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パリからロンドンへ

作者: 髙橋英昭

     パリからロンドンへ


 

 二〇XX年十月十五日の昼すぎ、霞が関にある警察庁では、国際課長水野芳夫が、同じ課にいる野村秀樹警部を呼んだ。

「やあ野村君、元気か?」と水野課長はソファに掛けるように示しながら言った。

「何とかやってます」と野村警部は何の話か分からないままそこに掛けた。

「君とはトルコに出張して貰って以来だな」

「はあ、でもまあ何とか解決出来て良かったと思っています」

「実は君に来てもらったのは他でもない。国際刑事機構インターポールから変な連絡が来たんだ。要約すると次のとおり。

? フランスのパリ十六区にあるブローニュの森で、日本人らしい男の死体が発見された。一見して銃撃されたことがわかった。

? 男は所持品からみて、日本のやくざ組織の一員らしい。

? 土地のやくざとの何らかのもつれから抗争になり、その結果銃撃されたもようだ。

? ついては日本から捜査官を派遣して欲しい」

「実は一週間前にこの連絡を受けてから、公安課に頼んで、岡田組や飯田会、山本会など指定暴力団でフランスに人間を出している話とか、フランスの組織と揉め事をおこしている話など聞いてないか、地元の所轄を通して当たってもらってたんだ。するとどうも神戸猿山組がフランスに人間を派遣しているらしい」

 野村警部は「神戸猿山組というと、例の岡田組から分かれて、神戸を本拠にしている、あの組織ですか?」

「そうだ。日本のやくざがからんでくると、いかにパリ警視庁といえども難しいだろう。野村君、ご苦労だがひとつ出張してくれないか?」

「今は少し手が空いていますからいいですよ。明日にでも出発しましょう」。

「ご苦労さんだが宜しく頼む」




 野村秀樹警部は、日大法学部から警察庁に入り、国際課で二十年も海外に係わる案件を担当した経験のある、四十二歳のベテラン捜査官だ。

 家庭には妻と、子供が二人いる。休日は近所の遊園地などに出掛けて、子供と遊ぶ子煩悩なパパになる。


 翌日のエールフランス機で、野村警部はパリへ飛んだ。シャルル・ドゴール空港には、定刻の三時三〇分に到着した。

 直ちにタクシーで、シテ島にあるパリ警視庁に向かった。

 あらかじめ連絡していたので、すぐ刑事部のダニエル・デュエル部長と面会することができた。

「よく来てくれました。パリは初めてですか?」とダニエル部長。

 野村警部は「いえ。仕事の関係で、過去二、三回は来ています」

「ほう。それは心強い。では早速事件の話に入りましょう」

「日本人の死体は鑑識の結果、頭部銃撃による失血死とのことです。弾道検査から銃はマテバオートリボルバーと判明しました。

 死亡時間は、十月五日(金曜日) の二十時から午前一時の間。死体は特別室に安置してあります。所持品は国際免許証、財布とライターなどがありましたが、全てご覧にいれることができます。被害者の名前は、免許証から、岡山省二、三十一歳と判明しました。)部屋の中にもう一人、見目うるわしき女性が立っていた。

 ダニエル部長は「おお忘れていた。すまんすまん。彼女はフランソワ・デュルケーム刑事です。この事件を担当させますので、宜しくお願いします」

 フランソワ・デュルケームは、パンテオン・ソルボンヌ大学の法学部を卒業して、パリ警視庁に就職し、四年目を迎えた二十八歳。女性ながら鋭い視点で捜査に当たっており、ボクシングも練習しているので、なみの警官より腕っぷしが強い。




 翌日から野村警部はフランソワ刑事と共に捜査を開始した。

 まず特別室を訪ね、遺体を検分した。頭部に赤黒い穴が開いており、ここに銃が撃ち込まれたことは、一目瞭然だ。

 岡山省二、三十一歳というが、頭は結構禿げ上がっており、四十歳といってもわからないぐらいふけた感じだ。

 次に保管室を訪ね、岡山の所持品をチェックした。デュエル部長から聞いたとおり、国際免許証、財布、タバコ、ライター、キーホルダーなどがあり、財布の中には、八百ユーロ少々(約十万円)入っていたので、この殺人の目的は強盗ではなく、遺恨か何かに絞られる。

 その後二人は、事件が発生したパリ十六区のブローニュの森に出掛け、現場を調査した。

 現場はすでに調査活動が終了した後らしく、白い粉で遺体のあった場所の目印は残っていたが、他に見るものは無かった。

 森の中なので、目撃者といっても見付けるのは難しい。

 



 日が暮れてきたので、近くのレストランに入った。ここはエスニック料理店だ。フランソワの勧めで、野村警部は、北アフリカ料理の「タジン」を頼んでみた。肉と野菜を円錐形のタジン鍋で蒸し煮にしたもの。

