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義経異聞伝~ZINGI~  異世界行ったら弁慶でした  作者: 柴崎 猫
源平合戦 開戦編
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第1話 初動

いよいよ、源平合戦スタート…って、ここ数話書きすぎた。

 源義経(みなもとのよしつね)


 ここで一度彼の人生を復習しておこう、「彼」と書いたのは、これは慶次郎のいた世界での話だからだ。壇ノ浦の合戦後、彼は頼朝の怒りをかう。頼朝に黙って検非違使けびいしの官位を得た、梶原景時かじわらかげときが頼朝へ義経を貶める内容の手紙を送った等、原因は色々あり諸説存在するが、やはり義経が目立ち過ぎた事が大きかったのではないだろうか。義経はあくまで自分に謀反の意思が無い事を説明しようと鎌倉に赴くが頼朝に取り合ってもらえず、頼朝に宛てて書いた名文と名高い手紙、腰越状(こしごえじょう)も相手にされなかった。以降、義経は頼朝が差し向けた討伐隊から僅かな家来と愛妾、静御前らと逃亡の日々を続け、佐藤忠信ら多くの仲間を失う。

 最終的に義経は奥州平泉に戻り、再び奥州藤原の庇護を受ける。だが藤原秀衡ふじわらひでひらの跡を継いだ泰衡やすひらは、鎌倉幕府の征夷大将軍となった頼朝の圧力を受けきれず、義経の住居だった衣川の館を軍勢を率いて強襲、義経らも僅か十数人で奮戦するも数に敵わず、義経は館に火を放ち自害した。この時、弁慶もおり、義経が自害した堂を、身体中に矢が刺さり刀槍が突き刺さっても、そして死してもなお倒れず…あるじの誇りと共に守り切った。俗に言う弁慶の立ち往生である。義経の悲劇的な人生は判官贔屓ほうがんびいきなどと言葉が生まれるほど人々の同情をかい、衣川の館から生きて逃げ延び大陸に渡り王国を築いたなる説が嘯かれる程、後の人々に愛された。


〇奥州平泉 柳の御所


 先のピクニックから、さらに1年と少々。時が流れていた。今、ここ奥州藤原の本拠地、「柳の御所」では宴会が開かれている。先日、鎌倉の源頼朝が反平家の旗印を掲げ、挙兵したと言う情報が全国を駆け巡った。これを受け、義経らも頼朝の元に駆けつける事になり、ささやかな送別会が開かれる事になった。 

 慶次郎はこういった飲み会の席では、極力、藤原秀衡ふじわらひでひらが長男、泰衡やすひらのご機嫌をとるように動いている。泰衡は、「北の狼」の一件が落ち着いて以来、慶次郎だけでなく義経にも少し冷たい態度をとるようになり距離を置いている。慶次郎の世界の史実では最終的に義経を殺す引き金を引くのはこの泰衡だ。せめて、印象は良くしておきたい。破滅フラグ回避の日々…になってきたな…と慶次郎は自嘲する。

 酒を持って、泰衡の元へ行き、ひとしきり、ご機嫌をとる…泰衡はあまり慶次郎の相手をせず、冷たくあしらう。「疲れるなー。会社の飲み会が嫌な社会人ってこういう感じなんだろーなー」と、思いながら、慶次郎は泰衡の元を離れた。そして、部屋の隅の壁にもたれかかり、茶を飲みながら肴を摘む。横に義経が腰を掛ける。


「泰衡殿と何を話していた?」


「何も話してくれなかったよ。でも、秀衡様の跡継ぎはあの人だ。少しでも良い関係を作っといた方がいいだろ?」


「まあなあ。しかし、先の北の狼の一件でも私はあの人の事をあまり…おっと、この話はここではやめておこう。お前は飲まんのか?」


 義経は酒の入った瓶子を慶次郎の前に置く。


「ああ、俺はいい。前いた世界じゃ、もうすぐ飲める年齢になるんだけどな。法律的に」


 義経は「意外だ」と言いたげば顔で慶次郎を見た。


「何か変か?」


「いや、考えてみれば当然だな。お前はまだ故郷に帰る事を諦めていない。最近、家来として板についてきたと思ってたからな…」


 そういえば、確かに最近は元の世界に帰る事より義経がいかに悲劇の死を免れるかについて行動する事が多くなっていた。流石にもう5年近くこっちの世界にいる。そろそろもう帰れないと踏ん切りをつける時期なのだろうか? 最近、慶次郎はそんな事を考えていた。


「まあいい。明日はいよいよ平泉を出発だ。」


 義経は名残惜しそうに言った。秀衡とも仲が良かったし、義経にとっては居心地は良かっただろう。奥州藤原への恩は計り知れない。

 さて。慶次郎には一つ懸念があった。慶次郎のなけなしの歴史知識では、頼朝は挙兵した直後、伊豆の石橋山で平家軍の強襲を受け、一度敗北する。しかし、その後、命からがら逃げ延び、勢力を盛り返していくわけだ。義経が駆けつけるのはその後だから、そろそろ石橋山敗戦の報せが来てもいいはずなのだが……。


