター君が戸惑いながら悩んでいると大きな音がした。音の方を見るとダルシオンさんとルークさんが黒竜に吹っ飛ばされてるのが目に入った。2人は魔法の壁のようなものでガードしているが建物にぶつかって苦しそうな顔をしている。
魔法攻撃をされて黒竜が怒ってしまったのだきっと。黒竜は今度は、かなことシルビアさんの方に目を向けた。
「ペーター君!私を屋根の上に登らせて!早く!」
「えぇっ?!な、なにを言ってるんですか?!危険です!黒竜に見つかります!」
私の言葉に反対するペーター君。だが今はそんなことより急がなければならないのだ。
「早く!」
必死な様子の私に気圧されたのか、ペーター君は私を担ぎあげて屋根に登らせてくれた。
「海さん!何するつもりですか!」
屋根の下から彼が聞いてくる。私は
「分からないけどかなこ達が危ないの!何とかしなきゃ!」
と言って屋根の上を走った。ペーター君が何か言ってるが今は聞いてられない。ごめん。
無我夢中で屋根から落ちないように走る。かなことシルビアさんの元へ。
黒竜がもう目の前に来てる。私は防御魔法で壁を作りながらシルビアさんと一緒に後ろに下がっていく。
「ナコ!しっかり壁張っとけよ!」
「は、はい!」
「いざとなったら私がやつに向かってく。隙をついて攻撃しろ。私ごと丸焼きにしても構わない!」
そんなこと…シルビアさんごとなんて!
そうこうしてる間に黒龍が大きな口を開けて噛み付いてこようとしてくる。噛みつくなんてものじゃない。この大きさだ。建物ごと私たちを食べるつもりだ。
私はありったけの力を振り絞って攻撃魔法を放つ。黒竜丸ごと包み込むほどの大きさの火の玉だ。その隙をついてシルビアさんは私を抱えて黒竜から離れた。
「よし!もう1回やれ!今度こそ仕留めてやる!」
「は、はい…ハァ…ハァ…」
まずい。魔力の使いすぎで体力が…。
私はもう一度魔法を放とうとするが上手く力が入らない。黒竜はあの攻撃を振りはらい、またも私たちの方に向かってくる。
「ナコ!しっかりしろ!」
シルビアさんの声が遠くに聞こえる。意識が…。
すると黒竜は突然ピタリと止まり首を左に向けた。
「えっ?」
黒竜の向いてる方を見ると屋根の上に海が立っているのが見えた。
「あのバカ!なんであんなところに!」
シルビアさんの言うことは最もだ。
海…まさか…。ダメだよ!絶対ダメ!
私は海が何をしようとしてるのか、これからどうなるのか全て分かってしまった。海の思考が頭の中に流れ込んでくる。
「黒竜!こ、こっちだよ!」
海は両手を大きく振って黒竜に自分の存在をアピールする。黒竜はそれに惹かれるように海の方に向かっていく。
そしてそれを止めるように雷魔法が飛んできた。ダルシオンさんだ。海に気づいて止めようと魔法を放って気をそらそうとしてる。私も残る力を込めて火魔法を放つ。いつの間にかシルビアさんとルークさんが黒竜に向かって走ってる。直接黒竜に攻撃を仕掛けるつもりだ。
だが黒竜は止まらない。どんどん海に近づいていく。
そして…
バクン!!
黒竜は建物ごと海を食べてしまった。
私はその瞬間目の前が真っ白になった。そして体がどんどん熱くなっていく。さっきまでの飛びそうな意識はなんだったのかと思うほど力が湧いてくる。
そして涙が流れるのもそのままに魔法を放った。火でも雷でもない、真っ白な光を放つ魔法攻撃。その光は真っ直ぐ黒竜に伸びていき、黒竜の首を掠め、血を吹き出させた。私はその場に倒れた。一気に力が抜けて立っていられなかった。
僅かに残る意識で黒竜を見ると、ルークさんとシルビアさんが血を吹き出した首筋目掛けて槍と剣を振り下ろし、黒竜の首を切り落とした。黒竜の頭は大きな音を立てて落ちていき、そのうち胴体も建物を巻き込みながら倒れていった。
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