プロローグ
数ある作品の中から、本作を選んでいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけると幸いです。
ヒーローというものに憧れていた。
その圧倒的な力で、邪悪な敵をバッタバッタと薙ぎ倒し、人々から尊敬され、慕われる。
そんな俺が憧れのヒーローになったのは、高三のときだった。
『ダンジョン』と名付けられたそれが、世界中に発生した時だ。
ダンジョンは、存在するだけで周囲の生命体に様々な悪影響を与える。そして、もしダンジョン周辺で命を落とせば、その肉体はダンジョンに吸収され、死体すら残らない。
俺はそのダンジョンの探索に適性を持った、数少ない人類の一人だった。
家族も友人もいたが、強制徴収され、家族に会うことも叶わないまま世界中のダンジョンを探索させられた。
そして、
「ようやく……来ましたね」
ダンジョンには共通して主、と呼ばれる化け物が存在していた。
この世のものではない、神秘的で恐怖の概念を具現化したようなそいつは、普通に考えれば人間が太刀打ちできるようなものではない。
しかし、ダンジョン内は特殊な秩序が支配しており、それはサイズも速度も人間とは桁違い化け物との戦闘を可能にした。
「これでようやく家族に会えるんだな。ここまできて、残ったのは俺たち二人だけ……か」
「……死体も残らない世界……死亡の報告を聞いた家族の心境は、僕には到底理解し得ないでしょう。」
「………だな。」
一生会えないというのが、どれほど辛く、悲しいことかは、僕には想像ができない。
ダンジョンの秩序が戦闘を可能にしたが、それはあくまで手も足も出ない状況から、一矢報いる程度まで引き上げるレベルだ。
当然、10あった探索チームはうちの隊を残して全滅。うちの隊も数十人いたが、最奥のダンジョンに潜ったときには5人に、そして、3人が死んだ。
今、目の前には扉がある。主の元へと誘う地獄の門だ。
「本当に……勝てるんですかね。」
「やるしかねえんだよ。どっちみち、勝つ以外は死ぬんだ」
「………」
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思えば、ここで引き返していても、結果は同じだったのかもしれない。
俺はそう思い、復讐の炎を静かに燃やし、まぶたを開けた