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5歳女児VS殺人鬼

※この作品の前作はありません。お気軽にお読みください。

※固有名詞は元ネタがある場合がありますが、実在しない名称に変更しています。

「ハァーッ、ハァーッ!」


母へ、お元気ですか?

一人暮らしを始めて早2ヶ月、私は何不自由なく過ごせています。


何かいざこざに巻き込まれることもなく、人間関係も順風満帆といったところです。

まあ、2ヶ月で何か起こる方が稀ですよね。


「ゲホッ、うぐ……」


一人暮らしなんて余裕だと息巻いていましたが、意外と寂しいということに気が付きました。

また今度、そちらに帰ります。大学でできた友達も呼びたいんだけど、いいかな。


そうだ、一緒に携帯電話を買いに行こうよ。最近はそっちでも電波が繋がるようになってきたって、ニュースで見たんだ。


「ヒューッ、ヒューッ……」


P.S.

今、暴漢に襲われています。



--

「待て、ぶっ殺してやる!」


息も絶え絶え、しかし止まるわけにはいかない。

鉄パイプを持った大柄の男――身長は180cmくらいか。若干筋肉質で、先ほどの殴打には殺意がこもっていた。


「ぶ、えほっえほっ」


血まで出てきた。私が何をしたっていうんだ?

元々武術を嗜んでいたが、こんな明確に危険を感じ取ったことはない。

でも、それが感じ取れるってことは、殺意――相当強い感情があるってことだ。


突然後ろから頭を殴られた時、最初は通り魔だと思った。

でも違う。こいつは明らかに私を狙ってきてる。誰でもいいとかじゃない。私を殺しにきてる。


「あがッ!」


足に鉄パイプを投げつけられ、もつれて転んでしまった。

偶然街灯が近くにあり、顔が確認できる。しかし、全く見覚えがない。


男は鉄パイプを持っていた。先ほど投げつけられたやつが回収されている……いつの間に。

頭が朦朧とする。頭から血を流して、吐血までしてるんだぞ。そんな女子大生にトドメまで刺そうってのか。


男が腕を振り上げる。滅多打ちにされて、明日はニュース速報か。一番最近撮った顔写真はどんな顔してたっけな。


金属音が鳴り響く。金属同士が打ち合ったような音が耳をつんざき、酷く頭痛がする。

……金属音?


「なんて顔してんだい、渚沙(なぎさ)?」


薄れようとする意識を必死に保ち、なんとか目の前にピントを合わせる。

身長は110……115cmくらい。5,6歳くらいの女の子が、自分の図体くらいある日本刀で鉄パイプを受け止めている。


……何が起きてる?


私の名前を知ってるみたいだけど、私はこの女の子を知らない。

男は私のことを知ってるみたいだけど、私はこの男を知らない。

もちろん殺意を抱かれる覚えはないし、守ってもらえる理由もわからない。

なんで鉄パイプがそんなに丈夫なの? なんで1mくらいある日本刀を女児が振るってるの?


