花蝶の番 3 ~百年花の下で願うは~
前作のレイシスが、セリーヌをお風呂に入れちゃった王子教育の元をつくった王子のお話になります。
申し訳ありませんが、久しぶりの花蝶なので少し雰囲気が変わってしまっているかも、です。
よろしくお願いいたします。
天上には白い女神様が楽園にお住まいで。
その白い女神様は白い色を一番愛しておられて、だから、女神様の楽園には純白の花のみが咲いているのだそうだ。
けれども時々、女神様は純白以外の花も見たくなって、そんな時は地上に白い花を落とすのだ。同時に、吐息で蝶をつくって大切な花を蝶に守らせる。
そして白い花は人間の女の子に宿り、蝶は人間の男の子に宿り。
二人は成長して、出会い、運命は花を咲かせる。
純白の花は二人の恋によって色付くのだ。
それが花蝶の番。女神様の慈愛を与えられた恋人たち。
美しい部屋だった。
繊細な花の装飾があしらわれた金塗りの壁。
天井からは睡蓮をかたどったシャンデリア。そのガラスには油彩が施され、おびただしい真珠によって縁取りされて煌めく星のような光をはなっていた。
しかし、優美な猫脚の飾り棚も。
稀代の名工の手による椅子も机も。
透ける絹が幾枚も重ねられた天蓋のベッドも。
高価な宝石が並べられた宝石箱すら。
何ひとつ、誰かに使われた形跡がなく。
まるで透明の中にうっすら曇りを持つ水晶のように、部屋の空気は沈むみたいに底深く。
採光や照明は十分なのに、ほんのり濁りのある部屋だった。
明らかに主のいない部屋であった。
そして、その部屋は大陸の半分を支配する大国ナシアス王国の王子、アシュシスの愛しい番の部屋だった。
清掃は行き届いているが、どこか寒々しい無人の部屋の窓を開けてアシュシスは、遠く遠く遥か彼方へと視線を向けた。
千夜を越えて、万夜に届こうと。
願うは、満天の星より美しい番の幸福。
どこかにいるであろう番が、悲しんでいないだろうか、苦しんでいないだろうか。顔も知らぬ名前も知らぬ番が泣いてはいないだろうか、と心は不安に砕けて千千に散ってしまいそうになる。
会ったこともない、これからも会うこともないだろう番のためにアシュシスは美しい部屋を用意した。宝石もドレスも。
いつか会いたい、ひとめだけでも会いたい、と願いながら。
番の部屋から続く庭には百年花を植えた。
百年花は、百年の間ずっと花を咲かせ続けるといわれているほど開花期間が非常に長い樹木の花であった。花が散っても休まず次から次へと花を咲かし、花自体も白く可憐で、そのため人気が高く非常に多くの場所で植樹されていた。
アシュシスは庭に出て百年花の下に立った。
ひらり、と白く小さな花弁がアシュシスの肩に触れて風に運ばれていく。
もしかしたら、どこか遠くの百年花の下にも愛しい番がいて、同じように肩に白い花弁が触れているのかも知れない。
花散らす風が、しめし合わせたみたいに。
庭に、街道に、森に、山中に、谷間に、色々な場所で咲く花なのだから。
もしかしたら、もしかしたら、今、同じ時刻に百年花を見上げているのかも。そう思うだけでアシュシスは、百年花の花弁さえ愛しく感じてしまうのだった。
庭には百年花以外にも多種多様の花花が、爛漫と咲き零れていた。蜜花として甘い芳香が蝶を誘う。
青い蝶はサファイアのように。
赤い蝶はルビーのように。
緑の蝶はエメラルドのように。
色鮮やかな蝶たちが艶やかに宝石のように舞い翔ぶが、どれほど煌びやかな蝶であってもアシュシスの望む蝶ではなかった。
ひらひらと百年花が、生まれたばかりの白い蝶のように花弁を落とす。くるくると舞い降りた花弁を手で受けアシュシスは握りこんだ。
この花弁が僕の蝶であったならば……!
