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第5話 平維盛

〇京都市街…夜…


 「義経様を…渡せ…だと?」


 鬼三太はつぶやいた。そして、横目で忠信と目配せのような行為をした。


「おお、これは良い展開ではないか?なあ慶次郎」


 義経は鬼三太の横で喜んでいる。今しがた、すでに三日月の影響下で周囲から姿も声も認知されていない事は説明したのだが…。


「鬼三太と忠信なら、今ので私が未だ捕まっていない事。そして、お前の能力で隠れているというのが、伝わったはずだ。あの状況なら、継信達と一緒に維盛に捕まった可能性もあったからな。ん?なぜ、私の手を放そうとしている?」


「うるせえ。お前らがあのグラサンドレッドと戦ってる間に逃げるんだよ。さっさと手を放せ。」


「なんと、主君を…あまつさえこんなか弱い女を見捨てて逃げようというのか?」


「主君じゃねーし、お前のどこがか弱いんだ!」


「なるほど、この能力はお前が触っている相手に自動的に発動し続ける。こちらから放さなければ解除もされんという事だな。えーい。少し落ち着かんか」


義経が体術で手を捻ろうとする。


「おっと、俺を攻撃しない方がいいぞ。この能力は周囲に敵意を持った干渉をすると強制的に解除されてしまう。試した事がないから、発動している者同士で干渉行為をすると、どうなるかわからん。」


「なるほど。攻撃時にお前が急に現れるのは、その式を踏む必要があったからか。」


ーーシキを踏む?


「発動したままでの、周囲への干渉はどの程度可能だ?」


「結構厳しいぞ。例えば女性の着替えを覗こうとしても解除される」


「お前…試してみたな…。」


 義経がジトっとした目で俺を見ながら言う。


「偶然分かったんだよ!偶然!」


「ふ。まあ、確かにこの式に必要な代償はでかいな。男なら」


「うるせえよ!ってか、式って何?」


「とりあえず、維盛をなんとかしよう。話はそれからだ。この助兵衛」


「違うって言ってるだろ!?ってか、お前、部下2人を殺されて随分余裕だな?」


「まあ、私の為に命を惜しむ連中ではないし…。殺されてはいまい。私の身柄と交換だと言ってたしな。まあ、本当の所はわからんが」


 考えてみれば、佐藤継信が死ぬのはここじゃないからな。


「逆に下手に出て行って私が捕まったら、捕まってる連中はその場で殺されかねない。多分、鬼三太と忠信もそれを承知の上で、何か敵の手の内を暴いてくれるはずだ。このままやられたとしてもな。」


 おう…硬い主従の絆ってやつか。冗談じゃない。絶対隙を見て逃げてやるからな。しかし…


「随分、弱気じゃないか。家来が奴を何とかしてくれるとは思わないのか?」


「それだけ、維盛の神器が未知でやっかいだという事だ。あの虫…、多分、いかな攻撃を持っても止めるのは不可能だ。やつは絶対にあたると言ってたし…あの虫が現れた時点で、地に引きずり込まれる事は確定している。下手に近づくのは危険だ。」


「なぜ、そう思う?」


「さっき、鬼三太が薙刀で切りつけただろ?あいつの薙刀は神器だ。あれで切られたら、あらゆる神器は効力を失う。神器で作り出した異能力も霧散して消滅してしまうはずだ。」


ーーおお、その幻想をなんとやら…、キャンセル系能力。体力ごり押しっぽい感じなのに、いい能力もってんじゃん。あのおっさん。


「にも関わらず、あの虫は切られても傷一つ、ついていなかった…。加えて、忠信が放った神器は冷気を操る。一気に血が凍りつくまで体の熱を下げてしまう程にな。それも通じなかった。奴の神器と独立した生き物とは考えにくい。あの虫は能力を象徴する虚像で実体は別にある。」


「なるほどなあ。ただやられるにしても色々考えてるわけだ。でも、最初に俺達…っていうか、お前に使った虫は空振りだったような」


「それは、お前がこの隠密能力を使ったから、攻撃対象を失って消滅したんだ。偶然だがな。能動的に攻撃を回避したわけではない。」


 俺達が話している間に、対峙していた維盛そして、鬼三太と忠信は静かに位置を移動し維盛を挟み込む形で陣形をとっていた。俺と義経は少し離れたところからそれを見ている。


「交渉に応じる気はねえか?いいぜ。全員鳥かごにぶち込んでじっくりと可愛がってやる」


 維盛は舌なめずりをした。


「おい、忠信。こいつはどういうやつなんだ?」


「さっきお兄ちゃんも言ってたけど、平家の文字通りの御曹司ですよ。珍妙な恰好をしていますが、確か絶世の美男子…と、京都の女の子達の間では憧れの貴公子的存在。あだ名は、光源氏…」


