第13話 金売りの男
〇平泉 山奥
ある程度、義経の居場所に目星がついたところで、2人は鳥に乗ったまま大きく迂回し背後に山から廃鉱山へと近づく事にした。土蜘蛛複製体を狙撃した遠距離系能力者がいる。それは当然、それに準じた索敵能力も持っているはずだ。
慶次郎は、幸いにもその能力者を相手見つかるより前に発見できた。
数珠丸で周辺の索敵を続けていた慶次郎は日立に言う。
「この先にある小さな山の頂上…炭坑と平泉を見渡せる所だ。そこに1人いるな。神器使いだ。平泉方向を見張ってる」
「待って…」
日立は折り紙を放り投げるとそれは1匹のフクロウの姿になり低空で飛んでいった。
「見えたわ。当たり。元平泉所属の武士だわ。北の狼参加者よ。名前は伴藤六」
「能力は?」
「複製神器『銃』の起源。彼が狙撃手と考えて間違いないわね。」
「狙撃に必要な索敵能力はあるのかな? 」
「能力としては聞いてないけど、狙撃手として目が良く夜目も効くってのは有名。」
「真っ直ぐ突っ込んでたら危なかったな」
慶次郎と日立は藤六の目をかいくぐり、鉱山の近くにやってきた。日立の言う炭鉱の入り口部に、数人の人影が見える。慶次郎は再び、『数珠丸』で索敵を始める。
「あの大きな穴を入って最初の分岐点を右、次の三叉路を直進した先に大きな空間があってそこに土蜘蛛と結構な人数がいる…23名かな。奥の方に座ってる人間と、その隣にあの捕獲用の土蜘蛛っぽい気配がある。義経だな。」
「流石ね。その索敵用の神器。あんなに複雑な内部を中に何も入れずに把握できるなんて。とにかく、作戦を立てるわ。私達だけじゃ、ちょっと火力に問題があるけど、義経ちゃんを解放できたら、一気に形成が楽になるわ。他に何か気になる事ある?」
「さっきの昔話にも出てきたがワープ…転移系の能力者だ。そいつを最初になんとかしないと、最悪、奇襲に気付かれた時点でまた逃げられる。誰か知らない? 」
日立は首をふった。
「残念ながら…、外部の協力者か誰かが隠し持ってた能力か…って事で当時の捜査も終わってる…」
慶次郎は、そうか…といって俯いた。
「あ、アンタ、故郷に帰る能力を探してるんだったわね。それで? 」
「ああ。そいつが元いた世界に帰れる能力かはわからないけど、何かヒントにならないかと思ってさ」
「解った。さすがに前回、今回とこっちは二回もしてやられてるワケだし…。対策は取るわ。」
「まずはそいつを特定しないとな。」
○廃坑内部
「退屈だなあ。夕顔。何か話をしないか? もう、お前ら組織の背後関係を探ったりはしない」
夕顔は、そんな義経を無視する。時間的に考えてすでに夜も大分ふけているだろう。この廃坑の奥には日の光は届かない。義経はその中の一際ひらけた広い空間の奥で座っている。
夕顔をはじめとする北の狼はなんとか捕獲した義経の自由を封じ、睡眠薬で眠らせるか、あわよくば少々痛めつけて動きを封じようとしたが、誰も義経を取り押さえることができなかった。
土蜘蛛2号機の作るアンチ神器空間は、敵味方構わず作用する。義経は神器を使えなくても無類の強さを誇る。取り押さえようと襲いかかってくる彼らをいとも容易くねじ伏せていった。そして格闘に飽きると、大人しくしておくから人質になってる間は人道的に扱うよう彼らに要求。彼らは、義経に手枷と足枷をつける事、土蜘蛛2号機の神器無効空間から出ない事を条件にそれを飲んだ。結局、夕顔が、ほぼつきっきりで義経を見張っている。
「何故だ? 義経」
「お、なんだ夕顔。私とおしゃべりをする気になったか?」
義経は嬉しそうに言った。
「それだけの力があったのに何故、土蜘蛛に捕まった? いや、今でもここ逃げ出す方法などいくらでも思いつきそうに見える。」