身を焦がす番への欲求と身を裂かれるような番への喪失感に、百の夜を千の夜を万の夜を、番の姿を願い番の心をこいねがって。深い深い夜空の底から、真珠色に輝く月を見て、太古から煌めく星星を見て、ひたすら愛しい番の幸福を祈った。
番のそばで、番の身と心を守ることができないならばアシュシスは女神に祈るしか術がなかったのだ。
飢えてはいないか。
渇いてはいないか。
寒くはないか。
眠れているか。
怯えていないか。
病気は? 怪我は?
どこかにいる番のために病院をつくった。河川も道も整えた。安全に暮らせるように治安も。女性が働ける職場も。アシュシスが働くことによって何か番の手助けになるやも、と。
ナシアス王国の豊穣と安寧にアシュシスは厭わず身を捧げた。
番、幸せかい?
常にそれだけを祈りながら。
ただ、ただ、番の幸福だけを。
もし、もしも、一度でも僕を呼んでくれたならば。かなわぬ願いとアシュシスは首を緩く振った。何人、何十人ものナシアス王家の王子が死する最後の一息の時まで願い、かなわなかった望みだ。
アシュシスは花弁を握っていた手を開いた。
そこには。
手のひらの上には、半透明のこの世のものとは思えない美しい蝶がいた。
「あ、」
声が出なかった。
ふるり、初雪みたいな柔らかい翅を蝶がアシュシスの目の前で動かした。泥の中でうずくまっていた種が水面に顔を出して美しく花開くように。歌うように花の薫りがアシュシスの鼻に届いた。
アシュシスの番、蝶の花、アシュシスの花の薫りだった。
「ああ、僕の蝶……! 僕の花……!」
蝶はアシュシスの周りをくるりくるりと回ると、先ほどアシュシスが窓から見ていた方角へ翅を向けた。
「蝶追いである! アシュシス様の蝶追いである! 皆の者、続けっ!!」
周囲にいた騎士たちが声を銅鑼の如く張り上げる。
波紋のように、幾重にも輪を描いて広がるように、たくさんの声が重なり響き合う。
「蝶追いである!」
「蝶追いである!」
広大な王宮の隅から隅まで余すところなく声が反響し残響し、繰り返された。
「アシュシス様の蝶追いであるっ!!」
アシュシスの蝶追いは37日間だった。
馬蹄が巻き起こす風を後に従え、星が流れるようにアシュシスは馬を走らせ続けた。地を走るどの獣よりも速く、駿く。アシュシスを先頭に何千何万の駿馬が。蹄の音が。水平線まで響き渡った。
透き通った青の中の青に埋め尽くされた空の果ての、さらなる果てまで。
そうしてアシュシスはーーーー瀕死の番を見つけた。
番は北の小国群に属する国の、伯爵家の令嬢だった。
名前は、マリージェン。
父親を亡くし、父親の再婚相手である義母とその連れ子の娘に毒を盛られていた。病死に偽装するために即効性の毒ではなく、徐々に身体を蝕む毒であったことはアシュシスにとって僥倖だった。
アシュシスはぎりぎり間に合ったのである。
「許さぬ!」
烈火のごとき怒気を漲らせアシュシスが唸る。
「許さぬぞ!!」
「僕の番を! 大事な大事な僕の番をっ!!」
しかもマリージェンの婚約者は、元蝶であった。
マリージェンは花で、婚約者は蝶だったのだ。
花には試練がある。同時にそれは蝶の試練でもあった。
咲く花の色を艶やかにするために。
白い女神の花は恋によって色付くのだから。
様々な試練があるが、マリージェンの婚約者は義母の連れ子の誘惑にあっさり陥落した。
花を守るべき蝶が、花を裏切ったのである。
故に婚約者は蝶の資格を失くし、蝶は花の新たな守り人としてアシュシスを選んだ。
「裏切り者めがっ! 花を裏切る蝶など万死でもなまぬるいっ!」
番の幸福だけを願っていたアシュシスには、許せることではなかった。
