第4話 ただ春の夜の夢のごとし
巨星静かに消える。
ーーなぜ、戦うのですか?
榊姫皇子は清盛にそう言った。
「もちろん。貴方をお守りし、平和な世を作る為ですよ」
ーー平和な世を作る為に血を流す……。そこに矛盾は感じないのですか?
「しかし、奴等は問答無用で我らを攻撃してきました。戦わねば死ぬのは我らの方です。」
ーーあなたにもすぐにわかるでしょう。平家の栄華はそんなに長くは続きませんから……。奢れる者も久しからず。それならば……、争いなく生きる方法は無いのでしょうか?
姫皇子はそう言うと、遠くを眺めて悲しそうな顔をした。
〇京 平家の屋敷 榊姫皇子
まず、試験管の中の液体がどこかへ廃棄され、静かにガラスが上に上がった。中で横たわっていた全裸の少女をまず和尚がおおきな布を持って来てくるんでやった。
清盛が近寄っていき、その額に静かに手を置いた。
「最後にお別れを言えなかったのは残念ですが……。貴方のおかげでこの清盛の人生……なかなか楽しいものでしたぞ」
清盛は静かに言った。
「アンタ。他の平家の人間には何も言わなくていいのかよ。アンタに心酔してついて行ってた奴だっていっぱいいるだろ? 」
何故、こんな事を聞いたのか? 実際、心から心酔してると言っていた教経の為…では絶対ない。 平家の為に戦った維盛の為……でもないだろう。慶次郎は良くわからない。
「もう棟梁を引退して久しい。平家が永遠に天下の覇権を握る世になればいい…そう思って、若い才能の発掘にたぎっておった時代もあったがな……、それも、春の夜の夢のごとし……よ。」
「平家は……滅びるぞ。」
「ふん。この世界とよく似た歴史をたどった世界からきたお主がそう言うなら、そうなのだろう。しかし、ならば、なおさら言える事はあるまい。まあ、バカな奴も多いが、きっと俺が見込んだ奴等なら……ちゃんと、納得して幕を引いてくれるはずだ。」
それを聞いて、そうか。と、慶次郎はつぶやいた。
「お主は源氏についているのだったな。まあ、当然だ。だが、気を付けろ。維盛は残念だったが、まだ教経や知盛は頼朝の首を俺の目の前に持って来ようと息巻いておる。平家を……あまり舐めるな」
清盛はそう言うとニヤリと笑った。慶次郎はその顔を見てなんとなく彼のカリスマ性のような物を理解した。
「時間だ……頼む。」
慶次郎は、布で覆われた姫皇子の体を背負った。
「刺客が飛び込んでくるより先に行け。お前達が部屋をでたら、俺は『无間回廊』を解除する。後は何が起こっても未来は確定する。姫皇子様は頼んだぞ」
和尚と慶次郎はうなづいた。そして、清盛を一人残し、その部屋を飛び出した……。
2人が姫皇子を連れ出し出て行ってしばらく後、清盛が予見した通り、3人の天狗面をかぶった男が中に飛び込んできた。
「バカな……姫皇子はここにいるのは間違いないはずなのに……」
慌ててる3人の刺客をニヤニヤと眺めながら、清盛は顕現した刀を静かに抜いた。
「お前達に姫皇子様は100年早い。この入道 清盛があそんでやる故。楽しんでいってくれ」
その異様な気迫に3人の刺客は一瞬たじろぐ。
「ふん。この時代の寵児、平清盛か。ここで死ぬも良かろう」
3人の男の内、一人が言った。男達は気を取り直し、いっせいに清盛に切りかかった。
清盛はさらに、笑顔をはじけさせ、刀を勢いよくさやから抜いた。
ーーあなたは、私の為……一族の為……、ずっと戦ってきました。もう、剣を置いても良いのではないですか?
「愚問! この清盛、死ぬまで剣を振るうしか能の無いバカをまとめてきた男。さあ、平家の馬鹿ども!! この清盛と最後を派手に踊ってやろうぞ!! 」
数日後……慶次郎は、平清盛が死亡したとの報せを聞くことになる。表向きに、それは熱病により病床で息を引き取ったとされた。
大物の割に地味な退場だった…。直すなら一考の余地あり
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