不平等結婚 文句タラタラな朝
石油ストーブに火を入れ、やかんに水を張りかけた。外は氷雨が降っているのか、ポトポトパタタ、窓の外から聴こえる、薄ら寒い三月半ばの朝の台所。ようやく蛍光灯をつけなくても、朝仕事に不便が無くなった、午前5時半過ぎ。
今日はパート勤務が休みだというのに、起きなきゃいけない事に少々ボヤきたくなる私。勿論、旦那も子ども達もまだ寝ている時刻。
おかしいと思うのよね。朝仕事って何。洗濯物はタイマーで終わらせているから干すだけにしているけれど、ちんまり中古の一軒家だからこんな時間から、あちこちガーガー掃除機をかけても怒られないけれど。
ピーピーピー、台所からしっとりぬくとい甘い香り、ご飯が炊けたと合図を背後に受ける。朝のニュースが見たくてテレビのスイッチを入れる、ついでにリビングでダラダラと呑んだ、旦那のグラスとアルミ缶をシンクに運ぶ。食べたゴミがら、ツマミにした柿ピーの袋をクシャクシャと丸めて、プラ回収袋に。中でアルミ包装のそれは、ウヨウヨ動いてじんわり広がる。
ゴミは捨てるって、奴は知らないのでしょうかね? 飲料缶もペットボトルも、水でゆすいで乾かさなきゃいけない決まりになったと、お前が広報を読みながらしたり顔で、子ども達に教えていた事を、私は聞き逃してはいない。
ツマミの袋だってね、子ども達は自分が食べたお菓子の袋は、ママこれは燃えるゴミ? こっちのゴミ箱? ってちゃんと聞いて捨ててくれるのよ。私のしつけの賜物だけとね。
家族四人暮らし。成長期の子ども達には、しっかりと食べさせたいから、ピザトーストや、ホットドック、おにぎり。ワンプレート朝ご飯が仕事の日のメニュー。作り置きや前日の残り物、インスタントのスープなんかに助けられて頑張っている。
今日は私の休みの日。だからお味噌汁と炊きたてご飯に目玉焼き、子どもが好きなウインナーも焼く。後は昨夜残った、ベーコンと新玉ねぎの洋風肉じゃが、ほうれん草のお浸しや白菜の浅漬で済ませよう。
お茶碗に汁椀、中皿、小皿、お箸 × 4人分 + 私と奴のカップ + 子ども達のカップ + グラス1個 + ビール缶 2個
休みの日だけど、グラス1個から向こうが、余分な仕事に思えてならない。寝る前にさっと洗っておこうと思わないのだろうか。私や子ども達には、使ったら片付けろと小うるさいのに。
『病める時も健やかなる時も』
お互いを支えるってどういう意味なのでしょうか。我が家の経済状況は、夫婦共働きじゃないと回っていかない。夫の経済を支えるということなら、バッチリ支えまくっている。
ならば、私は旦那に支えて貰っているの? 毎日毎日、エンドレスリピートの家の仕事を。答えは。
NO!
片手鍋に水を張りコンロにかけて朝食の用意、台所は湯気とストーブの力でほんわり温もっている。底冷えのする時間帯に起きる私、なのに旦那は暖かくなった台所に入るなり、寒いとボヤく。最近それが苛つく私。
もうすぐ子ども達を起こして送り出せる様に、朝っぱらからテンション上げて頑張るのは勿論、私。旦那はゆっくり携帯を見ながらご飯を食べて、インスタントだけど私が入れたコーヒーを飲んで。
自分の事だけをして仕事に出る。
忘れ物は無いか? 一言ぐらい父親なんだから、子どもに聞いてくれてもいいのにと思いつつ、あれこれ急かしてお母さん業務をこなし、ゴミの日には前日まとめた袋を回収所に運ぶ、洗濯物を干す、朝食の洗い物等、家政婦業務もタイムスケジュールに沿い片す。
携帯で時間を確認、バタバタとパートに出る私。
あー、なんだかね。最近、ものすごく苛つくの。どうしてか私ばかり、二足も三足も草鞋を履かなきゃいけない事に。
私はわがままだと思うんだ。真面目に働いて頑張っている、子ども達はめちゃくちゃ可愛がる。学校行事の毎には、ワンコみたいに嬉しそうに参加している。うん、いい父親よね。良く解っているつもり、でもね。
良い夫と聞かれれば、ウ~ンとなっちゃうのよ。私に手を上げる事なんて決して無い、浮気もない、博打もしない、時々パチ屋に行くだけな、無害な一般人の彼。なのに、ちょっとボヤきたくなるの。
毎朝、私は細かしい事をブチブチ、冷蔵庫を開け閉め、何時もの様にレンジ大活躍、今日はお味噌を溶いて、フライパンがジュウジュウ音を立て終わった頃に。
「おはよ……、ふぁぁ。寒い」
6時過ぎ、まだボサボサ頭の旦那が着替えだけ済ませて起きてきた。ほんわりと暖かくなっている台所に入るなり寒いとボヤく。苛つく言葉はスルー。
「子ども達起こさなきゃ」
ガタンという音に送られ台所を後にする。わざと足音高く、だんだん! 起きろーと合図の音立て階段を上がるのが約束。アニメのキャラクターの目覚まし時計、賑やかなアラーム音が流れる子ども部屋。二段ベッドに芋虫の様に布団に潜る、私のかわいい子ども達。勿論、夫婦の愛の結晶。その頃は苛つく事など全く無くて。
「おはよ……、ふぁぁ。寒い」
となれば、にっこり笑顔で、今朝はさむいねと応じたけれど。最近は心がムリムリとなっている、可愛らしき私は何処かに消された。その部分が戻ることは恐らく無いだろう。なので、家庭の平穏を保つ為にスルー。
二人を起こして、服を着替えさせて。今日は休みだから沢山洗濯物できるかな? 後で天気予報チェックしなきゃ。パジャマにできればカバーリングもシーツも洗濯したい。
ほらほら、と寝ぼけ眼で着替えを済ませた二人を、台所に背を押すように連れて行く。ダイニングテーブルに座る奴はぼんやりテレビを眺めていた。
「おはよ、おとうさん」
「んにゃー、おはよう」
「ん、おはよう、お母さん、ご飯早く」
席に着く子ども達、出来上がっているメニューを皿に盛り付け、味噌汁を椀に注いでいると。
ご飯をよそったりさ、箸を並べたりさ、テレビ眺めている間に、ちょこっとぐらい手伝ってくれたらいいのに、なあんて、朝っぱらから奴にムカつく、私。
今日は休みだから良いけどさ、家事って女が全て担うものなのかな、って最近、ちょっと思うの。やかんがシュンシュン、湯気をたててる台所は、ほんわりと白湯の味に満たされ暖かくて。