そぷらの
幸せですか?
そう尋ねられたら、僕は間違いなくこう答えるでしょう。
幸せです。
僕が10歳のころです。僕の両親はどちらも高学歴で、高給取りでした。何不自由なく暮らしていました。
けど、とても厳しい人たちでした。生活や勉強を強要され、命令に背けば、容赦なく人格を否定されるような言葉をかけられ、殴られました。部屋にはカメラを設置され、僕は親の所有物となりました。
初めは抵抗して、鳥のように外へ自由を求めようとしました。けれど、そこは鳥かごの中だと気づいてしまったのです。
ところで、僕には六つ年上の姉がいました。容姿端麗、頭脳明晰で、器量もよく、出来損ないの僕とは違い、親から愛されていました。
姉は歌が上手で、合唱部に所属していました。カナリヤのような美しいソプラノが、聞いた人の心を揺さぶっていたのです。
僕は姉の歌が好きでした。姉のことが好きでした。
姉といる間だけは、両親は僕に厳しいことを言いませんでした。きっと姉の美しさを失いたくなかったのでしょう。
姉と二人でいるときは、僕は人間だったのです。
ある日、僕は姉と二人きりでいました。
姉はラジオから流れてくる歌に合わせて歌い、僕はそれを聞いていました。姉は一曲が終わると僕に感想を訊ねてきました。とても幸せな時間でした。
叶うことはないと知っていながら、この時間がずっと続けばいいのにと、僕は願いました。
電話が鳴りました。姉は電話に出ると、少し話し、電話を切りました。どうやら、どこかへ出かけなければならなくなったようです。
それはつまり、僕が人間ではなくなる時間がやってくることを意味しました。
玄関で靴を履こうとする姉の背中を見て、僕は急いでキッチンに向かいました。そして包丁を手に取り、玄関に戻って、姉の背中に突き立てました。
苦しそうにしていた姉の声は聞こえませんでした。きっと、肺か気管支に穴が開いてしまって、うまく息ができなかったからでしょう。しばらくすると、姉は動かなくなりました。
口から血が出ていたので、拭いてあげました。新鮮な空気を吸って欲しかったので、背中の穴に向けて扇風機で風を送りました。
満足すると、僕と姉はそれまでと同じように部屋でラジオを聞きました。僕も姉と一緒に歌っていました。
僕の歌は上手くないけれど、姉と一緒なので、とても楽しかったです。
いま、僕は鉄格子によって閉ざされた空間にいます。姉ももちろんいます。両親はガラクタの僕とガラクタになり果てた姉に意味を持たせることが無益だと言っていました。僕は姉といるから人間だし、姉も人間です。あまりにもおかしくて、声を上げて笑って――ものごころついてから、僕は両親の前で笑ったことがないように記憶しています――しまいました。
ここにいる怖い大人たちも、僕を見て特別に姉の入室を許可してくれたようです。
今日もラジオ――持ち込みが許可されました――から流れる歌、僕の歌、そして姉の美しい歌声が、外の空っぽの廊下に響きます。
幸せですか?
そう尋ねられたら、僕は間違いなくこう答えるでしょう。
幸せです。