第20話 平泉編 後始末 1 堀 弥太郎
天狗の〇穴…解る人は、結構なおっさん。
〇平泉近郊 外
夕顔達、北の狼襲撃から数か月が過ぎた。義経一行は結局、「北の狼」を平泉に引き渡す事にした。後、それぞれに、刑は執行された。夕顔は、義経が助命を嘆願した事で一先ず極刑は免れ、根珠没収の上、実家への軟禁(という名目での実質謹慎)…という破格の処分となった。軍からは、もっと厳罰をとの要望も出たが義経が押し切ったらしい。結局、最後まで日立とはしっかり話せなかったようだ。日立は、最後に慶次郎に「ありがとう」と一言だけ言っていた。
そして…慶次郎は、平泉の町を見下ろせる小高い丘の上にいる。慶次郎は懐にから小さな巾着袋を取り出す。
「そろそろかな…」
慶次郎は、その袋の中の砂を目の前にパサっとまき散らした。空間にあの円陣が現れる。
「呼ばれて飛び出す。じゃじゃじゃじゃーん。」
どこで考えたんだよ。その掛け声…と、慶次郎は思う。円陣から出てきたのは、あの弥太郎である。彼の神器『金爛砂子』は転移陣を作る神器である。入り口と出口に砂を撒く事で所謂、ワープゾーンを作る事が出来る。砂を撒く…ワープゾーンの設置は他人がやってもいいらしい。天狗の抜け〇だな…と、聞いた時慶次郎は思う。どうやら、行った事がない場所に行く事は無理なようで、慶次郎が欲しかった転移能力とは異なるようだ。
「お久しぶりでやんす。おかげ様でこの通り元気にしとりやす」
「よく来れたな。来た時点で捕まるとか考えなかったのか?」
「嫌だなー。商売は信用が第一でやんすよ。そっちだって、アッシが一人で来ずに強い助っ人連れてきたら、どうするつもりだったでやんすか? あっしは商売人。恩は返す主義でやんすがね。」
慶次郎は言われて初めてその事に気付いたが、あくまで落ち着いてるふりをした。「もちろん。他に誰かいたら、すぐに転移陣の中に逃げ込むつもりでやんすよ」と、弥太郎はおどけて見せた。
「で、例のものは……? 」
弥太郎は手を差し出す。慶次郎は悩みながらも根珠を一つ差し出した。弥太郎はそれを取ろうとしたが、慶次郎はひょいと上に根珠を避けた。
「いじわるでやんすね。」
「ふざけんな。こっちは、ここまで、危ない橋を渡ってきたんだ。そっちの情報が先だろ?」
弥太郎は、すでに平泉の牢屋から逃げ出している。彼の『金爛砂子』の大きな特徴の一つが、仮に弥太郎自身が能力を失っていてたとしても設置したワープゾーンおよび顕現された砂は、かなりの時間効果を持続して存在し続ける事だ。あの時、義経の命で慶次郎は「北の狼」の神器使い全員の根珠を鬼丸で奪った。当然、弥太郎の分も奪っている。しかし、弥太郎は、鬼丸を胸に受けた時、慶次郎の懐にこっそり巾着袋を入れてきた。いつかいたのか手紙が入っていて一か月後の、この時間、人気のないところで、この砂を撒いて欲しい。自分の根珠を返してくれたら、ある情報を交換で渡す…と。誰にも言わずに一人で来る事が条件である。と……。幸い、弥太郎の事を把握していたのは義経一行だけだったので、彼の根珠をこっそり三日月で盗み出す事も数をごまかす事も比較的簡単にできた。弥太郎は自分で隠し持っていた砂でこっそり牢屋を脱獄したらしい。
「仕方ないでやんすねえ…」
そして弥太郎が教えると言ったある情報とは…。
「まず…なぜ、俺が特異霊装を狙ってると知ってた?」
「アンタは自分が思っている以上に有名人なんでやんすよ。遠い国から来た少年ってね。あっしは、大陸や南国の島国にも行った事がありやすが、聞く限り……そして今回の一件で見る限り……どの国の人間とも違う。正直興味がありやす」
そう言えば秀衡様も俺の事知ってたしな。こいつは渡来人ってやつか? でもあれは違う時代だったような…と、慶次郎は考える。
「なぜ、特異霊装の事を知ってる? 」
「あっしは未知の物を見聞きする事が人生の至福の喜びでやんすよ。まだ誰も見た事がないお宝を探して、島から大陸へ海をまたにかけておりやす。たまたま今回は、故郷の国の神器、特異霊装が目的だったでやんす。つまりあっしらは同じ獲物を狙う敵同士って奴でさ。」
世界をまたにかけた大泥棒…ルパン○世みたいなやつか。で、泥棒って呼んだら、ちっちっち、トレジャーハンターだよ。とかいうあれ。慶次郎は弥太郎の顔を見ながら思う。
「で、北の狼にいたのは、特異霊装の為なのか?」
「まあ、広く言えばそうなりやす。あっしは、今所属している組織の命で「北の狼」に派遣されていやした。その組織ってのは、ずばり鎌倉の北条氏…御存知でやんすか?」
北条氏……! それを聞いてようやく慶次郎は色々と話が繋がってきた。
「源頼朝……やはり、彼を押し立てて平家を……」
「ご明察。北の狼への活動援助は平泉と義経の旦那が結びついて大きくなり過ぎないようにする為…まあ、平家を倒して源氏の世になった時への伏線でしょうな…。あ、北の狼の面子を拷問しても無駄でやんすよ。北条氏と繋がりがあるのはアッシだけですんで。」
