第十七話 鑑定結果
かなこと一緒に裏庭を離れて国王様のところに来た。鑑定の魔道具とやらは国王様の許可がないと使えないらしい。それだけ貴重なものなのだろう。
「国王様!海の鑑定はもうされましたか?」
かなこが聞くと
「そういえばまだであったな。サントスとダルシオンに鑑定の準備を頼むとしよう。」
と、国王様は早速鑑定をさせてくれるようだ。
王の間には私の鑑定結果を見ようとたくさんの人が集まっている。国王様、王妃様、宰相、宰相補佐、魔術師はもちろん。騎士団長のルークさんとシルビアさん、チャミとジョンまでいる。そしてナタリーさんもいる。かなこに聞いたが、ナタリーさんは宰相さんの奥様だそうだ。通りで落ち着いた雰囲気の持ち主だ。天に召されそうな宰相さんの相手もお手の物だろう。
そして王座の前には大きな鏡のような物がある。縦長の楕円形をした姿見のようだ。装飾も豪華でいかにも高そうで貴重な魔道具に見える。
「さて、では海殿。その魔道具の前に立ってください。鏡に全身が写るようにしてください。」
魔術師ダルシオンさんが言う通りに、私は全身がしっかり映る位置に立った。そしてダルシオンさんが呪文のようなものを唱えると鏡が光り、鏡の中の私がぐにゃりと渦を巻いていき、そのうち文字へと変わった。
え?これで鑑定終わり?
あっという間に終わって拍子抜けしていると、宰相サントスさん、魔術師ダルシオンさん、国王様が鏡の中の文字を見にいく。そして3人とも固まった。
「おーい。結果はどうなんだー?」
あまりにも動かない3人に痺れを切らしたシルビアさんが声をかける。すると3人はゆっくりこちらを振り向く。
国王様は困った顔で目が泳いでいる。宰相さんは眉間に皺を寄せて顎に手を当ててる。魔術師さんは呆れたような顔で私を見てくる。見かねて宰相補佐のカルロさんが魔道具の中を覗き込んで口を開いた。
「えっと…。これは…あの…。」
何故か同じように言い淀んでいる。
「言っても…いいかい?」
私の顔色を伺うように振り向いて言うので、私はこくりと頷いた。かなこは私の隣に来てくれていて、2人で顔を見合せて首を傾げた。
カルロさんはゆっくり深呼吸をして言った。
「ほとんどのステータスが標準以下だ。魔力もほとんどないし、スピードと体力も低い。攻撃力に至ってはほぼ子供レベル。」
王の間に沈黙が流れた。それはもう見事な程に誰もが口を閉ざしていた。
「ほとんど、ということは高いものもあると?」
ルークさんがようやく声を発した。
「知力と防御力が…標準並み…かな?」
再び沈黙が流れる。
「ス、スキルは?!スキルは1つくらいあんだろ!」
今度はシルビアさんが声を発する。
「……」
カルロさんは黙って目を逸らした。
「その辺の民より使えねぇ…。」
魔術師ダルシオンさんの言葉が王の間に響き渡った。
私は今、城壁の上に立って城下を眺めている。城壁の上には兵士たちがぽつりぽつりといて、見張りをしているようだ。そして時折、私を見かけるとヒソヒソと話している。
「召喚された海様、ナコ様と違ってステータスほとんど低かったそうだぞ。」
「なら俺たちのほうが強いじゃねぇか。」
「なんのために召喚されたんだかな…。」
そりゃ私が聞きたいくらいだよ。というか、ヒソヒソ声になってないよ。丸聞こえだよ。
私は心の中で兵士たちにツッコミながら、民達が日々の生活をしているのを城壁に頬杖をついて見ている。店を切り盛りしたり買い物をしていたり子供たちが楽しそうに走り回っている。みんなそれぞれ得意なものがあるようだ。魔法が使えたり、走るのが速かったり、人より頑丈だったり力持ちだったり。時にはスキルというものを持っている人もいるそうだ。
私にはそれらが何もない。ないどころか標準以下。何の役にも立たない。
「はぁぁ…」
先程から何度目のため息だろうか。ため息つくと幸せが逃げると言うが、もう逃げる幸せも残ってないだろう。
折角フェルス王国まで来たのに、やっとかなこにも会えたのに、私は何の役にも立たない。かなこを手伝うどころかその辺の子供たちと同じレベル。
あの鑑定の後、国王様に
「海さんはゆっくりしててくれ。城の中なら安全だし困ったことがあればいつでも言ってくれ。大切な客人であることに変わりはないのだから。」
と言ってくれた。こんな私でも客人として扱ってくれるなんて、本当に出来た人だよ。それに他の人達も残念そうではあったが私に何も言わなかった。
『その辺の民より使えねぇ…。』
ダルシオンさんの最後に言った言葉が頭にこびりついてる。私はまたもため息をついて城壁に腕を乗せてそこに顔を埋めた。
どのくらいそうしていたのか、いつの間にか風が冷たくなり体がブルっと震えた。まだ日が出ているとはいえ夕方近くになると冷える。しかも城壁の上は風の通りが良いから余計寒い。そしてここはフェルス王国。北国と呼ばれるに相応しく、冬は雪で他国との行き来も出来なくなる程らしい。夏でも20℃いかない日があると聞いた。
「さむ…。そろそろ中入るか。」
私は冷えた腕をさすりながら城の中へ戻ろうと城壁を降りた。
城の中へ戻る途中レイチェル様に会った。
「あ!いたいた!もうどこ行ってたの?!探したのよ!」
「え?あ、すみません。ちょっと外の風に当たってました。」
私は外で凹んでいたとは言えず適当に誤魔化した。
「やだ!こんなに冷えて!風邪ひいちゃうわ!」
と、レイチェル様は私の冷えきった体を触って驚いたようだった。そして腕を掴んでズルズルと引きずるように
「さ!行くわよ!」
と、私を連れていこうとする。
「えっ?!レ、レイチェル様?!どこに?!」
慌ててそう聞くと
「やることはいっぱいあるの!ほらほら!」
と言って引きずっていく。
相変わらず強引な王妃様だ。というかどこへ?やることって?