 フランソワはクスクスを注文した。これはデュラム小麦粉から作られた粒状のスムールに、野菜スープや肉、ヒヨコ豆、薬味などをかけて食べるもの。

 野村とフランソワは、まず地元の赤ワインで乾杯した。

 フランソワより「パリにはもう二、三回お仕事でお見えになったと承りましたが、もうあちこち観られましたか?」

「いえ、仕事でとんぼ帰りの出張ばかりで、ほとんど観光らしきことはしていません。今度の日曜日にでも、少し時間ができたら、ホテルの近くを回りたいと考えています」

「ホテルはどこでしたの?」

「シャングリラです」

「それならエッフエル塔も近いし、ルーブル博物館も近いですよ」

「ありがとうございます。一度回ってみようと思います」と野村警部。

 フランソワは「ところで今度、お時間があれば、私の家へお越しになりませんか。何もできませんが、フランスの家庭料理など召しあがっていただこうと思います」

「それはありがたいですね。その内時間ができたらお伺いしましょう」

 夕食を終えて、野村警部はタクシーを拾ってフランソワを送り、そのままホテルへ帰った。




 話は八カ月前にさかのぼる。

 二〇XX年二月、神戸猿山組では組長の井田安雄と若頭の寺山修三が鳩首会談をしている。

 寺山がグチる。

「我々はミャンマーからわざわざ仕入れた麻薬を、あちこちに販売していますが、最近は当局の取締りが厳しくなってきており、思ったほど収益が上がってきません。困っています」

 井田組長は「国内が厳しくなると、海外へ出てゆくことを考えねばならんな。どこか良い国はあるかな?」

「それでしたら欧州なんかどうでしょう?」と寺山は提案する。

「うむ。フランスやイギリスなど良いかもしれんな。しかし営業に出す人間がいるのか?」

「少しは英語を話す人間ならおりやすぜ」

「一体誰だ?」

「国内でも結構売ってくれている岡山でさ」

「どんな奴だ? 会ってみよう」と井田組長も関心を示した。




 一両日後寺山は岡山省二を組長に紹介した。

 井田組長は「お前が岡山か?」と質問した。

 岡山が回答する「へい。岡山省二と申しやす」

「何歳になった?」

「へい三十一歳になりやした」

「お前はいつからここにおるのだ?」

「もう十年近くになりやす」

「英語はできるのか?」

「へい。少しなら。昔、米軍の横田基地で働いていたことがありやす」

「家族はいるのか?」

「いえ、まだ独身です」

 井田組長から「実はフランスで商売をやってみたいという計画があり、先発としてお前を派遣しては、という意見が組にある。命令されたらパリへ行けるか?」

「へい、そりゃもう喜んで」と岡山は回答した。




 半月後、パリへ飛んだ岡山は、毎日歩き回って、麻薬を販売できそうな地元の売人を探していた。

 その日も一日中足を棒にして歩き回り、成果は何も無かった。何か無駄足だったような気がしてきた。夜も更けてきた。

 そこで裏町で売春婦を買い、その女と一夜を過ごした。彼女の腕には注射痕があった。岡山は話しかける。

「実は麻薬を買いたいんだが、お前、売人を知らないか?」

 女が答える「あたいは知らないけど、友達なら知ってるかもしれない」

「一体何という奴なんだ?」

「ヴァネッサというの」

「いつ会わしてくれるか?。ちゃんと礼はする」

「今度いつ来る? その時紹介してあげる」

「木曜日に来る」

「じゃあ木曜日の夜十時に、いつものところでね」

「OK」と岡山。




 岡山は売春婦ヴァネッサに八十ユーロ(約一万円)渡して麻薬の密売人の名前を質問した。すると彼女は売人の名前は「ブノワ・ウーダン」といい、毎週金曜の夜には、この界隈に現れるとの情報を得た。

 翌金曜日の夜、岡山はブノワ・ウーダンに会い、持参した麻薬の見本を見せて、買ってもらえぬかアプローチした。

 ブノワは、まずなめた指に見本の麻薬を少しつけて、味見をした。そして値段を聞いた。

 日本人から卸値を聞いて驚いた。自分が仕入れている値段より三十パーセント近く安い。

 聞けばこの日本人は自分以外の密売人にもアプローチしかけているとのこと。ブノアは、

「一応考えておこう」と回答を保留しておいた。




 ブノアは早速、仕入先のアラン・ファラデーへ電話した。相手はロンドンである。アランからは「余程の時以外、連絡してくるな」と釘を刺されている。

 アランは麻薬卸売人であるが、ロンドンの麻薬カルテルの幹部でもある。

「おいおい、重要なことでもない時に、むやみに電話してくるなと言ってるだろう」

「へい。分かっておりやすが。ちょっと面倒なことが起こりやして」とブノアから説明する。

 ブノアから事情を聞いたアランは、これも非常時以外電話を禁じられている麻薬密売カルテルのボスあてに電話して事情を報告した。

 アランは言う「このまま放置しておくと、日本人が安値でパリの麻薬市場に入って来てますんで、その内どの密売人も安い麻薬に飛びついて、我々は商売できなくなってしまいますぜ」