わからない。何もわからないけど、私の命がまだあることだけはわかる。

やるべきことを探さないと。生きなければ。


「渚沙、まだ意識はあるかい?」


古風な話し方をする幼女が話しかけてくる。金属が激しく打ち合う音と、あまりにも落ち着いた声色のギャップで頭が変になる。


「らいじょうぶ……今……警察呼ぶ……」


倒れたまま、震える手でスマホを取り出す。110を押して電話をかけ、ついでにカメラを起動して犯人を撮ろうと構える。

あー、録画、録画の方がよかったな。手が言うことを聞かない。というか目が霞みすぎて顔が捉えられてるかわからない。


スマホから何か聞こえる。女の子が何か言ってる。


言葉が口から出てこない。



音とか、も。わからない。



「ん、ぐ……」




--

目が覚めると、知らない天井だった。

白い……壁も白い。カーテンの仕切り……病院か。

窓から日が差している。あの時は夜だったから、恐らくここで一夜を明かしたんだろう。


「気分はどうだい、渚沙」


すぐ隣には、あの時の幼女が椅子に腰掛けている。

あの時は緊急事態すぎて気にも留めなかったけど、幼女らしく舌っ足らずな感じなんだな。


「大丈夫、動けないけど」

「そりゃ動けるわけないさね。その頭、何針縫ったと思ってるんだい」


腕には点滴、足にはギプス。包帯でぐるぐる巻きの頭はズキズキと痛む。


私のために死闘を繰り広げてくれた命の恩人である幼稚園児(推定)。

女性に年齢を聞くのは野暮というが、どうしても気になる。


「えーと、おいくつでいらっしゃいますか」


「最初に聞くことがそれかい。あたしは5歳、『こんどう るな』だよ。近いにフジで近藤、月と書いてるな」


「……イマドキで素敵な名前だね」


「そうだろ? 親がウキウキで決めた名前だよ。楽しそうで何よりだと思ったね」


そう言うと、ルナちゃんはニヤッと笑った。最近の子は皮肉まで堪能なのか。


「私は18歳、『しろさき なぎさ』。えーっと白いに……」


「知ってるよ。白く咲く、海の渚と沙悟浄。白咲 渚沙ね」


「知ってるからこそのスピーディーな説明だね。どうして私のこと知ってるの?」


「あー、あまり答えられないというか、答えない方がお互いに都合がいいというか……」


「わかった。あの男と日本刀、守ってくれた理由、話せるやつだけ話して?」


「……聞き分けが良すぎて、やっぱり不気味だね」


幼女は席を立ち、私に日本刀を見せてくれる。


「あっ、えっ? どこから出したの?」


「どっからでも出せるといったらいいかな、そういうもんと思ってくれたらいい。銃なんかは出せないが、近接の武器ならなんでも――」


話してる途中に、下から爆発音が聞こえる。遅れて、少しだけ建物が揺れた。


「おいでなすったか。動けるかい?」


「点滴を抜いてもよければ」


ルナちゃんはチラッと私の足元を見る。


「うーん……いいや、そこで待ってなさい」


そう言うと、ルナちゃんは走っていった。言い回しは田舎のおばあちゃん、声は舌っ足らずな5歳女児。気になって仕方がない。


ふと、さっきの視線は私の足のギプスに向いていたことに気付いた。そういえば鉄パイプを投げつけられて打撲したんだった……気を遣ってくれたんだろうか。


カチ、コチ、カチ、コチ。秒針の音が響く。手持ち無沙汰で服を探るが、病衣に着替えさせられており当然何も見つからない。


「……また守ってくれてるのかな」


暴漢から守ってくれて、病院にもついてきてくれて、爆発音のしたところにも向かっていった。きっとまた戦うんだろう。


「私にできること……」


頭の痛みは少々キツいが、無理すれば動けないことはない。

慎重に足をベッドから降ろし、点滴を掴んで立ち上がった。幸い、点滴にはキャスターがついている。


あの時、ルナちゃんは「動けるか」と聞いてきた。もしかしたら、何か協力してほしいことがあったのかもしれない。

点滴が刺さったままでは、できることは少ない。でも、少しでもできることを探したい。


よろよろとベッドから離れ、カーテンの向こう側へ行く。部屋を見渡すと、この一室には他に誰もいないことがわかった。

ベッドは4つもある。偶然誰もいない部屋に連れてこられたんだろうか?

