第14話 はると慶次郎
そして、再び出会った2人……果たしてそれがもたらすのは?
○神器『天蓋 花京鳥瞰図』の中
慶次郎は最初の一瞬、その少女が何を言ってるのか、分からなかった。しかし、この世界で自分の事を「慶次郎」と呼ぶ人間は、もう、そう何人もいない。安竜和尚、教経夫妻、そして……。
「はる……はる、か? 」
慶次郎とはるは、ようやく向かい合った。最後に別れて、もう何年経つか……。最後に見たはるは、間違いなくまだ子供だった。しかし、目の前にいるのは……、バランスよく伸びた手足が印象的な大人の女性の体つき。顔も、慶次郎の世界なら、なんとか48とかの一角を担えそうな程の愛らしい顔立。しかし、気が強そうなのに、人懐っこいあの目つきは紛れもなく、あの時、数ヶ月だが一緒に暮らしていた、はるの顔だった。
「慶次郎……なんか、背、縮んだ? 」
「いや、お前がでかくなったんだよ!! 」
それを聞くと、はるは笑顔になりながらも、ポロポロと涙を流した。
「慶次郎だ……。本当に慶次郎だ。」
「はる……どうして……。」
なんで、こんな所に彼女がいるのか、すぐに結論が出なかった。
「主様! 遅くなりました! 義経様は!? 」
駆けつけてきたのは山吹だ。
「山吹さん! 」
慶次郎は、我に帰る。今は義経が死にそうなんだった。まずはそっちかと慶次郎向き直る。
「例の診療所の一角にこの空間の入り口がありました。それより……」
山吹は義経を見つけるちすぐに駆け寄った。
「義経様がここまで……。いったい、あいつは……? 」
「平教経。平家の主力武将だ。」
「あれがあの……。」
明らかに、巴や義仲よりもさらに上の実力者だと、鬼三太と打ち合っている全身傷だらけの男を見ながら、彼女は思う。そしてそっと義経の額に手を触れる。
「酷い熱だわ。これは怪我や疲労とは違う……。何かの病かしら? 」
「そんな、朝はなんとも無かったのに……。」
はるが横から声をかけてきた。
「義経様の病は、敵の神器によるものよ。剣で傷をつけられたのが発動の式なんだって。その式を踏まない限り感染はしないらしいわ。」
「本当かよ? 」
「その神器使いは、すぐに逃げちゃって……。義経様は、この状態でずっと連戦なの。」
「私を庇って、こんな事に…」と、はるは悔しそうな顔をする。
「こちらは? 」
山吹が怪訝そうにはるを見る。
「ああ。古い知り合いなんだ。偶然居合わせた? らしい」
ああ、うん。と、はるは顔を赤らめ、慶次郎もまた、ドギマギとした反応をする。山吹はさらに一瞬怪しんでに2人を見た。
「ふうん……。でも、だったら困ったわ。私の神器じゃ、病は治せない。義経様の意識が無いのは傷や疲労よりも熱が原因だと思うから」
「待った。神器で発生させた、病なら……。」
慶次郎は、教経と打ち合っている鬼三太の方を見た。
「鬼三太! 来てくれ! 『大比叡』が要る! 」
鬼三太は教経(教経)の薙刀を受けながら慶次郎の方を見る。
「馬鹿もの。行こうにも、この状況では……。」
「鬼三太! そこから離れて! 」
ーー奥義「武甕雷」!!
忠信の声が響く。鬼三太は必死に教経を引き離し、距離をとる。そこに大爆発が起きる。
「酷いや。山吹さん。足が速いからって置いて行くなんて。」
「あら。私は一刻も早く主様の元に駆けつけたかっただけです。」
「忠信!! 」
慶次郎達が見ると、道の向こうから忠信が歩いてくる。
「まったく、どいつもこいつも家来筆頭を軽んじおって」
鬼三太が義経の元に駆け寄る。
「鬼三太。神器で発生させた病気らしい。『大比叡』で消せるかな? 」
「やってみよう。」
鬼三太はうなづくと、薙刀の峰を静かに義経に当てた。薄く義経の体が光る。
「何かの能力を解除した手ごたえはあったな。」
「なら、あとは私が! 」
山吹は駆け寄ると、顕現したクナイ『白地桃源』を義経の心臓に突き立てた。
「大丈夫。彼女の神器だ。これで義経は良くなるはずだ。」
胸に刺さった神器を見て、慌てたはるに慶次郎が説明する。
「あ、うん……。」
ここで、もう一度、はると慶次郎は見つめ合った。
「慶次郎……。遅いよ……。」
山吹はその表情を見て、複雑そうな顔を見せる。
「いや……それが、その義経がさ。一人で突っ走って出て行っちゃって、行き先も言わないから、皆で、必死に探してたら、こんな夜に……」
聞いてる途中、はるは俯き、拳を握りしめていた。
「そっちじゃないわー!!」
はるの容赦ないパンチが慶次郎の顔面を捉え、慶次郎は派手に吹っ飛ぶ。
「お前、今、気功で殴っただろ! 絶対、和尚に習っただろ!! 」
慶次郎は地面にノックアウトされた状態で辛うじて言う。
「皆。まだ、終わってない。来るよ! 」
そこに、忠信の声が響いた。
鬼三太、随分久々に活躍してる……。
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異世界の話です。史実とは関係ありません。