「おい!!」


 維盛が急に大きな声をだす。義経は何故か、笑いだした。


「これはいい。平家の嫡男たる者のあだ名が源氏とはな。」


ーーいや、源氏物語の光源氏な。維盛さんそんなあだ名あるんだ。めっちゃ嫌がってるけど。


「それ以上、言うなよ。小物…。その呼び方は嫌いなんだ」


「笑っちゃいますよねー。平家の人間が源氏とか…」


「ころす!」


ーー忠信…わざと挑発してる。っていうか、維盛、沸点低!!我を失ってるやん。


 義経もそれを察したようだ。「来い」と言って、慶次郎を引っ張って忠信の後ろに回り込んだ。維盛は自分の刀を抜いて忠信に切りかかった。


ーー切りかかった?あの虫は出さないのか?


 忠信は錫杖で刀を受け、何回か打ち合うと、例の炎の神器を展開する。維盛は「おっと」と、急に距離をとった。


ーー妙だな。本気で忠信を切りに来た感じじゃない。


 次の瞬間、あの虫が忠信の前に現れた。地面…やはり地中から虫が出てきたように見える。今度は義経も落ち着いた表情で見ている。忠信は炎で反撃を見せたが、やはり虫にそれは通じず、彼女は地面に引きずり込まれた。


「てめえは後で殺す。クソガキが。」


 維盛は鬼三太の方を向いた。鬼三太は薙刀を構える。


「残りはてめえ1人か?小物が。」


 維盛さん。未だ怒ってる。


「いや。俺は逃げる!」


 鬼三太は背を向けて走り出した。


「おい!待ちやがれ!」


 維盛は追いかけて走り去る。


「おい。逃げたぞ?お前の部下」


「はっはっは。もう時間稼ぎしかできんからあとは任せたと言う事だろう。さてどうする?」


 義経は慶次郎の方を向いた。彼は無視する。


「虫だけに無視か…。」


「やかましいわ。」


「能力自体は非常に強力だ。発動したら逃れる術はない…。おそらく土の中で私の家来達は意識を失っているか、何もできない状態だろう。死んでない確証は無いがな。力でどうにかなるならあの3人、何らかの方法で自分の生存を知らせてくるはず。解ったのはそれくらいか?」


 慶次郎はゆっくり答える。


「…。一度に襲えるのは一人ずつ。使えるのは月の夜のみ。」


 義経は楽しそうに目を細めた。


「ほう。何故、月と解る?確かにそれだけのキツい式を踏めば、無敵の能力も成立しそうだが…。だいたい奴は平家の武士もののふ。夜にしか使えない能力などあっても意味はあるまい。」


ーーやっぱり、式を踏むとは、バトル漫画で言う所の能力に制約を掛ける事か。それによって、能力の性能を飛躍的に向上させる事が出来るわけだ。


「根拠は無いが…。ドレッドは神器の名前を陰陽蟲おんみょうこと言ってたろ?陰と陽、二つの能力を持ってるんだ。陰が月なら、陽は太陽…お天道様だ」


「昼にしか使えない能力がもう一つあるわけか。なるほど。だが、まだ弱いな…」


 義経は、こっちを見てニコっと笑った


「なんだよ」

「嬉しいのだ。私はこう…人の考えた能力を考察するのが好きでな。お前の考え方は実に面白い。」


 まあ、異能バトル漫画の影響だけどな。


「だが、月に関係する能力だったとして、どうする?実際あれだけ明るい満月が出てたら、無敵の能力じゃないか。朝になるまで逃げまわるか?」


 いや、それは自分で考えろよ…。っと、言いたいのを抑えって俺は言った。


「多分、奴の能力は屋内でも使えない」


「おお。なぜ?」


「……ここからは、交換条件だ。抑え込む方法はある。教えるし、なんなら、あいつを抑え込むのに協力しよう。」


「私にどうしろと?まさか、この隠密能力を使って私の体を辱め…」


「するか!!ここを片付けたら、俺の事はその後、解放して欲しい。それだけだ」


 義経は渋い顔で俺を見つめた。

 なお、今回の戦いで一番大変だったのは、この会話が行われていた間、維盛と距離をとりつつ…しかし、攻撃を誘いつつ、逃げ回り続けてた鬼三太君だった事をここで言っておこう。


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