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君と雛鳥と海渡り ~海鳴りの魔女が挑む政治戦争。圧倒的な魔術の才能で全員捻じ伏せて、王国最高の権力者へ~  作者: 讀茸
第二章 西部戦線

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第二十四話 三つ巴

 ブローカー。

 オルトスが個人で創設した、公的には存在しない私兵団の名称。

 存在しないということが根幹にある以上、ブローカー達に名前は与えられない。

 識別番号のみが与えられ、ただひたすらに戦闘訓練を受ける。

 そうして出来上がった名前の無い武器こそがブローカーである。

 目的も無く、理由も無く、延々と技を磨き続けるだけの日々。

 そんな日々の出口かのように、オルトスはこんな決まり事を残していた。


『一定以上の成果を上げた者には、名前と自由を与える』


 このルールに関して、この文面以上の情報は一切与えられない。

 一定以上がどの程度を指すのかも、名前と自由が具体的に何を示すのかも分からない。

 それでも、ブローカーの訓練施設からは、定期的に人がいなくなる。

 任務で死亡しただけなのか、名前と自由を手に入れたのか。

 山奥の施設に隔離されたブローカーは知る由もないが、この決まり事は彼らにとってある種の希望になっていた。

 技を磨き、任務で成果を上げ、いつかは名前と自由を手に入れる。

 いつか。いつか、その日が来るまで、永遠に――――


     ***


 西部戦線、西の林。

 アイリスの魔術によって荒らされた林は、災害後のような様相を呈していた。

 折れた木々が散乱し、地面にはクレーターのような凹みが散見される。引っくり返った木が、本来は土の中にあるはずの根を露出させていた。

 そんな戦場で、三勢力が距離を置いて向かい合う。

 ハネノーン、ロノゼ、影武者の三名からなるレジル地方勢力。

 アイリス、ブルーメの二人からなるオドマリア王国勢力。

 そして、アイリス暗殺のために遣わされた四名のブローカー。

 白い仮面を被った四人の乱入者は、それぞれの得物を構えていた。


(白い仮面。道中でお父様が送ってきた刺客と同じ。こいつらの狙いは十中八九私の抹殺。西部戦線での成果を私ごと揉み消しに来た)


 ブローカーの目的はアイリスの抹殺。

 それはそれとして、彼らはオドマリア王国側の勢力ではある。反乱を続けるレジル地方とは敵対関係にあることには間違いない。

 アイリスとブルーメ、ソシアナ族の三名、そしてブローカー。

 それぞれの目的が入り組み合い、三つ巴の戦況が完成する。


(戦況は三つ巴。とはいっても、ここからは――――)


 三つ巴の戦いでは、一つの勢力が脱落した後は当然一対一になる。

 ハネノーン、ブローカー共に、海鳴りの魔女と正面から撃ち合うような事態は避けたい。

 自然、三つ巴が成立している内に、アイリスを落とそうと画策する。

 両勢力の思惑が一致。

 槍を携えたハネノーンに加え、ブローカーの前衛二名が、同時にアイリスへと距離を詰めていった。


(実質的な二対一)


 駆け出した白い仮面の戦士二人。

 体格差のある二人は息を合わせて並走し、躊躇わずにアイリスの間合いへと踏み込んでいく。

 背の高い方は大きな鎌を背負うようにして持ち、背の低い方は片刃の剣を抜きつつ駆ける。

 剣を持った方のブローカーは、フードで頭を覆っていた。

 そのやや後方を走るのは、二重属性の魔術付与を維持したままのハネノーン。

 ブローカー二人を前衛に、彼らをフォローするような位置取りでアイリスに仕掛けていく。


(示し合わせたように……いや、槍使いの立ち回りが上手いわね。ブローカーの動きに上手いこと合わせている。だったら――――)


 一斉に迫る三人の前衛。

 躊躇無く距離を詰めて来る先兵に対し、アイリスは無詠唱で水属性魔術を展開。

 大量の水を地面を這うように放出し、土と木々を巻き込んだ濁流として解き放つ。


「まとめて押し流す」


 アイリスの魔術によって、ここら一帯には折れた木々や地面から掘り起こされた石が散乱している。

 それらを内包したまま氾濫する濁流は、あっという間に膨れ上がって三者を一斉に飲み込む。

 白い仮面を着けたブローカー二人に、アイリスの放った濁流が直撃。

 二人を一気に遠方へと押し出す。

 やや後方を走っていたハネノーンのみが濁流をギリギリで回避。

 アイリスの側方、至近距離へと飛び出した。


(入った。槍の間合い。仕留める……!)


 暴風雨を纏う槍を突き出し、アイリスの心臓を狙うハネノーン。

 アイリスは濁流を避けられた時点で、魔術を攻撃用のそれから防御用の水の鎧へと変更。

 無詠唱での発動はハネノーンの攻撃に先んじて、アイリスの胴を守る水鎧が展開された。

 水圧変化によって触れた物を弾き飛ばす水の鎧。

 暗色の水鎧に突き刺さったハネノーンの槍は、アイリスの防御機構によって弾き返される。

 しかし、それは軽いノックバック程度。

 浅くステップを踏んで衝撃を受け切ったハネノーンは、未だアイリスの至近距離にいる。


(弾かれた! だが脆い! 魔術付与の出力を上げれば貫ける! まだ槍の射程範囲内! 魔術を切り替える隙は与えない! ここで殺す!)


