第3話 捜索開始
〇伊豆 山中
「やっぱり全然違うなあ…」
伊豆に到着して明るくなるのを待って、慶次郎と忠信は頼朝の捜索を始めた。やはり21世紀の慶次郎の世界とは当然だが、植物の様子も何もかも全然違う。数珠丸も対象が広すぎてまだ範囲を絞り切れない。
「参ったな…覚悟はしていたが、流石にヒントが少なすぎる。」
「だめそう? 」
背中の上の忠信が言う。すると、遠くから人の声が聞こえてくる。かなり大人数だ。
「あれは? 」
慶次郎は、麓を見渡せる場所に移動する。山のふもとに、一団の軍が集まっているのを見た。よく見ると陣を作っているようだ。白い旗印…まさか…
「平家の一団だね。たぶん、頼朝様を探しに来たんじゃないかな。拠点にするんだよ。あいつらより先にみつけないとね」
「…」
慶次郎はふと考える。
「なあ、忠信。梶原景時って武士を知ってる? 」
「あ、うん。有名だよ。直接顔を見た事は無いけど、鎧や旗印から特定はできるんじゃないかな? 」
それだ! と、慶次郎は思う。史実通りに話が進むなら、頼朝を一番最初に発見するのはほかならぬ梶原景時だ。闇雲に山中を探すより、そいつをつけていって獲物を横取りする方が絶対確実だ。
「よし。このまま『三日月』使って、あの陣に潜入しよう。その武士をみつける」
「う、うん。いいんだけどさ。もう、降りていい? ちょっと恥ずかしいよ。この体制」
オンブされたままの忠信が言う。
「え? この方が三日月使ったまま動きやすいんだけどな。」
「じゃ、じゃあ」
忠信は慶次郎の背中からポンと飛び降りた。そして自分の片手を差し出した。顔を赤らめ目を逸らした。
「て、手、繋がない? 」
だから、言い方あ! と慶次郎はその赤くホホを染めて目を背けている「男」友達に言いはなった。
〇平家 頼朝捜索陣
慶次郎と忠信は、平家の陣の中に潜入した。(結局、慶次郎の肩を忠信がずっと持っているという形で落ち着いた。)
「見た感じ、三日月を妨害するような仕掛けは無いな。」
慶次郎は言った。
「すごいね。三日月は初めてだけど、本当にこんな近くで会話しても、聞こえて無いんだ」
聞こえてないわけではない。気付かれてないだけなのだけど。と慶次郎は心の中で思う。
「いそうか? 景時……」
「うーん……。見た感じいないなあ。あ、あの人」
「あれか? 」
「いや、あの人が大庭景親だよ。多分、今回の大将じゃないかな。この辺一帯の平家の顔役だ。彼ともいつか戦う事になるだろうね」
忠信の指の先に中年の厳格そうな武士が立っている。しかし、髪型や身なりは戦場にも関わらず整えられていて、上品さが解る。
「景時はどうした!? あいつはこんな時に何をやっているのだ! 」
そんな言葉を発している。「景時…梶原の景時か? 」慶次郎は思う。やはり、この陣の中にいるのだ。
「ええい。もういい。いたら私の所まで引っ張ってこい!! 」
大庭はそう言うと、山の方へ歩いて行った。平家の兵士達は次々と山の捜索へ出発していく。
「ねえ、弁慶。見てよ。」
忠信の言う方を見ると、平家の旗印と色で統一された足軽用の鎧と服が置いてある。
「あれを頂いて着ちゃえば、三日月を使わなくてもウロウロ出来るんじゃないかな」
確かにいいかもな。長丁場になるかもしれないし、山の中でもずっと三日月を使ってるのもしんどい。と慶次郎は賛成した。
「よっしゃ、着替えなら三日月使ったままでも出来るな。うまい事、体のどっかを触れとくようにしてさ。忠信、先に着替え…」
と、まで言って、慶次郎は涙で潤んだ真っ赤な目で慶次郎を見ている忠信を見て、それ以上、話す事を止めた。
「わかった。どっかで着替えてこい。」
慶次郎はため息をつきながら言った。
忠信は慶次郎と一旦別れて、いそいそと着替えを終わらせた。山狩りをしないといけないなら鎧は別にいいかと、着ていた服を綺麗に畳んた。その時…。奥から大あくびをしながら、歩いてくる男を見つけた。どこかで昼寝でもしていたのだろうか? いや、朝寝か。後ろに兵が2、3、人付き従っている。一人の兵を見て、忠信は、その旗印を見て驚く。彼らの主人っぽいこの大男……もしかして……弁慶が探していた、梶原景時? 忠信は反射的に体を物陰に隠した。
「あの大庭は堅物すぎていかん。一般兵に任せておけば良いのだ。山狩りなどな。ま、今のワシには関係無いが…。」
大男は言う。間違いなさそうだ。忠信は慶次郎を呼ぼうとしたが、自分が恥ずかしさのあまり、慶次郎と大きく距離を取り過ぎていた事に気付く。そして、考えている間に景時はどんどん距離をとって歩いて行ってしまう。そのまま山に入るつもりかもしれない。なぜ、慶次郎があそこまで、この男に拘っているのか、忠信は説明をうけていない。
あの弁慶がそこまで言うんだ…何か、理由がある
忠信は強く頷くと、その景時の後を追って走り出した。
そうなると、困ったのは、こちら、慶次郎である。とりあえず、着替えが終わった時点で三日月は解いている。いつまで経っても、待ち合わせの場所に忠信が現れない。姉さん特性の電話をかけてみたが反応がない。多分、スイッチを向うで切っている。慶次郎も平泉の機械をいつまでもこんな所で使っていたら怪しまれるだろう。危険だが、声を出して呼んでみるか…。
その時、また別の兵士の声が聞こえてくる。
「維盛様、連戦でお疲れなのです。どうか、ここは陣でお休みください。」
「バカ野郎。今、頼朝をとり逃したら俺のここ1年の苦労が水の泡なんだよ。手前も早く山に入りやがれ! 一人でも多く行くんだ! 」
声の主は、自分の体を支えていた兵士の頭をポカリと殴った。慶次郎は静かに声の主を見る。兵士は名前を呼んでいた。そして、見間違い用の無い、あの色黒の肌。ドレッドヘアとサングラス…。
「平維盛…」
なぜ、こんな所に…。って言うか、石橋山にいたんだっけ? この人。維盛は慶次郎に気が付いた。
「おい。そこのお前! お前も早く山狩りに参加しろ! お前どこの所属だ? 」
慶次郎は怒鳴られてビクッと足を止める。そうか、維盛とは戦った時、ずっと三日月を使っていたから、直接顔を間近で合わせてはいない。向うは自分の顔を知らないのだ。
「私は…その…か…」
「どうせ、山狩りに参加しないのは、景時のとこだろ。いい。お前も俺達と来い。頼朝を血祭に上げるぞ」
「い? 」
慶次郎は思いっきり焦ったが、嫌がる理由も何も見つからず仕方なく、維盛についていく事になった。
流石に忠信を引っ張り過ぎたか…




