表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/186

第4話 神器『黄泉人不知』 その2

 押さえておかなくてはいけない、条件はいくつかある。

 この神器の能力…敵も命をかけている。それも、確率として、最初の一回で6分の1…。レボルバーのロシアンルーレットと同じ数字。この確率、相当高いと考えていいだろう。この世界の神器は、漫画でよくあるように制約をかける事で威力を高める「式」という概念が存在する。自分の命をかけるという、事がこの式においてはかなり強い力を負荷しているのは間違いない。あの無名丸という、おっさん。暗殺者という事だが、本当に頭がどうかしてると考えたほうが良いだろう。


「ヨミネコよ。今回は6人だが、この神器、最大何人まで一度に遊戯に参加できるんだ?」


『最低参加人数は5名です。最大20名まで可能です。』


 それを聞いて、日立と継信が一瞬引いた表情をする。一度に18人。どんな伝説の達人でも殺す事が出来る、この神器の恐ろしさが解ったのだろう。この2人は、家来の中でも話が分かるほうだ。義経は、こういう時は一歩引いて状況を見るタイプだ。表情では何を考えているのが解らない。


「なんか、すっかり、このネコちゃんに慣れちゃってますね?」


 ヨミネコを膝の上にのせて、撫でている俺に対して忠信が言う。お前ちょっと、羨ましいと思ってるだろ? このヨミネコ、かわいいって言ってたからな。多分、神器の式の関係で、このヨミネコは絶対嘘は言わない。こいつが嘘を言ったらゲームが成立しない。必要以上の情報は自分からは話さないようだが、聞けば色々答えてくれる。残念だが、周りの5人は敵が化けてる可能性がある以上、とんでもない嘘つきの可能性もある。


「おいおい。お前たち。そろそろ始めたいのだが良いか? 自己紹介の時間だ。」


 義経だ。本当にこいつだけは、何を考えているのか解らない。


「なんで、今そんな事をしなければならんのですか?」


「決まってるだろ? 新しい仲間がふえたのだ。そして、今ひとつお前たちは打ち解けていないように見える。そういう時は、まず自己紹介だ。」


「でも義経ちゃん。この中一人は偽物なのよ? 仮に生きて全員出られた場合、偽物になってる子は折角の自己紹介も聞けないってことよ?」


 今、義経ちゃんって言ったけど…。誰も何も突っ込まない所を見ると普段もその呼び方する事もあるのね、姉さん。


「その時は、その時。これから、ずっと生死を共にしていく仲間ではないか。時間ならいくらでもある」


「全員生きて出られたらいいけどな。」


「暗い!暗いぞ、弁慶!もっと、前向きに行け。だから、お前は友達が少ないのだ。」


「何で知ってんだよ! 」


 と、だいたい俺の物腰から予想が付きそうな事にムキになって突っ込んでしまう俺。


「とはいえ、何か話すのには俺も賛成だな。この手の嘘を見破らなければいけないゲーム…じゃなくて遊戯でやられたら一番厄介なのは、とにかく最後まで黙って何も話さない事だ。話していけば、必ず言動に矛盾が生じるはず」


「うわ、本当につまんなそう」


「友達っていうか、女にもてないタイプね」


「うるせえよ!」


 俺は、とことん俺をディスってくる忠信と日立に怒鳴り返した。


「弁慶よ。まだ、時間はある。あまり深く考えるな。敵は暗殺者。この神器で数多くの敵を落として生き残ってきた。言ってみれば遊戯に文字通り命をかける頭の狂った変態野郎だ。この遊戯の中で、簡単にボロを出す男ではなかろう。今は普通に我々の懇親会としゃれ込もうではないか」


 大丈夫かよ。この主君は…。かくして、俺達の自己紹介が始まった。


「よし。くじを作ったぞ。この竹串の中に一本だけ赤く塗った串が入っておる、それを引いた者から順番に自己紹介だ」


「どうやって作ったんだ?これ。」


「ヨミネコが用意してくれたぞ?規定に反しない者はなんでも作れるらしい。当然、神器の外には持ちだせんらしいが」


『基本、無名丸が想像できる範疇の者ならばならば作れます。一応、量に限りはありますが、お茶とお食事などもご用意できます。今まで、あまり召し上がる方はいませんでしたがね』


 そりゃそうだろ。暗殺者の用意した食べ物なんて食べたくない。っていうか、便利だな。この空間。ちょっと住みたい。


 俺達は、くじを一人一本持ってひく


「最初はだーれだ。」


 その王様ゲーム的な抑揚、平安時代にもあったのか…?

