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第十話 フェルス王国と異世界人

宿の部屋で1人立ったり座ったりを繰り返している。海に魔物討伐に行った時みたいにソワソワしちゃう。2人は無事だろうか。訪ねてきた人は誰だったんだろう。

コンコン。

扉をノックする音だ。私は急いで扉を開けようとしたが立ち止まって声をかけた。

「はい。」

誰かも知らずに扉を開けるのはあまりにも不用心だ。落ち着け〜、と自分に言い聞かせる。

「海さん。僕です。」

聞きなれたジョンの声がして安心してドアを開ける。するとそこにはジョンとチャミの他にもう1人、人間の女性がいた。

「ごめん海ちゃん。この人が海ちゃんと話したいんだと。」

少し不貞腐れたチャミが女性を睨んでいる。女性はそんなこと気にもとめずに私に手を差し出してきた。

「はじめまして。私はフェルス王国第二騎士団長シルビア。少し話したいんだけどいい?」

ポカンとしたままシルビアと名乗るその女性と握手をして

「はい…。」

と答えた。


私の部屋には4人。シルビアさんは椅子に、私はベッドに腰かけ、チャミはシルビアさんのすぐ後ろで不機嫌そうに立ってる。ジョンは入口に立ってる。物凄く変な空気が流れてる。なんでチャミとジョンはあんなに不機嫌そうなんだろ?

「突然で申し訳ない。あなたは海さんだよね?」

「は、はい。」

シルビアさんはにこりと笑って話を続ける。

「簡潔に言うと、異世界人であるあなたをうちの国で保護したい。『ナコ』と同じように。」

今異世界人って…『ナコ』って言った?

「あの、なんで私が異世界人だと知ってるんですか?」

「あーそれは話すと長くなるんだけど…。」

「長くてもいいです。あと…『ナコ』って…。」

シルビアさんは少し考えてから、わかった、と話してくれた。

まず始めにフェルス王国が異世界人の『ナコ』を召喚した。魔族と対峙するのに必要な魔法を作り出す手伝いをして貰っているようだ。そしていざ研究の成果を!って実証実験してみたら、遠い南の島にまた召喚してしまった。しかも『海』という異世界人を。慌てて島に迎えに行こうとしたがシルビアさんは色々あってこの街で留守番してたらしい。暇を持て余してたら『ナコ』についてえらく興味津々に聞いてる獣人が目に入った。気になってその獣人、つまりチャミを付けてたらもう1人の獣人と人間、つまりジョンと私を見つけた。そして3人は一緒に行動してることが分かった。もしやと思いカマかけてみたら当たり。

ということらしい。

「ということ。大体わかった?」

シルビアさんの話は大体わかった。わかったが1つ気になるのだ。

「あの…。『ナコ』って人の名前は『かなこ』ではないですか?」

「さぁ。私は『ナコ』って紹介されたけど?」

首を傾げながら答えてくれた。

やはり違う人なのだろうか。親友の『かなこ』とは。でもその人も異世界人ってことは何か分かるかもしれない。右も左も分からず、どうしたらいいか分からない状況は打破できるような気がする。

私は悩みに悩んで絞り出すようにシルビアさんにお願いした。

「私を…私をフェルス王国に連れてってください!」

そう言うとすぐにチャミが声をあげた。

「俺は反対だ。フェルス王国は危険だ。そんなとこに行かせたくない!」

「僕も同じ意見です。魔族との争いも絶えない国には行かせられない。」

ジョンまで反対するなんて。

「でもあんたらはここまでの護衛でしょ?その先はこの子が決めることじゃないの?」

シルビアさんがサラリと言うと、2人は苦虫を噛み潰したような顔で黙ってしまった。

ここまで来れたのは2人のおかげだ。感謝してもしきれないほどだ。でも確かにこの先は私が自分で決めないといけない。それに異世界人である私にこれ以上2人を付き合わせてはいけない気がする。奴隷制度の話を聞いてからずっと考えてる事だ。

