第30話 転換点
この話で、虎之助こと教経がいじめられる宴は、転移~旅立ち編 11話 平教経 のエピソードを参照に願います。あの時は、未だ幼名決めて無かったんで、こっそり虎之助にしときました。
〇月〇日 晴
今日は、うたげで清盛のおじい様に私のじんぎをひろうしました。そして…
〇京 平家の屋敷
宴が行われている。あの、清盛が教経を初めて認めた宴だ。今まさに教経に対するあのイジメが行われていた。
「ふざけんな! 今すぐ止めさせろ! 」
その裏の部屋で蝶丸が吠えていた。普段、他の大人は勿論、親にもお利口さん口調の敬語を使う彼だが今はそれすら忘れていた。
「なんだ、その口の利き方は? 安心しろ。この宴の主役はお前だ。」
「こんな事して何になる? あいつを死なせたら清盛様の点数はさらに下がるぞ。」
「ふん。貴様に何が解る。だいたい貴様が、あんな下らない神器しかもっとらんから……」
蝶丸は「ああ!? 」と凄む。
「だったら、もういい。次は俺があいつと戦う。俺があいつに勝てば問題ないんだろ? 」
あいつは、お前なんかより、よっぽど今の平家に必要な人間なんだ……。そう言いたいのをぐっとこらえて、蝶丸は広間に戻ろうとした。
刹那、背後から強い衝撃を受けて蝶丸は意識を失っていく。他でもない父、重盛の一撃だった。
「余計な事をするな。ガキが。終わるまで寝ておれ。」
無くなっていく意識の中で蝶丸は思う。ことごとく対立勢力を圧政で税を払えない村を焼き払ったり、敵意の無い勢力に言いがかりをつけて滅ぼしたり……。そうした暴挙を見てみぬふりをしてきた自分も同罪である事は百も承知で思う。
ーー平家はもうだめだ。芯から腐ってやがる。
そして、最後に一人、理不尽にイジメ殺されようとしている虎之助に心の中でわびた。
〇その次の日の夕刻 鞍馬寺
ーーまた、ここに来てしまった。あいつは源氏だ。俺は恨まれこそすれ、こんな時…に…慰めを求めて来ていい関係なんかでは絶対無い。
目を覚ました蝶丸が聞いたのは、その宴の意外な結果だった。
父、重盛は死んだ。表向きには急病の発作という事で発表されたが、平家一族の間では、清盛直々に手を下され処刑された事は周知されていた。そして、虎之助は生き残った。重盛の差し向けた刺客をことごとく跳ね飛ばしたらしい。
ーースゲエな。とんでもねえ野郎だ。しかし…
蝶丸は、あの事態に何もできなかった自分を呪った。虎之助の為にも……。そして嫌っていたとはいえ、実の父、重盛の為にも……。これから、どうすればよいのだろう? そう思いながら、蝶丸は牛若の待つ部屋に入る。
中に入ると牛若はしくしくと涙を流して泣いている。改めて、女みたいに見えるその泣き顔に蝶丸は不覚にも、不謹慎にもドキリとする。
「どうした? 」
「母が……死にました。」
蝶丸の問いに牛若は答える。自分と一緒の境遇うだ。一瞬、傷をなめ合える…的な甘えた発想をしてしまった自分を蝶丸は、また呪った。
「父が戦に敗れてから……。私の前では気丈にしていましたが、やはり心労が多かったようです……。せめて……家族皆で送って差し上げたかった。どうして、私はこんな所に……!! 」
牛若は、不意に激しい恨みの、憎しみが滲んだ表情を見せる。
ーーああ、そうか……。そうだよな……。
これをキッカケにきっと、牛若はきっと平家と源氏の関係を明確に悟り、平家を恨むようになる。自分は、その最先端に立って牛若を苦しめる存在だ。蝶丸は俯いた。
悲しむ事じゃない。いつか来る日が、たまたま重なっただけだ。こんな日もあるんだ。きっと。
「そうか、悪かったな……。俺には何も出来ないが、もうここには来ねえ。監視には誰か別の人間を当てる。じゃあな」
蝶丸は、部屋を出て行こうとした。
「待ってください! 」
牛若の問いに、蝶丸は振り返った。
「行かないで下さい。何もしなくていいです。そこにいるだけでいいですから……。」
「あ? お前、平家を恨んでるんじゃないのかよ? 」
「恨んでますよ。平家さえ無ければ、母は死ななかったかもしれない。家族は最後まで一緒にいられたかもしれない。僕はこんな惨めな思いをしなかった。あなたは、私にとってその象徴たる存在だ。自制していなかったら、今にもあなたを殺そうとするかも知れない。」
「怖い事いうなよ。俺だって、今お前を斬る気はねえよ。」
「でも、耐えます!! 」
急に大きな声で言った、牛若に蝶丸は目を見開いた。
「私は平家と源氏の架け橋になると決めました。せめて、私は……私は踏みとどまってみせる……。」
牛若はまたすすり泣く。
「僕がそれを証明します。だから蝶丸様も、ここにいて下ささい。」
蝶丸は、牛若の方を向いたまま力なくその場に座り込んだ。そして、力なく「はっはっは」と、笑いながら、涙を流した。
「今ハッキリわかったよ。お前、馬鹿だろ? 」
「……何故、蝶丸様が泣くのですか? 」
「知るか……、理由が無くても泣きたい時はあるんだよ。」
そして、夕日の差し込んできたその部屋で、蝶丸と牛若はふたり、いつまでも涙を流していた。
その様子を、隣の部屋で聞いている坊主がいた。彼は2人の様子に忌々しそうな顔をして、気付かれぬようそっとその場を去った。
〇月〇日 曇
きょうも、くらま寺に牛若にあいにいきました。
……
…
良いシーンですが、これ今の義経と違う人じゃね?って違和感をお楽しみ下さい。
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