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第6話 神器『黄泉人不知』 その4

 鬼三太…義経の言う通り、あいつが黄泉人なのだろうか。義経は続けた。


「本当に恐ろしい神器使いだと思う。条件さえ満たせば、相手の得意な土俵での勝負を余儀なくされ負ければ死亡…。できれば、今すぐこの遊戯を終了させ、私の仲間になって欲しいくらいだ」


「まあ、無理だろうな。」


 そもそも、交互に一人ずつ殺していく遊戯の大前提に反する。一度発動した神器を無名丸自信が止める事が出来るかわからない。


「さっき、敵が私の家臣達4人に変化するのが一番考えられると言ったが、あれには一つ大きな危険が伴う。」


「危険?」


「私の家来は、全員私の為になら平気で死を選べる人間ばかりだ。まあ、家来になったばかりのお前を除いてだがな」


「いや、俺はなったばかりじゃなくても嫌だぞ? 」


「まあ、それは今はいい。」


「良くねーよ! 」


「それゆえ、黄泉人が一番恐れているのは、話の流れで私に自害を強要されるような流れになる事だろう。死ねば自分が負けだ。そこだけは嘘をつくしかない。あいつは、さっきお前を殺そうと提案した。その事自体は別に問題は無い。だが、話の中で家来は簡単に自殺は出来ないという大前提を全員に植え付けた。そう巧みに誘導していたように私は見えた。」


 無視された…が、まあ、巧みに誘導ってのはどうだろうな?


「お前には未だ、わからんだろう…。あいつは…バカなのだ。」


「言っちゃったよ。この主君。」


「戦闘や戦に関しては天才的だ。野生の獣の勘のようなものを持っている。しかし、事、学問や人間の感情の機微にはおおよそ獣並みの理解力しかない。それゆえ…」


 義経はニヤリと笑いながら言った。鬼三太、酷い言われようだな。


「奴が本物なら、この遊戯についても、分かったフリをしているだけで、大よそ理解など出来ていないはずだ。会話だけで解説されていたからな。殆どが。だが、黄泉人…無名丸は、このゲームの決まりを完全に理解している。その差異…矛盾を突く。」


「ぐ…具体的にどうする? 」


「ふむ。まず、この作戦には協力者がいる。日立だ。奴は周りに聞こえんように会話をする道具を持っている。さっき、お前に刺そうそして折れた脇差もそうだが、神器に関係のない、身に着けてた物体は、そのまま、この空間に持ち込まれているようだ。さっき昼寝をしているフリをして作戦の全容を伝えている。」


 そ…そうだったのか。 


「あいつが、平泉の研究所出身という事は聞いていると思うが、日立は神器の他にも便利な道具をたくさん持っている。で、作戦だが…もう少しすると、あいつが自害する」


 え……? いやいや、おかしいだろ?


「正確には自害するフリ…だな。」


 そこから、この作戦の説明が始まる。

 説明が終わった俺は、まず思った…大丈夫か? この作戦…。


「間抜けなやり方なのは認める。相手に揺さぶりくらいはできるだろう。事態を動かせば、奴にも必ず隙が出来る。どうだ。やってくれるか?」


「ああ、やってやるよ。」


「今日は随分優しいではないか? 」


「別に…ちょっと、大変だな…と思っただけだ。」


「大変? 何がだ? 」


「いや、義経がだよ。たった5人でも部下の命を預かっている。皆自分の為に死ぬ人間ばかり…って言ったが、お前がそんな奴らを簡単に殺せる人間とは思えない。全員の命を助けなくてはいけない。でも自分も生き残って最終的な目標を達成しないといけない。お前みたいな、女の子が…だ。」


「ふん。わかったようなことを…。」


「少なくとも俺のいた世界では異常だったよ。まあ、命をかけるのはまだ無理だが…出来るだけ助けてやりたいと思った。そんな心の…プレッシャーじゃない、ストレス…もダメか…。重圧だ。重圧を軽減してやりたいって思ったんだよ」


 義経は、少し考えていたが、ふふっと笑った。


「なんだよ。」


「いや、少し嬉しかった。お前なりに家来をやってくれているのだと思って安心しただけだ。」


 なんか、言ってて恥ずかしくなってきたから、義経の笑顔を俺は見ないようにした。


 しばらくすると、庵の方から忠信が走ってきた。


「義経様ー! 義経様! 大変です! 姉さんが!! 」


「来たぞ? では、頼むぞ。弁慶! 」


 忠信は俺達を見つけると、案の定、日立が自殺した事を言った。慌てて俺と義経は(まあ正確には慌てるふりをして…だが)庵に戻る…。そこには、切腹でもしたのか正座したまま前のめりに倒れている。そしてあたりにおびただしい量の血が流れ出ている…。これは……

 神妙な表情の継信と鬼三太がそこにいた。この鬼三太。本当に義経が言うように偽物なのだろうか?