いつの間にか最初に寝ていた部屋に戻ってきていた。レイチェル様は扉をバーンと開けて
「ナタリー!いたわよ!」
と中に向かって大きな声を張り上げた。中にはナタリーさんが居た。
「あら。見つかりましたか。良かったです。てっきりどこかで首でも吊ってるかと。」
にこやかにナタリーさんが物騒なことを言う。
そんなことしません!凹んでたけど…。
「さぁ!海!これからは私とナタリーの手伝いをしてね!」
「手伝い…って…私大して役に立たないかと思いますが…?」
レイチェル様の言葉に自信なさげに返事をすると、
「なに言ってるのよ!ステータスが民以下だとしても知力は平均値なんだから大丈夫よ!」
と、さりげなくグサッと刺さることを言いながらもフォローしてくれた…気がする。
「レイチェル様。それではフォローになってませんよ。」
すかさずナタリーさんが言ってくれる。そして私に向かって話を進めてくれた。
「海さん。これからフェルス王国は秋、そして厳しい冬へと突入します。つまり冬支度を済ませなければなりません。秋のうちに食料を集め、防寒服もたくさん作ります。他にも色々ありますがとにかくやることが山盛りです。それを私とレイチェル様が取り仕切っているのですが、あなたにもそれを手伝って欲しいのです。」
なるほど。確かにそれなら私にも出来るかもしれない。
「私とナタリーが主体となって城に仕えてくれてる子達に指示を出すんだけどね。いつも人手が足りなくて困ってたのよ。だから海にも何か一つでも担って貰って指示を出して欲しいの!」
ん?私が指示出す側?手伝いって2人の指示を受ける側じゃないの?!
戸惑いながら口を開こうとしたが、2人はもうどの仕事を担当させようかと話している。私は声をかけようにもかけられず行き場のない手は空を彷徨い、口はパクパクとしている。やはりこの2人には敵わない…。
翌日。早速私は仕事にかかった。
レイチェル様とナタリーさんに頼まれた仕事は、城に仕えてる使用人達の足りないものを聞き出し調達すること。食料や衣類など生活必需品はまとめて準備するが、それ以外で欲しいものがあれば各自でそれを調達しなければならない。
なのでまずは食堂へと足を運んだ。人間食べれなければ死ぬ。必要なものがあるかと聞けば色々と出てくるものだ。みんな色々欲しいけど言い出さずにいたのか、私が御用聞きだと言うとあれやこれやと言ってくれた。まぁ立場が上の人だと言いずらいよな…。
鍋が欲しいだの包丁を新調したいだの。とりあえず予算で賄えるか分からないが片っ端からメモをとった。
「じゃあとりあえず調達できるか聞いてみますね。」
「「お願いします!」」
そして次は外で働く使用人さん達。
薪割りをしてるおじさんに聞けば、城の修繕に使う木材が足りないかもしれないとの事。城自体は石造りだが、小屋などは木材だ。雪が積もると重みで壊れてしまうこともあるらしい。それは大変だとメモに書き足した。
すると馬小屋の方からも人が来た。馬小屋で使う藁がもう少し欲しいらしい。馬も寒くなってくると外ではなく屋内の馬小屋に入っているらしい。だがその小屋は隙間があってそこに藁とか木屑を詰め込んでまかなっているそうだ。馬は大切な移動手段。騎士団にとっては大事な相棒だ。
馬小屋を離れて今度はどうしようかとウロウロしていると、私が御用聞きをしている事が噂になり広まったのかあちこちから声がかかる。庭の手入れに必要なもの、井戸の氷対策の物、雪かきに必要なもの、魔物対策用の物。気づけばメモが物凄いことになっていた。
使用人の人達…どれだけ欲しいもの言い出せずにいたのだ。この国の財政状況危ういのかな?それとも何か言いずらい理由でもあるのかな?
丸一日をかけて一通り聞き終わりレイチェル様とナタリーさんに報告する。
「あら、皆さんこんなに欲しいものあったんですか?」
「えっ?!こんな長いメモ初めて見たわ!」
ナタリーさんもレイチェル様もびっくりしていた。やはりこの量は多いのか。巻物みたいになってるもんな。
「あの…。使用人の方々、今まで言えなかったんでしょうか?」
すると2人は苦笑いしながら顔を見合せた。そしてレイチェル様が教えてくれた。
「実はね…。今までこの仕事はダルシオンがやってくれてたの。」
納得。あの魔術師じゃ言い出せないわな。
「それでも今まで冬はしのげていました。なので我々もあまり気にしていなかったんです。そしたらこんなにも欲しいものがあっただなんて…。」
メモを眺めながらナタリーさんが言う。
「きっと海だからみんな言いやすかったのね!やっぱり頼んでよかったわ!」
と、レイチェル様が嬉しそうに言うものだから私は少し照れくさくなった。
「では、この中から予算で手に入れるものを厳選していきましょう!海さんも使用人達の話してた様子を教えてくださいね。」
「はい!分かりました!」
ナタリーさんの言葉に元気に返事をする。
何の役にも立たない異世界人。だけどこの国に置いてくれてるんだ。少しでも何か役に立てることをやろう。凹んでた気持ちは今は心の奥にしまい込んで目の前の出来ることをやろうと気合いを入れた。
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