 ボスは質問した「ブノアはその日本人からもう買っているのか?」

「いえ、未だです。しかし時間の問題でしょう。さらにその日本人は他の売人にもアプローチしているとのことです」

「うむ、分かった。もうしばらく様子をみることにしよう」

「へい、了解しました。また何かあれば連絡します」




 二カ月が経過した。ブノアからアランへ電話が入った。アランは不機嫌に応対する。「何だ。余程のことでないと電話するなと言ってるではないか」

「へい、存じておりやす。しかし例の日本人の麻薬が徐々にパリ市内に広がってきやして、私の得意先もほとんど日本人の安い麻薬を買いやがるんで。何とか手を打って頂きませんと商売が干上がってしまいますよ」

 アランは、やはり余程のことでないと連絡を禁止されているカルテルのボスあてに実情を報告し、「そろそろ何か手を打たないと、我々のパリ市場は、日本人の安価な麻薬に席巻されてしまいますよ。そうなるとお支払いしている上納金もお支払いできなくなってしまいます」

 ボスは回答した「よし分かった。何か考えてみよう」




 神戸猿山組では、パリに岡山を派遣し、販売に少しメドが立ちそうな動きを示してきたことを受けて、今度はイギリスのロンドンに、やはり少し英語を話すという、ベテランの佐久間昭夫(三十五歳)を派遣して、同様の活動をさせることにした。

 



 九月に入り、ロンドンでは気温も十度そこそこで、朝晩めっきり冷えこんできた。

 ロンドン市内でも、やはり日本人が、地元の麻薬密売人に対して相場の三十パーセント程度安い値段で麻薬を卸売しているという情報がアランに上がってきた。

 アランは早速、普段の連絡は禁じられてはいるが、ボスに対し電話して、「パリと同じことがロンドン市場でも起こりはじめました。やはり日本人が安値で麻薬を卸売リしはじめ、我々の傘下にいる密売人達を泣かせています」

「何? パリと同じことがロンドンでも起こっているというのか?」とボス。

「そうです。何とか手を打たないと、我々は商売ができなくなってしまいます」

 ここに到ってボスは、じっくりと対策を検討し始めた。




 十月に入り、岡山は売人のブノワから久方振りに電話を受けた。友達の売人が、日本からの経済的な麻薬を買い付けたいというのだ。

 そこで岡山は「しめしめ」と、ブノアの言う十六区にあるブローニュの森まで出かけて行った。

 ブノアが先に来ており、岡山を案内して森の中の深いところまで進んでいった。

 するともう一人の男が後ろから近づき、いきなり岡山の後頭部に銃弾を撃ち込んだ。

 岡山はもんどりうって倒れた。即死である。

 殺し屋は、アランがフランスのカルテルの人間に雇わせたヴァルサン・エッフェルといった。勿論ボスの指示だ。




 十月後半になると。ロンドンはもうすっかり冬景色が拡がってくる。道行く人々にもオーバーが目立ってきた。

 神戸猿山組から派遣された佐久間明夫はコートの襟を立てて、相変わらず裏街を、麻薬密売人を探してウロウロしていた。

 ある時、佐久間は、なれなれしく寄ってくる貧相ななりをしたイギリス人に声をかけられた。

「旦那は日本からの麻薬を売ってるってるって聞いたけど本当ですか?」

 佐久間は答える「何だお前は。欲しいのか?」

「へい。私のダチ公の売人が、どっさり買いたがっているんでさあ」

「そいつは一体どこにいるんだ?」

「すぐそこなんですがね」と男は言う。

「本当か? 怪しい話だな」

「いえ旦那。本当ですよ。すぐそこに来ているんでご案内しますよ」

 半信半疑であったが、佐久間はまあ会うだけは会ってみようと思った。

「では案内してくれるか」

 この男に案内されて佐久間は、テムズ河の南岸にあるバタシーパークまでやってきた。

 そこで引き会わされたのは、背の高い、顎鬚を生やした、目つきの鋭いやせた男だった。

 この男はやはりアランに雇われた殺し屋ダグラス・ドレークだ。

 挨拶も何も無く、いきなりダグラスは佐久間の胸部に銃弾を撃ち込んだ。

 これではたまったものではなく、もんどりうって佐久間も即死だ。

 ダグラスを雇い入れたのは、ボスの指示である。

 これでパリに引き続き、ロンドンでも麻薬カルテルのボスを悩ませていた、日本からの安価な麻薬卸売人は、その根元が一掃されてしまったことになる。




 十月二十日、神戸猿山組の組長井田安雄と若頭の寺山修三が揃って上京し、霞が関の警察庁を訪問、刑事局長あて、次の通り要求した。

「我々がパリに派遣した岡山省二とロンドンに派遣した佐久間明夫が、この十月に引き続いて殺されました。一体何故なのか、犯人は誰なのかさっぱりわかっておりません。至急国際調査を進めて、犯人を挙げて頂けませんか。佐久間には家族もおります。この話がマスコミに流れたら、お宅らも困ると思いますぜ。宜しく頼んますよ」