「止める間も無かった。詳しくは義経様に聞いてくれとだけ言い残し突然だった…」


 鬼三太が茫然とした表情で言った。


「すまん…。バカげた考えだと否定しておいたのだが…。まさか本当にやるとは…」


 義経は絶望に満ちた表情で言う。当然、これは芝居だ。


 まず、そもそも自殺が出来ない中、どうやって自殺したように見せかけるのか?


 ーーーーー当然、本当に自殺するわけでは無い。大量の赤い絵の具をさっきヨミネコに出させておいた。理由はクジを作る為…と言ったがな。


 ああ、それで、自己紹介をすると突然言い出したのか。いや、しかし…。


 ーーーーー大丈夫。日立は手先が器用だ。必ず鬼三太は日立が本当に自殺したと思うはずだ。忠信と継信は、気付くかもしれんが逆にこっちの意図を察して協力してくれるはず。


 そして、俺もこの時、芝居と気づいてしまうだろうから今作戦を説明して協力してもらう必要があると義経は言った。なぜ、このような事をする必要があったか?


「さっき、日立に提案をされた。提案をする前に、私…この源義経以外全員が自害すれば、その時点で遊戯は終了となり、私だけは命が助かる…と。」


「そんな事が…可能なのですか?」


 鬼三太が茫然と聞いた。

 当然、そんな事はできない。全て嘘である!


「できるかどうか分からなかった。だから、そんな事をする必要は無いと私は言った。しかし、日立は…自分の命を持って、それが出来る事を証明して見せたのだ!! 」


 義経は涙を堪えながら言った。

 この涙も当然、嘘である。出来る訳がない。この空間の中では、致命傷に至る暴力行為も自傷行為もできない。しかし、鬼三太に自殺が出来ると思わせる必要があるのだ。鬼三太が本人なら当然騙されるし、黄泉人であっても、鬼三太をトレースしている以上、騙されているフリをしなくてはならない。


「すまん。日立…。私に覚悟が足りなかった。できれば自分だけでなく皆も共に助かればいいと甘い事を考えていた。すまん…」


 と、流している涙も当然、嘘である。


「義経様のせいではありません。」


「どうすればいい? 私は、日立の、この覚悟に応える為…何をすればいいのだ…。」


「それは…」


「良い判断だったかもな。このやり方なら、義経は絶対に助かる。ま、俺は義経の為に死ぬなんてゴメンだから、最後まで見させてもらうよ。残り2人になったら、遊戯を続行する必要は無いのだからな。」


「貴様! 今度と言う今度は勘弁ならん! 貴様こそ黄泉人ではないのか!? 」


 また俺の胸倉を鬼三太はつかんだ。


「鬼三太!」


 再び飛ぶ義経の怒号。義経から俺に与えられたミッション。適当なタイミングで鬼三太を怒らせる。


「貴様…一の家臣でありながら、仲間の一人を目の前で失っておいてその態度か…。」


「い、いや…それは…」


「私も日立の覚悟を見習うとしよう。お前たち、全員、私の為に死ね…。」


 鬼三太は絶望の顔をする。多分、俺以外にも、継信、忠信は分かっているだろう。今死ぬことは出来ないと。ここで義経は言うはずだ。


「まずは、お前からだ。鬼三太」


 鬼三太の表情が固まった。ここまでは作戦予通り。俺も話を聞いていた。だが聞いてたのはここまでだ。この後、どうする? 鬼三太なら自殺する…のは良いとしよう。しかし黄泉人ならば、そもそも日立が死んだふりをしているだけという事も解っているはずだ。自分の腹に刀を突きたてるだけの話…。見えない壁に守られ何も問題は無いはずだ。

 すると、義経は懐から紙切れを数枚取り出した。


「一度、この投票用紙の効果を確かめておくか。おい、鬼三太、これに名前を書いておけ。他の皆でお前の名前を書くから、お前は誰でも良いぞ。どうせ、あとで皆後を追うのだ。関係は無かろう。」