いや、違う。診察室のような場所に入ってみるが、薬棚やベッドがあるだけで、ナースも患者も見当たらない。そもそもこの病院には人がいないんだ。


点滴と一緒に、廊下をうろつく。さっきの爆発音と振動の大きさとズレから、ここは3,4階ぐらいだろうか。

エレベーターを見つけて2階へ、そこからは階段でそろりと向かう。


すると玄関の方から話し声が聞こえてきた……ルナちゃんと男の人の声だ。何か聞き取れないかと、聞き耳を立てながら進む。


しかし突如として、破裂するような低音が響く。


これは――銃声だ。


慌てて玄関まで走ると、折れた日本刀を持っているルナちゃんが見えた。

ポタポタと血が滴っている。ルナちゃんの脇腹が赤く滲んでいた。


「だから誰もいないと言っとるだろう殺人鬼。あたしの言ってることがわからないのかい?」


「フン、弾いたか。なに、ここで貴様を処刑しておくというのも、また一興かと思ってね」


正面に立っているのは、変な仮面を被った190cm程度の細身の男。

服はアンティーク調で、マントを羽織った前衛的なファッション。腰の右側には細長い謎のアクセサリー、反対には銃のホルダーをぶら下げている。

そして左手には、大きな拳銃。見たことのない、奇妙な見た目をしていた。


「芸術バカを拗らすと、こうも話が通じなくなるんだね。5歳の女児にぶっ放す奴がどこにいるってんだ」


「私の舞台に在るのは"役者"と"装飾"だけだ……役者は歌い、踊り、そして死ぬ。それができるならば、年齢など些細なことだ」


「……異常者が。独りでやってな」


そう言うと、ルナちゃんは何かを上に投げた。投擲物は勢いよく煙を吹き出し、辺りを煙で覆い始める。


「スモークか。良い演出だ」


しかし、煙は瞬時に身を隠してくれるわけではない。殺人鬼は銃をルナちゃんに向ける。


「やめろォーッ!!!」


私はとっさに、掴んでいた点滴のキャスターを槍投げの要領でぶん投げる。距離はゆうに5m以上あったが、まっすぐに殺人鬼へと飛んでいく。

キャスターは避けられ、窓ガラスをぶち破る。その間に煙が一面を覆った。


「フフ……やはりいるじゃないか」



--

「おい、やけに元気いっぱいだな」


「いやぁ~……ちょっと手が滑ったといいますか」


肩を貸してもらいながら、裏口に向かって走る。言葉通りの足手まといだ。


「点滴まで放り投げちまって……まだ足も怪我してるのに、無茶しすぎとは思わないかい」


「へへ、おっしゃるとおりで……」


小言を言われながら、ハッと気付く。夢中で走ってて忘れていたが、脇腹を撃たれてる人に肩を貸してもらうってどうなんだ。


「あ、えっとルナちゃん、お腹が……」


「痛いのかい?」


「私じゃなくて。さっき撃たれてたでしょ?」


「ああ、あのバカがぶっ放したやつか。幸いにも掠っただけだから、なんともないさね。アドレナリンが出すぎて正直よくわからないというのもあるけども」


「ちょっと待って、足のギプス外せば普通に走れるから――」


肩に置いた手をどかそうとすると、ルナちゃんに裾を掴まれた。


「それは外しちゃダメ。今普通に歩いてるけど、実はヒビ入ってるんだからね。こうなると思ってガッチガチに固定しておいたけど」


「え? それって、この治療は全部……」


「――危ない!」


言いかけた瞬間、ルナちゃんが私を突き飛ばす。直後、もう目の前だった裏口が爆破され、瓦礫に埋もれた。


「クソ、あと少しで出られたんだがね」


「ルナちゃん! それより、足……!」


足、胸、肩、腕――ルナちゃんの体には何箇所も、鉄の破片が突き刺さっていた。破片は花弁のような形で、明らかに偶然飛んできたものではない。


「フフ、逃げる先がわかっていては、目眩ましなど無意味だ」


「お前……なんでルナちゃんを襲うんだ!」


「この舞台では、勇敢なものほど早く散る……それならば、私が少しでも美しく殺めてやろうと思ってね」


こいつ、快楽殺人鬼だ。私が好きなお菓子を買うぐらいのチンケな理由が、こいつにとっては殺人の動機になるんだ。


既に殺人鬼はこちらに銃口を向けている。石でできた仮面に覆われてはいるが、相手が満面の笑みであることは伝わってくる。


いや待て、なぜこちらに向けているんだ?