 十月三十日になり、水野課長から野村警部あて電話があった。

「何かわかったか?」と水野課長。

「はい。パリ警視庁のフランソワという女性刑事をつけてもらって、遺体を検分し、所持品をチェックし、殺害現場を視察し、目撃者はいないか種々調査を進めております。どうやら岡山は麻薬の取引に絡んで地元の人間から殺害されたように思えます」と野村警部。

「そうか。ご苦労さん。実はロンドンでも日本人の銃殺死体が見つかったんだ。まだ詳細は分かっていない。君、申し訳ないが至急ロンドンへ飛び、ロンドン警視庁を訪ねて調査してみてくれないか。宜しく頼む」

 翌日野村はロンドン警視庁スコットランドヤードへ出向き、ケン荻原刑事と面談した。

 同刑事によると、死体は鑑識の結果、胸部に銃弾を撃ち込まれたことによる失血死。銃はやはりマテバオートリボルバーと判定された。殺害現場はテムズ河南岸にあるバタシーパーク。殺害時間は十月二十日二十三時から翌日の午前二時。財布と定期入れから、被害者は日本人の佐久間明夫と判明。所持金は盗られていない。

 野村警部よりフランスの事情をケンに詳しく報告した。確かに似通った点がある。

 二人は警視庁の外へ出て、近くのレストランに入って昼食を摂った。

 ケン荻原の父親はスコットランド人、母親は日本人の混血で三十四歳。既に結婚しており娘がひとりいる。警視庁の隣にある道場でも、数年間柔道を練習しているという猛者だ。

 ワインで乾杯した後、野村はリブローステーキとクルミ入りサラダを頼んだ。

 ケンは野菜中心のヘルシーメニューとスープを頼んだ。

 話は自然に事件の内容に入る。

 今般二人の日本人がパリとロンドンで、同じように銃撃されている現状から、麻薬がからんだ殺しに間違いないと判断され、今後両者で緊密に情報を交換して捜査に当たることを約束した。

 



 野村はヒースロー空港のガーデン・インに宿泊し、翌朝パリに引き返して、パリ警視庁でフランソワと面談し、ロンドンでの打合せ内容を説明した。

 夕刻ホテルのシャングリラから東京の水野課長へ国際電話を架け、ロンドン警視庁のケン荻原との打合せ詳細と、今後英国の調査は彼が担当してくれて逐一パリへも連絡してくれることになったと報告した。




 十一月に入った。パリはもうすっかり冬で、曇りがちの日が多くなった。気温も五度ぐらいで肌寒い。

 日曜になったので、野村は気晴らしに、ホテルから外へ出た。

 目前の大きくそびえるエッフェル塔に向かったが、観光客が大勢列をなして入場切符を買うために並んでいる。

 これはたまらんと見切りをつけ、ルーブル美術館に向かった。膨大なコレクションを全て見て回るには数日かかる。

 野村は見るものを、モナ・リザ、ミロのヴィーナス、サモトラケのニケと割り切って、必要なセクションだけを回った。さすがに何れも素晴らしい。

 簡単に昼食を済ませ、次にオルセー美術館に向かった。ここではマネ、モネ、ルノアール、ゴッホなど有名な画家の原画が揃っている。じっくり鑑賞してると、結構な時間になってしまった。