「ふむ。ここの警備はお世辞にも万全とは言えん。よほど急ぎで立案された作戦だったのだろう」
「我らの事情は探らんと言っただろ! 」
「スマンスマン。土蜘蛛に捕まったのは確かにワザとだ。どんな能力か興味があった。今ここで大人しくしているのは…家来の成長を促したいって所だな」
「成長? 」
「皆、優秀だが悩みを抱えている者が多い…。人を殺せないのに戦に臨もうとする者。国を裏切った妹にどう対処していいかわからない者…。奴らがこの事態にどう動いてどう対処するか…それを見定めたい。」
夕顔はそれを聞くと忌々しそうにチッと顔を顰めた。義経はふっと、視線を横にする。
「おろかな姉だ。そんな事に悩むから、結局主君を攫われているではないか。力を否定して結局大切なものを失ってしまう…なんとぜい弱だ。」
義経は床に小さな紙切れが落ちているのを見た。そして義経はニっと笑う。
「それはどうかな? 私はお前の姉程強い女を他に知らん。お前はどうも姉の偉大さを勘違いしているようだな。」
「貴様に、日立の一体何がわかるのだ? 」
「解る。日立は私にとっても姉だからな。お前も随分のんびりしているが良いのか? きっとあいつはここに来る。」
夕顔は今度はフンと鼻を鳴らす。
「随分な自信だが無駄だ。あいつの神器は大方把握している。対策もしてある。」
「もしかして、この炭鉱の入り口に仕掛けられていた機械仕掛けのあれか? おおかた神器に反応して音響が鳴る程度のものだろう。この土蜘蛛二号機を置いとく方が良い思うが…それが出来ないのがすでに今回お前達の準備の足らなさを感じさせる。」
よく見ている…と、夕顔は思う。彼女は少し義経から目線を反らす。
「実際、対策といっても、防ぎきれない程の襲撃を受けたら、そいつの転移神器で逃げるのだろ? 武装集団が聞いてあきれる。」
義経は横で聞いていた一人の男を見ながら言った。
「へっへっへ。さすがは義経の旦那。よくお分かりで。その奥にあっしの神器『金爛砂子』が設置されています」
「弥太郎! 」
夕顔が怒鳴り少々派手な商人風のなりをしたその弥太郎と呼ばれた男は、ヘイヘイと言いながらクチをてで閉じる動作をしてみせた。小柄な恵比須顔。年齢不詳である。
「弥太郎と言うのか。いい能力だ。どうだ?お前も私の家来にならんか?転移系の能力に興味のありそうな奴がいてな」
「いいですねー。その節操のなさ。あっし好みだ。しかしね。あっしは金次第でなんでもしますが、裏切りだけはしねえんでさ。今はこの北の狼の皆さんが、私の雇い主ってね。」
「ふむ。いい加減そうだが、それなりの信念を持っているようだな。」
「いえいえ、基本はもうけさせてくれる人の味方なんですよ。あたし今ここにいるのは……」
「いい加減にしろ! 」
夕顔の声が響き、周りにいた北の狼メンバーの視線が集まる。義経もさすがに話過ぎたか、ここで口を閉じた。その時…偶然、夕顔は少し離れた地面に小さな物体が落ちているのが見えた。歩いていって、それを拾う。随分、真新しい…紙である。最近落ちた物のようだ。なぜ、こんな所で、いや、待て…紙…。夕顔は顔を青ざめる。彼女が義経の方を慌てて向く。義経はもうバレても関係ないといった風で、口笛を吹きながら知らんプリをするという、ベタなリアクションをとっている。
「貴様! これは一体…!! 」
夕顔の叫び声と共に、大きな警報音が炭鉱の中に響き渡った。
そんなわけで、出すタイミングを完全に逸してた金売り吉次が登場。この人、一般的に最後どうなるんだっけ?ガチで知らない。さてさて、この話では…?




