第17話 不等辺三角形
さて、しばらく恋愛パートです。書いててむず痒いシーンが多いけど頑張ってます。
○鎌倉軍に駐留所 夜
一通り事がすんだあと、慶次郎ははるの様子を見にきた。相変わらず眠っているようだ。今日一日の疲労が激しいのだろうと医者は言ってた。今日はこの屯所に泊まる事になるだろう。彼女の住んでいるところには、あの友人が連絡しておいてくれるらしい。ひとまず、今は屯所で眠っている。
その部屋に慶次郎は入ってくると彼女の横に座りその寝顔を見る。さっきまでの慌ただしさが嘘のような穏やかな寝顔だ。ひとまず、元気そうにしている事を確認できて安心した。しかし、色々変わったこともある。目が覚めたら……何から話そうか。
「まだ目覚めんか……」
しばらく、彼女の横にいると、部屋に義経が入ってきた。顔色が大分良くなっている。
「もういいのか? 」
「寝すぎてかえって調子が悪いくらいだ。病が治ったら、あとはどうと言うこともない。」
義経は慶次郎の横に腰掛けた。義経と慶次郎の声を聞いて……はるは目が覚めていた。だが、不意の判断でしばらく目を瞑って意識の無いフリをする。今知りたいのは、この2人の関係だ。義経は徐に口を開いた。
「話がだいたいつながった。お前が、京に来て暫く暮らしてたという村。弁天丸という神器の名前、そして……。」
ずっと待ちこがれていた男……。という単語を義経は言わなかった。それは自分が言うことではない。
「俺が来たせいでこの子の村は全滅した。1人ぼっちになったこの子を俺は、置き去りにした。」
「まだ子供だったのだろう? お前は右も左もわからぬ世界。仕方が無かったのではないか? 」
「それもこれも、この子から逃げた言い訳だったんだろうよ。多分な。」
「しかし、言っていたぞ。「次に会うまでに自分の力でしっかり世界に立っていられるようになっていよう」と。その約束があったから、今まで頑張ってこれたとな。」
「そんな事、言ったっけかなあ……。」
「少なくとも彼女はそうあろうとしている。荒野に咲一輪の花……と、言ったところか、健気にも凛と咲いていようとする姿が美しい。」
「それは彼女自身の魅力だ。俺は関係無い。」
その会話を聞きながら、はるは心が掻きむしられるように切なく痛んだ。会話の内容もさる事ながら、この2人の距離感だ。女の勘みたいなものがあると、仕事仲間の「姉さん」達が言っていた。はるもこの歳になればだいたいの察しがつく。2人の会話は、間やお互いを気遣う雰囲気が明らかに恋人、思い人同士の男女がもつそれだった。
ーーやっぱり、この2人、何かあったんだ……。
さっきキスしたように見えた云々や、「一番最初に助けに来る家来」云々を無しにしても
……。彼女はこの時、そう確信した。大人になるって嫌なことが見えてくるって事なのかもしれない。と彼女は思う。
「いい子じゃないか。どうなんだ? 彼女の事……。会いたかったのだろう? 」
「そうだな……京でずっと神器狩りをしていた時は……1人で越す夜が寂しすぎてさ。そんな時、思い浮かぶのは彼女の顔だった。でも、甘えちゃダメだと必死に言い聞かせてたな。」
「もう、お互い大人になった。お前も強くなった。彼女の事、ちゃんと考えてやれ……喜ぶと思うぞ。」
「ちゃんとって何だよ……。いや、俺はこいつの事、妹みたいに思ってだな。」
「ま、それについては私が言える事は無いがな。」
義経クックックと笑いを堪えながら言う。
「まあ、どう思ってもいいけどさ。流石に5年だ。色々変わった事もある。お互いに。それに……。」
慶次郎と義経は見つめ合う。
「お前との事だってちゃんと割り切ったわけじゃない。」
義経はまた、微笑む。そして、慶次郎の肩に静かに頭を乗せた。
「私も同じ気持ちだ……。ああは言ったが、正直、お前が他の女とどうこうなると考えただけで、嫉妬で気が狂いそうになる。」
今更ながら慶次郎は今日の朝、義経と喧嘩した理由を思い出した。
「今日はごめん。悪かったよ。」
「忘れよう。私は一つずつ乗り越えていくつもりだ。お前も考えろ。お前とはるが出した結論なら……。私はきっと受け入れるさ。」
その時、遠くから鬼三太が「弁慶。ちょっと手伝ってくれ! 」と呼ぶ声が聞こえる。
「行ってやれ。はるは私が見ておこう。」
ああ、頼む。と慶次郎は呟いて、部屋を出て行った。はるは聞いていた会話の内容が強烈すぎて、まるで苦手なジェットコースターに乗った子供のように呆然としながらも必死に寝たフリをしていたが……。
「聞いての通りだ。色々あるが、お前のような女の子が奴の側にいてくれたら、私も幾分安心できる。あいつはほっとくと、どんどん1人で思い詰めて、なんか危なっかしいからな。」
はるは急に義経が喋り出した事に驚く。起きている事がバレてた? どうしようこれ。
「繰り返すがちゃんと2人が納得する形で出した結論なら、私は受け入れよう。ところで……、さっき友達になりたいと言ってくれたのは、まだ有効だろうか? 」
はるは、そこまで聞くと目を開けてガバっと身をおこした。
「義経様、私……! 」
はるが義経の顔を見ると、彼女はスヤスヤと穏やかな顔で眠っていた。はるはそんな彼女の顔を見て、少し悲しそうにだが、微笑んだ。
演出が下手だなーと、改めて思う。
でも、頑張れはるちゃん。
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異世界の話です。史実とは関係ありません。




