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それからというもの、戦がある度に家臣達と出陣し、式を操り、勝利に貢献した。

私は、弓や鉄砲も得意だったので、それなりに役に立てたと思う。


ある時、式が敵の夜襲を感知して、撃退する事ができた。

私が陣にいることに不満をもらしていた側近達とも、打ち解けることができた。



「なぁ、俺の嫁にならない?」

驚いて、茶筅を落とすところだった。

あやめにあてがわれた陽当たりの良い部屋で、私は、小四郎にお茶を振る舞っている最中だった。


「何を急に……」

「ちょっと前から考えていた。国主の娘だし、問題はないだろ?」


小四郎に向き直り、茶碗を置く。

「森で拾った娘を嫁にするのですか?」

「拾ったって……濃前守の娘だろ?」

「濃前守の娘は、物見遊山に行って、物取りに襲われ殺されました」

私は呆れながら、飲み干された茶碗を受け取った。


あれから、美後では、私は殺された事になっていて、産まれたばかりの子供もいることから、早々に継室が決まった。桔梗だ。


茶碗の底に残った、お茶の粉の跡で占う。

「今、なにか、面倒な事考えてます? 上手くいくようですけど……」

「じゃぁ、俺の嫁になれ」

後ろから、ガバッっと抱きすくめられる。小四郎の腕から逃れながら

「だから、私は美後の正室で、死んでいるんですって」


先の戦で、私に対する旗本達の意識が変わってからというもの、嫁になれ嫁になれなれ。と、うるさい。


「わざわざ嫁にしなくても、私は小四郎殿の側にいますから」

そうじゃないんだよなぁーと、言いながら、小四郎はゴロリと横になった。


公家姿の式が、藤次郎がやってくる。と教えてくれた。

(今、寝入った所なんだけどな……)

規則正しい寝息を聞きながら、起こそうかどうしようか悩む。


ドタドタと響く足音が、部屋前で止まった。

「殿は、居られるか?」

「居りますが、寝てしまわれました」

襖を開けながら答えると

「あやめ殿、濃前守が反旗を翻したぞ」

「父上が!?まさか……」


私の知っている父は、必要のない戦はしない。

私が美後に嫁いだのも、度重なる国境の争いに兵が、領民が、辟易したためだ。それなのに、自ら戦を仕掛けるなんて、考えられない。

何のために、お飾りの正室になったのか。


「濃前に行ってもいいでしょうか……」


確認したい。美後と何があったのか。同盟を破棄してまで、得たい益とは何なのか。


「俺もいくぞ」

いつの間にか目が覚めていた小四郎が、立ち上がる。


「しかし殿、私達と濃前は敵同士。簡単に会えるような間柄ではありません」

藤次郎が渋い顔をする。


「俺が思うに、濃前守は美後を見限ったのではないか?」

「まぁ、この頃の情勢を考えれば、無くはないですが……」


二人の言い争いを他所に、私は文を書き、フッと息を吹き掛ける。ピンク色の鳥が羽ばたいて飛んでいった。

「………今のは?」

藤次郎は、式を出すところを見たことが無かった。


「父に、端兆神社に来てほしい、と伝えました」


端兆神社は、不可侵の森にあり、丁度、越州と濃前の間に位置していた。

不可侵の名の通り、何者にも侵略される事がない神域だ。

そして、私が、祖母から式と占いを習った神社だ。


「確実に会って頂けるとは限りませんが、濃前の思惑は探れると思います」


小四郎は、美後との国境の守りに注意を払うよう、留守居に伝えた。


私と小四郎、それに藤次郎と又兵衛は、鷹狩りを装い、不可侵の森を目指した。


数日かけ不可侵の森に近付くと、空に鳳凰の印が見えた。

「父が来ているようです」

「なぜ、わかる?」


私も、自分の証『霊亀の印』を空に描いた。描きながら説明する。

「式を扱う者は、自分の印を持っていて、必要な時に空に描くのです。例えば、今回の様に約束のない密会の時など……」

小四郎達が、目を凝らし、空を眺めている姿がおかしくて、クスクス笑ってしまう。


「普通の人には見えませんよ。よほど霊力が高くないと」



瑞兆神社に入るのは、何年ぶりだろう。鳥居をくぐるたび、胆を探られている感じがして、身が引き締まる。


本殿に入ると、父がいた。何年ぶりだろう。

「桜、やはり生きていたか!」

「父上……」

父の側には、幼少期、一緒に武芸を習った者達も控えていた。

「姫様……」


お互いに紹介し合った後、懐かしさのあまり、思出話などをしていたが、痺れをきらした小四郎が、咳払いをし始めた。


「濃前守は、なぜ反旗を?」

「準備が整ったから……だろうか」


父が言うには、初めからおかしい。と思っていたそうだ。桜が産んだという娘を見たが、霊力が全く感じられない。それに、桜に似ていない。

こっそり、式をあてがってみたが、怖がって泣き出した。つまり、自分の血筋ではない、と。


そのうち、美後の正室は、物見遊山の道中に物取りに襲われ亡くなった。と、伝えられたが、葬儀の連絡も無ければ、印の霊亀も戻ってこない。


それに、美後の内政も荒れていて、国境の村に泣きつかれるわで、同盟を結んでいる意味を見いだせなくなった。


「ならば、領地を切り取り、あわよくば、娘の消息を探りたい。と思っただけの事」

父は、ゆっくりと白湯を飲む。


「そなたの娘より、加勢するように頼まれているのだが、どうだろう?」

小四郎も、ゆっくりと白湯を飲む。


それが合図かのように、私達は二人を残して本殿を出た。


「あやめ殿は、桜という名なのか?」

言いにくそうに藤次郎が尋ねてきた。

「いえ、桜もただの通り名です」


私達式使いは、名を縛られるのを嫌う。なので、(いみな)は誰にも教えない。知っているのは、親だけだ。


「名を縛る?」

「実際にやって見せた方がわかりやすいかと。失礼ですが、藤次郎様の名は?」

「……貴康(たかやす)

本当に嫌そうに教えてくれた。


「藤次郎、動くな!」

「動けるけど…?」

「では……貴康、動くな!」

「……!」

必死に動こうとする藤次郎がいた。

「解」

へたりこむ藤次郎に、名を知られるのは怖いことなんです。と微笑んだ。

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