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第十五話 ナコ

国王様の所でもナコさんには会えず私は城中を歩き回っている。

あの後、城壁を直しにシルビアさんとカルロさんが何か話しながら出ていった。話すと言うよりシルビアさんの文句をカルロさんが必死に止めてただけのように見えたが。そしてダルシオンさんも魔法室に戻って行った。戻る時ダルシオンさんに

「ナコ殿見つけたらさっきの部屋まで引きずって来てください。」

と、人差し指をビシッと刺されながら言われた。ナコさん…ダルシオンさん激おこですよ。

「じゃあ海!私たちも探しに行きましょう!」

とレイチェル様と共に探しに出たはいいものの、途中でレイチェル様は用事で呼ばれてしまった。私は1人で探すから大丈夫だと言ってレイチェル様と別れた。


そして今に至る。

だがよく考えるべきだった。1人で見知らぬ大きな城に放り出されて迷子にならないわけがない。起きた部屋にも戻れないし、国王様と会った部屋ももう分からない。魔法室もどこか分からない。完全に迷子だ。

いつの間にか城の外に出てしまってウロウロと歩き回っている。すると聞きなれた元気な声が聞こえた。

「あれ?海ちゃんじゃん!」

「あ!チャミ!」

赤い猫の獣人チャミ。騎士団の服を着て剣を肩に担いで手を振ってる。島を出てからずっと一緒に居てくれた。そしてこんな北国のフェルス王国にまで来てくれた。

私は一日ぶりとはいえこの国に来てやっと慣れ親しんだ顔を見れたことに喜びチャミに走り寄って行った。

「もう平気なのか?魔法酔いで丸1日寝込んでたぜ!」

「あんなに辛いものとは思わなくて…皆に迷惑かけたよね。ごめんなさい。」

魔法酔いの事を言われると心苦しい。

「そんなん気にすんなって!」

チャミはいつも通りの明るさで言ってくれる。この明るさにはいつも助けられてる。たった一言で心が軽くなった私はチャミに聞いてみた。

「そういえばジョンは?」

「あぁ。あいつなら今装備品の整理に行ってるぜ。俺もやったけど向いてなくて色々壊して怒られた。もう倉庫に入るなってシルビアに言われてさ…。」

ジョンも元気そうで良かった。というかもうチャミは色々やらかしたんだね…。

シルビアさんに怒られるチャミが想像できる。チャミより背も低く、女性らしいスレンダーな体つきなのに大きく見えるのだ。あの威厳は凄い。世の女性の憧れだと思う。

「シルビアさん厳しそう…。ん?ってことは第二騎士団に入ったの?」

ふと疑問を口にした。するとパァっと笑顔になってチャミが答えてくれる。

「おう!ルーク団長の第一騎士団は軍律厳しい精鋭部隊なんだと。シルビアの第二騎士団は割りと緩めで、俺たちみたいな更生してる罪人の奴らも多いんだ。」

そうか、騎士団に入って罪を償ってる人も沢山いるのか。なら2人がそういう目で見られることもないだろう。私のせいで2人を罪人にしてしまった自負がある。どうしても気になっていたのだが聞き出せずにいた。

「そっか。ほかの騎士団の人達とも上手くやっていけそうなんだね。良かった。」

一安心した私は思っていたことを口にする。するとチャミが聞いてきた。

「まぁな。それより海ちゃんこんなとこで何してたんだ?」

あ、そうだった。迷子…いやいや。ナコさんを探していたのだ。

「異世界人のナコさんを探してるの。見てない?」

迷子のことは黙っておこう。絶対心配されるから。

「いや、俺も会ってないからナコってやつわかんねぇ。」

「そっか…。」

チャミも知らないのなら仕方ない。次はどうしようかと考えているともう1人の獣人の声がした。

「海さん?」

「あ!ジョン!」

チャミと同じく騎士団の服を着たグレーの猫の獣人。冷静な判断力で突っ走るチャミを止め、私の事をいつも気にかけてくれる。最後まで私がフェルス王国に行くのを気にしてたけど一緒に来てくれた。

