第10話 踊る大逃亡戦
〇椙山 別の場所
平維盛は、息をゼエゼエとつきながら、木の上に座り辺りを警戒していた。
「維盛様! 」
木の下から声が聞こえる。維盛が見ると、大庭景親が駆け寄ってきている。
「今の雷鳴は…? まさか、景時が? 」
「頼朝はいた。が、どうやら逃げられたようだ。景時が裏切ったかどうかは……正直、五分五分だが……。」
あの時…、梶原景時の雷神太鼓は周囲を焼き払った。明らかに「ガキをなんとかしろ」と言った自分の言葉に従った事で行った行為ともいえる。だが、状況だけに頼朝を逃がす為にやった行為にもとれる。実際、維盛には当てないように威力を調節していた。あの見た目によらず意外と器用な所が維盛を相当イラっとさせていた。
「まあ、十中八九裏切ったな。あの狸親父…」
維盛はつぶやいた。洞窟の中は、先行して入った二名の兵士が殺されていただけで、他はもぬけの殻だった。確実に逃げたものと考えていい。
「おい、おっさん!頼朝はまだ包囲網の中にいる。増員を読んで、徹底的にいくぞ」
そう。包囲網の外に逃げられるなら、今まであんな洞窟にとどまっているわけがない…。
「了解しました。」
「あと、景時はもうだめだ。源氏に寝返ったと判断して動け」
「あの、狸が! 」
大庭景親は唾棄するようにつぶやいた。
〇慶次郎達がいる地点
あの後…。とにかく、今は弥太郎と忠信が安全に包囲網を突破できるように、動ける人間で敵を陽動しようという事になった。
「では、ワシも一回部下と合流し平家側に戻るとしよう。上手く行けば、まだワシが寝返った事はバレてはいない。せいぜい内側から混乱させてくれようぞ。」
景時は笑いながらその場を去っていった。
「はい! あの男、絶対状況を見てまた向うに寝返り返すと思います! 」
景時が去ってから、慶次郎は義時に言った。
「解ってるよ。彼がそういう人間だって事はね。でも今は、この状況を打破する為に味方は一人でも欲しい……。その辺を踏まえて上手く操れないか、僕なりに考えてみる。それよりも……僕が気になってるのは君……いや、君の主の方なんだけどね……」
義経が? そういえば、北条氏は義経の命を狙っていた…。さすがにこの状況でそれを義時が持ちだすとは思えないが。慶次郎は慎重に言葉を選ぼうとしたが……。
「兄様の一番の弟は僕だ! 彼には絶対負けない」
あ、そっちの子か、この男…。まっすぐな瞳で慶次郎を見る義時をよそ眼に慶次郎は出発した。なんか、ブラコンが多いような気がする。この世界。慶次郎は一言、つぶやいた。
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