 !! え? 投票を使って鬼三太を殺す気? 黄泉人じゃなかったら、どうするのだ? もう、容赦なく自分の部下を殺しに行く気なのか? 義経は表情からは罪悪感も何も感じられない。しかし、これなら…。鬼三太が黄泉人なら何が何でも阻止しようとしてくるはず…。鬼三太は投票用紙を受け取ると何かを書いた。


「受け取ろう。希望があるなら、誰の名を書いたか伏せておくが…。」


「理由は分かりませんが、私が黄泉人だと狙いをつけていたわけですな…。それはいいとしましょう。しかし、自ら命を絶つこともさせず、あなた自ら手を下す事もしないとは…武士の情けも無いのですか! 」


 鬼三太は、ぱっと自分の書いた投票用紙を全員に見せた。「義経」と書いてある。義経の表情が変わる。そして、鬼三太は、その投票用紙を義経に投げつけると道連れだと言わんばかりに義経に殴りかかった。横から、継信が割って入る。そして、鬼三太の拳を掴むと見事に体をさばき、鬼三太の巨体を背負って投げる。そのまま、鬼三太の手を後ろ手に掴んで動きを止めた。


「痛くもなんともなかっただろ? 軽く体をいなしただけだからな。」


「おのれ…」


 鬼三太は悔しそうに顔をしかめる。


「決まりだ。誰か、ヨミネコをここへ! 」


 俺は、とっさに、戸棚の中にしまってあるヨミネコを取り出した。


「全員鬼三太の名前を書いて投票しろ! 」


 そして、そこで、うずくまっていた日立も起き上がる。


「ああ、もう、この体制、腰が痛くて痛くて! 」


「日立! やはり死んだふりを!? 」


 義経は手早く全員に投票用紙を渡した。全員、それぞれに名前を書いて投票義経に渡す。俺も書いた…いや、名前は書けなかった…。こんな時でも人殺しをためらってしまうのか、この前田慶次郎という人間は…。


 全員分の投票用紙を集めた義経はそれをヨミネコに渡した。ヨミネコは6枚の投票用紙を咥えるとあっという間にそれを飲み込んだ。


『投票を受け付けました…刑を執行します。』


 ヨミネコが淡々とした口調でい言った。すると、鬼三太は、くっと小さな声を上げて動かなくなった。鬼三太を押えていた継信は彼からすっと身を放した。


「脈が止まった。どうやら、本当に死亡したようだ。」


「さっきヨミネコが殺害する時は心臓を止めるだけだと言っていた。これで終了と思っていいだろう。」


 義経は、ふうっとため息をついて、座り込んだ。残った3人の部下も安どの表情をした。


 俺は鬼三太が倒れている様子を静かに見下ろしていた。

 

 俺も、鬼三太が死んだ事を確認した方が良いだろうか?いや、必要は無い。かなり強引な展開ではあったが、必要な手順は全て踏んでいた。鬼三太は間違いなく死んだ…。そして、俺…いや、私は改めて思う。


 勝った!!!


 残念だが、義経よ。選択は外れだ…。私は前田慶次郎…いや、この弁慶に変化していたのだから! この無名丸はな。私は変化した時は絶対に演技でバレないように自分が、さも当人のように思い込んで、思考し続ける。当人の記憶と性格のまま、頭の中で全ての事象を考え理解するようにしている。今回も最後までこの弁慶、前田慶次郎という人物を模写する事に成功した。義経。お前は無実の家来に疑いをかけ、追い込み。そしてそれに気付かぬまま殺害したのだ。かなりこちらに都合よく物事が進んだ事は認めるがな。


 安堵していられるのも今のウチだけだ。義経。今にも、ヨミネコが立ち上がり、選択が外れだった事を告げるだろう。そしてすぐに夜になる。次の日が明けるまで、お前は生きてる事は出来ん!


 しかし…、ここで私にとって不慮の事態が起きる。ヨミネコがいつまで経っても動こうとしない。ヨミネコはあくまで審判役だ。私と意志が繋がっているワケではない。話する事は出来ない。投票は終わり、刑は執行された。すぐに結果を発表しなくてはいけないはず…。


「処刑が執行されたのに、遊戯が続いているな。どうやら、最初の日没までは例え無名丸が死んでも解除されない遊戯のようだな。早く仕掛けたから残りはまだ二刻以上ある。まあ、ゆっくり待とう。」


 なぜだ? そんな設定は無かったはずだ。まさか、未だ鬼三太は死んでないのか? いや、仕損じなど今まで一度も無かった。私は、そっと床に転がっているヨミネコの方に近づき、今の状態を確認しようと呼びかけようとした。その時ー