 地下鉄でモンマルトルの丘まで行き、キャバレーで有名なムーラン・ルージュでディナーショーを見物した。終わると二十一時を過ぎていた。

 近くにそれらしく春をひさぐ女たちが、客を求めてウロウロしている。

 野村は、中でもうすら寒そうで、いかにも麻薬を吸っていそうな雰囲気の女に近づき「行こうか?」と促した。

 女は近くの汚らしい一軒のマンションの一室に野村を連れ込んだ。

 服を脱ぎかけた女の腕を見ると、黒々と注射の痕があった。

 野村は切り出した。

「二四〇ユーロ(約三万円)上げる。俺は寝なくていい。ただひとつ教えて欲しい」

「一体何なのさ?」と売春婦の女。

「俺は麻薬の売人を知りたい」

「あんた警察の人?」

「違う。旅行者だ。無性に麻薬を買いたいんだ」

「それなら私じゃなく、私の友達が売人を知ってるよ」

「友達って誰だ?」

「イローナっていうの。近くに住んでるよ。でも今日はいない。出かけているらしい。明日同じ時間に来て」

「分かった。明日また来るから、そのイローナを紹介してくれ」




 翌日野村は同じような時間に、同じ場所で待っていると、昨日の売春婦が友人らしい女を連れてきた。この女がイローナらしい。

 売春婦は言う。

「旦那この娘がイローナだよ。何でも聞きな」

 そこで野村は一五〇ユーロ(約二万円)を渡して聞いた。「彼女に聞いたんだけど、君はヤクの売人を知ってるらしいね?」

イローナは答える。

「あんたまさかサツじゃないだろうね?」

「違う。旅行者だ」

「それじゃ教えてあげるけど、そいつはブノワ・ウーダンて奴だよ」

 野村は質問する。

「是非そいつからヤクを買いたいんだが、一体いつ頃どこへ行けば会えるだろう?」

「それなら毎週金曜日にこの区画に現れるよ」

「どうもありがとう」




 金曜日になった。野村はフランソワを伴い、売人のブノワに会いに出かけ、声をかけた。

「お前さん、ブノワと言ったっけ?」

 ブノワはびっくりして答える。

「何だ何だやぶから棒に。そうだ。俺がブノワだが何か用か?」

「実はイローナから聞いた。ヤクを売ってもらいたいんだが」

「何イローナ? ああ、あいつか。それで幾ら欲しいんだ?」とブノワは質問する。

「とりあえず八百ユーロ(約十万円)ぐらい分けてもらえないか?」

「そりゃいいが。まさかおめえサツじゃねえだろうな?」

「違う。旅行者だ」

「よし。あそこに止めてある車まで来い」

「よし」

 ブノワ、野村、フランソワが近くに駐車していた黒塗りのワゴン車に近づく。ブノワがトランクを開ける。プーンと麻薬の匂いが鼻を打つ。

 ブノワが袋から、麻薬を取り出して、野村に見せる。野村は湿した指で触って口に持ってゆく。「うんヤクだ」

 途端にフランソワが「麻薬取締法違反の現行犯で逮捕する」と素早く手錠をはめる。ブノワはギョッと驚愕した顔でフランソワと野村を見つめたが、二人により警視庁へ拘引された。




ここはパリ警視庁の取調べ室。ブノワを前に、こちら側は野村警部とフランソワ。

 野村からまず口をきる。

「先日日本人が銃殺された。麻薬がからんでいると思われる。何か知らんか?」

 ブノワが答える。

「何も知りません」

「ヤクを扱っているんだから、ある程度のことは知ってるんだろう?」

「何も知りません」

「知ってる情報をしゃべったら、少しは加減してやろうと思ったが、もう止めた。麻薬取締法違反で逮捕する。十年も臭いメシを食っていろ」

 ブノワが急に慌てだした。

「ちょっと待って下さいよ。一体何をしゃべったらいいんですか」

「日本人の殺人に関する情報だ。何でも良い。何か聞いているだろう?」

「さあね。あっしは本当に何も知らないんですよ」

「そうか、じゃあブタ箱に入ってもらおう」

「ちょちょっと待って下さいよ。何もそうあわてなくてもいいじゃありませんか」

「一体お前はヤクをどこから仕入れているんだ?」

「それをしゃべると、あっしゃ殺されてしまいますよ」

「そうか。それなら止むをえない。十年間臭いメシを食って貰うことにする」

「すぐそれだ。困りましたな。決して仕入先については誰にもしゃべるなと固く口留めされているんですよ」

「そうか。ではフランソワ、そろそろ終わりにしようか?」

 フランソワは答える。

「そうですね。この男をブタ箱に放り込みましょう」

「ちょちょっと待ってよ。話せば少しはブタ箱入りを待って貰えるんですね?」

野村警部は答える。

「約束しよう」

「決して俺がしゃべったとは言わないで下さいよ。お願いしますよ。私がブツを買っているのは、ロンドンの電話番号二〇ー????からです。」

「よし分かった」

 野村からケンへ直ちにこの番号が連絡され、調査が依頼された。




 土曜日の夜、野村はフランソワの自宅に招待された。セーヌ河岸に建つ立派な石づくりの住宅だ。

 夕食には父親のクロード・デュルケームも参加した。彼はソルボンヌ大学の法学部教授である。

 野村は自己紹介した。

「この度ある事件を追って日本の警察庁から出張して参りました野村秀樹と申します。お嬢様のミスフランソワにいろいろご協力頂き感謝致しております」

「ご丁寧にいたみいります」とクロード。

 フランソワが「まあ何もありませんが、フランスの家庭料理です。召し上がれ」

 前菜はカナッペ、料理にラタトゥイユ、ステーク・フリット、ブフ・ブルギニヨン、デザートにコンポートと素晴らし料理を賞味することができた。

 食事が終わり、コーヒーかエスプレッソになった。

「ところでお二人が手がけている事件とは、一体どんなものでしたかな。お差し支えない範囲でお聞かせ頂けますかな?」とクロード。

 フランソワが野村の顔をチラッとみて回答した。

「実は日本人のヤクザが殺されて、野村警部と走り回っているところなのよ」

「それは大変だね」とクロード。

「それが同じような殺しが今度はロンドンでも発生して、両方とも麻薬がからんでいるようなの」

「そうか。同僚から聞いた話だが、ロンドンではかなり大掛かりな麻薬カルテルがあるそうだよ。そのカルテルがパリにも関係してないとは言えないな。モノが麻薬だけに関係者の口は堅く、捜査はかなり難しいのではないかな」