「まあ、それはそうだろうな。」
「俺がここに来た時、義経は無名丸という刺客に襲撃を受けた。あいつは? 」
「あっしは直接関わりは無かったでやんすが、名前は聞いとりやす。奴も北条の刺客でやんすね。」
弥太郎は、あえて彼の協力者である藤原泰衡の名前を出す事を避けた。さすがにそれを話すと自分が情報を漏らしている事が北条にバレる危険があったからだ。
「わからないな。今回、北の狼は義経を人質にとって土蜘蛛のコピーを手に入れようとしていた。でも無名丸の時は神器の性質を考えても容赦なく命を取りにきていた。なぜだ? 」
「ええ、長くなりましたが、こっからが話の本題でやんす…。北条は元々、そんなに大きな武士の家ではありやせん。そんな北条が、頼朝がいるとはいえ、平家を倒そうなんて大それたこと考えたのは何故だと思います? 」
「……特異霊装『八尺瓊』か!?源氏が持ってたけど、平治の乱以降行方不明だったって…。もう頼朝はそれを手に入れたのか?」
「焦りなさんな。まだ奴らはそれを手に入れてません。ただ、死んだ義朝公が生き残った親族達に在処を託していると考えられます。当然、第一候補は長男の頼朝だ…」
「おお。いったい何を知ってるんだ? 」
ここで、弥太郎は間を貯めて慶次郎を見た。慶次郎も期待を籠った眼で弥太郎を見た。
「わかりやせん」
「わかんねーのかよ! 」
すると、弥太郎は慶次郎が手に持っていた自分の根珠をパッと奪い取った。そして、自分の体に押し当て吸収する。弥太郎は手から砂を顕現してみせた。
「あ、お前、勝手に! 」
「たしかに、これはアッシの根珠だ。感謝いたしやす。アッシが掴んでいる情報はここまででやんす。こっからは等価交換といきやしょう。北条は一度殺そうとした義経を、急に殺す事を思いとどまった。あっしにも一度平泉から手を引いて戻って来るように指示が出ています。今は義経を生かしておく方向に考えを改めた…と考えるのが普通でやんす。」
どういう事だろうか? 義経が急に必要になった?兄弟が揃わないと解けない暗号のような物を見つけた…とかか? 義経は何かを知ってるだろうか?特異霊装のありかについて。
「特異霊装備について俺が聞いた時は義経は本当に何も知らない感じだったが。もちろん本当の事を隠している可能性はある」
「そうでやんすか…。どうでしょう、弁慶の旦那。あっしらは、獲物は同じでやんすが、旦那は特異霊装の力で故郷に戻れば物自体には興味がないときた。分配でもめる事はありません。むしろ源氏も平家も出し抜きたいって点で目的は一致している。手を組みませんか? 情報交換を基軸として…」
弁慶は少し考えた。その時、腰に付けていた鈴がリーンとなる。『数珠丸』である。
「あ、やばい…。おい。すぐ円陣の向うに行って能力を解除しろ。手を組む事は考えておく。でも俺は、義経を裏切る気は無いから、それ前提だぞ?」
「へ? 」
弁慶は半ば強引に弥太郎を陣の中に押し込んだ。陣は直ぐに消える。ほどなくして、背後に鬼三太があらわれる。
「さがしたぞ、弁慶。こんなところで、何をしている? 」
「神器の修行だよ。」
「そうか…。おお、そんな事より、集団戦の訓練を今日から始めることにした。お前の能力も必要になるんだ。ちょっと手伝ってくれんか?」
奥州藤原氏から少し兵を分けてもらう形で義経にも配下がまた増えた。鬼三太はその訓練も任されている。
「わかった。すぐいく」
弁慶はもう一度振り返り、円陣が消滅している事を確認した。そういえば、弥太郎との今後の連絡方法を確認してなかった。まあ、北条氏にいるなら嫌でもそのうち会う事になるか…。源平合戦が始まれば。
弁慶は静かに鬼三太の後を追った。
〇転移陣の出口
弥太郎は打ち付けた腰を痛そうに摩った。「義経を裏切る気は無い…か。」弥太郎はあの廃坑の中、義経と弁慶が話した…おそらく、大げさに言えば弁慶が義経に忠誠を誓った…あの様子をこっそり目を覚ましていて、目撃している。弁慶にしてみれば気恥ずかしい事他ならない、忘れたい過去だろうが、天涯孤独に生き抜いてきた弥太郎には、ああいう熱い関係は若干だが羨ましくもあった。
しかし、あの義経は年齢にしてはかなり大人び、思考は成熟し、人として完成しきって見える。しかしあくまで広い世界で色々な人に会ってきた弥太郎の直感だが、それと裏腹に何か非常に今にも崩れそうな脆さ…を兼ね揃えている気もする…。
そこまで、考えて弥太郎は、それも自分が若者達に感じている嫉妬だろうか?と思い直す。
「いいでやんすね…若いってのは」
弥太郎はため息をついた。
「…さて…。」
弥太郎はゆっくり立ち上がった。
「次に会う時は歴史の転換点でやんすかね?弁慶さん。」
結構いいキャラになりそうだな。こいつ。




