第16話 宣戦布告
弥太郎の神器……、もっと使わなあかんな……。
〇京の古寺
継信は目の前で見張っていた老人が急に懐から取り出した刃で自らの胸を突き刺した状態にただ、驚いた。
「貴様、何のつもりだ?! 」
「佐藤継信。主も巻き込みたかった所だが……。これをやると、ワシの神器は燃え出す。その女子を死なす事はない。連れてここを離れると良い。」
言うと、老人は静かに意識を失った。
継信の横には件のはるの友人が付き添っている。この老人の見張りと彼女を1人にするワケにはいかないと言う理由で継信はここで待機していた。
数秒後、老人の言う通り神器の模型全体が燃えだす。継信は彼女を連れて厨を飛び出した。炎はすぐに厨全体を包む。
「くそ……。若は…皆は……? 」
その時、炎に包まれた厨の中から1人の男が飛び出してくる。継信はその男を見るや、目を見張った。
「平教経! 貴様がきていたのか!? 」
「佐藤継信か……。ここの和尚たる老人がいただろ? どうなった? 」
「…自ら胸に刃を刺し自害した。直後、あの神器が燃えだした。」
「そうか……。」
教経は静かに目を閉じた。
教経は1人の人間を肩に担いでいる。意識を失っている資盛だ。
「神器空間の中で何があった? 皆は? 」
「あの空間は俺の親父の神器だ。親父は自らの命を犠牲にして空間ごと中に入った者達を始末した……はずだ……。」
「ばかな……。」
継信は絶望の表情で燃え盛る厨を見た。
その時、彼らの側に金色に光る円陣が現れる。
「これは……、転移陣か? 」
教経は呟く。
転移陣から、まず弥太郎が出てくる。続いて鬼三太、忠信、山吹。最後に義経とはるを抱えた慶次郎が飛び出してきた。
「皆、無事だったか? 良かった。」
「義経。やはり生きていたか……。」
教経は意識を失って慶次郎の肩に担がれている義経を悔しそうに見た。
「弥太郎! 来るのがおせーよ! もう少しで全滅だったろうが! 」
「だったら。アッシを置いて突っ走らないで下さいよ! そもそも異空間からこっちに転移できるか、わからないのに強引にアッシを連れてったのは旦那でやんす! 」
と、弥太郎と慶次郎はギャーギャーと喧嘩を始める。
「義経様はともかく、なぜ、主様の友達も気を失ってるのかしら? 」
山吹は義経とはるを横たえて、介抱しながら不思議がる。
あの空間が狭まり、圧殺されそうになった一行は、目を覚ました義経が(慶次郎とキスして)特異霊装の力を解放したことでひとまず、圧殺を止めた。しかし出口が消滅しており途方にくれた所に、遅れて空間に入っていた弥太郎を見つけ、彼の神器『金爛砂子』で空間を脱出できたのである。弥太郎は空間から義経ら救出する事を考えて、あらかじめ寺の境内に出口を設置していたのである。
ちなみに義経、起き抜けに切り札を使った疲労で気を失ったのだが、はるは慶次郎と義経がキスした所を目撃したショックで気を失っている。慶次郎以下皆、疲労と狭まってきた空間の恐怖から来るショックだと思っていたが…
「皆、落ち着け。敵がいる。」
鬼三太の言葉に、慶次郎達は、教経の方を見る。
「親父が命をかけて行った攻撃でも仕留めきれんか……」
教経は、義経の家来達を睨む。元々、武才にも神器にも恵まれず、能力も京限定であるため一族の間でも目立った活躍が無かった父、平教盛。命をかけた攻撃でも義経を倒せない事はきっと本人が一番分かっていた。平家が京を捨てる際も「まだ、この能力で何かできる事があるはずだ」と言って1人京に残る事を選んだ。尊敬する清盛への最後の奉公だと笑っていっていた……。
「教経。やはり引く気は無いか? 」
鬼三太の言葉を聞き、義経の家来一堂は教経と対峙する。
「……いや、ここまでにしておこう……」
自分は平家の軍事力を預かっている。ここで独断専行はできない。父親は命に代えてまで自分にそれを諭させたのだ。全て自分が悪い。
教経は顕現していた「ますらお」を消した。そして資盛を担いだまま背を向けて歩き出した。
「教経! 」
呼び止めたのは、慶次郎だ。教経は歩みを止める。
「維盛から最期に伝言を預かってる。「平家を頼む」ってさ。」
「貴様に維盛がそれを言ったと誰が証明できる? 言ったとして源氏の貴様がわざわざ俺にそれを伝える理由が分からん。」
「だよな……。でも、あいつ……いい奴だったから……。」
教盛は軽く慶次郎の方を向いて、フッと笑う。
「まあ、あいつらしいかもしれんな……。義経に伝えておけ。次からは容赦しない。命の削りあいだと。」
言うと教経は素早く飛び去った。
それを見ると鬼三太は大きくため息をついた。
「平家滅亡まで、あと一息かと思ったが、やはり一筋縄ではいかんな。」
「まだまだ強い武士は一杯いるよ。それにこれから戦いは瀬戸内の海が舞台だ。平家の主力は海軍。」
「当然、能力者も海で絶大な力を持つ者が多いと聞くしね。」と、忠信が神妙な表情をする。
「今はとにかく、寺の火を消すんだ。他に燃え広がったら厄介だぞ。」
既に町民が集まって火消しが始まっている。
慶次郎はその手伝いに参加する前に改めて、はるの顔を見た。これから、色々大変な事になりそうな不安がなかなか払拭できなかったが、子供の時から少しも変わらないあどけない寝顔を見ると、慶次郎の心は不思議と安らいだ。
ラスボス遭遇戦。教経やっぱ最強でいて欲しい。
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異世界の話です。史実とは関係ありません。