「そうね。ロンドンでは警視庁のケン荻原という日系イギリス人の方が捜査に当たってくれているのだけど」

「いっそのこと、誰か組織の中に潜り込んで捜査してはどうなんだろうか。いや出しゃばったことを言って申し訳ない」

 野村は「いやそんなことはありません。貴重なご意見ありがとうございます」

 フランソワは「そうね。警視庁で提案してみようかしら」




 翌日ケンから野村に電話があった。

「先日ブノワから聴取したロンドンの電話番号は、驚くな、ロンドンの麻薬カルテルの電話番号だった。アラン・ファラデーという幹部にも繋がる番号だと分かった。ここではアフガニスタン製の麻薬を大量にさばいているもようだ。このカルテルの守備範囲は、ロンドンのみならず、パリ、イタリアのローマまで広がっているらしい」

 十一月七日になり、野村は水野課長に捜査の状況を電話で報告した。水野課長からは次の通り。

「公安課にチェックして貰ったが、ロンドンで殺された佐久間明夫も、神戸猿山組が、麻薬の拡販をめざして送り込んだ人間だと判明した。

 欧州を席巻している麻薬カルテルに対し、日本から、神戸猿山組が、安値の麻薬を持ち込み、殴り込みをかけたので、あちこちで揉めているもようだ」 

 野村が回答する。「分かりました。どうもありがとうございます。

 ところで今後どのように捜査を進めてゆくか捜査方針を、ロンドン・パリ・日本の警察関係者で電話会議をやっては如何でしょうか。何といってもカルテルの幹部が、パリではなく、ロンドンにいるというのが引っ掛かります」

 水野課長が回答する「良かろう。関係者に声をかけてみてくれ。私はいつでも応じることができる」




 十一月八日、フランスの「ラ・フィガロ」紙、イギリスの「タイムズ」紙、それに日本の「朝日新聞」が一斉に本事件に関する報道を共同で流した。要旨は次の通り。

「去る十月五日、パリのブローニュの森で、日本人の岡山省二氏(三十一歳)が頭を銃撃され殺されていた。

 また同月二十日、今度はロンドンのテムズ河南岸にあるバタシーパークでやはり日本人の佐久間明夫氏(三十五歳)が胸部を銃撃され死亡していた。双方とも麻薬が関係した抗争の結果と判断されている。現在パリ、ロンドン両警視庁で鋭意捜査中」




 十一月十日、水野課長、野村警部、パリ警視庁のダニエル刑事部長、フランソワ刑事、ロンドン警視庁のシェローム公安監査部長、ケン荻原刑事がスカイプの電話会議で揃って一同に顔を合わせた。

 水野課長よりまず発言。

「ダニエル部長、フランソワ刑事、シェローム部長とケン刑事には、今回の日本人ヤクザ殺人事件の捜査に絶大なご協力を賜り、誠にありがとうございます。

 本日は全関係者が揃っての始めての電話会議です。今後の捜査方針について忌憚の無いご意見を賜るようお願い申し上げます」

 ダニエル部長刑事より質問。

「パリとロンドンで殺された日本人は、いずれも日本のヤクザ組織から派遣された、麻薬の卸売者だったことは間違いないのですね?」

 フランソワが回答した。

「はい、間違いありません。野村警部と共に、パリの売人を締め上げ、聴取した仕入先の電話番号から、ロンドンの麻薬カルテルの実態と幹部の名前をダン刑事に調査して頂きました」

 シェローム部長より次の通り質問。

「パリの殺人とロンドンの殺人の手口は似ているのか?」

 ケンが回答した。

「野村警部との緊密な情報交換により、両方とも同じ手口で、パリでは頭を、ロンドンでは胸を銃撃されておりました。銃は両方ともマテバオートリボルバーと判定されております。同じ十月に違う場所(国)で殺されていることでもあり、二人の違う殺人者による犯行と考えられます」

 またシェローム部長より質問。

「それでは君は一体どの様に捜査を進めたら良いと考えているのか?」

 ケンが回答した。

「両国を跨ぐ麻薬組織の本部がどうもロンドンにあるらしいこと。ボスが一体何者なのか不明であり、殺人の理由も仕掛人も分かっていません。ここはひとつ誰か警官が組織の中に潜り込む潜入捜査をしては如何かと考えます」

 野村警部が、フランソワの顔を見てから発言した。

「ケン、しかしそれは大変危険だよ。万一露見したら、潜入捜査官の命はなくなる」

 ケンが発言する。「野村警部、しかし殺人事件が発生してから一カ月以上も経って、未だ犯人が挙がっていません。人間を派遣した日本のヤクザ組織もその内どの様な行動に出てくるかわかりません。パリとロンドンの警視庁が揃っていて、いつまでも犯人とそれを操る組織の解明ができなくては、マスコミに何といわれるかわかりません。是非潜入捜査を進めましょう。何なら私が自ら出向いても良いです」