「どうした? 弁慶。ヨミネコに何か用があるのか?」


 義経が私の肩を掴んだ。


「い、いや、結果くらい確認できないかと思って…。さすがにこのまま4時間…日没までは長すぎるだろ? 」


「ほう。まるで、この遊戯がどういう段取りで流れるか知っているかのようだな…。弁慶。否…無名丸よ…」


 無表情で言った義経の言葉に私の背筋は凍り付いた。


「何言ってるんだ? 俺が黄泉人なワケは無いだろう? どちらにしろ、結果はもう出るんだし…。」


「無名丸…お前はヨミネコと意識が繋がっているわけではないようだな。ヨミネコはお前とは独立して動いている。だが、鬼三太が暴れた時、私がヨミネコを出すように言ったら、お前は迷いもなくそこの戸棚からヨミネコを取り出した。確かに、変なところで急に話されて、こちらの子芝居がバレないように念の為戸棚にしまっておいたのだが…、お前はそれを知らなかったはず。おそらく意志は繋がって無くても場所は把握できたといったところか。そんな事はこの空間の主以外は絶対にできん。」


「い、いや…あれは…」


「勝利を確信したお前は今まで弁慶本人としか思えなかった完璧な演技が、明らかに緩んでいた。ここから色々揺さぶって自白させるつもりだったのだが…。その必要は無かったな」


 鬼三太がむくっと起き上がる。


「いやー。俺も修行から逃げ出した時に良く使ってた、仮死状態になる特技を使うかと迷っておったのだが、今回は大丈夫だったな。あれは、誰かが起こしてくれないと、そのまま死んでしまう。やるのは本当に怖いのだ。」


 鬼三太…死んでない…なぜ? ヨミネコは確かに『刑を執行する』と言ったはずだ。


『刑を執行します』


 不意に横から声がした。日立が小さな小箱を口に当てている。


「私の作った道具。変声機…とでも言うのかしら。名前は無いんだけどね。どんな声でも調整するだけで出す事がだせるわ。ただ、そっくりの声にするにはちょっと時間がかかるのが難点だけど。」


 ヨミネコそっくりの声を、あの昼寝をしている間…ずっと作っていたのか? そういえば、周囲に聞こえないように会話する機械があると…


「ちなみに、この耳に入れてる小さな機械…これに直接音声を届ける事が出来るのよ。これがあれば、周りに聞こえない会話も出来るから。」


 日立は、私に右耳を見せて来た。確かに小さな機械が彼女の耳についている。この弁慶のいた世界の言葉を借りるとイヤホンというやつだ。


「にしても、鬼三太! 何よ。あの下手な芝居は、なんで最後義経様に襲い掛かってるのよ。暴力行為は出来ないって言ったでしょ? 継信が上手くあしらってくれたから良かったけど。」


 日立は鬼三太の頭を叩く。


「だって、どうすりゃ良かったのだ? 自白するのも変だし、自殺するのもおかしいし、設定に無茶がありすぎる! 」


 日立と鬼三太はギャーギャーと言い合っている。


「簡単な事だ。無名丸。こちらは最初からお前ひとりをだますつもりで、全員で一芝居うった。お前に菜の花畑で、説明をしている間に、家来達は色々と用意していたのだ。ヨミネコに、処刑の細かい流れを聞いて全て聞いて、その様子を可能な限り再現し…、お前に偽の勝利。を確信させる。投票は全員行わないと刑は執行されない。もう一つ、ヨミネコが用意した投票用紙以外での投票は投票とは認識されない…それも確認済み。」


 そうだ、あの時、義経はヨミネコに6枚まとめて投票用紙を食べさせていた…。


「一枚だけ…私だけ偽物の紙に書いた。これが、本物の私の投票用紙だ。」


 義経は投票用紙を私に見せた「弁慶」と既に書かれている。


「投票は、鬼三太が義経と書き、お前は白票だった。私の分は偽物で…、残り3人は弁慶と書いて投票している。すなわち…、この投票用紙をヨミネコに渡せば、お前の負けが確定する…。勝負ありでいいか? 黄泉人、無名丸よ。」


「ああ、それで結構だ。」


 私は静かにつぶやいた。



この神器、本当に強かった。なんか、色々と良い倒し方考えてたら、こんなに長くなってしまいました。

5/9変声機の下りを書いてなかった…。やっぱり無いとおかしいので加筆しました。

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