そういえば、ルナちゃんはさっきこいつに「ここには誰もいない」と伝えていた。ということは、ルナちゃんではない誰かを探していることになる。


ルナちゃんは"ついで"なんだ。そして"本命"は――私。

トリガーに手がかかる。今までごく普通の生活をしていただけの女子大生だったのに、なんで。


「渚沙ッ!」


ルナちゃんが私の前に飛び出したかと思うと、1mはある真っ黒な盾が出現した。


銃声。


銃弾は盾をルナちゃんごと吹き飛ばす。殺人鬼は大きく笑った。


「フハハ、いくら武器が強くても本人が弱くてはな……貫通こそしなかったが、子供が受け止められる衝撃ではあるまい」


ルナちゃんが全力で稼いでくれた時間を、私は全身を震わせるだけで使い切ってしまう。


気絶しているのか、倒れ込んだままピクリとも動かないルナちゃん。


スマホどころか、何も持ってない私。


銃口をこちらに向ける殺人鬼。


「なんで……私を狙うの?」


必死に声を振り絞る。


「貴様は私の芸術の邪魔をする。そういった運命にあるからだ」


「何を言ってるの、運命? その安っぽい語彙と仮面のせいで、言ってることがさっぱりだよ」


虚勢を張る。お見通しだろうが、とにかく気を強く持つ。


「挑発のつもりか? ククク、そうやって私を誘導しようとするのは昔から同じか」


「私はあんたなんて知らない。名前も声も、そのでっかい拳銃も。何も知らない」


ゆっくりと後ずさるが、向こうはそれに合わせて距離を詰めてくる。


「何も聞かされていないか。それならば貴様はただの一般人……戦うことも逃げることもできまい」


それでも。


「……なぜそのような、闘志に満ちた顔をしている?」


諦めるのは、違う。


私は床に落ちていた鉄の花弁を、手裏剣のように打つ。それらは簡単に避けられたが、銃の構えを解かせることができた。


「この状況で、よくも冷静に狙いをつけられるものだな」


後ずさったのは怖がったからじゃない。武器を手に入れるためだ。


再び銃口が私に向く。しかしその間に私は、ルナちゃんと一緒に吹き飛ばされていた盾を拾い、構える。


銃声。


私は5歳児と比べて体格も筋力もあるため、なんとか受け止められる。


「ぐ、うッ……!」


拳銃というのは基本、威力が低いと聞いていたが……車でも突っ込んできたのかと思った。

異常なパワーではあるが、この盾が銃弾を貫通しないのは確認済みだ。とはいえ、殺人鬼の不敵な笑みが気になる。


「ククク、フハハハ!! 超能力すら持たない貴様がこれほどしぶといとは!」


殺人鬼は仮面を抑えて笑う。腰にぶら下げた大きめの鉄製アクセサリーがゆらゆらと揺れた。


超能力。もしかしなくても、ルナちゃんが即座に色んな武器を出せるのはそういうことだろう。


私はその超能力者との戦いに巻き込まれた。そして十中八九、こいつも超能力者だ。


「わかるか? 私の銃弾は4発目……残り一発だ」

「わけもわからないまま、仲間も守れず、理不尽に押しつぶされながら失意のどん底で眠る」

「豪雨に見舞われた咲く前の華、誰にもその色を知られないまま生涯を終える名もなき命……完璧な悲劇だ」

「フィナーレといこう。安心しろ、完璧に仕上げてやる」


残り一発というのが本当なら、追い詰められているのはこいつのはずだ。私はあと一発耐えれば、恐らく簡単に逃げられる。


なのに、なんでこいつは自信で満ち溢れているんだ? なんで、私は。より一層怯えているんだ?


落ち着け、気圧されるな。私が死んだら、ルナちゃんはどうなる。


私は覚悟を決め、盾を構えたまま突撃する。さっきみたいに花弁を打とうにも、不意打ちでもなし、体を出せば撃たれるだろう。身を隠したままできるシールドバッシュが最善策、のはずだ。