「起きたんだね。元気そうで良かった。」

「色々迷惑かけてごめんなさい。もう大丈夫だから。」

ジョンの優しさに触れて心がホッとする。ここに来てから色々あったけど2人と話していると昔からの友人と話しているような安心感に包まれる。

「なぁジョン。ナコって異世界人見たか?俺顔知らねぇからさ。海ちゃんが探してんだ。」

チャミがナコさんのことを聞いてくれた。

「さっき裏庭近くで見たよ。てかチャミ。ナコさんにまだ会ってないの?僕結構見かけてるけど。」

「え?!マジかよ!なんで知らねぇんだ俺!」

さすがチャミだな〜と思い、ふふ、と笑ってしまった。それを見てチャミはバツが悪そうに頭をかいてる。ジョンは呆れた顔でチャミを見てる。いつまでもこうして2人と話していたいけどそうはいかない。

「裏庭の方にいたんだね。ありがとうジョン。行ってみるよ。」

ジョンにお礼を言ってナコさん探しを再開する。

「うん。裏庭はあっちの方。その小屋の左の道を真っ直ぐ行くと行けるよ。」

裏庭がどこかキョロキョロしているとジョンが教えてくれた。さり気ない気遣いに感謝してもしきれない。

「ありがとう!2人とも頑張ってね!」

私は2人に手を振ってジョンの言う通りの道に向かう。2人は手を振って送り出してくれた。




「海ちゃん元気そうで良かったわ。なぁジョン。」

俺は思ったことをそのまま口に出した。

「うん。転移してきて海さんが倒れてたの見た時は体が凍りついたよ。」

ジョンはそう言うが、あの時は本当にびっくりした。転移してすぐあの人間共が海ちゃんに何かしたんじゃねぇかと思って血祭りにあげようかと考えた程だ。でもシルビアが必死に介抱してたから違うとすぐに気づいた。

「ナコさんに会ったら海さんどうするんだろ。」

ジョンがポツリと言う。俺は考えたが全く想像出来ない。海ちゃんとは長いようで短い付き合いだ。俺とジョンみたいに長い付き合いの友達じゃねぇ。俺は海ちゃんのことなんも知らねぇ。親友ってのがどういうものかもちゃんと分かってねぇ。

「さぁな。」

おれはポツリと言った。




ジョンに言われた道を進むと開けた場所に出た。花や木がたくさんあるからここが裏庭なのだろう。どの植物も手入れが行き届いている。花壇の花も活き活きとして満開だ。そんな花を眺めつつ歩いていると、裏庭の真ん中にある大きな木の下に人影を見つけた。ナコさんについて聞いてみようと近づいて行くと、なんとも話しかけずらい雰囲気だ。その木に頭を打ちつけながらブツブツ言ってる女性。茶色がかった長い髪で緑のローブを羽織った女性だ。ダルシオンさんみたいなローブ。

「あー…。もう寝たい。帰りたい。魔法とかどうでもいい。感覚を言葉にするのとか難しいんだよ。あの鬼畜男。城壁壊したこと怒ってるんだろうな…。戻りたくない。」

私は近づいていく足をピタッと止めた。聞きなれた声。ずっと聞きたかった声。探し求めてた声。

手が震えて力が入らない。息も上がってきて今にも倒れそうだ。

「か…なこ…?」

掠れた声を出すとその人はゆっくりこちらを振り向いた。

「え?!海?」

目を大きくして私を見るとその人は私の名前を呼んだ。そして笑顔で走りよって抱きついてくる。

「うみーーーーー!」




魔法室で鬼畜魔術師にグチグチ文句を言われていた時、宰相が来て国王が呼んでいると言われた。私はこの地獄から抜け出せると大喜びで部屋を出た。宰相の後をついて行き国王と話した。城壁壊したことを謝ったが笑顔で許してもらえた。国王はいい人なんだよなぁ。国王は!

