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父の海底探索日記  作者: 南川 松継
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六月九日 

のんびりと投稿します

 六月九日


本日早朝は天候に恵まれ、絶好の調査日和であった。船上では水夫達が我が海魚丸の潜行準備の為に、慌ただしく動いている。私も海魚丸に持ち込む物品選びで大忙しだった。海は澄んでいて、陽の光を反射したせいでもあったのだろう、海そのものがアクアマリンのように輝いていた。まるでこの海域に大いなる発見が眠っているかのように感じさせる雰囲気である。

 船長が私の元にやってきて、準備が整ったことを報せに来てくれた。それを聞いた途端に私はすぐ海魚丸に向かって走り出してしまった...、船長と荷物を置いてきぼりにして。

 さあ冒険だ、と意気込んで海魚丸に乗り込もうとすると、艇の入り口から整備士の顔が突然現れたので、私は驚きのあまりに尻餅をついてしまった。穴の土竜は手ぶらで行くのかと聞いてきたので、私ははっとして後ろに振り向くと私の荷物を持った船長が無邪気な子供を見守るようなかおりをして立っていた。私は少し恥ずかしい気持ちになり、一旦冷静を取り戻して船長を置き去りにしてしまったことに対して詫びを入れた。船長は笑いながら、いつもの先生だ、と言うので私もつられて笑ってしまった。

 荷物を船長から受け取り、艇の中に入り込む。そして、整備士が残した点検メモを見て、自分でも全ての機械が作動するか念入りにに試す。これは海魚丸に乗り込み、海底を調査する前に私がいつも必ず行う儀式...、いや検査だ。なにせ深い海の中に潜るのだから。

 一通りの検査を済ませ、艇内にある無線で船長と通信を入れる。探査艇が本船のクレーンによって海上までゆっくりと運ばれて着水した。艇に取り付けられているフックを外す為に顔を出すと、船の甲板上にいる船長と数名の水夫が私に向かって敬礼していた。航海の成功、本船への帰還ができることを皆は祈っていてくれたのだろう。私も彼らに敬礼し返し、フックを取り外して、ハッチを閉めて潜航を開始した。

 ここで簡単に補足すると、私の目の前にはとても分厚いガラスがあり、そこから海の中を一望できるようになっている。探査艇はどんどん潜っていき、陽の光が届かない深さまで到達したぐらいで艇の照明をつけ、暗い海中を照らした。海の底に到着すると魚が数匹泳いでいるのを発見したが、無線に通信が入るまでそんなものは無視し続けていたのだった。本来の私の仕事は海底の生態と海底火山の調査であり、冒険はあくまでもそのついでなのである。

 船長の声が入り、慌てて応答する。艇の潜航可能時間は一回3時間程度なので、頃合いになったらその度に浮上しなければならない。調査は朝に一回、昼に一回なので、合計六時間ぐらいしか一日にできないのだ。生態調査をできる限り早く終え、余りの時間を"冒険"に当てる為に船長の指示を交えつつ、迅速に行動する。一秒たりとも無駄にはできない。さっきとはまったく逆のこと、私は魚を探し始めた。しかし、なぜかさっきまで泳いでいた魚すら見当たらなくなっていた。仕方ないので捜索範囲を少し広げてみると、暗闇の中に青白く光るものが浮かびあがっていた。まさかと思い近づいてみると、深海魚であるチョウチンアンコウであった。幸運だ、と青白い発光体を捕まえようと照明を照らすと、なんと辺りには深海生物が数多生息していた。思ったより深い場所に来てしまっていたのかと私は感じた、いや、改めて実感したのだった。

 チョウチンアンコウを始め、何匹かの深海魚を捕獲し、船長がのっている船へと一旦戻り、酸素補給と捕獲した海のエイリアン達を引き渡した。そして再びあの暗黒の世界へ向かおうとしたら、船長に呼び止められた。どうやら午後から天候が悪化するらしい。空を見上げると、澄んだ青色のキャンバスに私が深海で見てきたような闇が塗り施されていた。よく見るとそれは次第に大きくなっているのがわかった。午後に残された探検な断念せざるを得ないのであった。

 以上のちっぽけな冒険をこの日誌に記すのは少しためらったが、深海生物の生態や火山活動調査だけで日誌を埋めるのはあまりおもしろみがないと思ってのことである。結局のことであるが、午後の調査が無くなってしまった私は暇を持て余すはめとなった。船上では水夫達がこれからやってくる厄災に備えての準備を整えている。

その間空から襲ってくる神の息吹きを狂ったように船を喰らおうとしている悪魔達を窓越しに船長と共に眺めた。調査初日からこのような目に遭うとは思いもよらなかった。しかし我が冒険は始まったばかりだ。これからめぐってくる幸運に、船長と盃を交わして祈ることにしよう。

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