「悪くない。だが愚かだ」


殺人鬼は腰にぶら下げていたアクセサリーを手に持ち、構える。

アンティーク調のその細長いアクセサリーの先端には、穴が空いていた。


変わった銃声が鳴る。私はその瞬間、身動きが取れなくなった。


「私の超能力はまだ見ていないのだったな。これは人間以外を全て貫通する銃だ……もっとも、身動きが取れないだけで痛みはない」


「殺人、鬼ィ……!」


「停止時間は4秒。貴様を壇上から退場させるには十分な時間だな」


殺人鬼は、私の横にゆっくり歩いて回り込む。


4発目が、来る。銃口がこちらへ向けられる。


2秒……まだ3秒。動けない。クソ。


「幕引きといこう」


一際大きい、銃声。


死の音が響き渡る。


走馬灯が駆け巡る。拾ってもらった命を、結局落とした不甲斐なさを噛みしめる。


守ってもらったのに、守れなかった。あんな小さい子が、身を挺して助けてくれたのに。

クソ。くそったれ。どうにもならない。私には超能力もなければ、知恵もない。


ごめん、ルナちゃん。何もできなかった。

生きられないことより、守れなかったことがとにかく悔しかった。


そして、申し訳なかった。

ごめん。ルナちゃん。


「ごめん」


「謝るこたあない。よく頑張った、渚沙」


声がする方を見ると、ナイフの柄のような物を持ったルナちゃんがいた。

全身から出血しているにも関わらず、それでもこちらを安心させるように微笑んでくれた。


「ルナちゃあん……!」


「おいおい泣くんじゃない。こんな状態じゃ慰めに行けないんだから」


殺人鬼が、仮面の奥からルナちゃんをギロリと睨みつける。


「バリスティックナイフ……刃を飛ばして弾道を逸らしたのか」


「狙いが甘いんじゃないのかい? 銃も、標的の選び方も」


「……寝ていればいいものを。地獄は現世で味わうのがお好みか」


素顔が見えなくても、激昂しているのがありありとわかる。しかし、反撃するなら弾を込めなければならない。


一瞬、殺人鬼は弾丸ポーチらしき袋に手を伸ばす。しかし、すぐに手を止めた。


「興醒めだ……斯様に泥臭く緩慢なフィナーレなど、悪趣味極まりない。完璧な脚本になるよう、手直しを加えなければ」


殺人鬼はマントの中を探り、床に手のひらサイズの花を落とす。すると花弁がそれぞれの向きに回転し始め、シューと変な音が鳴る。


「危ないッ下がれ!」


ルナちゃんが声を荒げた。直後に花は爆発し、大量の煙に覆われる。


煙が収まる頃には、殺人鬼はどこかに消えていた。


「ゲホッ。大丈夫だったかい、渚沙?」


「私なんて全然平気だよ、それより……!」


「あたしは大丈夫さ。でも、ベッドには移動させてもらえるかい」


私は案内されるままに2階のオペ室へ行き、ルナちゃんを寝かせた。ベッドがみるみる赤く滲んでいく。


「さて、苦手だったら後ろ向いてな」


ルナちゃんは麻酔もなしに、自分に刺さった鉄の花弁を次々に引き抜く。同時に消毒、縫合、包帯。あまりの手際に、つい見とれてしまう。

台に置いてある糸を取り、超能力で出した針でスイスイと縫っている。そんな使い方もあるんだ。


「ふーっ、乙女の柔肌にすることじゃないね。イカれた野郎だよあいつは」


「えっと、その」


「……聞きたいことが多すぎて決められないかい」


私の気持ちを察して、ルナちゃんが問いかける。私はコクリと頷いた。


「もうタイムパラドックスは起きた後だ。手遅れだし、全部話すとするかね」


ルナちゃんはゆっくりと体を起こす。

そして、申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「まずは、すまなかった。結局、最悪の形で超能力者同士の戦いに巻き込んじまった」


そうかなとは思ってたけど、やっぱり超能力者だったか。

……殺し合いに巻き込まれる以上、どうなっても最悪ではあるな。


「あたしとあの殺人鬼、そして昨日の通り魔。全員未来からこっちに来た輩で……えっと、超能力バトルの参加者」


「だから、みんな私のこと知ってたんだ」


「知ってるなんてもんじゃない。私は渚沙に幾度となく助けられたし、渚沙はあいつらをコテンパンにしてた。だから、勝てなくてこっちに来た」


「えっ、じゃあ私も参加者で、狙われてる理由は仇敵だから?」


狙われる理由と守られる理由。それは未来の私があいつらの敵で、ルナちゃんの恩人だったから。


「でも、今の渚沙は超能力を得られない。超能力を得られるタイミングは人によるが……渚沙の場合は今夜24時、そして『超常現象を信じていない者』が対象だ」


「それなら、私はあの二人以外には狙われないってこと?」


「他にこちらに来た奴もいるからわからない。少なくともあの殺人鬼はまた来るだろうし、渚沙やあたしを狙う輩は多すぎて把握しきれないし……」


「そんなあ……」


今、かなり理不尽なことを言われてないか。

知らない超能力者が私を恨んで襲ってくる。でも超能力はないし、何人いるかもわからないって?


「今度はあたしが命の恩人だ。守らせていただくよ」


そりゃ頼もしいけど、よく考えたら5歳の女の子にこんなことさせられない。

かと言って自衛手段もない。あんな奴らに狙われ続けられたら、命がいくつあっても足りない。


しかし不安とは裏腹に、戦闘が終わった安堵からか眠気が襲ってくる。

それはあまりに強烈で、私は床に倒れ伏す。


ルナちゃんも寝ているようで、腕がだらりと下に向いていた。

さっきまで話してたはずなのに、お互いにピクリとも動けなかった。


コツ、コツ、と足音のようなものが聞こえた気がした。

白咲 渚沙 (しろさき なぎさ)

18歳 159cm 55kg


能力:なし

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