 千載一遇の好機に、二撃目の槍を突き出すハネノーン。

 槍を包む暴風雨の勢いをさらに増し、アイリスの首元へと迫る。

 今度こそアイリスの命を刈り取るかに見えた槍。

 しかし、槍がアイリスの急所を捉えるより早く、ハネノーンの体が後方へと吹っ飛んだ。


「ぶ、ハ――――ッ!」


 近接戦闘において、魔術を切り替えるほどの時間的猶予は無い。

 それを理解していたアイリスは、魔術の切り替えなどハナから行わず、水鎧をそのままハネノーンにぶつけた。

 攻撃に意識が向いていたハネノーンに、アイリスのカウンターは容易く命中。

 水鎧による水圧変化を直接叩き込み、ハネノーンを後方へと弾き飛ばした。


(水の鎧を直で……! 場慣れしてるな!)


 ハネノーンの猛攻を凌いだアイリスへ、即座に次の刺客が襲いかかる。

 濁流から復帰したブローカーの前衛二人が、早くもアイリスへの距離を詰めていた。

 濁流の直撃を受けた両者は、所々に傷を負っている。

 小柄な方の前衛はフードが破け、狐を思わせる獣の耳が露出していた。


(片方は獣人。何にせよ、さっきの濁流でこれだけのダメージ。そこまでフィジカルに優れたタイプじゃないわね)


 片刃の剣と鎌の刃先。

 両側から挟み込むようにアイリスを狙ったブローカーの得物を、アイリスは展開した水鎧で受け止める。

 直後、水圧変化がブローカー二人を襲い、彼らを両側方へと吹き飛ばした。

 地面を転がる白仮面の前衛二人。

 先刻の攻防で弾き飛ばしたハネノーンとも、まだ相当距離が空いている。

 そこまで確認したアイリスは、攻撃用の魔術に切り替え。

 体の正面で水を圧縮し、砲撃で狙うべき対象を見定める。


(大本命は爆弾魔術師の子供二人。ただ、あの槍使いが守りに入っている以上、魔術一撃で殺すのはハードルが高い。狙うべきはブローカー。前衛二人は跳ね飛ばした。恐らく、残る二人は後衛タイプ。今なら守ってくれる前衛はいない。ここで消し飛ばす)


 アイリスはブローカー二人を攻撃対象に選定。

 未だ戦闘には本格的に参入しない二名に、水の砲撃を撃ち放つ。

 白い仮面を被った二人。

 前衛用の装備に身を包んだもう二名とは異なり、どこか魔術師じみた白装束と黒装束の二人に水の砲撃が迫る。

 これに対し、白装束のブローカーはアイリスと同様に魔術を展開。

 灰緑色の群体が溢れ出し、水の砲撃を迎撃する。

 オドマリア王国にて最高クラスの破壊力を誇る攻撃魔術に、真正面から衝突した灰緑色の何か。

 しかし、それは押し負けるどころか、水を完全に飲み込んでアイリスへと向かっていった。


「ブルーメ、掴まりなさい」


 アイリスはブルーメを抱え、足下から水を噴出して跳躍。

 一気に斜め後方へと逃れることで、押し寄せる灰緑色の群体を回避した。


(あれは何? 緑色の、胞子の集合体みたいな……攻撃も防御も悉く無効化される。見てからでも回避は間に合うけれど、不気味なまでに得体が知れない)


 白装束のブローカーが使う謎の魔術。

 魔術には相当精通しているアイリスでさえ、その正体を知らなかった。

 アイリスの知識にすら無いほどマイナーな魔術。

 攻略の糸口を掴んだのは、魔術に疎い平民だった。


「アイリス様、あの魔術。恐らく、カビです」

「カビ?」


 ブルーメの言葉に、アイリスは訊き返す。

 既存の魔術知識に囚われないブルーメの発想は、未知の魔術を前にして柔軟に働く。

 カビという答えを導き出せた背景には、平民の生活環境もあった。

 事実、常に清潔に保たれた屋敷で暮らしてきたアイリスは、カビに関する知識をほとんど持たない。


「はい。カビは湿気があるほど繁殖する。アイリス様の水属性魔術との相性が悪いのは、それが原因かと」

「……私対策の魔術。お父様の考えそうなことだわ」


 アイリスのメインウェポンは言うまでもなく水属性魔術。

 オルトスはアイリスへの対策として、水属性魔術に強い手駒を育てていた。

 その一つがカビを操る魔術師。

 白装束のブローカーは、オルトスが実の娘を殺すために用意した兵の一人だった。


「ブルーメ、カビって弱点とかあるの?」

「弱点……熱で殺せるとはよく言いますけど」


 カビに関する知識は口にしながら、ブルーメは思考を回す。

 この場所で唯一、ブルーメだけが戦闘能力を持たない。

 彼女が持っている武器は、特異な魔力探知と知恵を絞ることだけ。

 ブルーメは状況を整理する。

 二重属性の魔術を付与する槍使い、爆弾魔術師の子供、爆弾魔術師と全く同質の魔力を持つもう一人の子供。

 狐の獣人と思しき剣士、鎌を得物とする大柄な戦士、カビを操る白装束の魔術師、未だ手札を隠したままの黒装束。

 そして、ブルーメの魔力探知が捉えた――――


「アイリス様」


 ブルーメの脳が導き出す。

 この状況を打破するための最適解。


「作戦があります」


 ブルーメの閃きは戦況を変えるか否か。

 彼女が打ち立てた戦略と共に、三つ巴の戦いは激化していく。

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