 最初にあたりを引いたのは、継信だった。


「お、俺ですかい? 話すのは得意じゃないんですがね?誰かの後にしてもらえませんか? 」


「ダメだ。クジを作った意味が無かろう。ちゃんと話せ。」


「何を話せばいいんですかい? 」


「そうだな…。まあ、私の家来になった経緯…、好きな事、嫌いな事、己の信条…まあ、言える範囲で神器の説明などもあってよいな。まあ、なんでもいい。」


「わ、わかりました。では、自分は佐藤継信で…」


「こらこら。自己紹介は弁慶にしなければならん。」


 継信は面倒くさそうに、こちらを向いた。いや、別にいいよ。そんないやいや自己紹介されてもさ。

 佐藤継信…、忠信の兄さん。元々、近江の田舎の出身。士官先を探していた所、義経が鞍馬寺から平泉にくる際、偶然立ち寄った所を見初められて家来になった…らしい。


「神器の名前は『伊吹』だ。見た通り、弓の形状をしている。狙撃に特化した攻撃用の神器…で良いだろうか? 」


 俺はうなづいた。確か、小型の短筒みたいな武器も出してたな。弓以外にも出せる武器はあるのだろう。あまり話はうまくないのは本当らしく得られた情報はそのくらいだ。


 続いて、くじを引くと日立が当たる。日立とはさっき、一応自己紹介めいた事をしたし、だいたい聞いた通りだ。神器については相変わらず秘密らしく、謎のままだ。独身で恋人もいないらしい…。どうでもええわ。

 で、次にくじをひいたのは…。


「お、私だ。」


 義経が嬉しそうに当たりくじを見せた。本当に楽しんでいるように見える。8時間後には誰かが死ぬかもしれないのに。


「源九郎義経だ。まあ、どういう人物かはあまり説明が必要ないようだな。まだ私が母の腹の中にいた頃、父が平家との戦に負けた。死罪は免れたが、鞍馬寺に預けられ将来は出家する予定であった。その後、鞍馬を抜け出し今は平泉でお世話になっている。いつか、敬愛する頼朝の兄上の元にはせ参じ、共に平家打倒の挙兵する事を夢見て…、今は力を蓄えている。」


 だいたい、俺のいた世界の史実の通りか。だが、しかし…。


「質問があるんだが、女なのに、なぜ男と名乗っている? 」


 まあ、個人的な興味だ。家来衆が全員、一斉にこちらを見たような気がした。


「聞きたいか? 」


 義経は顔を俯かせ、真剣な表情で言った。


「い、いや、ヤバい事ならいい…。単純な興味だ。だって普通逆だろ? 家を継ぐ可能性があって、戦で負けたら処刑されるかもしれない男である事を隠してるってならわかるけど…」


「そーか、そーか! 聞きたいか!? いや、それ聞いちゃうかー? 」


 なんだ? 急に楽しそうになったぞ? 家来達はみんな、ウンザリとした顔をしている?


「いや、実はな。私の父源義朝とそして、平清盛。この2人。若いころは、私の母、常盤をめぐり恋敵だったらしい。三角関係というやつだ。」


 また、妙な言葉はあったりするんだよ。この世界。


「まあ、恋の争いに父は勝ったわけだが…。戦に負けた時、父は死に、当時私を身ごもっていた母は捕らえられ清盛の前に引き出された。まあ、母も他の一族の為、清盛に手籠めにされるくらいの覚悟はしておっただろうな。ところがだ。すでにある程度、齢を重ねていた母に清盛は興味を示さず…」


 既に、笑いをこらえる事に必死な義経がウザい。


「お腹の中の私に示した。そう!母は知っておったのだ。清盛の奴は信じられるか?あいつ幼女趣味だったのだ。」


 とうとう義経は大笑いしだした。


「はっはっは。信じられるか?あの清盛がだぞ」


 かの平清盛がねえ。ロリコンか。確かに晩年は若い白拍子にうつつを抜かしていたとかいう、話も聞くが…


「いや、確かに意外だが、話的にそんなに笑っていい所なのか? 」


「はっはっは。母は清盛の視線に恐怖を感じたのだろう。もう、あらゆる手段を使って生まれてくる私を清盛に男と思わせる事に成功した…らしい。」


 そういえば、戦に負けた家の男は本来皆殺されるものだが、平治の乱の際は特例中の特例で誰も殺されなかった…と、教経が言っていたな。特異霊装…。そのこともいつかこいつらに聞かないといけない。と、そんな思いを馳せている間も義経は笑い転げている。


「ちなみに、我々は飲み会の度にこの話を聞かされている。もう何十回目か…。なぜか、毎回初めて聞かすように言ってくるのだー」


 鬼三太がウンザリとした表情で言う。他の家来も似たような感じだ。あ、飲み会のウザい上司の武勇伝的なポジションなのか。本人は鉄板の滑らない話と思ってるのに、部下にはダダ滑りしてる…ってやつ。


「さらにちなみにこの後、笑いから立ち直って、「まあ、私も母も何もなかったから今となっては良い酒の肴だ。」までがひとくくりだ。」


 そして、義経はひとしきり笑いつかれると、そこから起き上がる。


「まあ、私も母も何もなかったから今となっては良い酒の肴だ。」


 義経は笑いを堪えながら言った。うん。だいたいわかった。


 そして、次のくじが引かれる…。

 

 あ…。


 俺の引いた竹串には、赤い印が付いていた。

 さて…、何から話そう。

のんびりいきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