ナシアス王家の王子は、自分の魂の半分である番しか愛せない。
女神との契約によって。
その番が。
マリージェンが。
アシュシスは、ナシアス王家の王子たちは、番を渇望するが優先するのは番の幸福である。
他の男の元にいようとも。それで番が幸福ならば。
どれほど辛く苦しくとも番が幸福ならば、ナシアス王家の王子たちは番であるという真実を告げることなく二人を祝福するのだ。
死する瞬間まで番に会いたいと願っても、ナシアス王家の王子たちが見たいものは、望むものは、番の幸福な姿なのだから。
アシュシスとて同じである。
マリージェンと婚約者が花と蝶として幸福ならば、それで、それだけでよかったのである。
アシュシスが望むものは、マリージェンの幸福だけなのだから。
そして、幸福な番の姿をひとめ見ることができた、とひっそりと重荷にならぬように気付かれることなく番を生涯支え助けて、二度と番に会うこともせず花が枯れるように死んでいくのだ。
餓えるほどに渇くほどに渇望しようと、ひたすら番の幸福を我が身よりも優先して、番をどれほど助けてもどれだけ支えても自身の存在すら匂わすこともなく、ひとめ会えただけでも幸せだったと、ひっそりと。
なのに。
それなのに、婚約者はマリージェンを裏切り、マリージェンは死の間際にいる。
アシュシスには断じて許すことなどできなかった。
「マリージェンを愛しているんだ……」
連れ子の娘に誘惑された婚約者が、アシュシスの前で言い訳をする。
「俺は愛しているのに、マリージェンの花が咲かなかったから、マリージェンは俺を愛していないのだと思って……。マリージェンは俺を愛している、と言ったが信じられなかった。両想いならば花が咲くはずだ、と……」
「花が咲くには試練が必要なことは有名だ。愛の誓いだけで女神様の尊い花が咲くとでも思っていたのか?」
アシュシスの声音は氷よりも冷たい。
「知らなかった、と? 知らないはずはない、花と蝶ならば周囲から知識を与えられるからな、女神様の信徒として」
「おまえは自分の欲に負けただけだ。しかもそれをマリージェンの責任として押しつけたのだ、不信という名分でもって」
拒む余地を与えず冷酷に罪を突き付けるアシュシスに、婚約者の男は口元を苦く歪めて顔を背けた。わかっているのだ。自身の弱さを、罪を。それでも婚約者の男は足掻くようにアシュシスに手を伸ばした。
「……返してくれ」
婚約者の男は、重くのしかかる後悔に声を引きつらせ懇願する。
「俺の蝶を返してくれ、こんなことになるなんて。俺が蝶でマリージェンが花なのに。俺の花なのに。俺から運命の蝶が消えるなんて……っ!」
アシュシスは、身の毛が逆立ち凍らせるような眼差しを婚約者の男に向けた。
他国の王族であるがアシュシスは、大国ナシアスの王子である。しかも小国など一夜で征服できる軍隊を引き連れて来ていた。この国の国王さえもアシュシスの命令には逆らえないのだ。
「反吐が出る男だ。マリージェンが生死の境をさ迷っている時でも自分の言い訳や望みばかり。目障りだ誰か、この男を連れて行け」
氷点下の声に婚約者の男が震え上がる。
「いっ、いやだっ! 浮気したくらいで……っ!」
「浮気したくらい? マリージェンは花でおまえは蝶なのに? おまえはおまえを選んで下さった女神様の御心をも裏切ったというのに?」
婚約者の男の心臓がすくんだ。額に脂汗が滲む。
「義母と連れ子の娘、この男、それぞれに罰を与えよ。死なせるな、最も苦痛にのたうつ刑罰を与えるのだ」
北の小国からナシアス王国への帰路は100日間であった。
毒が抜けきらずマリージェンは意識が半覚醒状態のままであったため、わずかな揺れさえ許さずに行列はゆっくり慎重に進んだ。
