第10話 折り紙
すみません。最近忙しいので少し短めです。
〇その昔… 平泉近郊の田園地帯にある武家屋敷
「あなたの妹よ…かわいがってあげてね。お姉ちゃん。」
母親からそう言われた幼き日の日立は、そっとその赤子の顔を覗き込んだ。赤子もまっすぐな目で日立を見つめた。抱いて欲しいのだろうか? そもそも赤子はこちらの顔をしっかりと認識しているのだろうか? 幼い頭で色々考えた末、応対に困った日立はその時持っていた、父親に貰った紙で折った、折り鶴をそっとその赤子に差し出した。赤子はそれを弱い握力でつかむと、それを楽しそうに上下に振った。それを見た日立の顔は自然と綻ぶ。
それが、夕顔との出会いであった。
日立の家は、古くから藤原家を守る武家のその家臣の家である。さして大きな家ではない。日立の父は跡取りに恵まれず、家督を早々に養子に譲り、歳をとってから生まれた二人の娘を可愛がりながら余生を過ごしていた。日立もそのままどこかの家の適当な相手の家に嫁ぎ静かに一生を終えるだろうと子供の時から思っていた…が、そうならなかったのは、この姉妹が類まれなる神器の才能を持っていたからに他ならない。
日立が8歳の時であった。家の近くにあった桜がその年、いつにもまして美しく咲き誇りそれを頭首、藤原秀衡が見に来る事となった。日立の父はその接待役となり、秀衡が家にやってくる事になった。その時、たまたまであった。無数の折り鶴を宙に浮かべ、まだ歩けるようになったばかりの妹をあやしている日立を秀衡が目にした。まだ、完成とは程遠い折り紙を操るだけの能力であったが、秀衡は一度に操れるその数とそれらをバラバラに扱う日立の頭脳の明晰さに驚いた。秀衡は日立を柳の御所に引き取り、神器の研究員として育てる事にした。
さらに数年が流れ、日立は自らの神器をほぼ完成させ、若くして研究所で神器研究のトップを張る優秀な研究者となっていた。中でも、コピー神器を複数組み合わせる事で、それぞれの弱点をフォローした強力な一つのコピー神器へと変える技術を確立させた事は、平泉の科学をさらに大きく躍進させる結果となった。
ただ、日立は柳の御所での出世をそれほど望んではいないかったようだ。理由の一つは日立が研究所の一員になって以来、平泉の科学の発展方向が軍事目的よりになってきたことにある。藤原氏の跡取りである泰衡はとかく、神器の発展方向を軍事目的に考える志向があった。頭首秀衡は平和主義を強く持ち、軍事目的での神器開発を禁止してはいたが、時代の流れの中、その考えでは国を守れなくなってき違うのている事は明白であった。特に京を中心に次第に勢力を拡大している平家の存在が大きな脅威と言えた。
日立はその後、義経の家来となり藤原氏を離れる事になる。その一つの原因が夕顔の士官であった。齢13の時には夕顔は『土蜘蛛』をほぼ自らの神器として完成させていた。その戦闘性能は、柳の御所にいる日立の耳にも入ってきていた。家の近くにあった、盗賊団の隠れ家を単騎で壊滅させたらしい。たちまち、柳の御所の防人として夕顔は招聘された。
「これで、私も姉上と一緒に戦える! 」
と、御所で顔を合わせた時に夕顔は嬉しそうに日立に言った。日立も妹の成長を喜んだが、同時に心の中に一抹の不安があった。夕顔の神器はあまりにも兵力…否、人を殺す事に特化している、日立はそう思った。泰衡からすぐに『土蜘蛛』のコピーを作成するよう指示が日立に降りた。しかし、日立は秀衡の平和主義政策を盾にそれを頑なに拒んだ。
「なぜですか、姉上! 神器が『文殊』で複製される事は、この平泉で最高の誉れ。末代まで語れる自慢になります。それを…」
