第6話 犬も食わない
今の慶次郎と義経の関係は説明し辛い……。一言で言うなら、別れてからの方が仲良くなった元カレ、元カノ……でもやっぱり違うか。
〇京繁華街 時間は前後する
義経とはるが、平家の人間の神器に捕らえられていた、その日の朝……。ようやく日が高くなり、人通りが盛んになって来た京の繁華街を慶次郎は歩いていた。側に山吹が腕を組んで寄り添っている。しかし彼女はどうも不機嫌そうに見える。慶次郎はその様子を見てため息をついた。
「主様。デートの途中にため息だなんて感心しませんわ。私だからいいようなものを…」
山吹もかなり慶次郎の世界の言葉を覚えたようだ。
「だったら山吹さんも、少し機嫌直してくれませんか? 」
「できるワケないでしょ? 」
山吹はツンとソッポを向く。
「いやー。モテる男は辛いでやんすね。旦那。」
「まったく。弁慶は、贅沢だよ。」
さらに慶次郎の外側を固めているのが、忠信と弥太郎だ。
「なんで、宇治川の戦いで約束したデートなのに、この2人がついてくるんですか? 」
「いや、こっちが聞きたいよ。」
元々、慶次郎は仕事の入っていなかった、この日はずっと約束していた山吹と買い物を付き合う日だった。一方、休みがあって無いような義経は、先に述べた通り平家の人間を探す為の囮になろうと街に繰り出そうとしていた。休みの慶次郎と遊びがてら行こうと、この日の朝、慶次郎の部屋に勢いよく入ったわけだが……。詳細は彼らの日常には良くある事なので、あまり書くまい。が、今日は山吹と出かけないといけないと言う事を説明すると、義経はエラく不機嫌になった。仕事が優先だと騒ぎ出し、忠信達も駆けつけて仲裁する次第となった。
「珍しいよね。義経様が慶次郎にあんな風に嫉妬する事ってそんなに無かったからね。」
「ああ…そうだな……」
慶次郎は複雑な表情を見せる。
「ま、ようやく私を恋敵として見てくれるようになったにかしらね。」
この事に関しては山吹も思う所があるようで、ため息混じりに言ってごまかしたようだ。
その後、義経の怒りは収まらずとうとう慶次郎も怒り、約束をキャンセルするのは山吹に悪いと慶次郎が言い返してしまったのが最後だった。
「あの平手打ちは、なかなか痛そうだったよね
。」
まだ、赤く腫れている慶次郎の左頬を見ながら忠信が苦笑いして言った。結局、山吹の他に忠信と弥太郎が同行して、デートしながらも平家の組織を調査するということで、ようやく義経は折れた。しかし、最後まで機嫌は治らず、鬼三太や継信が一緒に行くと言っても聞かず、1人で飛び出して行ってしまったのだ。
「まあ、日立の姉さんは今、感染症の治療とワクチン製造の為、京都中を飛び回ってるんだ。たしかに休むのは気が引けたんだけどな。」
「主様! 」
腕を組んでいた山吹が慶次郎の二の腕をつねり、慶次郎は「痛っ」と声をあげる。
「いやいや付き合ってもらっても女の子は喜びません。」
すみません。と、慶次郎は素直に謝る。
「で、お前はなんでいるの? 弥太郎」
「ああ、酷いなあ! 捜索ならアッシの能力が役に立つと思って手伝ってるのに! 」
「だいたいお前、粟津の時、どこにいたんだよ。お前の能力があったら、義仲も八咫も無事だったかもしれないのに。」
「あー、それ言っちゃいますか? アッシは頼朝様を能力で迎えに行く為に鎌倉に帰ってたでやんす。頼朝様がすぐに来てくれたから、あの後騒いでた、範頼の家来達もすぐに大人しくなったのでやんすよ。」
「そうだったな。お前、上手くいけば『八咫』が手に入ったかもしれないのに……」
それを聞くと、弥太郎はふと真剣な顔になる。
「……アッシは仲間はそう簡単には裏切りません。それと旦那……。その事で後で話があるでやんす。」
「どうした? 急に」
弥太郎はそれには答えず、「山吹姉さん! あの着物いいでやんす! 」と、突然声を上げて、山吹を引っ張って商店の中に入っていく。
「少しずつだけど……、皆変わっていくね。弁慶。」
忠信が独り言のように言った言葉が、慶次郎の耳にいつまでも残った。
数刻後……
「そろそろちゃんと仕事しないと帰った時の義経様が怖いよ。弁慶。」
4人で町をぶらついて軽く食事を取った後、忠信が言った。
「仕事っつっても、町で問題を起こしてる奴ら片っ端から捕まえるってだけだろ? そうそういるもんじゃ無い。」
慶次郎は言いつつ、懐から紙を取り出す。
この紙は安竜和尚にもらった……、はるが今、働いている場所の住所が記されている。和尚は今のはるの事は何も言わず、「早く会いに行ってやれ」とだけ、和尚に言われていた。正直、彼女と今更どんな顔して会っていいかわからない。もう嫁にいって所帯を持っている可能性もある。それなら行くだけで鬱陶しがられそうだし、自分の事なんて忘れてるかもしれない。住所の場所はここから近い。仕事に戻る前に会いに行ってみるか……と、慶次郎が思った時、
「忠信殿! 弁慶殿! こちらでしたか!?」
一行に向かって走ってきたのは、義経直属の平泉隊の一人である。
「どうしたの? 」
「義経様が、暴漢を捕まえました。故に皆さんを呼んで後始末するようにと……。」
「あいつ、本当にヒキはいいな。でも、なんで、俺たちが? 」
「は、あの……義経様より伝言を預かっております。そのままお伝えします」
歯切れが悪そうに彼は続けた。
「「楽しいデートは終わりだ。仕事に戻れ、この女たらし……。」だ、そうです。」
慶次郎は大きくため息をついた。
「僕達に……じゃなくて君にだね。弁慶。仲直りしたいなら、そう言えばいいのに。」
忠信はまた苦笑いする。町の散策で機嫌を直していた山吹がまたツンとして言う。
「いいですよ。ただし、私も行きます。夜までに終わらせて続きをお願いします! 」
慶次郎は何も言えなかった。
ちなみに俺は山吹さんが一番好きです。
異世界の話です。史実とは関係ありません。
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