その間に次々と人員はナシアス王国から追加され、まるで小さな街が丸ごと移動しているような状態となり、周辺国の人々を驚嘆させた。
ナシアス王国に入ると、道という道で、村も街も人々があふれて歓迎の声を高らかに天に上げた。花花が降り撒かれ、色鮮やかな旗が波のように振られる。
けれどもマリージェンは。
1日の大半を眠り続け、目覚めても言葉も発せず視点も合わず人形のようにぼんやりとしているだけであった。
そして、その右手は真珠貝のように閉じられ、握られたままであった。花の蕾を手のひらに包んで、固く握られていた。
「毒は完全には抜けぬか……」
アシュシスの呟きに、ナシアス王国中から集められた名医たちが苦悩をにじませ俯く。
「時間をかけて徐々に毒を体内から排出させる方法しか今のところは……。我々の力が及ばず申し訳ございません、殿下」
「そうか。では、僕は彼女の目となろう耳となろう手となろう足となろう」
「僕が彼女の全てを支えよう」
「僕の身体も命も彼女に捧げよう」
その言葉通りアシュシスはマリージェンに身を尽くした。
「マリージェン、手のマッサージをしようね」
本当はマリージェンの口腔ケアも全身の清拭も、長いその髪も洗いたいアシュシスだが、侍女たちに未婚の女性に触れてはなりませんとメッされたのだ。
かろうじて左手の接触だけは侍女たちから許可されたので、アシュシスは爪や手の手入れの方法を猛勉強中であった。
指先への血行を促進させるようにマリージェンの指を丁寧に一本一本、アシュシスは指の腹で擦ったり揉んだりしながらマリージェンに語りかける。
「マリージェン、君の家の庭にも百年花が咲いていたね。僕はね、あの百年花を見て凄く嬉しかったんだよ」
「僕はずっとマリージェンに会いたくて、でも会えなくて。せめて同じ日、同じ時間にマリージェンが百年花を見上げていてくれないかなぁ、と百年花を毎日見ていたから、マリージェンの家に百年花が咲いていたから、もしかして僕の望みは叶っていたのかと思って」
もろい蝶の翅をつかむみたいにアシュシスは、マリージェンの細い指と自分の指を優しく絡めた。
「もっとも僕はマリージェンの名前すら、その時は知らなかったのだけれども」
「マリージェン、好きだよ。好きでは足りないくらい愛しているよ。でも、それは僕の気持ちであってマリージェンは僕のことを知らないのだから、マリージェンは戸惑うよね」
「マリージェン、愛しているよ。すぐに僕を愛してくれ、とは言わないよ。でも、ね。愛している、と毎日マリージェンに告白することは許してね」
花の朝に、月の夕方に、アシュシスは歩けないマリージェンを抱き上げて散歩をした。
枝垂れの花を咲かせる木々の、みっしりと重くなるほどの花をつけた垂れた枝の花の下を、アシュシスはマリージェンを抱いて歩く。
「マリージェン、春だよ。ほら、花の中に妖精が眠っているような可憐なチューリップが咲いているよ」
水面が薄い緑色のような濃い青色のような池の、紺、青、緑、紫、赤、黄、そして銀色金色の色彩が交響曲のように混成して毎瞬毎瞬きらめく水の中を優美に泳ぐ魚をアシュシスはマリージェンとともに見て。
「マリージェン、夏だよ。水を求めて蝶が来ているよ。ほら、小鳥も水浴びしているよ」
木々の樹冠が、古の姫君の衣装のように鮮やかに、孔雀の広げた羽根のように華やかに、美しく染まった葉を散らす中をアシュシスはマリージェンを抱きしめて。
「マリージェン、秋だよ。鳥が群れて飛んでいるよ。ほら、鳴き声が聞こえるよ」
玉雪、淡雪、粉雪、灰雪、細雪、花弁雪、天から舞い降る白雪を窓辺でアシュシスはマリージェンと座って眺めて。