 シェローム部長が質問する。

「お前、一体大丈夫か?」

「大丈夫です。麻薬カルテルがロンドンにあり、幹部もアラン・ファラデーと聴き出しました。あとは知らん顔をして潜入するだけです」

 シェローム部長

「よし。そこまで言うならやってみろ。ただし組織の中でどの様な事になるかもしれず、連絡だけは決して絶やすな」

「了解しました」

 野村警部とフランソワが声をそろえて、

「ケン、大丈夫?。大変危険な仕事よ」

 ケンが答える。

「なに大丈夫さ。いざとなったらひっくり返って助けを求めるよ」

 ジェローム部長は

「では任せたぞ。しっかりやってこい」

 水野課長は「大変なお役目ですが、宜しくお願いします。野村君でサポートできることがあれば、何でもお申し付け下さい」




 十一月二十日、ケン荻原は麻薬売人と接触して、麻薬を買うと同時に話しかけた。服装も崩れた雰囲気をであり、無精ひげも伸ばし放題にしている。

「俺も君と同じように麻薬を売って歩きたいんだけど、誰にお願いすれば良いのかな?」売人は驚いて、

「何だ何だ。お前麻薬を売って歩きたいだと?。本当か?。サツじゃねえだろうな?」

「サツじゃねえ。競馬ですってしまってもう金が無くなったんだよ。そいであんたのように、麻薬を売れば、手っ取り早く金になると思ったのよ」とケンが回答した。

「お前名前は何てんだ?」

「ダン坂本ってんです」

「日本人か?」

「いや、スコットランドと日本人の混血です」

 売人はケン(ダン)の熱心な依頼が通じたのか、卸売先であり、カルテルの幹部でもあるアラン・ファラデーに電話した。

 アランは丁度オフイスに座っていた。

「馬鹿野郎。俺には簡単に電話するなと言っといただろう。一体何で電話してきたんだ?」

「どうもすみません。実は俺のようにヤクの売人をやりたいという変な野郎が来ているんですがね。一応お知らせしておいた方がよいと思いまして」

「一体どんな野郎だ?」

「へい。中肉中背でうらぶれた感じの、日本人との混血みたいな野郎です」

「何、日本人との混血?」

「へい、そうでございます」

「よし。今、日本人との間で少し揉め事が起きている。何か役に立つかもしれん。俺の前に連れてこい」

「へい。明日にでも」

 翌日ケンは売人に連れられて、ロンドン塔の北側、イーストエンドの古いビルに入った。

 エレベーターで三階に上がり、混然一体とした部屋に通された。どうもここが麻薬カルテルのアジトらしい。

 仕切り部屋のようなスペースの中に、幹部のアラン・ファラデーが座って、こちらをにらみつけている。

「お前が売人を志願しているという人間か?」

ケンは答えた。

「へい、そうです」

「名前は?」

「ダン坂本と申します」

「日本人との混血か?」

「父がスコットランド、母が日本人です」

「ロンドンにはいつからいるんだ?」

「父の仕事の関係で小学校からいます」

「父親は何をしてたんだ?」

「薬品のセールスです」

「ではアヘンとかコカインなども扱っていたのか?」

「よく知りませんが、お客様に依頼されたら、販売していたのかなと思います」

「うちの売人にコンタクトしたらしいが、何故お前は売人の仕事がしたいと考えたのか?」

「はい、私は競馬が好きで、有り金をはたいてしまい、借金も作ってしまいました。妻にも逃げられちゃいました。もうスッカラカンです。街で売人の方に出会い、この仕事なら今の俺にでもできるのではないかと感じたのです」

「そこそこ数字も上げて貰わねばならんし、そう簡単な仕事ではないぞ」

「へい、頑張ってやりますんで」

「よし。まずは先輩について回って鍛えてもらえ。それからだ」

「ひとつ宜しくお願いします」




 ケン荻原(ダン坂本)は、その後先輩の売人に連れられて、麻薬のセールスに励むと共に、組織の内部情報をじっくり探っていった。

 探った情報は逐一シェローム部長へ、かつ同部長からパリ警視庁へ、日本の警察庁へと速やかに連絡されていった。

 約一カ月間に探り出したものは次の通り。

 〇岡山、佐久間両氏は、日本から安価な麻薬を持ち込んで、各々パリ、ロンドンで麻薬市場に侵入し、瞬く間に地域の売人に販売を広めつつあった。

 〇そこで市場を奪われるとの危機感を抱いた、カルテルのボスが指令を出し、幹部のアランが、殺し屋ヴァルサン・エッフエルをパリで雇い、ダグラス・ドレークをロンドンで雇い、十月に日本人を各々銃撃させた。

