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ご都合主義正当化シリーズ~『スキルの名前に特殊な単語がつけられるのはどうして?』編~

作者: デンダイアキヒロ

 はぁ……。

 俺は机に広がる紙束を見てため息をつく。

 いつになったら、俺はきれいな茶色の木目を見ることができるのだろうか。少なくとも一週間は見ていない。

 どれもこれも、安易にスキルを与えようとする神々が悪いんだ。考える身にもなれ。

 ……しかし、天界の一天使でしかない俺はそんなことを口に出すことはない。できる中間管理職は我慢強いのだ。


「キノシタ部長! 新たな企画、考えてきました!」


 うちの部署の新人、ササキが俺の前に企画書を持ってくる。元気いっぱいなのはとてもいいことだ。

 さてさて、お手並み拝見……うん。

 眉を八の字にした俺はササキに企画書を突き返した。


「ササキ、自分の企画書の題名を読んでみろ」

「はい! 身体強化系スキル『範馬〇次郎』です!」

「ボツッ!」


 久方ぶりに大声を出した。

 俺の絶叫に、ササキが耳を押さえて体を縮こまらせる。


「ふぇえ……何でですか……」

「完全にアウトだろ! どこがオッケーだと思ったんだ!」

「だって私、あの生物に勝てる生き物を知りませんもん……。絶対にいい結果しか生みませんって」

「この世には著作権というものあってだなぁ……!」


 俺が猛反発すると、ササキは「面白いからいけると思ったんですがねぇ。ほら、『俺の子を産め!』だとかヒロインへのプロポーズに最適ですし。ハーレムものなら最強ですよ」と言いながら渋々企画書をシュレッダーにかける。

 普通にダメだわ。というか二番煎じ感が半端ないわ。


 ……まったく、見てびっくりした。


「次はもうちょっとマトモな企画(スキル)を持ってこい。ネタが尽きかけているといえ、おまえならできるはずだ」

「はぁい」


 気の抜けた返事ですごすごと自分のデスクに戻るササキを見ながらさらにため息をつく。

 アイツもアイツなりに頑張っているのはわかっているんだがなぁ……。

 そう思い、俺は自分の肩書の書かれた社員証を忌々しげに見る。


「天界スキル製造所企画部部長キノシタ……あぁ、天界にも定年制度を導入してくれよぉ……」


 天界スキル製造所、そこが俺たちの職場だ。

 天界スキル製造所とはその名前の通り神が人々に与える加護、『スキル』を製造する場所。

 すべてのスキルをがこの製造所で作られ、転生者や転移者に届けられる。いわば夢の工場だ。

 ──しかし、この場所には夢も希望もない。あるのは納期という名の締め切りだけ。

 その中でも、我が企画部は日々紛糾している。毎日が戦場だ。


「お困りのようね、キノシタ部長」

「ああ、シライシ。非常に困ってるよ。企画(スキル)のネタがないんだ」


 俺の一年後輩にして副部長、シライシがコーヒーを俺のデスクに置く。ほろ苦いコーヒーの匂いで少し落ち着いた。

 俺は縋りつくようにシライシに問う。


「シライシ、おまえはなんか考え付いたか?」

「いや、それはまだ……。でも、そうね。アイデア勝負の企画部だけども、ここ最近はマンネリ気味。そろそろ新しいスキルのカテゴリーを見つけないと納期が……」

「おまえもか……」


 二人そろって「「ハァー」」と嘆息する。

 そう、この企画部を苦しめている理由。それはスキルの名前だ。

 スキルは一人一つで十人十色が原則。ネタかぶりは許されない。

 前は「魔力無限」や「物理攻撃無効」などの脳死で考え──ンンッ、比較的シンプルな名前でも難なく採用されていたが、時が経つにつれて神々から「手抜き」と苦情が来るようになった。