「マリージェン、冬だよ。寒くても咲く花があるんだね。日のように赤い花と月のような白い花が咲いているよ」
マリージェンが返事をすることはなかった。
視線が合うこともなかった。
右手も握られたままであった、ずっと。
それでもアシュシスは。
花が咲きこぼれる春が立ち。
風が星のように走る夏が立ち。
月が冴え冴えと輝く秋が立ち。
雪が銀のように光る冬が立ち。
季節が巡り巡る中で毎日毎日マリージェンに優しく、やわらかく語りかけた。幸せそうに、嬉しそうに。無上の幸福だと微笑みながら。
その日は、マリージェンを抱き抱えアシュシスは百年花のもとに来ていた。
白い花房が波のように雲のように揺れる。花弁を雪にたとえるならば、吹雪のように。
花弁が舞い散り、アシュシスとマリージェンの肩に頭に胸に手に足に降りかかった。
「マリージェン、知っているかい? 百年花は白い花だと皆が思っているけれども。白い花びらを何枚も重ねると色が出るんだよ。何色だと思う?」
「……薄い……ピン、ク……」
マリージェンの唇が震えながら動く。
「アシュ……アシュシス……さま」
驚愕と歓喜にアシュシスの目が見開かれる。アシュシスの目とマリージェンの目が、視線と視線が口付けを交わすように重なった。
マリージェンの右手が開かれていた。
手のひらの蕾が、淡い光を纏って花弁をゆっくりと花開かせていく。その色はアシュシスの目と同色の美しい色だった。
「マリージェン!!」
庭の百年花が白い花を落とす。
遠いどこかの百年花も白い花を落とす。
もしかしたら一瞬の差もなく同じ時刻に。
貴女の顔を知らない。
貴女の名前を知らない。
それでも、今、同じ瞬間、同じ白い花弁が僕と貴女の肩に同時に触れることをーー願った。
僕の番。
貴女の名前は、マリージェンと言ったのだね。
僕はもう貴女の顔を知っている、満天の星よりも美しい僕のマリージェン。
「私のセリーヌ」
花の王のごとき美貌を甘く蕩けさせてレイシスは、愛しい番の名前を呼んだ。セリーヌと宝物のように。
「私のセリーヌ、本を読んでいるのですか?」
「はい、レイシス様。ナシアス王国の歴史を勉強しようと歴代の国王陛下のことを」
「ああ。アシュシス王ですか、マリージェン王妃の身の回りの世話ができなかったことが悔しくて、王子教育を改革した王ですね。おかげで番の全ての世話をすることは王子の権利と認められるようになり、とても感謝しているのですよ。だって愛しのセリーヌのお風呂のお手伝いが大手をふってできるのですから」
セリーヌは頬を赤らめた。
なめらかな頬だった。セリーヌはもうベールを被っていなかった。
セリーヌが歩いた跡に咲く花から新しい薬が作られたのだ。奇跡のようにセリーヌは元の美しい顔に戻ることができたのである。
ただ手を治す術がまだなかった。
しかしレイシスがセリーヌの頭の天辺から足の爪先まで羽根で覆うように世話をするために、不自由に思うことはなかった。羞恥心を根性で沈めさえすれば。
レイシスとセリーヌは相愛ではあるが。
レイシスの深く深く深く重い愛は、セリーヌにとって愛よりも恋よりも根性が必要となることを要求されることが多々あるのだ。
「私のセリーヌ。アシュシス王の庭の百年花を見に行きましょうか?」
レイシスはセリーヌを優しく抱き上げた。番の権利として。
「今の百年花は三代目だったか。我々ナシアス王家の王子にとっては願いの木となっているのですよ」
「いつか、いつか、番と出会えるようにと」
願うは貴女の幸せ。
名前も知らない。
顔も知らない。
けれども貴女の幸福を心から願う、僕は百年花の下で。
読んで下さりありがとうございました。