そもそも魔法なんて存在しない世界で生きてたのに突然こんなとこに来て魔法が使えるようになったのだ。普通驚くでしょ?しかも意図してないのに強い魔法が使えちゃったらどうする?コントロールなんて出来るわけない。しかも城壁壊したのは魔法を放つ瞬間に宰相がすっとぼけた声で、あっ、とか言うからだ。集中してたのに突然そんな声出されたらびっくりしちゃうじゃん?魔法飛び出しちゃうじゃん?

このまま魔法室戻るの嫌だなぁ…と考えてたらいつの間にか裏庭に来てた。少しここで休憩という名のサボりをしていこうと真ん中の大きな木の側まで歩いた。

「はぁ〜〜」

大きなため息をついて私は木に頭をもたげる。すると心の中に燻っていた愚痴がどんどん湧いてきて口から勝手に滑り出していく。

「あー…。もう寝たい。帰りたい。魔法とかどうでもいい。感覚を言葉にするのとか難しいんだよ。あの鬼畜男。城壁壊したこと怒ってるんだろうな…。戻りたくない。」

すると声が聞こえた気がした。聞きなれた声。ずっと聞きたかった声。待ち望んでた声。

声の方を向くとそこに1人の女性が立っていた。

「え?!海?」

驚いて声が裏返るかと思った。その人は私を見て呆然としている。

「うみーーーーー!」

私は喜びで我を忘れてその人に走りよって抱きついた。




「サントス様?」

「なんですかナタリー。」

ナタリーの入れてくれたお茶を口に運びながら返事をする。

今日のお茶も良い香りだ。疲れが吹き飛んでいく。

向かいに座るナタリーは少し迷った後言葉の続きを発した。

「あのお2人は会えたでしょうか。」

「そうですね。会えていたらいいですね。」

ナタリーは黙り込む。私はお茶を静かに飲む。するとナタリーは顔を上げ再び口を開く。

「お2人には大変辛い想いをさせてしまったと思います。もし私だったら…きっと耐えられないでしょう。我々の身勝手な行為が…。」

私はカップを静かに置き、俯くナタリーに声をかける。

「そうですね。きっと私は恨まれるでしょうね。まさかあんなに上手く事が進むとは思いませんでした。お2人…いえ。ナコ殿にはもう話していますが、海殿にもちゃんと話しますよ。そしてお2人に謝罪します。」

ナタリーは不安そうな顔で私を見る。

「私…お2人に呪い殺されるかも知らないですね。あはは。」

「サントス様!なんてことを言うのですか!」

元気づけるために冗談のつもりで言ったがナタリーは怒ってしまった。私は深くお辞儀をして謝る。

「すみません。ナタリー。」

「全く…サントス様は…。」

溜息をつきながら椅子に座り直すナタリーはもう怒ってない様だ。私は微笑み、テーブルのカップを手に取り再び口をつけた。静かな時間が流れているこの空間で、私は2人の異世界人のことを考えた。

2人の異世界人を召喚し、こちらの世界に無理やり来させてしまった。向こうの世界ではあの2人はどうなってしまったのだろう。行方不明だろうか、存在そのものが消えてしまったのだろうか。もし2人を戻してあげられることが出来たら私はすぐにでも戻してあげられるだろうか。この国のことを考えたら出来ないかもしれない。なんせ私はこの国の宰相だから。私情より国の行く末を考えねばならない。

ナタリーの言う通り身勝手な行為だったのかもしれない。だがこうして異世界人の力を借りて上手く事が運ぶなら私は悪にでもなるつもりだ。それこそ、呪い殺されるのも受け入れよう。

私は空になったカップを静かにテーブルに置いた。


最後までお読みくださりありがとうございます。


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