 まぁ、確かにあの時は手抜きしていたさ。感覚がマヒしていた。

 しかし、神々の指摘が来るようになってからは俺たちも本腰を入れて、個性をより強調する企画(スキル)を考えていった。


 ──結果、この始末である。

 単純にアイデアが尽きた。 これ以上ない進退極まった答えだ。

 最近は緊急手段「職業シリーズ」で食いつないではいたものの、それももう限界。

 スキル『警備員』に強さを見いだせると思うか? 無理だろ? そういうことだ。

 なので、俺たちは早急に新しいスキルのジャンルを開拓する必要があった。


「あの頃はよかった……特にスキルドレイン系は即座に採用された」

「過去の栄光にすがっていても仕方がないでしょ。どうせ帰ってこないんだから」


 眠気覚ましにコーヒーを飲み干しながら感傷に浸る。

 ああ、眠りてぇ……。


「部長。シライシさん。企画できました」

「ん? ……おお、カワイ!よくやった!」


 俺が欲望に負けてアイマスクに手を伸ばしかけていた時、入社三年目で仕事にも慣れてきたカワイが企画書を差し出す。

 さっそく手に取り内容を確認……ほうほう。


「スキル『パソコン』か」

「はい。デスクワークをしていて思いつきました。意外と便利じゃありませんか?」

「そうねぇ……思ってもみなかったわ」


 いつでも検索をかけれる能力。普通に便利そうだ。

 久々にいい企画書がきたので、自然とテンションが上がる。おおむねシライシも同じ意見のようだ。

 よかった。これなら採用できそう────


「カワイ先輩、それって意味あるんですか?」

「「「……え?」」」


 と、ここで先ほどボツを食らったササキがこの企画(スキル)に待ったをかけた。

 カワイは自慢げに髪をかき上げながら


「ササキ、何を言っているんだ。僕が必死で考えた企画(スキル)を……」

「だって、異世界にパソコンを持って行ってもパソコンに異世界の情報が流れているわけないじゃないですか。せいぜいオカンの知恵袋の上位互換ぐらいに落ち着きますよ」

「な……!」

「しかも最近の現代っ子は非力なんですよ? パソコンでいくら方法を知ったところで実践できる人が何人いるんですかね」

「ぐぅ……」


 ササキの正論にカワイが口をつぐんだ。

 ……そして後輩に露骨に自信作を否定されてしまったカワイは、そのまま黙って自分の企画書をシュレッダーにかけ始める。

 その背中は非常に小さかった。


「……シライシさん。お願いします。僕の案の仇を取ってください」

「え、ええ? わたし?」

「昔ブイブイいわせていたシライシさんなら何かいい考えが浮かぶと思います。お願いします」

「えぇ……」


 後輩の無茶ぶりにシライシが「しょうがないわねぇ……」と自分の引き出しから古ぼけたネタ帳を持ち出す。

 シライシはこう見えてもうちの部のエースだった。

 今は審査する側の副部長におさまっているとはいえ、今でもそのキレは顕在のはず。

 シライシは俺が若かったころに嫉妬していた速度でテキパキと情報をまとめていく。

 流石はシライシ、腕は衰えていないか。


「では久しぶりに。……キノシタ部長、企画ができました」

「おう。ぜひ見せてくれ」


 この懐かしいやり取りに期待に胸を膨らませ、俺はシライシの企画書を見る。

 ──こ、これは……!


「スキル『ガチホモ』です」

「おまえマジで言ってる!?」


 ド直球な単語を真面目な顔でのたまうシライシの前で俺は即座に企画書をシュレッダーにかけた。


「あっ……」

「『ガチホモ』はダメだろう!? このスキルを与えられた人たちがどんな顔をするか想像してみたか!?」

「それはもうバラのように顔を高揚させ、愛しい(ひと)とのつんぐほぐれつに……」

「腐ってやがる! 手遅れだ!」

「部長、これは絶対に売れます。転生者×王子はわたしたちの夢です。どうかご英断を。個人的には転生者が受けの方が非常に助かります」

「うるせぇ、却下だ却下! そんなことしたらR指定が跳ね上がるわ! ズバズバとアイデアを出していたあの時のキレはどうした!」


 まさか長い付き合いだったシライシが腐っていたとは。

 初見でクールだと感じた俺の印象を返してくれ。


「わたしは昔から薔薇好きです。男色(boy`s Love)(is)正義(justice)。その信念に歪みはありません」

「ほんとに歪みねぇな! ……ったく。どいつもこいつも……」


 このどうしようもない部下たちに頭を抱えた。

 ああもう! 納期がもうすぐそこまで迫ってるというのに!

 俺は頭を掻きむしりながらなんとかアイデアをひねり出そうと模索する。

 王道系はダメ。ルビを中二病的単語に変えてもどうせ似たようなものだとバレる。

 最近流行りのスローライフ特化の農業系……ダメだ。もう絞りつくした。全然開拓する余地がない。

 謎単語系……作ってて思うのだが超解釈過ぎて作っている俺達でも意味が分からない。どういうスキルなんだ、あのジャンルは。

 考える頭に熱がこもる。 眠気と疲労もあってか、自身の活動限界が近いのがわかる。

 うぬぬ…………仕方がない! どうにでもなれ! 何もせずにクビになるよりかはマシだ!

 もう色々と吹っ切れた俺はササキに指を差して言う。


「ササキ! 最近検索した単語は!?」

「寿司職人です!」

「よし採用! それでいこう!」


 こうして、人々に贈られるスキルは作られていくのである。

スキル「ガチホモ」は一周まわって見てみたい。誰か書かないかなー(見るとは言っていない)

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