 〇現在ヴァルサンはロンドンのカルテルのアジトに潜み、ダグラスはパリのアジトに潜んでいる。

 〇カルテルの頂点にいるボスについては、もう少し時間を貰って調査したい。

 この麻薬カルテルを一網打尽にするためには、あと一歩、パリにいるというカルテルの首領の名前と居場所を知らねばならない。




 二日後、ケンから驚くべき情報が入った。

 麻薬カルテルのボスは、麻薬取締局の捜査官ジェロム・バタイユだという。これには連絡を受けた一同唖然とした。麻薬を取り締まるべき政府の役人が、実は裏へ回って、麻薬カルテルを操るボスになっていたのだ。これは決してマスコミはじめ対外的にリークできる話ではない。

 ケンがその報告を電話でシェローム部長に報告している丁度その時、ケンを紹介してくれた例の売人に見つかってしまった。

 直ちにカルテルの暴力団まがいの男たちに捕らえられ、地下の倉庫に押し込まれた。

 早速アランがやってきて尋ねた。

「お前は一体どこに電話してたんだ?」

 ケンは答える。

「いやちょっとした友達です」

「誰だ。名前を言ってみろ」

「それはちょっと・・・・・・」

「言えないのか? なぜかお前の動きが怪しいという報告が俺の手元に上がってきている。お前は一体何者だ?」

「・・・・・・・・・・・・」

 アランは部下の荒くれものに対し、「よし。お前ら、こいつを少し痛めつけてやれ。その内、吐きたくなるだろう」

 部下は答える。

「へい、分かりました」

 ケンは椅子に座らされ、両手両足を縛られ、アランの部下に、徹底的に殴られた。唇は切れ、顔は腫れあがり、みるも無残な様相を呈してきた。




 その日朝から、ロンドン警視庁のシェローム部長へ、ひとりの女性から電話が入った。

「シェローム部長さんですか?」

「はい、シェロームですが」

「私はケン荻原の妻のエルジーと申します。実は夫のケンが、ここ一週間以上帰宅しないんですが。何か事故にでもあったのでしょうか?」

「彼から何か聞いておられませんか?」

「はい。主人は家庭ではほとんど仕事の話はしません。今まで仕事で二、三日泊り込んだりすることはありましたが、今度は一体どうしたのかと・・・・・・」

「ご主人は事故に遭ったのではありません。ある重要な捜査活動に従事しておられるので、数日間帰宅されなかったのは分かります。

 決して危険な事ではありません。私共がきっちりサポートしておりますので、ご安心下さい」

「それで主人は一体いつ帰宅するのでしょうか?」

「うん、それははっきり言えませんが、ここ二、三日ではっきりしたことが分かると思いますので、ご連絡致しましょう」

「ひとつ宜しくお願い申し上げます」




 地下の倉庫では、相変わらずケンが痛めつけられている。

 アランがやってきて尋ねた。

「どうだ。喋る気になったか?」

「ウーム。くそくらえ!」とケン。アランは怒って、

「おい、未だ足りぬらしい。派手にやれ」

「へい。この野郎・・・・・・」と部下達。

 さらに強烈なパンチが数発ケンの顔面に破裂した。遂にケンもがっくりと首を落とすに到った。

 その時、倉庫の扉が強引に開けられ、武装した警視庁機動隊が二、三十名押し入ってきた。

 ケンがポケットに忍ばせていた、小型GPS発信器が、捕らえられている場所を正確に警視庁に知らせていたのだった。

 途端に激しい銃撃戦が始まり、アラン側の数人が撃たれ、多勢に無勢なので、

徐々に倉庫の隅に押しやられていった。

 シェローム部長が素早くケンに歩みより、手足を縛っていたロープをナイフで切断した。部長は尋ねる。

「おい、大丈夫か?」

「はい。何とか・・・・・・」

 機動隊はアラン一派を倉庫の隅まで追い詰め、遂に一網打尽に捕縛した。




 その後、アランに対する過酷な取り調べにより、パリを本拠とした、麻薬カルテルに一斉手入れが入り、ボスのジェロム・バタイユを始め、殺し屋ヴァルサン、ダグラスは言うに及ばず一味が全て捕縛された。




 十二月二十日、東京の警察庁で、水野課長と野村警部が面談していた。水野課長より、

「いやあ、ご苦労様。それにしてもかなり大掛かりなカルテルだったね。パリとロンドンで逮捕者が八十名にものぼったよ。それにしても、政府の麻薬取締局の捜査官が、カルテルの頂点にいたとは驚いたね」。

「私もケンからそれを最初に聞かされた時には、本当に驚きました」野村は答える

「ところでフランソワ刑事とは良い線までいったのかね?」

「いやですね部長。勘弁して下さいよ。彼女とは全く何の関係もありませんよ」

「いやあ失敬失敬。本当にご苦労だった。クリスマスも近い。ゆっくり休んでくれたまえ」


                             ( 了 )

 








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