「あなたは、その複製された神器が何に使われるのか?それが、想像できないの?少なくともアナタ自身がそれを判断できるようになるまでは…私は絶対に認めない」早く姉のように、大きな功績を残したいと焦っていた夕顔に日立は、そう言い放った。
こうして、仲の良かった姉妹に少しずつ溝が生まれる事になる。そして、姉妹の運命の分岐点…、源義経が、平泉に訪れる日がやってくる…。
〇そして今 平泉 近郊
平泉近郊を二羽の人間大の霊鳥が飛んでいる。それぞれに人が、一人ずつ乗っている。慶次郎と日立である。当然、敵から見える事を警戒して相当低空飛行そして、ゆっくりの飛翔ではあるが…。
話はこの一刻程前から…
神器『大鸞青翔図』
日立の神器である。まず、使用する際、日立は懐から正方形の紙を一枚取り出す。日立がその紙に念を込めると、紙に鳥の絵が浮かび上がった。
「もしかして…その絵そのものが顕現した神器なのか?」
それを見た慶次郎が言った。
「そ。この絵を顕現した紙を使用した能力…、能力の使用には本物の紙が必要…って、式なわけ。これが、金銭的に結構辛くて…」
紙はこの時代、この世界でも結構、高価なものらしい。
「山の名前じゃないんだな。」
「うるさいわね。いつできたのよ。その縛り!」
言い放つと日立はそれで素早く折り鶴のような形に折った。片手でも3秒あれば折れるらしい。それを、中空に放り投げる。それはたちまち人が乗れる大きさの霊鳥、鸞の姿になる。日立はそれを二回繰り返した。
「二つ同時に出せるのか?」
「数…で言うなら、この人が乗れる鸞なら一度に10は出せるわよ。ちなみに偵察用の小型の奴なら100は平気。当然、それだけ紙が必要になるわけだけど…。」
凄い…と、慶次郎は素直に思う。そして、義経の居場所を特定できるのが…
これを説明する時、また懐から紙で折りあがったトカゲのような物を取り出した。作りだせる動物はまた、かなりの種類があるらしい。所持できる能力はこうやって増やすのが効率が良いのか…と、慶次郎は自分の才能の無さを嘆いた。で、そのトカゲ…しっぽに当たる部分がちぎられているようで無くなっている。慶次郎はそれを見て、大体察した。日立がそれに念を込めると、それは実際のトカゲの姿になり、一方向に向かって歩き出した。
「勘がいいわね。そう。このトカゲは切ったしっぽに向かってひたすら歩く…それだけの能力…。そして、切れたしっぽの部分は義経様がいつも持っている。義経様がさらわれる…っていう、家来になった時に、いわゆる最悪の事態を想定して作ったの。鬼三太達も…当然、夕顔も知らない力よ。」
「おお! 」
さながらビブルカー〇、いやゴールデ〇・エクスペリエン〇!! 便利な能力だ。
「でも、相手は義経をアンチ…っていうか、神器を使えなくする空間に閉じ込めてた。その中に尻尾があっても大丈夫なのか?」
「その辺は、賭けだったけどね。義経様なら、あの空間の外に尻尾を出してくれるって信じてた。実際、このトカゲは尻尾が感知できない場所にあったら、動かないわ」
トカゲは一方向に少しずつ歩き続けている。これで義経を追跡できる。
慶次郎と日立は、それぞれ鸞に乗って飛び上がった。
「聞かせてくれよ。夕顔のこと…。アンタや、義経達とどんな因縁があるのか…」
鳥で静かに夜を飛びながら…慶次郎は日立に話しかけた。
「そうね。到着までもう少し時間がある。ただ鳥に乗ってるだけってのも暇だもの…」
日立はそう言うと、静かに昔の話を始めた。
できれば昔話は一話にまとめたかったのですが…
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いくつかの話の章タイトルを変更しました




