第19話 つよさ
〇廃坑内
「義経ちゃん!! 」
と、叫んだのは日立だ。
「見事だった。弁慶。お前は安竜和尚と懇意にしているといっていた。この技は奴の「気功」だな。神器とは異なる人の体に宿る力…と聞いている。奴も10数年に及ぶ修行でようやく会得出来たと言っていたが…」
義経がつぶやいた。やっぱり和尚と知り合いだったのか…という、慶次郎の内心はさておき。元々、鬼丸は和尚と初めて会った時に目にした山賊から根珠を奪った技を無意識のうちに真似て作った神器だ。若干だが、和尚と同じ力を使っていた。それに気がついた、安竜が軽くではあるが気功の制御方法を慶次郎に手ほどきしていて、慶次郎もその特性を若干だが理解し、あくまで神器『鬼丸』を通してだが扱えるようになっていた。
「なるほど、『鬼丸』は気を制御する神器だったのか。」
と、継信はつぶやいたが、当然、今話はそれどころではない。
「義経…お前…どうして…。」
義経は相変わらず、無くなりそうな意識の中、朦朧としている。彼女は、根珠を握っている、慶次郎の手を掴み慶次郎の顔の前に持ってきた。
「勝負はお前の勝ちだ。弁慶。だが、鬼三太には今後も前線で戦ってもらわねばならん。『大比叡』は勘弁してくれ。代わりに私の『鞍馬』をやる。自分で言うのもなんだが、そこら辺の武士のそれとは、内臓している力が違う。」
「義経様! それは…! 」
「控えていろ、鬼三太」
静かに…だが、強億義経に言われ、鬼三太は三歩程下がって跪いた。
「俺は…そんな事の為にやったんじゃ…」
「弁慶。私はお前の事をもっと知りたかったのだ。何に怒り、何に悲しみ、何に苛立つのか…。それを知りたかった。特に、お前が戦や人を傷つける事へ極度の嫌悪…いや、恐怖を感じている事についてな。日立と夕顔には悪いが今回の事は利用させて貰った。」
慶次郎は、はっと義経から目を反らした。
「それはお前が一時京都で暮らしていたという、小さな山村の事が原因なのではないか?」
「どうして……」
慶次郎は、はる達と出会ったあの山村で何があったかは、義経一行には話してはいない。思い出す事も怖かったのだ。
「悪いと思いながらも、調べさせてもらった。平家の手で壊滅……村の者はほぼ殺されたらしいな。実際どういう経緯でそうなり、なぜお前が生き残ったのか…それは今はいい。お前はその事を自分のせいだと…」
「だったら、何だよ! 」
突然、大きな声を出した慶次郎。あたりに沈黙が流れる。
「解ってるよ。力が無いのに、平和だけ訴えてもダメなんだろ? 時には戦って殺す事もしないと、何も守れないまま目の前で殺されるんだろ? やられたらやり返さないと際限なく踏みにじってくる奴もいるんだろ? 全部解ってる。でもな。俺は、ダメなんだよ。どんな理由があったって、人を殺す事も人に殺されるのも俺はごめんだ。そうさ。弱いからさ。解ってんだよ。弱いままじゃダメだって…。」
そこまでで、義経は慶次郎の頭を自分の胸元にぐっと抱き寄せた。突然の事に慶次郎は言葉を失った。義経へ慶次郎の頭を子供をあやすように撫でて言う。
「私はそれを弱さとは認めない。絶対そうはさせない。良いのだ。私も日立も鬼三太も継信も忠信も…まだ、武士としては駆け出しだ。未だ迷いながら戦っている。私は、力の有る無しで家来を選ぶ気は無い。共に歩み、共に語り合い、共に成長し合える。そんな者と共にいたいと思う。お前と会った時から私はずっとそう思っているのだぞ。お前はお前の戦い方でいい…できれば私について来て欲しい。源氏の御曹司がここまでして口説いているのだぞ?少しは、聞く耳をもってくれ…」
慶次郎は義経の胸に顔を預け、少し泣いた。そのうち義経は静かに気を失う。鬼丸で根珠を引き離してから、これだけ長い時間意識があった人間は他にいなかった。慶次郎は義経の体を静かに横たえた。
「弁慶。俺の負けだ…。だが、神器『鞍馬』は源氏再興への原動力。この首と神器では到底釣り合わぬがどうか頼む…」
鬼三太は頭を下げて慶次郎に話しかけた。
「見くびるなよ…、獲れるわけないだろ…」
慶次郎は頭を手で押さえたまま言った。
うちの主人公、攻略対象に攻略されてね?