私は2人に思いのたけをぶつけてみる。

「2人には感謝してる。本当にありがとう。でも私は同じ異世界人に会ってみたい。」

「「……」」

沈黙が流れる。

自分の意見を言うのは苦手だ。声が震えてなかったか言った後に心配になってきた。

するとジョンがため息混じりに言った。

「……わかった。海さんがそう言うなら僕はもう止めない。」

「おい!ジョンまで!」

「チャミ。僕らはただここまで送り届けるだけだよ。そういう話だったでしょ。」

「それは…まぁ…。」

私たちの様子を黙って見てたシルビアさんがパシンと手を叩いた。

「よし!じゃあこれで決まり!すぐ出発って訳じゃないからゆっくり別れを惜しんでよ。連れがここに戻ってくるまであと2日くらいはあるだろうし。また迎えに来るから!んじゃ!」

そういうとシルビアさんは颯爽と部屋から出てってしまった。サバサバしてるというか思い切りがいいというか。嵐のような人だったな。

シルビアさんが出ていき、再び部屋に沈黙が訪れた。何か2人に言わなきゃと思うが何も思い浮かばない。

「とりあえず僕らは部屋に戻るね。チャミ行くよ。」

「……」

ジョンがチャミを引きずるように部屋の外に押し出す。

「夕飯時になったらまた来るよ。それまで自由行動ってことで。」

「あ、うん。」

ジョンの言葉の後にパタンとドアの閉まる音が部屋に鳴り響いた。





部屋にいるのが落ち着かなくて街に出てきた。ジョンは部屋にいるって言うから俺一人でブラブラ歩く。行く場所も特に考えてない。頭の中にはさっきの事が巡ってる。

『僕らはただここまで送り届けるだけだよ。そういう話だったでしょ。』

確かにそうだ。そうだったけど。なんとなくこのまま一緒にいるんだろうなと思ってた。なんの根拠もないけどそう思ってた。

日が暮れてきてオレンジ色に染まってく街を歩いてたら海の近くまで来てたらしい。ため息を吐いて海をボーッと眺めてたら後ろから声がした。

「あれ?さっきの赤い奴じゃん。こんなとこで何してんの。」

振り返るとシルビアがいやがった。

「お前こそなんでいるんだよ。てか赤い奴じゃねぇ。チャミって名前があんだよ!」

あからさまに不機嫌そうに言えば

「あーはいはい。チャミね。」

と適当に流しやがった。

「船まだかなーと思ってさ。最短でも往復4日はかかる船旅を無駄足で終わらせたアイツを笑ってやりたくてさ。」

ニヤニヤと悪い顔をするシルビアを無視してここを離れようと背を向けた。

「一緒に行けなくて拗ねてんでしょ。ガキみたいに。」

その言葉にカチンときて勢いよく振り向いてシルビアの胸ぐらを掴む。シルビアはニヤニヤしたまま俺を見てる。なのに何も言い返せない自分に腹が立つ。掴んでた手をパッと離してまた背を向ける。両手はポケットに突っ込んだ。

「一緒に来ればいいじゃん。なんでうちの国そんな嫌がるの。」

「俺もジョンも獣人だ。見りゃわかんだろ。」

「獣人の奴隷制度なら廃止されてるから虐げられたりしないよ?普通に獣人も暮らしてるし。むしろそういうのを取り締まるのも私らの役目。」

海を眺めながらサラッと言うこいつがムカつく。そんなのただの表向きだろ。裏では未だに獣人売買されてるの知ってるんだぞ。親父も冒険者だったけど売られそうになって島に逃げ帰ってきたんだぞ。くそ。だから人間なんて…。そう悪態をつくが、その先が言いたいのに言えない。悪くない人間もいるって知ってるから。

黙ってる俺を見てたシルビアが大きく伸びをして

「さーて。戻るかな。」

と背を向けて歩き出した。こいつ本当になんなんだ。




チャミが部屋から出てって僕はベッドに寝そべった。自分で言っといてあれだけど、本当に海さんあの国に行くのかな。チャミみたいに素直に感情が表に出せればまだマシなのかな。モヤモヤしたものが僕の中でどんどん大きくなってく。いっその事、無理やりにでも海さん引きずって3人でどっかまで逃げちゃおうかな。いや、だったら島に戻った方が…。いやいや、僕は何を考えてるんだ。少し仮眠でもとれば頭がスッキリするかもしれない。きっと昨日まともに寝れなかったから悪いことばかり考えちゃうんだろう。

僕は目を閉じて考えるのをやめた。


最後までお読みくださりありがとうございます。


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