「何か悩み事か? そういえば、お前、前に言っていたな。頼朝の兄上が私が駆けつける事を快く思わないと」


 慶次郎の肩に義経はガっと手を置く。そして、慶次郎を感情の無い目で睨む。


「いや、だから怖いって。お前のその顔。もう、それはいいよ。俺、頼朝さんと会った事ないからさ、そういう可能性が…」


「兄上を悪く言う事は、たとえお前でも私が許さん……」


「違うっつーの! 」


 やはり、頼朝の事になると、義経は目の色が変わる。多分、義経が源平合戦への参加する事自体を止めさせるのは無理だ。しかし、この辺りの事を慶次郎は実はあまり心配はしていない。頼朝との亀裂が明確になってくるのは平家を倒した後だ。つまり、少なくとも義経も弁慶も平家を倒すまでは命はあると考えて大丈夫だろう。むしろ、解ってる史実を上手く利用しながら、義経を助ける付箋を幾つもはさんでいく事が重要だと慶次郎は考えている…。そしていくつか秘策がある。その一つが……。


「義経殿! 大変です! 」


 不意に秀衡の声が響く。来たか。ギリギリ間に合った…か? いや。間に合うかどうかは…。

 秀衡の元に義経と5人の家来が集められた。

 だいたい慶次郎の予想通りの話だった。挙兵をして伊豆に入った頼朝だが、そこで平家の武将、大庭景親の策にはまり、あてにしていた現地の豪族と合流できぬまま平家軍の間に圧倒的多勢に無勢の状態で孤立した。そして、ついさっき、その状態で夜襲を受けたらしい。


「夜襲をかけるとは卑怯な……。」


 と、義経。どの口が言ってんだよ……と、慶次郎が思ったのはさておき、慶次郎は大体予想通りに話が進んでいた事に安堵する。問題は…。


「皆すぐに行くぞ。兄上をお救いしなければ、私の力で平家の武将など…」


「それはいけません。敵も当然援軍の可能性を考慮しているはず。罠に飛び込み、命を捨てるようなもの」


「兄上を助ける為なら、この命などいりませぬ。ここで兄上を失えば……」


「源頼朝が死ねば……!! 平家を倒すのは、貴方の役目です。」


 秀衡が言った言葉は想像以上に義経に効いていた。ナイスパンチだ秀衡様…と慶次郎は思う。


「向うの事態が何も分からない以上、動いても平家のエサになるだけよ。義経ちゃん。まさにカモネギだわ。」


「だが、この状況で何もせずに平泉にいるのは……」


「下手な助けは兄の面子を潰す。お前はあくまで、偉業を成し遂げる兄の傍らにはせ参じた、可愛い弟に徹するべきだ。感動の再会を皆の前で見せつける必要がある。助けるにしてもお前が動くのはだめだ。」


「だが、それで兄上にもしもの事があれば!! 」


 そこで、慶次郎は満を持して立ち上がる。


「俺が先行して、石橋山に行こう。虎徹を使えば、伊豆まで何日もかからない。情報収集と頼朝様の救出、補佐を行う」


 その場にいた全員が慶次郎を見る。


「バカな。お前になにができる。」


「「逃げ」なら三日月の本領だ。数珠丸があるから頼朝様の発見も容易い。」


 鬼三太に慶次郎は言った。義経は必死に考えている。


ーーもう一押しだな…。


「おおむね賛成だが、弁慶。せめて、もう一人…、火力のある人間を連れていけないか? 俺を担いだ状態で虎徹は速さを維持できんか? 」


 継信が言う。行く気満々なのだろう。


ーーさて、どうしよう…一人の方が動きやすいのだが…。


「どうだろう? 出来なくは無いけど……、やっぱ、多少なり早さは落ちると思うぜ? 」


「それなら、僕に行かせてよ。伊豆近辺の地形はだいたい把握してるし、情報収集してるから平家や北条の武将の事も大体わかる。お兄ちゃんよりかなり軽いしね。」


 確かにウチの情報収取担当……。忠信が来てくれるのは心強いな。家来達の視線が義経に集まる。


「わかった。行ってくれ。弁慶。兄上を頼む。ただし忠信を連れていくこと。あと、途中までは鞍馬で送らしてくれ。それが条件だ。」


 慶次郎は静かにうなづいた。実は鞍馬で送ってもらう事は、慶次郎自体も宛にしていた。

 慶次郎はおおむね作戦通りに話が進んだことに安堵する。慶次郎の作戦とは…。


 一つ。悲壮な顔をして悩んでいる義経には悪いが、頼朝はこんな所では死なない。しかし、慶次郎の数少ない歴史知識の逸話に、この「石橋山の戦い」の時のものが一つあった。敗戦した頼朝は伊豆の山中の洞窟に隠れ、逃げる機をうかがっていたのだが、その時、運悪く捜索していた平家のとある武将に発見されてしまう。その武将とは、あの梶原景時かじわらかげときである。景時は、理由は不明だが、その時頼朝を見なかった事にして立ち去った。景時はこの時の縁で、源氏に寝返った後も頼朝に気に入られ、鎌倉幕府ではあの「13人の合議制」の一角を担うまでに出世する…。その手柄を横取りする!!

 慶次郎の狙いはとにかく、平家を倒した後の頼朝や北条氏との関係の円滑化だ。いまから出来る布石は全部打っておく。そのための最重要イベントといっていい。頼朝の覚えが目立たくなるのはもちろん、梶原景時は後に頼朝と義経の仲に亀裂を入れる原因の一つを作る人間だ。このくらいのワリは食ってもらってもいい……。


「大丈夫だ。義経軍の手柄を山ほど稼いでくるぜ」


 と慶次郎は義経の方を見て言力強く言った。



やっと、異世界物っぽく…ないか。

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